表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/99

第96話 一本杉と山の神さま

 ドドッ、ドドッ――と重い足音を響かせながら、一頭のクマ――【バーニングリズリー】が裏山の道を駆けていく。


 その背中には、四人の小学五年生の少女たち。


 アリス・ハートランドと、その親友たちだ。


 魔法生物(ワンダー)つかい――ウィザードとして、異空間(ワールド)化した学校の裏山を冒険してきた彼女たちも、ついにゴール目前までたどりついていた。


 目指すは――山のてっぺんにそびえる一本杉。


 そこは、ここまでたどりついた者が過去に数人しかいないという、ふしぎ小の児童たちのあいだで“伝説の地”とまで呼ばれている場所だ。


 アリスたちはいま、その伝説に名を刻む一歩手前に立っている。


「とう……ちゃーく!」


 リーダーのアリスと、あかるく前向きな緋羽莉が、同時に大きくバンザイした。


 りんごと閃芽は、声こそあげないものの、その表情いっぱいに達成感をにじませている。


 とくにりんごは――ここまで何度も無力感や自己嫌悪に苦しんできただけに、その喜びはひとしおだった。


 レッドの背中から降り、アリスたちは山頂へと足を踏み出す。


「わあ……」


 思わず、声がもれる。


 そこからは、自分たちの住む町――ふしぎ町の景色が一望できた。


 町並みは夕陽に照らされ、あたたかなオレンジ色に染まっている。


 風がやさしく頬をなで、遠くの景色までくっきりと見える。


 まさに絶景。ここまで来たかいがあったと、四人は心の底から感じていた。


 応急処置のおかげで回復したブルーとミルフィーヌ、それからグリンも、アリスのウォッチの中からこの景色を眺めている。


 それぞれが、それぞれのやり方で、この瞬間を味わっていた。


 そして――この山に長く住んでいるにもかかわらず、山頂にはめったに来ることのなかったレッドも、ぽかんと口を開けたまま、目を細めてその光景を見つめていた。


 ――これから、こんな景色を何度も味わわせてあげたい。


 さきほどアリスが言った言葉が、胸の奥で静かに響いているのかもしれない。


「さてと……山の神さまとやらは、どこにいるのかな?」


 アリスはすぐに気持ちを切り替え、きょろきょろとあたりを見回しはじめる。


 そのようすを見た途端、感動にひたっていたりんごの顔色が一変した。


(そんなの、わざわざ探さなくていいじゃない……!)


 このまま「きょうは楽しかったね」で帰れればいいのに――そんな本音が、また思わずあふれそうになる。


 となりの閃芽が、ぽんっとりんごの肩をたたいた。


 無言だが、その目ははっきりあきらめろ、と語っている。


 そのときだった。


『ホッホッホ。ひさびさに、元気な子どもたちが来たのう』


 ガサガサ……と葉がこすれ合う音とともに、どこからともなく、エコーのかかった老人のような声が響きわたる。


 なにものか――なんて考えるまでもない。


「あなたが……山の神さま?」


 アリスは、山頂の中央にそびえ立つ一本杉を見上げながらたずねた。


 こうして間近で見ると、首が痛くなりそうなほどの高さだ。


 幹は太く、空へとまっすぐ伸びるその姿は、まるで天を支えているかのようにも見える。


『いかにも。よくわかったのう』


『俺が教えたからな』


 レッドが腕を組み、ぶっきらぼうに言う。


『ほうほう……おぬしが人間の仲間に加わるとは。どういう風の吹き回しじゃ?』


『なりゆきだよ。それに、まだ仲間と認めたわけじゃねえ』


 からかうような山の神の言葉に、レッドはぷいっと顔をそむけた。


 その横で、主人(マスター)のアリスが苦笑いを浮かべている。


『ふむ……ならば老婆心ながら、その絆を強める手伝いをしてやろうかの』


 山の神が意味ありげにそう言った瞬間――一本杉が、ざわざわとざわめきはじめた。


 風もないのに葉が揺れ、幹の奥から低い振動のようなものが伝わってくる。


 りんごはびくっと体を震わせ、反射的に緋羽莉の胸に顔をうずめた。


 緋羽莉は驚きつつも、すぐにりんごの背中へ腕を回し、しっかりと抱きとめる。大きな手がやさしく包みこみ、そのぬくもりが恐怖でこわばった体をゆるやかにほどいていった。


 ――ここまでくると、さすがに確信犯じゃない?


 となりで閃芽が、なかばあきれたような目でそれを見ている。


 次の瞬間。


 パキ……パキパキッ――!


 木が割れるような音が響き、一本杉の幹がゆっくりとうごめいた。


 そして――そこに、ヒゲをたくわえた老人のような顔が浮かび上がる。


 山のてっぺんにそびえる一本杉は、その正体を現した。山の神――【マウントレント】としての姿を。


『さあ……遊ぼうか、子どもたちよ』


 マウントレントはおごそかに――けれどどこか楽しげな口調で、そう宣言した。


 その声が山頂に響いた瞬間、強い風が巻き起こる。突風のような風圧に押され、アリスたちは思わず身じろぎした。


 強い風にあおられ、緋羽莉の髪とリボンが大きくなびく。服のフリルもばさりと揺れ、思わず目を引くが、それでもしっかりと踏みとどまる足は微動だにしない。


「さあ、みんな、いくよ!」


 風がすっとやんだその瞬間を見逃さず、アリスは勇ましくウォッチをはめた右手を構えた。


「で、でも、さすがにあれは……」


 りんごは緋羽莉の胸に顔をうずめたまま、おびえきった声をもらす。


 ムリもない。同じ木のバケモノでも、高さ三メートルほどだった【トオレント】とはまるで別物だ。目の前の一本杉は、ざっと見積もってもその十倍――数十メートルはある。幹の太さも圧倒的で、見上げるだけで首が痛くなりそうなほどだったのだから。


 これほどの巨体を前にすれば、大人であっても足がすくむだろう。


「だいじょうぶよ。ほら、顔は根っこの近くにあるし!」


 アリスはびしっと指さし、元気づけるように言った。


 たしかに、木のバケモノ(トレント)系ワンダーの急所が、幹に現れた顔であることは常識として知られている。


 とはいえ――その顔だけでも、ざっと見て四平方メートルほどはありそうだ。


 それでも、数十メートルの巨体そのものを相手にするわけではないと考えれば……ほんの少しだけ、気が楽になる。……気がしなくもない。


 もっとも――どのみち、もう戦いから逃れるすべはなかった。


 一本杉がマウントレントとして姿を現したその瞬間、山頂の広場の外周を、無数の太い木の根がうねるように覆い尽くしていたからだ。


 まるで巨大な有刺鉄線のリングのように、完全に閉ざされたバトルフィールド。


 勝利以外に、ここから脱出する方法はない――


 かしこいりんごは、残念ながらその事実を一瞬で理解し――小さく息をのんだあと、ぎゅっと目を閉じて、覚悟を決めた。


 なにより――さっき、レッドのすみかで、四人はあらためて絆を確かめ合ったばかりだ。


 怖いものは怖い。敵を前にすると、びびってしまうのはもうクセみたいなもの。


 それでも胸の奥には、「みんながいる」「わたしもその一員だ」という想いが、たしかに燃えている。小さくても、確かな勇気の炎が。


 そして――四人は、それぞれのパートナーを呼び出した。


 緋羽莉、りんご、閃芽のウォッチから光の粒子があふれ出し、それぞれの足もとで形を成していく。


「じゃあ初陣よろしくね、レッド!」


『フン、せいぜいお手並み拝見といかせてもらうぜ』


 アリスは、さきほど仲間にしたばかりの【バーニングリズリー】――レッド。


 口調こそ不本意そうだが、その目には戦意が宿っている。ひとまずは、アリスの指示に従うつもりのようだ。


「アカネちゃん、おねがいね!」


『ふふーん、まっかせなさーい!』


 緋羽莉は、不死鳥のヒナ【スカーレットチック】のアカネ。


 今日は回復役に回ることが多かったぶん、初めての本格的な戦闘に、大はりきりといった様子だ。


「ザック、わたし、今度こそ……がんばるから!」


『ええ、期待しておりますよ』


 りんごは、木の葉色の翼をもつフクロウ【ワカバズク】のアイザック。


 主の決意を感じ取ったのか、どこか誇らしげに、やさしくほほえんでいる。


「リース、そろそろおひさまが沈みかけてるけど、たのんだよ」


『キュウ!』


 閃芽は、大輪のひまわりを抱えた【ヒマワリス】のリース。


 なお、【バリネズミ】のハーリーはキズこそ回復したものの、体力が戻りきっていないため、今回はおやすみだ。


『ほっほっほ! みな、よき相棒に恵まれておるようじゃのう! これはひさびさに楽しめそうじゃ!』


 一本杉の山の神――【マウントレント】は、葉をざわざわと揺らしながら、心底うれしそうに笑った。


 その声には、圧倒的な力と、純粋な“遊び心”が混ざっている。


 これが――本日最後のレイドバトル。


 アリスたちは視線を交わし、小さくうなずき合う。


 出し惜しみはしない。持てる力のすべてをぶつける。


 そう誓ったその瞬間――決戦のゴングが、山頂に高らかに鳴り響いた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ