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空が白み始めていた。
黒に塗りつぶされた世界が徐々に瓦解されていく。夜の帝王である月は、もうとっくにその座を譲った。広がるのは真っ青な清々しい空と、真っ赤に燃えるような禍々しい空。
吹く風が肌を撫でる。まだ朝方というのもあってか突き刺すような冷たさを孕んでいた。
荒廃した土地に金属音がうるさく響き渡る。規則的に正しく鳴るそれはひとつだけでなく複数あった。
鈍色に輝く甲冑に身を潜めた集団が疾駆していた。彼らの担ぐ盾には、十字架を抱えた騎士の紋様が彫られている。これは、彼らが『協会』に属しているという証だ。
古来より独自の教えを説いてきた組織で、世界中に信教者がおり『死神』や『悪魔』と並べられるほど巨大である。
しかし、この組織が掲げる方針は、他の二つとは根本的に違っている。救済の対象は、この世界に生きるすべての人間だ。
『協会』はすべての人間を護り、保護する。衣食住に困っている人たちにはそれすらも提供するのだ。
五人からなる騎士集団は、速度を落とすことなく駆け抜けていく。彼らの目的はとある学校だ。
前日、貧困街の学校に『天の罪』がいるとの報告があったのだ。
匿名による報告だったので、無視しても良かったのだが、対象が神殺しの罪人のため仕方なく腰を上げたというのが本音だった。
徐々に顔を出してきた太陽が彼らを照らす。破滅の足音は、着々と歩を進めていく。
「……今回の任務を軽くおさらいしとくぞ」
騎士集団の先頭を走っていた者がおもむろに口を開く。恐らく隊長だろう。依然、彼らは走っているままだ。
「我々の目的は『天の罪』の確認……可能ならば捕獲だ」
真実かどうかはわからないが、記録上は神をも殺した一族だ。いくら末裔とはいえ、その能力は未知数。下手に刺激して返り討ちにあう可能性もなくはない。
隊長の確認に答える声はない。彼らにとって無言は了承の意味を持つのだ。
やがて彼らは目的の学校に着く。まだ早いためか生徒の姿は見当たらない。最初に来たのは赤紫の髪をした、童顔超絶巨乳の女性だった。資料によるとリーベ・ピリアー。この学校の唯一の教師らしい。
「な、なに? まさか襲いに……っ!?」
見当違いな誤解をし、勝手に頬を赤らめるリーベ。意外と責められるのが好きなのかもしれない。
しかし、そんな彼女を無視するように騎士たちは本題を切り出す。
「すいません、違います。襲いません。ここに『天の罪』がいるとの報告があったので」
「え、それって焔を壊した人のことじゃあ……?」
「そうです。それがここにいます」
しばしリーベは沈黙したが、ややあって真剣な顔をして口を開いた。
「……名前は、なんていうんですか?」
騎士たちは顔を見合わせ、各々に頷く。教え子だったのだ。名前を知る権利はある。
「――ソア。ソア・シェル」
「えええええええッ!?」
リーベはまず最初に顔を手で覆い、次にしゃがみこみ頭を抱えた。うわああん、うわああん、と喚く合間合間に「可愛い子だったのにぃぃぃ」と危険な声が聞こえる。まさか強気のショタが好みだったとは、想定外である。
「と、とにかく我々は彼を拘束します。ご協力お願いできますか……?」
いまだ、うううう、と唸っていたリーベだったが、やがて意を決したように前を見据え力強く頷いた。
しばらくすると対象の人物が現れるだろう。資料によると、小柄なのに大型のバギーに乗っているらしい。
風が少し強い。空気は肌寒く、これからもっと冷え込んでいくということを示唆してる。
しばらく経つと、ちらほらと生徒の姿が見え始めた。子どもたちは騎士を見るとびっくりして遠く離れてしまう。リーベは「大丈夫だからね」と、優しい笑みを浮かべ子どもたちの不安を取り除いてく。
やがて銀髪の少年が現れた。
「ふぇえええええんっ! せんせぇええええっ!」
何があったソア君よ。