6節(1) 第1回異世界勇者の集い (1)
第1章6節の改訂版(15/1/25)です。
分割した1番目です。
ウィルくん視点で、この1年間の出来事を振り返ります。
side ウィルルアイト・スヴュート
昨日の昼頃だっただろうか、突然【神託】が降りてきた。
この世界で【神託】と言ったら神様からのクエストでありお知らせである。多くは神殿で授かることが多いそうだが、【神託】は場所に関係なく誰でも降りてくることがあるらしい。お知らせの効果音がしたのでログを確認してみてみたら"【神託】を受取りました"と出ていたときには驚いたな。
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【神託】異世界勇者の集い(1回目)
明日の夜9時、異世界の勇者達の夢を繋ぎます。
クリア条件夜9時までに眠りにつく
成功報酬異世界勇者どうしの情報交換
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【神託】にはこう記載されていた。本当にクエストだよね、クリア条件まで書かれているし……
この【神託】に書かれている勇者の集いは、皆が神様に交渉して特別に付けてもらった共同のボーナス特典である。"世界の崩壊を防ぐために、集団で異世界に送り込むのだから、集団で組織的に動くための最低限の支援があって当然である"と神様を説得してこうなった。団体行動するかどうかはともかく、俺自身このような情報交換は必要だと思っていたので、特に反対することもなく代表の田中達が交渉を進めるのを見ていた。
明日は転生者の全員意識が確実に覚醒する(設定できる転生日から1ヵ月たったの)日だ。つまり、明日の夜の会合は全員参加できるのだ。
召喚者は全員神託の日を召喚日に指定していたはずなので転生者よりも比較的情報が多く、会合では転生者組は立場的に弱いだろう。教えられる情報が少ないので、色々便宜を図る必要もあるかもしれない。
もっとも、主観だが俺は母さんのおかげで相当質の高い情報を入手していると考えている。交渉のカードは他の転生者よりも多いだろう。
俺は確認の意味もこめて、母さんが集めてくれたここ数年程の勇者関連の出来事の走り書きを見ていた。
==========勇者関連のメモ================================
[新暦4999]
1. 1. 【神託】で来年の2月最後の日に勇者召喚を行うように各国に通達。
また、転生の勇者達も同時期に来ると通達。
6. 1. 神託の勇者の転生児を身籠ろうとする動きが活発になる。
[新暦5000]
2.30. 召喚日。勇者召喚で124人召喚される、転生者は30人。
3. 6. この日まで召喚組は王宮でこの世界の常識を習う。
3. 7. 召喚組、平原で戦闘訓練を行う。以後迷宮攻略に乗出す。
4. 2. 召喚組、中央国に集まる。
8.30. 召喚組、武力、財力の総合が国家クラスになる。
9. 3. 迷宮で初めてボス部屋が発見される。
9. 4. 先遣隊がボス部屋の調査に向う。
9. 5. 先遣隊の情報を元に、攻略会議が行われ、メンバーが選出される。
9. 7. 総勢32人(勇者27人,王国側5人)4PTでボスに挑む。
ボス戦で1PT(勇者4人,王国側4人)が全滅をするも討伐に成功する。
召喚組、不備を指摘し、賠償を求める。以降、何かにつけて賠償交渉を行うようになる。
10.22. ウィルルアイト(以後ウィルと略す)産まれる。
11.22. ウィル、意識を取戻す。シャルロット、ウィルが転生者と知る。
11.23. ウィル、母と初会話する。以降、母の指導の元力を蓄える。
12.28. 召喚組、迷宮大規模戦闘を行い、惨敗する
参加人数:勇者側120人(全員)、連合軍側640人
生存者数:勇者側58人、連合軍側198人
12.29. 召喚組、大規模戦闘の損害賠償を求める。
一部で召喚組の勇者達を取込もうとする動きが活発になる。
[新暦5001]
2.29. 第1回異世界勇者の集い(夜9時から開始予定)
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今更ながら、母さんの情報収集能力の高さは異常だと思う。
ちょっとだけその秘密を聞いたところ、母さんは職業を色々持っているかららしい。"『暗殺者』で隠密行動はしやすいし『賢者』とかがあるから空間繋げる魔法とか自由に使えるからよ~"って、ほんわかお菓子食べながら雑談で言われたときはホント一瞬何言われたのか分らなかったぐらいだ。ちなみに、"回復職じゃなかったの?"って聞いたら、"うん、メイン職は『アークビショップ』だよ?"って疑問符を付けられて返された。それも本当に不思議そうに首を傾げて。俺はもう絶句するしかなかった。
閑話休題。
この1年の召喚を選んだ勇者達(以後"召喚組"と略す)の行動を見直すと、一番目につくのは年末12月28日の大規模戦闘の惨敗だろう。正確には惨敗という結果よりもその後の召喚組が行った交渉が問題だ。
召喚組と8大国家間の関係は、あまり良くない。国側としては神の使いで世界の救世主なので対立はしたくないのは明白だ。召喚組はそこに付入る形で無茶で無用な要求を度々繰返している。これは召喚組だけではなく転生を選んだ者達(以後"転生組"と略す)が今後交渉の必要性に迫られたとき、不利な状況に追い込まれるだろう。
そもそも国側としては"脅威=魔王"であり神託で来た俺達は"魔王を倒すための手段の1つ"でしかない。この世界で兵士1人あたりが発揮する火力は、前世の世界とは比べ物にならないぐらいほど個人差がある。前世の武器で例えるならば、玩具の水鉄砲と水素爆弾ぐらいの圧倒的な差がある。兵士の育成、維持にも金と手間がかかる。国側としては、兵士を何十人と雇うより勇者1人を雇ったほうが財政的にも易しいという思惑があるから応じているだけだ。
召喚された当初は大半の者がレベル1でいくら初期値が高い状況でも、成長したとはいえ平均レベルが50にも満たない状況では各国の精鋭部隊が恐れることはない。国にもよるが精鋭軍の平均レベルはだいたい90前後だ。また、エリート隊部隊だけあって所持している職業も上位職が多い。なのに召喚組の無茶な要求を許しているのは、将来自分の陣営に引き込むためと新兵の訓練の場として利用するためだろう。
兵士10人維持するよりも精鋭1人維持するほうが楽である。精鋭の訓練はしたくても大々的にするのは色々と問題がある。現在召喚組の支援にあたっている兵は国内を巡回して魔物などを討伐している通常の部隊の兵だ。戦闘経験を蓄積させる意味合いもあって召喚組に組み込まれているわけだ。突然異世界にやって来た俺達よりは魔物との戦闘経験は豊富だろうが、精鋭部隊に比べれば質は格段に落ちる。実戦で鍛えるにも利権や安全面での責任問題が発生するが、"神の使い"というわかりやすい大儀があればそれらを比較的無視することができる。つまり、大々的に精鋭部隊を増強できるわけだ。元々口減らしの意味合いもあるが、それでも死亡する兵士が多すぎては抗議する者も出てくるだろう。
昨年末の大規模戦闘惨敗は、召喚組の情報収集能力と指揮能力の低さだけでなく状況判断能力の低さも露呈させてしまった。
おそらく召喚組の連中は事前に敵情報を精査しなかった。ゴブリンやコボルトと言った群を作る人型魔物の中には、目の前で仲間が死ぬと一時的(一部では永続的)に能力を高めるスキルを持っている個体がいる。大群と戦うときは、常に敵の急成長を覚悟して戦わなければならない。これは冒険者ギルドとかでちょっと調べれば分かるこの世界の常識だ、と母さんは言っていた。
冒険者ギルドでは冒険者となった者の支援のために、一般的な魔物の情報を公開している。コボルトなんて超ポピュラーな魔物で、仲間意識が非常に強く、多くの個体で"仲間の死を力に変える"なんらかのスキルを持っている。この程度の情報は城内の書庫にでも行けば普通に見せてもらえるとのことだ。
また、事前に情報を仕入れていなくても【鑑定】などのスキルで敵戦力を測っていれば、"原因は先遣隊の誤情報のせいだ"とか暴言を吐かなかっただろう。
確かに、敵総数は事前の報告から見れば数倍の数だっただろう。前世の世界ではこの数の差は戦術に多大な影響を及ぼすだろう。しかしここは異世界、数百の烏合の兵達をたった1人の猛者が一瞬で倒すことが当たり前の世界だ。個体戦力差は前世とは比べ物にならない。使った戦術は大将狙いとしては前世では良かったといえるものだが、こちらの世界のことを考慮せずにそのまま使ったのでは通用しないのは当たり前だ。"兵数差がそのまま兵力差である"という戦術の常識はこの異世界では通用しないのだ。
つまり、敵数を理由にするのはそのまま自分達がレベルが低くて勝てなかった、準備不足だったと言っているようなものだ。
さらに悪いことに原因としてそれだけを挙げているため、"戦場で敵の特性を掴めていない彼我の力量さを理解できませんでした"と示してしまっている。
もしその後の交渉を行わなければ、情報収集能力が低いというだけで済んだだろう。好意的な者ならば、まだこの世界の常識に疎かったぐらいに考えてもらえたはずだ。
だが、今は自らの力量が分からない愚か者の集団と見られていることだろう。成長したときのことを考えて表面上支援はしてくれるだろうが、足元を見られて上手く利用されることが多いだろう。
あらためて召喚組のこの1年の軌跡を振返ってみていると、俺には自ら状況が悪い方向に進んでいるような気がしてならなかった。
さて、召喚組のことはこれぐらいにしておいて、自分の現状を確認してみよう。今の俺の能力はこんな感じだ。
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ウィルルアイト・スヴュート 人間族・男 0歳
職業;武神 称号:探究者
Lv.1 Exp 0/100
【AP:1635776】
HP: 140/154 MP: 23/104
STR 101 INT 31
VIT 101 MEN 31
DEX 101 AGI 101
【SP:1844569】
<アクティブスキル>
能力値手動分配、レベルアップ手動化
固有図書館、データベース、筆写、模写
鑑定、目利き[1]、真贋眼[1]、看破、洞察眼
能力擬装隠蔽、擬装工作、鉄仮面[1]
隠密[1]、威圧[1]、索敵[1]、遠視[1]
身体強化[5]
魔力生成[3]
<パッシブスキル>
解析、究明、研究、見透かす力
物理学[1]、薬草学[1]、魔法学[1]
言語理解[5]、セリノイス語[1]、古代語学[1]
並列思考、高速思考、高速演算、算術[1]、暗算[1]
複製、解体
成長率増加、成長速度増加
自然治癒速度上昇、戦闘時回復力上昇[1]
魔力操作[1]、魔力感知[1]
状態異常耐性[5]
消費MP減少[1]、起死回生[1]
体術
武技の真髄[1]
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表示は最大値をとったものはレベル無表記に変えた。あと、同系統(自分で勝手に定義)は同じ行になるべく纏めた。見難く感じるが、一気に全スキルを見るためには丁度いいのでこのような表示にしている。前世のパソコンのフォルダ管理のように表示できればいいなと、目下努力中だがひとまずこのような表示にしている。
【火魔法】とかは覚えようと思ったら取得できるが、母さんの指示により控えている。なんでも今方向性が決まってしまうようなスキルは覚えないほうがいいらしい。例えば母さんは得意魔法属性以外の属性魔法を覚えるために結構苦労したそうだ。もうちょっと体ができたら職業取得の儀式を行って、自分の可能性を確かめた上でスキルを選択したほうがいいだろうとのことだ。
【スキル取得】の有用性に母さんが気付いたのは、俺が産まれるちょっと前らしい。【スキル取得】は一般的に使えないスキルとして知られており、また入手方法がすっごく大変なのでまず覚えている人はいないらしい。その入手方法も完璧ではないらしく、母さんはがんばって【スキル取得】の方法を色々と模索していたらしい。今は俺に【スキル取得】があるので、俺の【鑑定】結果と母さんと俺の考察によってほぼ条件を特定、スキル入手にまでこぎつけている。ちなみに【ステ振り】も現在研究中らしい。こちらは非効率かつ弱くなるとして今まで見向きもされていなかったが、俺の話から高レベルでは効率がいいことが判明、研究をしているらしい。どちらも今後重要なアドバンテージになると考えられるので不用意に言わないことと釘をさされている。
閑話休題。
俺は明日の異世界勇者の集いには参加するつもりだ。お互いの情報交換をするのが目的だが、だからといって全ての情報(手札)を晒すつもりはない。予想だが、俺のステータスは異世界組から見ても異常だと考えている。それはスキルの習得状況だ。
【スキル取得】を習得した母さんが言うには"予想以上にSPが入る、絶対にSP無駄にしていた"と断言している。通常スキルのレベルが最大になって使用した場合、熟練度(SP)は獲得するが分配する先は既にカンストしており、ただ無駄に消費されると考えている。使っているスキルの熟練度が上がるのだから、当然といえば当然である。
さらに、俺は母さんが指導してくれている。身内贔屓に聞こえるかもしれないが、母さんはかなり凄い人だと思ってる。前に【鑑定】のレクチャーをしてもらったときに、母さんのレベルと名前を見せてもらったんだが驚いた。母さんのレベルは5桁いってた。驚いて通常どの程度のレベルが普通かと聞いたら、"4桁いったら超一流レベルで国家に1人いるかどうか"らしい。"母さんのように周囲に配慮してレベルを偽っている人もいるからもう少し多いと思うわよ"と言われたけど、それでも母さんが最高レベルなのは確実だろう。そんな人に毎日付きっきりで指導してもらっているんだ。これが異常にならないわけはない。
そのような理由で、俺はかなり良質な指向性を持ったスキル構成を持っている。今後生きていく上で、俺のスキル構成やスキル情報は生命線だ。集いではどのような情報交換がなされるかわからないが、人生がかかった交渉の場でいきなり最大の手札を晒すのはよくないだろう。
夢の世界では効果はないかもしれないが、【能力偽造隠蔽】を使って俺は見かけ上の能力を捏造しておく。これで明日の準備は万端だな。後は母さんにこのことを伝えておこう。
翌日の夜、8時半を過ぎたころ俺はベッドに入っていた。いつもどおり母さんは横で寝ながら頭をなでてくれている。少し心配そうな表情で微笑んでくれている。母さんも今夜の集いには参加するべきだと言ってくれた。ある程度どのような話をするといいのか相談もしてくれた。
(母さん、そろそろ時間です。寝ますね)
(わかったわ、ウィル。気をつけてね。くれぐれも軽はずみに本名を言うんじゃないよ)
(はい、言うとしても様子を見て次回以降にってのがいいんですよね。僕だってまだ母さんと一緒にいたいです)
(ウィルっ!)
(苦しいです、母さん)
(あ、ごめんなさい)
(では行ってきます)
(行ってらっしゃい)
そう言うと俺は眠りについた。
ご清覧ありがとうございました。