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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第91話 炎上!バーニングリズリー!

『グッ……効いたぜ……!』


 山のボス――火のチカラを持つクマ【バーニングリズリー】は、自分の額をおさえながら、ゆっくりと起き上がった。


 ブルーの連続パンチはたしかに効いているようだが、それでもまだ、戦うだけの力はじゅうぶんに残っているらしい。


 歓喜に沸いていたアリスとブルーも、そのようすを見て、すぐに表情を引き締め、身構え直した。


 たとえ手ごたえがあっても、これだけで倒せる相手ではない――そう、はじめからわかっていたからだ。


 応援していた緋羽莉たちも、ふたたび緊張の面持ちに戻り、熱いまなざしでアリスたちを見つめる。


 その視線の先で、緋羽莉は無意識に息をひそめていた。


 胸元に抱いたりんごのぬくもりを感じながら、しなやかな体をわずかに前へ傾ける。


 ふわりと揺れる花冠と、やわらかなウェーブのかかった髪が、戦場の熱気に包まれてほのかに香り立った。


『親子そろって、オレ様をここまで苦しめてくれるとはな……こっからは、本気で相手してやる!』


 ボスはそう言い放つと、『グオオーッ!』と空に向かって遠吠えをあげた。


 すると、オレンジ色のモヒカンが金色に変わって逆立ち、全身からは炎のようなオーラがほとばしる。


 その瞬間――場の空気が、熱を帯びてゆがんだ。


 アリスたちは思わず息をのむ。ボスの“本気”を、肌で感じ取ったのだ。


「いくよ、ブルー……ここからが、本番!」


『……うん!』


 ブルーは力強くうなずき、第二ラウンドが幕を開けた。


 本気モードとなったボスは、すうっと息を吸い込むと、間髪入れずに数発の火の玉を連射してきた。


 ひとつひとつの大きさは先ほどよりやや小さいが、その威力と速度は段違いだ。


「距離を取って!」


 アリスの指示に従い、ブルーはバックステップを連続で踏みながら、ボスから距離を取りつつ火の玉を回避する。


 火の玉は地面に着弾すると、ドンドンドン! と音を立てて炸裂し、小さな火柱を上げながら周囲の草を焼き、いくつものクレーターを作り出した。


 続けざまにボスはさらに大きく息を吸い込むと、今度は燃えさかる火炎を一直線に吐き出した。


 灼熱の奔流が、一直線にブルーへと襲いかかる。


 アリスはすばやく指を振り、ブルーへサインを送った。


 ブルーはそれを読み取り、左へ走って回避。しかしボスは逃がすまいと首を振り、火炎を吐き続ける。


 追いすがる炎から逃げ続けながら、ブルーはある一点へと飛び込んだ。


 それは――この広場の中央にあった土山。ボスのすみかだ。


 ちょうどボスとの間に位置していたその土山が遮蔽物となり、炎の追撃をさえぎった。


『チッ!』


 炎を防がれたこと、そして自分の家を利用されたことへの苛立ちからか、ボスは舌打ちする。


 次の瞬間、四足歩行の姿勢へと変わり、猛スピードで土山の陰に回り込もうと駆け出した。


 ブルーもすぐに反応し、逃走開始。


 土山のまわりをぐるぐると回る、追いかけっこが始まった。


 しかし、本気モードのボスの脚力は圧倒的だ。


 ブルーは必死に走るが、その差はみるみる縮まっていく。


『グアーッ!』


『うわあーっ!』


 涙目で悲鳴をあげるブルー。ついに距離を詰められ、ボスが大きく跳びかかってくる。


 ブルーはとっさに土山の外側へヘッドスライディングし、ギリギリでボディプレスを回避した。


 ズズーン! と重い音を立てて、ボスは地面に叩きつけられる。


「《プリズムボール》!」


 すかさずアリスが指示。


 ブルーは体勢を立て直すやいなや、両手から虹色の光球を発射した。


 光球はボスの顔面に直撃し、爆発。たしかなダメージを与える。


 当然、ボスは激怒した。ギロリとブルーをにらみつけ、すぐさまふたたび襲いかかってくる。


 今度は火炎と赤熱化したツメを織り交ぜた、さらに激しい連続攻撃だ。


 ブルーはアリスの指示を受けながら、なんとかそれを回避し続ける。


 だが――その動きは、次第ににぶくなっていった。


 呼吸は荒く、足取りも重い。


 ボスと同じように、ブルーの体にも確実に疲労が蓄積していたのだ。


 そして、ついに――足がもつれた。


『しまっ――』


 一瞬のスキ。その瞬間を、ボスは見逃さない。


 するどいツメと灼熱の火炎が、同時にブルーを襲った。


「……っ!」


 見守る緋羽莉の喉が、声にならない息で震える。


 抱きしめたままのりんごの体を、思わず胸へ引き寄せ、そのやわらかな感触ごと守ろうとするように強く抱いた。


 ブルーはとっさに腕を交差させてガードするが――限界だった。


 ボスのパワーアップした攻撃の衝撃に耐えきれず、体は大きく吹き飛ばされる。


『うああっ――!』


 地面を転がり、やがて動かなくなった。


 ブルーは――戦闘不能となってしまったのだ。


「ブルー!」


 アリスは思わず声をあげた。


 応援していた緋羽莉たちの表情にも、一斉に心配の色が浮かぶ。


 緋羽莉の大きなひとみが、わずかに揺れる。


 くちびるをきゅっと結び、こぼれそうになる想いを必死に押しとどめていた。


 それでも、胸の奥からあふれるやさしさは隠しきれず、視線は倒れたブルーに釘づけになっている。


 体が動かなくなり、地面にはいつくばったまま、ブルーはくやしげに歯をかみしめた。


 あと少しで――なにか新しいものをつかめそうだった。


 その手ごたえがあったからこそ、ここで戦えなくなってしまったことが、もどかしくてたまらない。


 こんな気持ちを抱いていること自体、ブルーの心が成長している証なのだが――当の本人は、まだそれに気づいてはいなかった。


「おつかれさま、ブルー」


 アリスはやさしくほほえみ、ねぎらいの言葉をかけながら、右手をそっとかざす。


 すると、ブルーの体は青い光の粒子となり、ふわりと浮かび上がってスマートウォッチの中へと吸いこまれていった。


 その光景を、緋羽莉はりんごを抱きしめる腕にぐっと力をこめながら、「よくがんばったね……」と小さくつぶやき、いとおしそうに見つめていた。


 その横顔には、ほんのりとしたぬくもりが宿っている。


 戦いのさなかでも変わらないやわらかな空気が、まるでそこだけ別の時間が流れているかのように感じさせた。


『どうしたどうしたァ!? オレはまだ暴れ足りねェぞォ!』


 炎のようなオーラをほとばしらせたまま、ボスは怒号を響かせる。


 その迫力は先ほど以上――だが、アリスはもう一歩もひるまなかった。


 むしろ、不敵でステキな笑みを浮かべ、まっすぐにボスを見すえる。


「あわてない、あわてない。バトルはまだまだこれからよ! ――グリン!」


 余裕すら感じさせる口調でそう言うと、アリスはふたたびスマートウォッチに手を触れた。


 次の瞬間――緑色の光の粒子が舞い、その中から姿を現したのは、緑色のアフロヘアーをした大きなモグラ、【モリモール】のグリンだった。


 地下に落ちた緋羽莉とりんごを救出するため、急きょ仲間になったワンダー。


 しかし今では、アリスにとって大切なパートナーの一体だ。


 今回は、そのグリンにとって記念すべき初陣。


 元気いっぱいに登場――するはずだったのだが。


『グアーッ!』


『モ、モリーッ!』


 両手を振り上げて威嚇するボスを前に、グリンはアフロヘアーが逆立つほど、ビビり散らかしていた。


 無理もない。目の前にいるのは、裏山のボスとして恐れられる存在。


 同じ裏山の住人であるグリンにとって、その怖さはよく知っている相手だ。


 しかも――木の属性であるモリモールにとって、火の属性のバーニングリズリーは、相性最悪。


 どう考えても、不利な戦いである。


 それでも――グリンは、逃げ出さなかった。


 その気になれば、そもそも召喚を拒むことだってできたはずだ。


 だが、そうはしなかった。それは――自分自身、もっと強くなりたいと願っていたから。


 そもそも、アリスのパートナーになることを受け入れた理由は――彼女の"親友を助けたい"、というまっすぐな思いに心を打たれたからで、表情からはわからないけれど、グリンは実は熱い心の持ち主だった。


 さすがに、同族の親分である【キングハナモグラ】に歯向かうことはできなかった。


 けれど、そのことを、ずっと心のどこかで悔やんでいた。


 だからこそ、今度こそは――アリスのために、どんな相手であっても戦う。そう、決めていたのだ。


 グリンは震える足をふんばり、アフロに半分隠れた丸い目で、キッとボスをにらみ返す。


『へえ……いい目してるじゃねェか』


 ボスはそのようすを見て、ニヤリと口元をゆがめた。


『穴ん中に引きこもってるモグラにしちゃ、見上げた根性だ』


 その言葉には、ほんのわずかだが、認めるような響きがあった。


 圧倒的に不利なこの状況で――はたしてグリンは、初勝利をつかむことができるのか。


 そのすべては、ウィザードであるアリスの手腕にかかっているのだった。

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