8節(2) 初経験値稼ぎ (2)
第1章1節の改訂版(15/1/29)です。
分割した2番目です。
side ウィルルアイト・スヴュート
天然の洞窟を利用して盗賊団のアジトは造られている。
今通った入口は相当深い森の中にあった。切り立った斜面にぽっつりと口をあけていたので、余程のことがないと気付けないだろう。他の潰された出入り口もおそらくこのようなものだろう。改めて母さんとの力の差を痛感した。もっと力を付けなければいけない。
母さんは隠れることなくお散歩みたいな気楽さで入っていっている。洞窟の入口からしばらく行くと光が殆ど届かなくなった。全く視界がないはずだが何故か視界がある。不思議だ。これがこの世界の常識なのかもしれない。
(ウィル、母さんうっかり言うの忘れちゃってたけど――こういう洞窟に入るときは、ねちゃんと光源とか暗視できるスキルを用意しておくのよ)
この世界でも洞窟内は暗いことが多く、スキル等を使わないと目視が困難になるようだ。この辺は地球と同じだな。
(もしかして、今見えているのは……)
(母さんの魔法のおかげよ。スキル名は……あ、そうだわ、スキル名は自分で見つけてみなさい。これ課題ね)
(うぅ…またあの書物で探すのかぁ。スキルの知識が凄く増えるからいいけどさ…)
書籍で調べるのは大変だが、スキルの知識を増やすのには非常に役に立つ。調べる過程で、様々なスキルを知ることができるからだ。
これは前世の世界でも、ネット検索より書籍で調べたほうがよい情報が集まるのと似ている。ネット検索で調べると、膨大な情報量を手に入れることは容易ではあるが所詮はキーワードに入れたものしか手に入れることができない。一方図書館などで書籍を用いて調べた場合、参考文献を探す過程で本棚に行くがその時に思いもよらなかった関連文献を手にすることはよくあった。つまり書籍でしらべたほうが、ネットで自分が想定していたキーワード以上の深い情報を得られる可能性が非常に高く、実際書籍を利用しなければ学会に発表するようなまともな論文は書けなかった。
母さんに聞くのは簡単だが、自分で手探りで探すことは様々な知識を得るいい機会になる。気軽に答え合せは出来るので、頑張らない理由はない。
"よし、帰ったら頑張るぞ"と決心をあらたにしていたとき、ふと視界によぎるモノがあった。
よく見て【鑑定】を起動すると、盗賊の死体だった。音も無く全く気配も気取られずに倒すなんて……思わず呟きが漏れる。
(い、いつのまに…)
(うん?どうしたの?)
う…ん。どう言ったものかな。
(母さん、いつのまに倒したの?)
(う~ん…。あ、さっきの見張りのこと?)
(うん、そう)
(相手が気付いた直後よ。今回は伝令に走らせてもメリットないし、ギリギリまで引付けて距離を詰めたほうが今回はいいからよ)
(何故、距離を詰めたほうがいいの?)
(他の仲間が居た場合、近づいていたほうが対応しやすいからよ。それに侵入者がいると気付かれるのは遅ければ遅いほど今はいいわ)
色々考えての行動だったようだ。
(さすが…)
(そういうウィルも凄いわよ。今はこの雰囲気に慣れるだけの予定だったのだけど、こういうちょっとしたことに気付くなんて)
(どういう意図があったのか分かりませんでしたが?)
(それでもよ。常に周りを視て行動の意味を問うのはいいことよ)
何か褒められてしまった。"今後も注意深く貪欲に学んでいけ"ってことだと一先ず解釈しておくことにする。
しばらく洞窟内を歩いて奥に行くと、特殊な光で満ちている空間に出た。疑問に思って聞くと、壁面に光を発する魔晶石が埋め込まれていると教えてくれた。
なるほど、家で使っている魔法道具よりは光量は少ないが同系統の物がどっかに取り付けられているってことか。多分ここが盗賊のアジト、その居住区画だろう。
(ウィル、ちょっと乱暴に扱うかもだけど我慢してね)
(どうしたの、母さん?)
(盗賊の中に転移アイテム持ちがいるの。逃さないように少し出力を上げるかもしれない)
(なるほど。わかりました)
母さんは何の気負いもなく、道が交差してちょっとした広間になっているところに入っていった。どうやらここで騒ぎを起して呼込むみたいだ。中で屯していた盗賊たちの1人がこちらに気付き下劣な笑みを浮かべた。
「おい、俺達が欲しくなったのか?」
「お、こんな上玉いたのか。気付かなかったぜ」
「よし、一発遊んでやるか!」
まったく、汚らしい顔で近づいてくるなよ。下衆が。1人だけ少し強そうなのがいたので【鑑定】でレベルをざっと確認して見るとレベル15と高めだった。
(ウィル、今【鑑定】起動したでしょ)
(うん)
(これからは、常にまずは【鑑定】などで相手の戦力を最低限しる努力をしなさい。そして自然と意識せずにできるようになること)
(はい、母さん)
これからは【鑑定】を使いながら戦闘を視る訓練をしよう。俺はそう決心した。
(ウィル、今から包囲されたときの戦闘を見せるね。しっかりと視ておくように)
(了解です)
「怖くて声も出ねえのか。せいぜい…」
今手を伸ばそうとしてきてる奴はレベル8で、あ、俺より能力値低いわ。
相手が言い終わる前に母さんの腕が動いた。男の言葉が途切れる。一瞬何が起こったか分からなかっただろう。次の瞬間、男はゆっくりと後ろ向きに倒れた。死体をみると胸の高さで真っ二つに輪切りになっている。
「はぁ?」
理解が追いつかないのか、呆けた呟きがもれる。
その間が命取りになる。その呟きが終わる前に一番レベルの高い盗賊の首を刎ねる。後で知ったが、こいつは転移系のアイテムを所持しており逃げられないように反応する前に潰したらかったらしい。ちなみに転移系のアイテムは貴重で、そうそう無いということを後で知った。
「え?」
「このアマッ!」
やっと、目の前にいるのが攫ってきた女じゃなくて、侵入してきた敵だと理解したみたいだ。
怒号が飛交う。最初は気付かなかったが、母さんはこの洞窟全体を転移を阻害する結界で覆っていた。
乱闘になれば気配を隠しておく必要はない。初期段階では結界が間に合わず能力にモノを言わせて処理したが、今は俺に丁寧にレクチャーしながら倒している。
母さんが言うには多数との乱戦の基本は"相手を誘導し移動経路を限定させる"ことが重要とのことだ。剣で切結びながら遠距離魔法をポンポン放ち、相手が攻撃しにくいように逃げにくいようにと仕向けていく。また、敵側の魔法使いや弓などは速度で標的を絞らせずに、一気に近づいて優先的に倒していく。
母さんが得意なのは魔法戦とのことだが、この乱戦で武器での斬り合いでも圧倒してる。
一向に倒れずしかも見渡す限り仲間が倒れていく様を見て、盗賊達は敗走を開始した。
そりゃ戦意も折れるだろうよ。赤子を抱いたまま平然と仲間が倒されるんだもんね。力量差は分からないほうがおかしい。
だがしかし、母さんは盗賊団を1人残らず殲滅するつもりできている。生き残った盗賊団によって関係ない人が被害に遭うのを良しとしない。殲滅戦が始まった。
このとき初めて入ってきた入口は塞いでいることを知った。"酸欠になるよ"って心配になったが、風の精霊魔法で俺達の周りは制御しているから問題ないとのことだ。気付かないだけでいったいいくつの魔法を同時使用しているのだろう。気になって聞いたところ"私の行使している魔法ぐらい見抜けるようにならないとメッだよ"って怒られた。うん、凄い理不尽な気がするけど、それぐらい強くなれってことで頑張ろう。
いきなり扉を木っ端微塵に吹っ飛ばしたときは驚いた。が、次の瞬間ドサドサと待ち伏せしていた盗賊が倒れてきので納得した。どうやら相手の位置を正確に見抜いているようだ。盗賊達が宙に舞うのを眺めながら後付けの説明を聞く。
(今どうやって仕掛けを見抜いたか分からなかったでしょ?)
(うん)
(別に完全に見抜いていたわけじゃないのよ。ただ、幾何学的な計算とこれまでの経験から罠があるってわかっただけ)
母さんは【マッピング】や【空間把握】で周りの地形を計算し、殺気や気配などでどのような罠かを予測しているそうだ。面倒だからいきなり爆破しようって平気でやれちゃうのはちゃんとそういった裏打ちされた根拠があるから……らしい。納得いかないが。
他にも、人質のふりをした盗賊(【鑑定】等でバレバレだった)を共演してる仲間ごとバッサリ倒したりとか、少々突っ込みたいことが何回かあったが特に問題なく殲滅は終了した。
その後の殲滅戦は、何事もなく終わった。
そして、問題となったのは戦闘後の処理だった。
まずは外で倒した盗賊も含めて死体は最初の広場に集められた。
聞いたところ死体は【亜空間】で持ってきていたらしい。レベルと能力値が上がれば大容量を入れられると分かった瞬間だった。ただし、容量制限は重さではなく表面積とのことだ。"空間は3次元だし容積が影響しているのが妥当だろう"という予想が外れたことになる。よく考えてみると、そもそも【亜空間】は3次元とは限らない。アイテムボックスが何故重量による制限なのかは分からないのだ。使う空間の次元が何次元であるとか検証するのはいつか機会があったときにしよう。
閑話休題。
死体を集めた後にしたことは、身包みを文字通りはがす作業だ。母さんは【生活魔法】を利用して、手に触れずにどんどん進めていっている。服や装備品などは少し離れた場所にどんどん置かれていっている。全く役に立ちそうにない、汚れた服はそのまま死体と一緒に積上げていく。
その後、死体を一箇所に集め骨も残さず燃やし尽した。そしてアイテムなどは【亜空間】にしまったようだ。
次にアジト内部を隈なく探し回り、有用なアイテム類を片っ端から【亜空間】に放り込んでいった。
そして最後にしたことは、捕まっていた人達の解放だった。
【鑑定】で次々と症状を見てみる。まずはグルだった者達や途中から取入った者を先程の広場に連れて行き処分した。次に壊れてもう助からない者を殺した。中には"ありがとう"と言って死んでいく者もいた。心なしか母さんの表情が厳しいのは気のせいではないだろう。
そして残った人達が問題だった。近くの村に連れて行っても、その村に身寄りの無い者ならば路頭に迷って野垂れ死ぬしかない。善意で助けてくれる者も少しはいるだろうが、そんなのは極わずかである。そのような環境下にいることが分かっているのだろう。4人以外はここで殺してくださいと懇願してきた。母さんは"わかりました"と言って眠らせてあげた。彼女等の死体はその場で綺麗に火葬し、何やら印を切って冥福を祈っていた。結局、助けることが出来たのは乳幼児11人と女性4人だけだった。彼女達の服は盗賊から剥ぎ取った服の中を与え、最低限の身嗜みをしてここを出る準備をしてもらう。
そして【禊】【浄化】といったスキルを洞窟全体に使用した。かなり低い確率だが、こうしておかないとアンデッドとなってこの洞窟をさまよう魔物に変わることがあるかららしい。普通はここまで念入りにしないというかできない者が多いらしいが、母さんには"出来るならば絶対にやること"と念押しされた。
さて、いよいよこの洞窟とおさらばだ。集まった女性4人は乳幼児を胸や背中に抱えていた。
「助けていただいて、とても感謝しています。ありがとうございました。他のお仲間にもお礼を言いたいのですが…」
女性の1人が進み出てお礼をいった。
「別に気にしなくていいわよ。私はこの子と一緒にここに来ただけだから、他の仲間はいないわ」
「えっ!?」
「嘘っ?!」
驚きの声があがる。うん、やっぱり母さんは規格外の人でいいみたいだ。
「…お強いのですね」
「それでも、救えない命のほうが多いわよ」
「それでも…それでも私達は救えましたよ。この子達もです」
「そうね。…ありがとう」
そう言うと少し寂しそうに母さんは微笑んでいた。いつかこの顔をしなくて済む世界にしなければならない。そう俺は秘かに誓うのだった。
「では、孤児院がある村まで送ります。しばらく留まるだけの資金援助はしておきますのですぐに追出されることは無いはずです」
「そこまでしていただけるとは。感謝します」
「私の周りに集まってください。一気に転移します」
「「「「はいっ?!!!」」」」
見事に4人の叫び声が揃った。
「だ、大魔導師様でいらっしゃいましたか。どうりで…」
「いえ、今は唯の一児の母ですよ?」
「は、はぁ…」
う…ん、何とも突っ込みたいけど、もう疲れるたしいいや。
こうして俺達は生き残りを近くの孤児院に送り届けた。本来は冒険者ギルドとかで事後処理とかをすぐに行ったほうが良いらしいが、今回の目的は一応違うので事後処理は後日行くことにして俺達は家に戻った。
ご清覧ありがとうございました。
戦闘箇所の表現の修正は未だ上手く出来なかったのですが……納得できるまで拘っていたら何時までたっても投稿できないので投稿しました。
改定版では、シャルロットも演算処理しながら戦闘していることを明確に書くことにしました。余りくどくど書いても仕方ないので、サラッと書いています。分かりにくいようなら、もっと詳しく訂正しようかと思います。