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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第98話 巨木のカベを打ち破れ!

 外周を木の根に囲まれ、アレルギー反応が起きない程度に調整された花粉に包まれた、山頂のバトルフィールド。


 粉塵爆発を防ぐため、木に有効な火の攻撃を封じられたアリスたちは、決定打を欠いていた――


 ……かに思われた。


 しかし、アリスはすぐに打開策を思いつく。


「緋羽莉ちゃん! ここは妖精さんのチカラを借りるときよ!」


 その言葉に、緋羽莉はぴくんとポニーテールを弾ませ、ぱあっと花が咲くような笑顔で応えた。


 ふわりと揺れた緋色の髪から、ほんのり甘い香りがただよう。振り返ったときに見える横顔は、年相応のあどけなさを残しながらも、どこか大人びたやわらかさを帯びていた。胸元のフリルが動きに合わせてかすかに弾み、その存在感が自然と目を引く。


「うん! アカネちゃん、ごめんね、戻って!」


 左手のウォッチをかざすと、アカネの体はふわりと光の粒子へと変わり、吸いこまれていく。


『ちょっ……あたしの出番、もうおしまいなの~!』


 と、名残惜しそうな悲鳴を残しながら。


 そして――


「さあ……おねがいします。わたしたちに、チカラを貸してください」


 緋羽莉は目を閉じ、両手を胸の前でぎゅっと組み、祈りをささげる。


 静かな風が吹き抜ける。長い手足をそっとそろえて立つその姿は、まるで一輪の花のように凛としている。組まれた大きな手はやさしく、それでいて包み込むようなぬくもりを感じさせ、ふしぎと見ている者の心まで落ち着かせた。


 次の瞬間――両腕をばっとひろげ、くるりと一回転。合わせてスカートの裾がふわりとひろがり、しなやかな脚線が一瞬だけのぞく。健康的で引き締まったそのラインは、少女らしさと女性らしさが絶妙に混ざり合っていた。


 その軌跡に沿うように、桜の花びらが舞い上がった。


 ひらひらと、やわらかく。


 やがてそれは吹雪のようにひろがり、あたり一面を桜色に染め上げる。


「わあ……」


『おお……』


 幻想的な光景に、アリスたちも、そして【マウントレント】さえも思わず見とれる。


 その桜吹雪の中心から――ゆっくりと、ひとりの女性の姿が現れた。


 桜色のセミロングヘア。花びらのように繊細な三対六枚の翅。


 そして豊満な体を包む、やわらかな桜色のドレス。


 やわらかな光に包まれたその姿は、まるで春そのものが形を得たかのよう。ふくよかな胸元と丸みを帯びた腰のラインが、優雅なドレス越しにもはっきりとわかり、見る者に安心感と同時に、どこかどきりとする存在感を与える。


 午前の“ブロッサムスクエア”での冒険の最後、がんばった緋羽莉へのごほうびのように現れ、パートナーとなった存在――桜の大妖精、【グランフェアリー・ブロッサム】。


 緋羽莉がつけた名前は、ヨシノという。もちろん、桜が由来だ。


 彼女がそこに立つだけで、空気がやわらぐ。包み込まれるようなあたたかさに、思わず身をゆだねたくなるような――そんな圧倒的な包容力があった。


 ずっと彼女を見たがっていたのに、これまで機会を逃していたりんごと閃芽は、そろって感激の表情を浮かべていた。


「ヨシノさん! この花粉、なんとかしてくださいっ!」


 緋羽莉の願いに、ヨシノは『まかせて』と言うように、いたずらっぽくウインクをひとつ。


 両腕と、背中の翅を大きくひろげると――


 フワァーッ……


 霧のように漂っていた薄黄色の花粉が、引き寄せられるようにヨシノのもとへ集まっていく。


 まるで呼吸するかのように。包み込むように。


『なんとっ!?』


 巨老木の顔が驚きに歪む。


 やがて花粉はすっかり吸い尽くされ、夕陽の光が差し込む、澄んだ山頂の景色がよみがえった。


 ヨシノのまわりには、桜色のオーラがふくらむようにひろがっている。


 取り込んだ花粉をチカラへと変えたのか、その存在感は先ほどよりもさらに増していた。


「ありがとうございます、ヨシノさん!」


 緋羽莉がにっこりとお礼を言うと、ヨシノもやわらかなほほえみを返す。


 見上げる少女と見守る妖精――その距離は近く、まるで姉妹のようでもあり、母と娘のようでもある。緋羽莉の無垢な笑顔と、ヨシノの包み込むようなほほえみが重なり合い、どこか胸があたたかくなる光景だ。


 出会ってまだ間もないというのに、ふたりのあいだにはすでに確かな信頼が築かれているようだった。


 それもまた、緋羽莉の持つふしぎな魅力ゆえだろう。


「これで、火炎攻撃も復活ね!」


 アリスは得意げに胸を張る。


『腕の見せどころって、結局他人(ひと)まかせかよ……』


 レッドはあきれたようにため息をついた。


「そうよ。ウィザードって、そういうものだもの。頼り頼られがあたりまえってね」


 アリスはまったく悪びれず、きっぱりと言い切る。


 そして、にやりと笑った。


「でも……これで思う存分、暴れられるんだからいいでしょ?」


『ったく……まあなっ!』


 完全には納得していないようすながらも、理解はしたらしい。


 レッドは力強く地面を蹴り、四足歩行でふたたびマウントレントへと突進する。


『私も、アカネちゃんに代わったほうがいいかしら?』


 ヨシノは宙に浮かびながら、小首をかしげて緋羽莉を見下ろす。


「いいえ。同じことをされたら困るもの。このままバトル、お願いできますか?」


『もちろん、かまわないわ。私のチカラ、お見せするわね!』


「期待してます! わたしも、めいっぱい応援しますね!」


 ふたりは笑顔で軽く手を合わせる。


 ヨシノは六枚の翅をぴんとひろげ、レッドを追うように優雅に飛び立った。


 ゆるやかに羽ばたくたび、豊かな身体がやわらかく揺れ、その動きさえもどこか艶やかだ。だがその表情はあくまで穏やかで、戦いの中にあっても春のやさしさを失っていない。


「これで私たちもチカラになれるね、リース」


『キュル!』


【ヒマワリス】のリースは、ふたたび手に持つ大輪のひまわりに光を集め始める。夕陽の残光が、その花弁にやさしく宿っていた。


「……わたしたちは、みんなの中でいちばん攻撃力が低い。だから、かく乱と弱体化に徹しよう!」


 りんごは前髪の奥の目をきっと細め、はっきりと言い切った。その声には、もう迷いはない。


『いい判断です。冷静に戦況を見ていらっしゃる』


【ワカバズク】のザックは感心したようにうなずき、翼をひろげて上空へ舞い上がる。


 それぞれが役割を理解し、動き出す。仲間として、ひとつのチームとして。


 こうして――バトルは、新たな局面へと突入したのだった。


『おぬしだけは、通さん!』


 マウントレントは地面から無数の巨大な根を伸ばし、レッドの接近を阻もうとする。


【バーニングリズリー】のレッドは火の属性を持ち、破壊力もこの中では群を抜いて最強。通してしまえば、燃えやすい巨老木の身ではひとたまりもない。


『クソッ! マジでうっとうしい!』


 レッドは燃えさかるツメを振り回し、火の息をまき散らしながら、いら立ちをぶつけるように吠えた。


 さきほどのバトルで披露した空間変化技、《バーニンガーデン》が使えれば状況は一変するのだが――残念ながら、さきほどのバトルの疲労で、いまは発動するだけのエナが残っていなかった。


 そう、レッドはまだ本調子ではない。このまま無理にチカラを振るい続ければ、先に倒れるのはこちらのほうだろう。


『花粉のお礼、たっぷりさせてもらうわね! はあーっ!』


 ヨシノは両手を前に突き出し、《桜吹雪》を放つ。後方の緋羽莉も、同じポーズで思いを重ねていた。


 額ににじむ汗が、つややかな肌の上で光る。荒い息を整えながらも、そのひとみはまっすぐで、パートナーを信じる強さに満ちていた。


 桜の大妖精と、それを支える花冠の姫君。まるで一枚の絵のように、美しく調和した光景だった。


 敵の注意はレッドに集中している。ゆえに、無防備となった幹の顔面へ、桜の嵐は正確に叩き込まれた。


 火属性ではないものの、技そのものの威力に加え、花粉を吸収して強化された力もあって、決して軽くないダメージとなる。


 さらに――ザックがリースを“フクロウづかみ”にして抱えたまま、上空を旋回。


 そのまま日光の弾と羽のダーツを、雨のように降らせた。


 ダメージ自体は小さい。だが、狙いはそこではない。日光は相手の視界をくらませ、羽のダーツは筋肉の動きをにぶらせる。


 その効果は、確実に現れた。レッドの行く手をふさいでいた根の動きが、目に見えて鈍り、統制を失っていく。


『――今だッ!』


 ついにバリケードを突破し、レッドは巨木のふところへと飛び込んだ。


「《クロースファイア》!」


 アリスの鋭い号令が響く。


 それに応じ、レッドは燃え上がる両手のツメを交差させ――マウントレントの顔面を、バツの字に切り裂いた!


『ぬおあああああっ!?』


 山全体を震わせるような絶叫。


 その一撃で、生命力(オーラ)が大きく削られたのを、アリスははっきりと見て取った。


(倒せるまで、あと二押し……!)


 そう確信し、ぐっとこぶしをにぎりしめる。


『ほっほ……本当にやるのう! おぬしも、人間のパートナーが板についておるではないか!』


 追いつめられているはずなのに、マウントレントはどこか楽しそうに笑っている。


 その視線は、とくにレッドへと向けられていた。


『ちっ、うるせえ!』


 レッドは悪態をつきながらも、その表情にはわずかな高揚がにじんでいた。


 悔しいが――アリスの声に合わせて技を放つと、いつもよりチカラが引き出されるような感覚があるのだ。


 それは偶然ではない。緋羽莉もそうだが、アリスはただ叫んでいるわけではない。


 パートナーの気持ちを高め、チカラを引き出すための声――その発声とタイミングを、しっかりと訓練してきたのだ。


 ワンダーは人間よりも感受性が高い。だからこそ、わずかな声のちがいが、大きな差となる。


 そのことを、レッドも理解しはじめていた。


 そしてそれは――いまウォッチの中からこの戦いを見つめ、目に焼きつけているブルーにも、同じように伝わっていた。


『では……そろそろワシも本気を出そうかのう!』


 マウントレントは愉快そうに宣言すると、葉をいっそう激しくざわめかせた。


 ざわ……ざわざわ……!


 同時に、外周を囲んでいた根がさらに高くせり上がり、バトルフィールドはリングから閉ざされた闘技場のような様相に変化する。


 空気が変わった。張りつめ、重く、圧しつぶすような気配。


 アリスの視界に映る生命力(オーラ)は、減った量こそ変わらないが、その密度と勢いがあきらかに増している。


 緋羽莉もそれを感じ取り、きゅっと目を細めた。


 風にあおられたポニーテールが背中を打ち、そのたびにしなやかな体がわずかに揺れる。大きく息を吸い込み、胸元が上下するようすからも、次の一手へと全力で備えているのが伝わってきた。


 感覚が特別鋭いわけではないりんごや閃芽でさえ、この異様な気配には気づいている。


 ――本気だ。そう理解できるほどに。


 それでも、りんごはもう震えなかった。


 怖くないわけじゃない。でも――逃げない。


 緋羽莉にしがみつくこともせず、自分の足で立ち、前を見据える。


 みんなといっしょに戦っているという確かな実感が、小さな胸に灯る勇気を、確実に大きくしていた。


 裏山ワールドのラストバトル。それはいま、まさにクライマックスへと差しかかろうとしていた。

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