お犬様の気持ち
ボクが初めてあなたと出会ったのは、ボクがまだ目も見開くよりもずっと前だったっけ……?
うん、たぶんそうだと思う……。
ボクは幼心に母と離れることが淋しく、その小さな身体で精一杯、鼻を鳴らしたり、体調を崩したりしたね……。
あなたはそんなボクを見て、その暖かい手で優しくなでてくれたり、車をとばして、病院に連れてってくれたね……
そんなあなたを、ボクは大好きになったんだ……
少しすると、ボクは家の中を冒険するようになって、いろんなところで用を足しちゃって、あなたに怒られたね……。
でもボクが、ちゃんとトイレで用を足せた時、あなたは笑顔でボクを撫で回し、褒めてくれたね……。
ボク、とっても嬉しかったよ……。
またまた少しすると、あなたは外に散歩に連れてってくれるようになったね……。
いつも、広い公園に来て、ボールで遊ぶの、楽しかったよ……
あなたもきっと疲れているはずなのに、ボクの為に、っていつも感謝してたよ……。
そういえば、一回脱走したときもあったっけ……?
窓の隙間から出て、初めて一人で走る道路に気分が上がっちゃって、気が付けば知らないところ……。
途方に暮れていると、あなたが息を切らして現れ、ボクを見つけてくれたね……。
ボク、怒られると思って、身体をビクビクさせて、しっぽも丸まっていたんだけど、あなたはボクを撫でて、怪我の確認をしてから、「帰ろっか」なんて一言……。
ボク、そのとき、心配させないように、もう脱走しないって決めたんだ……。
毎年の夏には、寝るときのボクの為だけに扇風機をかけてくれたね……。
おかげでボク、暑い日もぐっすり寝れたよ……。
冬は冬で、暖かいマットをひいてくれて、とっても快適だった……。
ボクはあなたのおかげで、毎年暑さにも寒さにも悩まされることがなかったんだ……。
秋には紅葉が散って、その中ではしゃぐボクを写真に撮っては、いろんな人に見せてたね……。
ちょっと恥ずかしかったけど、ボクを自慢してくれている事が分かったから、嬉しかったよ……。
ああ……春もそんな感じだったっけ……?
桜と戯れてるボクを……って、秋とおんなじだね……。
でもボクは楽しかったし、あなたも笑ってくれたし、嫌なことはなかったよ……。
ボクが歳をとってくると、歩くのが億劫になってきて、家の中で寝てる事が多くなってきたね……。
そんなとき、ボクは決まってある場所で寝るんだ……。
それは、あなたの近く……。
あなたが、ポンポンと撫でるのを心地好く感じながら、ボクは安心して眠ってたんだよ……。
…………
そして今、ボクは眠りにつこうとしてる……。
一時の睡眠じゃなくて、未来永劫のお休み……。
凄くゆっくり呼吸をするボクを、あなたは今にも泣きそうな顔で見つめている……。
不安そうな顔で見つめている……。
……ごめんね……。
ボクはもう、あなたと一緒にいられなくなっちゃう……。
だから最期に……そんな顔を見せないで……?
ボクは……あなたに笑顔で見送ってほしいよ……。
小さな声で鳴くと……やっぱりあなたは優しく撫でてくれる……。
……天国に行く前に、ちょっとだけ気が楽になったよ……。
そんなボクの気持ちを感じ取ったのか、あなたは……
笑った……
泣きそうな顔……どころか、もう涙がポロポロと溢れているが、ニコリと僕に笑ってくれた……。
……ああ……ボクに思い残す事は、もうなくなったよ……。
もうすぐ……お迎えが来る……。
……安心して……。
ボクはどこにも行かない……。
いつでも……あなたを見守っているからね……。
だって……あなたの事が大好きだもん……。
……もう……最期だね……。
ボクは……あなたに出会えて……幸せだったよ……。
だから……伝えたい……。
伝わると……いいなあ……。
……あ り が と う……