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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第99話 怒りの大爆発

『そおれっ!』


 巨大な一本杉のバケモノ【マウントレント】は、再び地面から無数の太く巨大な根を生やした。


 しかし――今回の量は、これまでとはケタ違いだ。


 うねる根は嵐の海の荒波のように押し寄せ、地面をえぐりながらアリスたちへと打ちつけてくる。


『クソがッ! 全部、焼き尽くしてやる!』


【バーニングリズリー】――レッドは大きく飛び退きながら、口の中に火炎をため込んだ。


「ダメよ! もうエナが残り少ないんだから! ムダ撃ちしないで! いまはチャンスを待つの!」


 アリスのするどい制止が飛ぶ。


 生命力――オーラを感知できるようになった彼女は、味方の状態も正確に読み取っていた。レッドの消耗は、すでに限界に近い。


 レッドは舌打ちし、しぶしぶ攻撃を中断する。


 本来の彼なら、そのまま暴れ続けていたはずだ。だが――アリスの言葉には、確かな根拠と信頼があった。


 ウィザードとしての判断。それを、レッドも無視できなかったのだ。


「そういうわけだから、みんな、よろしくね!」


 アリスは振り返り、親友たちに声をかける。


 緋羽莉は大きくうなずき、りんごは小さく、しかし力強くうなずく。閃芽は肩をすくめながらも、すぐに戦闘態勢に入った。


 宙に浮かぶヨシノは、しなやかな腕をゆるやかに振り、包み込むような所作で桜吹雪を解き放つ。豊かな胸元が呼吸に合わせてわずかに上下し、その穏やかな表情とは裏腹に、あふれ出るチカラは圧倒的だった。


 さらにザックの羽のダーツ、リースの太陽光弾が、押し寄せる根を次々と打ち砕いていく。


 だが――破壊したそばから、新たな根が生えてくる。まるで無限に再生する壁のように、突破口は見えない。


 この根の荒波を越えなければ、本体への攻撃は不可能。接近戦は、完全に封じられていた。


「うーん……これはちょっと、厄介かも……」


 アリスは額に手を当て、状況を見極める。


『今度は、こちらからいくぞ!』


 考える間もなく、マウントレントの反撃が始まった。


 足元からはムチのようにしなる巨大な根が襲いかかり、頭上からは無数の木の葉が鋭い刃となって降り注ぐ。


 巨木の圧倒的な質量と数による蹂躙――まともに受ければ、ひとたまりもない。


 炎で迎撃しようにも、再び空気中に花粉がばらまかれているため、火は使えない。


 ――花粉?


 その瞬間、アリスの頭にひらめきが走った。


「緋羽莉ちゃん! できる!?」


 主語のない問い。だが――


「まかせて!」


 緋羽莉は一瞬で意図を理解し、迷いなく応えた。


「みんな! 一ヶ所に集まって! レッド! ちょっと痛いけど、がまんしてね!」


 また、主語が抜けている。レッドにとっては意味不明な指示だったが――


 アリスのまっすぐなひとみを見た瞬間、言葉を失った。コイツがなにをする気か、わかってしまったからだ。


(……冗談じゃねえ! ……って言いてえところだが……)


 その奥にある“信頼”が、彼の反発を押しとどめた。


 結局、レッドはため息をつきながら前へ出る。


 迫り来る根と木の葉の前に、盾のように立ちはだかった。


「ヨシノさん!」


 緋羽莉が祈るように手を組む。


 桜の大妖精ヨシノは優しくうなずき、四人とワンダーたちも含めて包み込むように、桜色の球形バリアを展開した。


 ひろげた腕の軌跡に沿って、やわらかな光が層をなす。抱きしめるように包み込むその防御は、母の腕に守られているかのような安心感を与え、同時に抗いがたい神秘的な美しさを放っていた。


 ふわりとひろがる、やさしくも力強い守りの光。その内側に、全員が集まる。


 その中心で、緋羽莉はヨシノを見上げる。息を合わせるように視線が重なり、言葉を交わさずとも心が通じ合っているのが伝わってくる。少女の純粋な信頼と、大妖精のやさしい包容力が、ひとつに重なっていた。


 そして――


「レッド! おもいっきり、《火炎放射》!」


『んなっ……!?』


 自信満々のアリスの指示に、マウントレントは目を見開いた。


 この状況で火を放てば――空気中に満ちた花粉に引火し、粉塵爆発が起こる。


 その威力は、この場一帯を丸ごと吹き飛ばすほどだ。


 つまり――敵味方関係なく、全滅……いや、巨木の自分は耐えられるが。そうでなければ、みずから花粉をまいたりしない。


 さきほどはそれを理解していたからこそ、攻撃を止めたはずなのに。


 それを、あえて撃たせる――?


(どういうつもりだ……!?)


 老木には、目の前の少女の狙いが読めなかった。


 だが――アリスは、不敵でステキな笑みを浮かべたまま。まったく迷いなく、次の瞬間を見据えていた。


 いっぽうで、緋羽莉はぎゅっとこぶしをにぎりしめる。指先に力がこもり、腕のしなやかな筋肉が浮かび上がる。緊張に胸が上下し、その鼓動の速さが、戦いの極限を物語っていた。


 レッドは大きく息を吸い込み、口から灼熱の火炎をおもいっきり吐き出した!


 次の瞬間――


 ボカアアアーーーン!!!


『ぬおおおおーーーっ!?』


 山頂一帯を巻き込むほどの大爆発が発生し、マウントレントも思わず顔をしかめた。


 その巨体ゆえに吹き飛ばされることはないが、衝撃は甚大だ。すさまじい風圧に、枝や幹がみしみしときしみ、葉が無数に吹き散らされる。


 アリスたちに襲いかかろうとしていた根も、木の葉も、すべてが爆風に飲み込まれて吹き飛んだ。


 ――やはり、これこそがアリスの狙いだったのだろう。


 だが、それでは自分たちも巻き添えになるはず。


 それがわからないほど愚かな子どもたちではない……はずなのに。


(まさか……やけくそか?)


 圧倒的物量を前に、判断を誤ったのか――


 マウントレントがそう考えた、そのときだった。


 やがて爆発がおさまり、巨木はふううっと強風のような息を吐き、立ちこめる爆煙を吹き払った。


 すると――


『なに……!?』


 マウントレントは、驚愕に目を見開く。


 そこには――満身創痍ながらも、二本の脚でしっかりと立ち続ける【バーニングリズリー】のレッド。


 そして――桜色のバリアに守られ、無事なままの子どもたちとパートナーたちの姿があった。


『うっ……』


 桜の大妖精ヨシノは、小さくうめき声をもらす。


 ふわりと揺れた身体は、これまでの余裕ある姿とはちがい、どこかか弱さをにじませていた。それでもなお、その表情にはうっすらとやさしいほほえみが残り、最後まで守り抜こうとした意思が感じられる。


 やがて力尽きたように地面へと倒れ――光の粒子となって、緋羽莉のウォッチへと還っていった。


 同時に、アリスたちを包んでいたバリアも、静かに消えていく。


 そして――


「……っ」


 パートナーと感覚を共有する緋羽莉もまた、全身の力が抜けたように、その場にどさりと倒れ込んだ。


 長いポニーテールが地面にひろがり、花の冠がかすかに揺れる。力を失った体はぐったりとしているが、その寝顔はどこか安らかで、すべてを出し切ったあとの静かな美しさをたたえていた。


 あの大爆発から、仲間全員を守り抜くために――ふたりは、すべてのチカラを使い果たしたのだ。


 アリスはすぐに駆け寄り、花冠をのせた緋羽莉の髪を、そっとやさしくなでる。


 その手には、あふれるほどの感謝と信頼、そして大切に思う気持ちがこめられていた。


 指先に触れる髪は、汗を含みながらもやわらかく、ほんのりとした甘い香りが残っている。そのぬくもりに、どれほどの力を尽くしてくれたのかが、言葉にしなくても伝わってきた。


 そして――アリスは立ち上がる。


 キッと巨木をにらみ据え、力強く指を突きつけて宣言した。


「いまよ! レッド! みんな! ここからは――わたしたちのターン!」


 倒れてなお、緋羽莉の存在は場に残っている。仲間を信じ、すべてを託した少女の想いが、見えないかたちで戦場を支えていた。


 その声に、全員が応える。


「おおっ!」


 次の瞬間――いっせいに突撃が始まった。


『この全身の痛み……存分に返させてもらうぜ!』


 レッドのオレンジのモヒカンが、怒りに燃えるように金色へと逆立つ。


 全身に炎のオーラをまとい、オニのような形相で地を蹴った。


 それは――アリスとのバトルでも見せた特性、〈怒髪天衝(どはつてんしょう)〉。


 体力が限界に近づいたとき、怒りによって爆発的に力を引き上げる能力だ。


 もちろん――アリスは、それをすべて計算に入れていた。


 さきほどのマウントレントの総攻撃。あれを正面から受けていれば、全滅は避けられなかった。たとえヨシノのバリアで耐えられたとしても、物量に押しつぶされていただろう。


 だからこそ――あえて粉塵爆発を起こした。戦場そのものをリセットするために。


 そして――レッドなら、火の属性のワンダーである彼ならば、爆発の中でも倒れず踏みとどまれると信じて。


 その結果――マウントレントの根はすべて吹き飛び、防御手段を失った。


 爆発の衝撃で、すぐに反撃にも移れない。


 レッドは大ダメージを負い、緋羽莉も倒れてしまったが――戦況全体で見れば、この一手はアリスの完全な勝ちだった。


『オラアァァァァ!!』


 怒りを燃料にしたレッドの渾身の一撃が炸裂する。


 そこへ――ザックとリースの全力の追撃が重なる。


 羽の刃が切り裂き、光弾が貫く。


 連続する猛攻が、巨老木を容赦なく打ち据えた。


『ぐ、おおお……っ!』


 マウントレントの幹に浮かぶ顔面が、大きくえぐれる。


 内部から煙が立ちのぼり、その巨体は――やがて力を失ったように、沈黙した。

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