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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第97話 裏山の冒険、最後の戦い!

「レッド、《ブレイズクロー》!」


 アリスの指示に合わせ、赤い体毛とオレンジのモヒカンヘアーを持つクマ【バーニングリズリー】のレッドは、四足歩行でダッと地面を蹴り、いきおいよく駆け出した。


 赤熱化した右手のツメを振りかざし、巨木【マウントレント】の大きな顔めがけて、一気に振り下ろそうとする!


『いくぜ! お前を倒して、俺が次の山の神って呼ばれるのも悪くねェ!』


 息巻いて言い放つレッド――しかし。


『ほっほっほ、あいかわらず威勢だけはいいのう、おぬしは! ……しかし月並みなセリフじゃが、百年早いわ!』


 次の瞬間――巨木の根もとから、ボコボコと音を立てて、太く巨大な根が次々と地面を突き破って現れた。


 それらは生き物のようにうねりながら波のように押し寄せ、顔へと迫るレッドの進路をふさいだ!


『チッ!』


 レッドは舌打ちをしながら、振り下ろすはずだったツメを切り替え、迫る根を払うために横薙ぎに振るう。


 だが、次から次へと伸びてくる根の壁は、そう簡単には突破できない。


「こっちもいくよ、アカネちゃん! 《マジカルファイア》!」


 その間隙を縫うように、緋羽莉が大きく体をひねり、バッと右手を振る。


 腕の動きに合わせて、やわらかな体のラインがしなり、オフショルダーの肩口からのぞく健康的な肌が一瞬だけきらりと光る。その一連の動作は大ぶりでありながらも無駄がなく、鍛えられたしなやかさを感じさせた。


 そんな彼女の元気さに応え、不死鳥のヒナ【スカーレットチック】のアカネは、螺旋状にうねる炎を放った。


 燃えさかる炎は、レッドを阻む根の波をすり抜けるように突き進み――


 ドンッ!


 巨木の顔面に、直撃した。


『おおっ!? 効くのう! ちっこいくせに、なかなかの火力じゃ!』


 弱点である炎を受けたというのに、マウントレントの口調には余裕がある。


 まるで、たいしたダメージではないと言わんばかりだ。


 ――だが。アリスにはわかっていた。


 今日一日の冒険で学んだこと。この世界に、無敵のワンダーなど存在しないということを。


 効いていないように見えるのは、ただの“見せかけ”にすぎない。


 長い年月を生きてきたマウントレントはきっと、自分の弱みを悟らせない術と、耐え抜く強さを持っているのだ。


 よく目をこらして見れば――その体を包むオーラが、ほんのわずかだが、確実に弱まっているように感じられる。そういうことも感知できるようになったのも、修行の成果だろうか? アリスはもともと感覚がするどかったので、目覚めた能力なのかもしれない。


「ちゃんと効いてるよ! みんな、ひるまずガンガン攻めちゃって!」


 自信を込めて、仲間たちに呼びかける。


 緋羽莉は小さくうなずき、胸の前でぎゅっとこぶしをにぎる。その動きに合わせて、やわらかなふくらみがわずかに揺れ、甘い香りがふっと周囲にただよった。親友を信じるそのまっすぐさは、どこまでもあたたかい。


 彼女はおそらくわかっているようだが、常人よりのりんごや閃芽にはその変化ははっきりとは見えていない。


 それでも――アリスが、根拠のないことを言う子ではないと知っている。だからこそ、迷いなく信じた。


「《リーフカッター》!」「《ブライトショット》!」


 りんごと閃芽も、すぐに指示を飛ばす。


 【ワカバズク】のアイザックは羽ばたきと同時にするどい木の葉の刃を放ち、【ヒマワリス】のリースは抱えた大輪のひまわりから、太陽光を凝縮した光の弾を撃ち出した。


 ヒュンッ! ドンッ!


 二つの攻撃は、正確にマウントレントへと命中する。


 炎ほどの効果はないものの――そのたびに、巨木のオーラはじわじわと削られていくのが見えた。


「どうしたのレッド? 自分よりちっこい子たちに先越されちゃって!」


 アリスは、からかうように声をかける。


「まさか、そんな根っこにいつまでも手こずってるわけじゃないよね?」


 そのひとことで――レッドのこめかみに、ぴきりと青筋が浮かんだ。


『なめんじゃねェ!』


 怒りをにじませ、キバをむく。


『俺様のチカラが、こんなモンなわけねェだろ!』


 次の瞬間――右のツメにまとった炎が、一気に燃え上がる。


 ブンッ!


 渾身のフルスイングで、目の前の根をまとめて切り裂いた!


 バキバキバキィッ!


 太い根が、まとめて吹き飛ぶ。


 視界が一気に開けたその瞬間――レッドは、食いしばったキバのすき間から、熱をためこんでいた。


 そして――


『オラァッ!』


 口内にためこんだ火炎を、一気に解き放つ!


 ゴオオオオォォッ!


 灼熱の炎が、一直線に――無防備となったマウントレントの顔面へと、激しく叩きつけられた!


『ぬおおおおッ!?』


 大きな悲鳴が響いた。やはり、文字どおり火力のケタがちがう。アリスも思わず「ひゅう!」と感心の口笛を吹く。


 この一撃だけで、マウントレントのオーラが目に見えて大きく削られていく。この分なら、レッドをふところにもぐりこませ、三〜四発ほど強烈な攻撃をたたき込めば、倒せそうだ。


 マウントレントは巨大ではあるが、おそらく何百年も生きてきた老木。燃えやすく、耐久力も見た目ほどではないのだろう――そんな確信が、アリスの中にあった。


 ブワーッ!


 そのとき、突如として強い風が巻き起こった。巨木の体を燃やしていた炎が、一瞬で吹き飛ばされる。


 マウントレントが、自らの吐息で吹き消したのだ。顔が大きいぶん、その吐息もまた強烈だった。


「わっ……!」


 突風にあおられ、アリスと緋羽莉はとっさにスカートを押さえる。風に逆らうように身を低くしながらも、しっかりと体勢を保っていた。


 その中でも、長身でスタイルのいい緋羽莉が必死に押さえる仕草はどこか愛らしく、思わずアリスとりんごは一瞬だけ目を奪われてしまう。


 必死にスカートを押さえるその姿は、力強さと無防備さが同居していて、どこか目が離せない。きゅっと引き締まった太ももに力が入り、ぐっと踏ん張る足取りからは、彼女の底知れない体力と安定感が伝わってくる。


『あつつ……さすがにやるのう。主である子どもたちも、なかなかじゃ。では、これはどうかな?』


 マウントレントは感心したように言うと、ざわざわと葉を揺らした。


 次の瞬間――バトルフィールド一帯が、もわ~んと薄黄色の霧に包まれた。


『キュル〜……』


 霧によって日光が遮られ、リースの持つ大輪のひまわりがしおれていく。花びらは力なく垂れ、本来の輝きを失っていた。


 あきらかに、こちらのチカラを封じるための環境操作――それが、マウントレントの狙いなのか?


『ハン! こんなモンで、俺様が止められるかよ!』


 レッドは気にもとめず、四足歩行で巨木のふところへ飛び込む。そして右手のツメに炎をまとわせようとした――その瞬間。


 緋羽莉が、小さな鼻をかわいらしく、すんすんとひくつかせた。


 その仕草は子どもらしく無邪気でありながら、ほんのり色っぽさも感じさせるふしぎな魅力を持っていた。つややかな肌にうっすらとかいた汗が光り、戦いの最中でも生命力あふれる輝きを放っている。


 そして――


「ダメーーーッ!!!」


 次の瞬間、目を見開き、大きな声で叫んだ。


 その声は場を震わせ、近くにいたアリスたちはもちろん、離れていたレッドとマウントレントまでも思わず動きを止めるほどだった。


『なっ……どういうつもりだ、赤いの!』


 レッドは苛立ちを隠さず、振り向いて怒鳴る。


「この霧、花粉だよ! 火を使ったら――爆発しちゃう!」


 緋羽莉はするどく言い切った。


 その言葉に、場の空気が一瞬で張りつめる。


 同じ火の属性のアカネは、反射的に両羽でくちばしを押さえた。危うく指示を待たず、火を吐くところだったのだ。


 アリスたちも、とっさに口と鼻を押さえる。


 そう――マウントレントは一本杉のワンダー。スギの木。花粉をまき散らす存在だ。


 この霧はただの目くらましではない。極めて危険な、爆発性の粉塵だったのだ。


「だいじょうぶ。花粉症を引き起こすほどじゃないよ。ちゃんと調整されてるみたい」


 緋羽莉はにこにこと落ち着いた笑顔のまま、みんなに説明する。さすが健康優良児、アレルギーとは無縁らしい余裕だった。


 その表情は、まるで何事もないかのようにあかるい。ふんわりとした頬と大きなひとみがやさしく細められ、その無垢さと包容力が、張りつめた空気をやわらかくほどいていった。


『ほっほっほ。そこまで見抜くとは、あっぱれな感覚の持ち主じゃ! 最近のわらべはやるもんじゃのう!』


 マウントレントは楽しそうに笑う。


「「「いえ、彼女がちょっと特殊なだけです」」」


 アリス、りんご、閃芽の三人が、きれいに声をそろえてツッコんだ。


 とはいえ――状況は厳しい。


 火炎は封じられ、日光も遮られている。攻撃の要である二大属性が制限されたのだ。


 この花粉が満ちた空間では、うかつに火を使えば粉塵爆発を引き起こしてしまう。


 戦力は大きく削がれた。体感でいえば、半分……いや、三分の一ほどにまで落ち込んだと言ってもいい。


『チッ……めんどくせえ……』


 レッドは苛立たしげに右手をわきわきと動かしながら、周囲をにらむ。


 自分の得意な戦い方を封じられる――それは彼にとってはじめての経験だった。だからこそ、行き場のない怒りがこみ上げてくる。


 そんな彼を見て、アリスは――不敵でステキな笑みを浮かべた。


「心配無用よ、レッドくん。ワンダーひとりじゃどうにもできないような不利な状況でも――なんとかしちゃうのが、ウィザードの腕の見せどころだからね!」


 自信満々に言い切り、パチンとウインクを決める。


 その言葉は、霧に包まれた戦場の中で――確かな光のように、仲間たちの心を照らしていた。

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