7節 無茶苦茶なスキル取得実験
第1章7節の改訂版(15/1/31)です。
実験の説明が中心です。
side ウィルルアイト・スヴュート
第1回異世界勇者の集いから約2ヶ月間、俺は取得可能なスキルを増やすべく色々と母さんの手ほどきをうけていた。実際にはSPを使って獲得はしていないが、【能力値手動分配】で取得できるスキル項目は確実に増えてきている。
今日は俺が産まれてから丁度半年になる日だ。俺は今日母さんと一緒に特殊なスキル取得方法の実験――具体的には、職業に関する検証を行い魔法を強引に習得する予定だ。
何故このような予定になったのか話そう。
魔法に限らずスキルやパラメータなど能力全般にいえることだが、人には本来得意分野と苦手分野が存在する。このことと職業には深い関係がある。
例えば『剣士』を持っていたとしよう。
『剣士』は剣を得意とする武器攻撃系統の職業の1つだ。この職業に獲得すると、【剣術】という剣に関するスキルを取得するしSTRなど剣を使うのに必要なパラメータも上昇する。
そして、【剣術】があると剣技全般を取得しやすくなるので、剣系のスキルを中心に戦闘をするようになる。筋トレなどで地道に鍛えるよりもスキルを使ったほうが伸びはいい。つまり、『剣士』を得るとSTRなどは大幅に上昇しやすい。だが、INTなどの成長率は『剣士』を得ても変わらない。さらに、『剣士』を所持してレベルアップした場合STRなどの特定のパラメータの上昇値が増加する傾向にある。そう、『剣士』の取得時だけでなくその後もSTRとINTの差などが拡大するのだ。意識して差を減らす行動しなければこの差は開く一方だ。
このように職業を獲得すると、その職業に合ったパラメータやスキルを取得しやすくなるだけでなく、その後よほど意識して鍛えない限り取得した職業にあわせたパラメータやスキルに偏ってしまうのだ。
つまり、"持っている職業によって取得できるスキル傾向やパラメータがある程度固定される"ということだ。
一方、職業を選択(追加)する時に選べる職業は、種族やレベル、習得しているスキル、パラメータ等が影響して変化する。例えば『火の魔法使い』『アークビショップ』『エルブンナイト』の職業獲得には、それぞれ次のような条件がある。
=====職業選択条件メモ===========================================
『火の魔法使い』
条件:いずれかの①~③の条件を1つ以上満たしている。
①【火魔法】を習得している。
②火のエレメントを扱う魔法を2つ以上習得している。
③職業を1つも所持しておらず、MP150以上とINT30以上ある。
『アークビショップ』
条件:職業『ビショップ』を一定以上使いこなしている(上位互換)。
『エルブンナイト』
条件:種族が"エルフ"か"ハイ・エルフ"であり、①~⑤の条件を2つ以上満たしている。
①『戦士』などの前衛職を所持している。
②HP500以上とMP300以上ある。
③VITが200以上ある。
④守護者系の称号("森の護り手"など)を2つ以上所持している。
⑤レベル30以上ある。
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『火の魔法使い』の条件③等を見てもらえれば分かるが、特定の職業やスキルを持つことによって取得できる職業が減ることがある。また『アークビショップ』のように上位互換の職業も存在し、『アークビショップ』になったら『ビショップ』を新たに職業としてもつことは出来ない。もっとも上位互換なので、習得できるスキルや派生する職業などは下位の『ビショップ』のものは全て含まれてるので問題は無い。
先程の職業選択条件のメモを見てもらえればわかるが、職業獲得条件を満たす方法は複数ある。基本的には神殿で職業選択の儀式を行うのが一般的だが、『盗賊』など行動によって自然獲得する職業や『勇者』など特殊儀式等で獲得する職業など神殿を使わない例外が存在する。また、ある特殊な職業やスキルを持っている人は神殿の職業選択の儀式を特殊な場所や機材を使わずに出来るようになる。
母さんの『アークビショップ』の固有スキル【箱舟の教会】は自身単独で1つの教会に見立てて様々なことが出来るようになるスキルだ。【箱舟の教会】の効果により、本来神殿で行わなければならない儀式全てを母さん個人で代用できてしまう。ちなみに固有スキルとは、特定の職業を獲得したときにのみ習得するスキルのことで、固有スキルが成長して派生したスキルも含まれる。
では"職業的に取得が困難なスキルを覚える方法はないのか?"という疑問が当然出てくる。答えは"方法はある"だ。
その方法の1つは"学晶石"を使用することだ。学晶石はスキル取得用の魔晶石(魔力を帯びた鉱石)で、一定の確率でスキル取得できる便利な魔石だ。成功率はかなり低く一度の試行で壊れてしまうが、成功すれば習得方法が全く分からないスキルでも取得出来てしまう。しかも、派生などのスキルの場合は派生条件なんかを満たしていなくても取得可能なのだ。値段は張るそうだが、このような破格の可能性を秘めているなら納得だ。
他の方法として、スキルを実際に覚えている人に頼み、自分の体内の魔力の流れなどを覚えたいスキルを使用した際の流れに強制的に調整してもらい覚えることもできる。この場合教える側にかなりの技量が求めらる。
他にも【スキル取得】等の特殊なスキルを所持する方法もある。【スキル取得】はパラメータや職業の影響を受けることなく、スキルに対する一定以上の知識や必要なスキルレベルとSPさえあればスキルを取得できるスキルだ。【スキル取得】の上位互換版に相当する【能力値手動分配】を俺は所持しているので、非常に自由度の高いスキル選択が可能だ。
さらに、俺にはパラメータの偏りによる職業制限には引っかかり難い。【ステ振り】等のスキルの所持者は、本来伸びるはずだったステータスを一時的にAPという形で保管し任意のパラメータに割振ることができる。つまり通常HPが上がるところだったのを強制的にMPが上がることにできるのだ。
今更ながら、俺が選択した【スキル取得】と【ステ振り】が重要だという俺の判断は正しかったようだ。この2つのスキルの統合スキル【能力値手動分配】により、俺は苦手分野を意図的に少なくすることができる。そしてこれはそのまま職業選択の自由度を上げることに一役買っている
【能力値手動分配】等のスキルをもたない人でも、俺のように万能タイプを目指し実行した人はいる。大抵器用貧乏になるが、戦術の幅を持たせることができるため、長期間迷宮探索するパーティとかでは重宝されるそうだ。もっとも、決定打には欠ける傾向があるため、ボス戦とかではあまり活躍できないらしい。だが俺は、意図的に特化した万能タイプを目指すことができる。
閑話休題。
俺と母さんが立てた魔法育成(取得)プランだが、"取得可能スキルの項目にない魔法を扱う職業を選択する"ってなんとも無茶苦茶な結論に至っている。通常スキルを鍛えた(習得した)延長で職業を獲得するのを、逆に職業獲得からスキルを取得しようということだ。"職業"を獲得したとき、"特定のスキル"を習得することがある。俺の場合は取得可能なスキルはいつでも習得することができる。ならば、現在取得不可能なスキル系統を扱う"職業"を選択するのは理に適っている。
さて、そうなると職業を獲得するために通常神殿に行かないといけないらしいが、先程の述べたとおり母さんがいればこの場つまり家で出来る。俺の特異性を露見させない意味合いでも非常に助かる。
母さんによって職業選択の儀式が始まった。今回は前回のような失敗というか自殺行為をしないように、ベットの上で仰向けになって横たわっている。側には当然儀式を行っている母さんもいる。
頭の中に獲得可能な職業のリストが上がっていく。
今【能力値手動分配】の取得可能スキル一覧でリストに載っていないスキルを持つ職業で、スキルの取得が非常に困難であると予想される職業を探していく。
今の俺はレベル1で職業の補正抜きにした能力値はHPとMPが4で他は1という何も偏りのないパラメータをしている。さらに言えば、職業『武神』を所持しているが、"所持している"とカウントされていないのだ。これは"異世界に行くボーナス特典として最初の職業は魂魄容量を無視して獲得できる"ということに関係していると考えられる。つまり、後半年後の職業封印解除が行われるまでの間しかこの特殊な状態は続かない。
今候補として上がっている職業は『召喚魔法使い』『精霊魔法使い』『死霊魔法使い』『時魔法使い』と4つある。
======候補=======================================
召喚魔法使い
様々な存在を喚起し、契約、使役することができる
精霊魔法使い
精霊と契約をし、精霊魔法を扱えるようになる
死霊魔法使い
死者の魂を呼寄せ、使役することができる
時魔法使い
時間の流れを制御できるようになる
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それぞれの職業とだいたいの傾向はこんなところだ。
俺は悩んだ末に最初は『時魔法使い』を選択することにした。『時魔法使い』は半年後に獲得予定の職業『空間魔法使い』と相性がいいからだ。
職業の獲得時に注意することとして、"弱体化"などに代表されるバットステータスの発生、肉体の損傷等がある。状態異常の中には"常時毒状態"とかもう死に直結しそうなものもあり、職業の選択ははっきり言って命がけなのだ。これらは自分の魂魄容量以上の職業を選んだときに発生する。その為、安全マージンをとった場合の職行数は、レベル1ならば1つ、レベル15で2つ、レベル30で3つ、レベル50で4つ程度までが限界といわれている。ただし、今言ったのは下級職と言われるランクの場合の話で、中級ならレベル15で1つ、30で2つ、50で3つ、上級ならレベル30で1つ、50で2つとも言われている。
また、魂魄容量不足で発生した状態異常がある限り追加で職業選択はできない。このまま半年後を迎えた場合、魂魄容量不足が解消するまでしばらく職業選択はできなくなる。
だが、ここで忘れてはいけないのはスキルと同様に職業にもランクアップと統合があることだ。
ランクアップは職業が上位互換職に変化することだ。当然の占有魂魄容量も増える。『火の魔法使い』では100占有していたのが、『火の魔法士』になると120占有しますといった具合だ。ちなみに増加割合はわからない。魂魄容量は目に見えないステータスだからだ。レベルだけでなく色々な要因が関係していると予想されているが、今のところそれらを知る術はないらしい。かろうじて昔からの知恵を借りる程度しかできない。
統合は複数の職業が1つの職業としてまとまることだ。『火の魔法使い』『水の魔法使い』の占有容量をそれぞれ50としよう。両方の職業についた者は『火と水の魔法使い』になることができるが、このときの占有容量は50+50=100と加算にはならず80程度らしい。つまり統合されることで占有容量は少なくなるらしい。
俺の場合は、『空間魔法使い』+『時魔法使い』=『時空魔法使い』と職業統合できる。バットステータスの効力は不足魂魄容量に関係して大きくなると言われている。俺はこのままの状態で半年後に職業を獲得したときバットステータスに陥ることは確定している。今ここで新たな職を選ばないってのが、一番魂魄容量的にはいいはずだが、今選べる職業がレベルアップ後まで選べるとは限らない。"『火の魔法使い』など出現条件のスキルを取得する目処が立っている職業は後でも選べるかもしれないが、全く目処のたっていない職業は多少無理をしてもとるべきだ"と俺と母さんは結論付けたのだ。しかし、リスクを小さくしたいので、統合する前提で『時魔法使い』を手に入れようと考えている。
『時魔法使い』は【時魔法】を扱う職業だ。魔法全般に言えることだが、自然に存在する魔力や特に生命の魔力に干渉を起すのは容易ではない。【空間魔法】や【時魔法】はその典型であるそうで、魔法を行使するにはまず行使対象(空間)の魔力を自分の支配下にしなければならないらしい。なので、通常【時魔法】はせいぜい自分の体内の体感時間を少し弄るぐらいしかできないらしい。しかし、【空間魔法】で【亜空間】を作るならば話が変わってくる。【亜空間】は自分の支配領域内なので、【亜空間】の空間では【時魔法】を使って時間の経過速度を自由に操作できるのだ。つまり【アイテムボックス】とは違い、新鮮な状態で生肉などを保存できるということだ。
魂魄容量と冒険の旅での利便性の観点から、俺は『時魔法使い』を選択することにした。
ステータス表記だけなら眠らなくても変化するらしいが、魂に馴染ませるために寝たほうがいいらしい。
選択後、完全に獲得するための眠りについた。
ご清覧ありがとうございました。
1.31. アイテム名の定義を追加