6節(2) 第1回異世界勇者の集い (2)
第1章6節の改訂版(15/1/25)です。
分割した2番目です。
side ウィルルアイト・スヴュート
気がつくと白い世界にいた。ここが集合場所か。他の人はどこだろうか、と考えると周りに人が沢山見えだした。中には赤子の姿で宙に浮かんでいる者もいる。どうやらこの世界の姿で召喚されているようだ。
俺は何処にでもあるような服を着ていた。いつもはもっと着心地がいい魔法の服を肌着にしてもらっているが、身分を割出されたらよくないと母さんがワザワザ中古の服を貰ってきてくれたのだ。一応念のためにステータスを呼出してみる。
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トム 人間族・男 0歳
職業;なし 称号:異邦人(転生)
Lv.1
HP: 4/4 MP: 4/4
STR 1 INT 1
VIT 1 MEN 1
DEX 1 AGI 1
<スキル>
【言語理解】Lv.1【セリノイス語】Lv.1
<装備品>
布のオムツ、麻のシャツ(赤子用)
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うん、完璧だ。偽名の"トム"も問題なく表示されている。どこからどうみても【言語理解】以外は普通の赤子だ。BP特典が全くないと怪しまれるとおもったので【言語理解】を入れておいた。名前も姓を付けないようにした。付けると自由人とばれる可能性が高いからだ。どうやらここでは前世の名前が表示されるみたいだ。
時刻を知らせる鐘のようなものが鳴響いた。どうやら定刻になったみたいだ。
代表の田中達也は、皆を見渡してしゃべりだした。
「よく集まってくれた。第一回"勇者の会"を始めたいと思う」
いつの間にか"勇者の会"と名前がつけられていたらしい。
「早速だが、みんなのステータスを見せてくれ。俺のはこうだ」
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タッチャン 人間族/男/18歳
Lv.45 職業 勇者
称号 異邦人(召喚),勇者
HP 4650/4650 MP 2133/2133
STR:314 VIT:295 INT;228 MEN:210 DEX:236 AGI:275
スキル
【限界突破】Lv.1【聖剣降臨】Lv.2【ライトニングボルト】Lv.3【無詠唱化】Lv.2【異世界語翻訳】Lv.1【アイテムボックス】Lv.1,【剣術】Lv.4【スラッシュ】Lv.2【レイジンクスマッシュ】Lv.1【クロススラッシュ】Lv.3
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あれ……田中って馬鹿じゃなかったよね?なんで手札自分から切ってるんだ?ってか俺が溜めてるAPを変換したらこれ追越すぞ、Lv.1の俺がな。
周りの反応だが、一部の者は"え?『勇者』って職業だけじゃなくて称号でもあるの?"って感じだ。【鑑定】で称号の効果を見てみたところ、強い効果だとは思うが成長にはあまり貢献しなさそうな称号なので今は無理して取らなくてもいいだろう。
「タッチャン…名前とレベルぐらいでいいと思うぞ。そこまで詳しく聞いても把握できん」
「ああ、そうだな。俺もそれでいいと思う」
そして大半の者は、何いきなり言ってるんだって感じだ。
「何を言ってるんだ?!ちゃんと把握しないと作戦立てられないじゃないか!」
召喚組の表情が、目に見えて厳しくなった。田中は指揮官としての才能を疑われているかもしれない。あの大規模戦闘の失敗から見ればそう判断するのは解らなくもないが、あの場で撤退の指示を即座に出したのは田中だと聞く。そのときの状況はよく知らないので判断の是非は言えないが、判断を下せるだけ指揮官としては及第点だろうと俺は考えていた。
「……年末の大規模戦闘、忘れてないよな?」
「ああ、もちろんだ!だからこそ戦力の確認が重要なんじゃないか!」
転生組の殆どは年末の大規模戦闘って何なんだろうか?っていう人が多かった。俺は母さんに聞いていたから知っていたが、転生組みの大半は知らないようだ。召喚組みの人達は、年末にあった多大な被害がでた戦闘について説明をした。説明が進むにつれて皆の表情が硬くなっていく。
「と言ったわけだ。連携をとるためにもお互い公開するべきだろう」
「すぐに再挑戦する気か?しかも、ステータスを見ただけで判断するのならば前回の二の舞だぞ」
「そうだ、今は皆どの程度のレベルか程度でいいだろう」
「連携は実際に何回か戦ってみる必要がある。そのときのパラメータやスキル構成が重要だ。今の構成じゃない」
「だが、組織的に役割分担をするのには必要なことだわ。私は田中君が言うとおり公開するのがいいと思うわ」
話が色々と脱線していってる。田中とその取巻きはどうにかして全員の情報をできるだけ引出したいのだろう。自分達がしっかりと管理すれば攻略なんて余裕であるとかのたまっている。つまり、田中達が中心に話を進めたいのだろう。勘のいい何人かがそれを牽制している、ってのが俺の見立てだ。
田中達は失敗から何も学んでいない。指揮官としての素質が少しでもあると考えた俺が馬鹿だった。こんな泥沼さっさと抜けよう。まだあまり目立ちたくなかったが仕方ない。変な方向に行く前に修正しよう。
「あのさ!みんなちょっと俺の話を聞いてくれないか?」
俺は手を挙げて大きな声で言った。もっとも小さい手だったので体ごと上に浮び上ったんだと思う。この空間の物理法則は無茶苦茶だ。まぁ夢だからできるのだろうか。意思の力で大声も出せたんだろう。
「なんだ、天宮?話の腰を折るなよ」
田中は不機嫌そうだ。俺は気にせずに話を続けた。
「まずはこの1年間に何があったのか話すのがいいと思うんだ。俺のような転生した人にはさっきの大規模戦闘のことだって碌に知らなかったんだ」
「ええ、天宮君の言うとおり、私は知らなかったわ」
「俺も知らなかった。現状話についていけてないんだ。そっちはそれで判断できるかもしれないが、こっちは何もわからん」
「それはそうね。私達召喚組も常に一緒じゃないし、お互いの近況もわからずに今後の予定なんて話せないわね」
「ああ、そうだな。俺も一度何があったか話すのがいいと思うぞ」
田中達はかなり嫌そうな顔をした。まぁ、過去のでかい失敗も話さないといけないとでも思っているのだろう。何処となく田中達は暴走を始めているような気がしたのだが、失敗に責任を感じているようで、ある意味安心した。ちゃんと話せる状態みたいだ。
「確かに、寝てばかりの乳幼児に情報収集なんて無理だからな。仕方ないが順に簡潔に行動を言っていこう」
田中は気を取り直して、皆に簡潔に説明を開始した。
召喚組は皆どこかの国や組織を利用して生活できる基盤を持っていることがわかった。最初の数ヶ月で訓練をし、迷宮とかを攻略しているみたいだ。慣れないながらも順調に攻略をすすめており、現在は各自それぞれ能力をあげるためにレベリングをしているようだ。昨年末の失敗以外は大きな失敗はないようだ。一年間の死者数は66人。現在生存している58名は全員この場にいるみたいだ。
転生組は、殆どが両親の元にいるみたいだ。ただし、数人召喚組と合流したものがいるらしい。何でも国がバックアップして面倒みてくれているそうだ。田中は自分の交渉の功績だと言っているが、俺は母さんからの情報で、国の思惑とか経緯も知っており、違うと知っていたが、あえて突っ込むようなことはしなかった。転生組の1年間の死者数は3人。召喚組と同様に現在生存している27名全員この場にいるみたいだ。
召喚組から、"俺たちは苦労しているのにのんびりお昼寝とはいいご身分だな"って野次も出たが、転生組からは"自分では何もできない状態で危険な世界にいる。既に転生者3人も死んでいる。俺達は自分では回避できないリスクを背負っているんだ"と反論していた。
ちなみに、俺は毎日母さんに世話をしてもらいながら言葉を覚えている最中だと軽く言っておいた。嘘ではないが、全部言う必要はないのだ。もちろん名前は"トム"でレベルは1と言っておいた。確認したところ【鑑定】持ちはおらずそれに類するスキルを覚えている人は今のところ居なかったから、この嘘がばれる事はないだろう。
全員が終わってだいたいのレベル帯がわかった。もっとも俺は説明のする人の能力値を【鑑定】で全て調査済みだ。一部レベルを低く言っている者や名前を愛称で言っている人もいた。俺みたいな何らかの理由があるのだろう。召喚組はばらばらだが、30~50が大半のようだ。転生組のレベルは全員1だった。もっとも俺のような特異なステータスは一人もいなかったが…
「ところで、世界を救う方法についてわかったことあります?」
俺は全員言い終えたのを見計らって質問した。
「天宮はそんなことも知らないのか。まぁ転生者だから仕方ないか。赤ちゃんだしな」
「あはは、そうなんだよ。まったくわからなくてね。すごいね田中は。もう分かってるんだ」
「ああ、魔王を倒せばいいんだ!そのための迷宮攻略!そのための魔王城攻略だ!」
田中はノリノリで話し出した。
「ちょっと待って。迷宮とか魔王城とか複数攻略してるって・・・もしかして魔王は複数いるの?」
転生者の1人が質問をした。
「ああ、いるぞ」
「その情報はどこから?」
「この世界の一般常識さ。国王たちにも確認してる。つまりこの世界で暴れまわってる魔王共を倒せばいいんだ」
「まだ、その前に雑魚ボスにも勝てないんだけどね・・・」
「なんだとぉ!村上!!」
田中は村上にくらいついた。村上は召喚組みで、先ほどレベルを低くみせかけた人の1人だ。
「実際に年末のあれ以来、未踏破層のボス攻略はしていない。さっきも言ったよな?俺は今冒険者ギルドに登録してパーティに所属しているって。そこの連中さ、俺らよりもずっと強いぜ。1人1人には勝てるだろうが、あの連携は見事だ」
「・・・・・・」
「俺達に今足りないのは、実戦経験なんだと思う。ベテランの動きは参考になることが多い。俺はあと1年ぐらいはパーティの戦闘経験をつまないといけないと思ってる」
さすがに、何か思うところがあったのか田中達も静かに聞きだした。
「1年もか・・・?」
「ああ。俺が思うに5ヶ月前の失敗は俺達が強めの能力を持つが故だと考えている。雑魚は能力でゴリ押しできるから、チームでの戦闘経験ってのは本当に積めていなかったんだと、今になって思うよ。いくら個々の潜在能力が高くとも引出せないのならばそれはないのと同じだ」
田中達はちょっと項垂れていた。思い当たる節があるのだろう。俺も、村上の言葉は効いた。俺は能力値なら多分最高クラスに一気に仕上げることができる状況にある。だが、それ故に村上がいうような"戦闘経験"を疎かにしてしまう可能性が高い。そうならないように今日の村上の言葉は肝に銘じておこう。
「だが・・・だが、それを言うならば、全員今スキルとか教えあったほうがいいんじゃないか?」
「いや、今はそういう段階にまだ俺達はなっていないんだよ。それにスキルの運用も何も知らない。だからこそセオリーとは違った発想で色々使えるだろうが、未知のスキルの情報やパーティでの効果的な運用方法なんて知識は全くないんだ。個々で強力なスキルだけじゃおそらく迷宮は攻略できないよ。今のパーティをみてそれは嫌というぐらい見てるからね」
今度こそぐうの音も出ないようだ。田中達はしぶしぶとステータス公開を諦めたようだ。その後、各自レベル上げを行い1年後に会おうと漠然とした予定がきまった。それから、各々個人的に色々情報交換をしあいながら、1人また1人とこの場から去っていった。
俺は最後1人になるまでまで残っていた。確認しておきたいことがあったからだ。
「なぁ、神様。聞こえてるんだろ?」
返事はない。だが聞こえてると俺には確信があった。でないと色々とおかしいからだ。
「あんたは世界を救ってくれっていった。でも俺達が"間違えた救い方"である"魔王討伐"に走っているのに止めないのは何でなんだ?」
当然のように返事はない。
「返事なしか。おそらく"魔王討伐は応急的な救済処置として正しい"だろ?だが"根本的ではない"から何度も勇者召喚がなされているんだろ?」
俺は母さんが言ったことを信じる。あれほどの人が全力で研究した末にだした答えだ。その辺の有象無象が言った言葉よりも信じられる。何よりも母さんが俺のためにならないことを言うはずがないからだ。
神様が求めていたのは根本的な救済処置のはずだ。なのに応急処置に向っている俺達を止めようともしない。その理由が知りたい。
「ん・・・ここまで言って反応なしか。これが干渉できないってことなんだな」
このような夢の世界を作るぐらいの干渉しているから、神託もあるのだし介入できるものと思うが…どういう理由かはわからんが無理なんだな、と思うことにした。
「ま、答えてもらえないなら仕方ない。じゃ、俺は帰る。母さんが待ってるからな」
目が覚めると朝だった。
(おかえり、ウィル)
(ただいま、母さん)
横をみると母さんが俺を見つめていた。もしかして、寝ていないんじゃなかろうか?聞きたくもあるが、母さんの心情を思って我慢しておく。
(ところで、ウィル。どうだった?)
(はい、色々と有意義でした)
俺は母さんにあらましを説明した。もっとも母さんも一番重要と考えたのは、最後の神様への問いかけのことだった。
(ウィル、あなたまだ世界を救いたいと思っている?)
(はい。ぼくと母さんが住んでいる世界ですから)
(そう)
母さんは眩しいものをみるように俺をみていた。このとき俺は知らなかった。母さんがこのとき覚悟を決めたことを。
ご清覧ありがとうございました。
対比を意識して書いています。一層いい表現とかありましたら、感想等で教えて頂けると幸いです。