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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第90話 熱闘!バーニングリズリー!

『グラアァァ!』


 山のボス――【バーニングリズリー】は、地面を震わせながらこちらへ駆け出し、ジュウッと赤熱化した右手のツメを振り上げた。


 狙いは、もちろん対戦相手であるブルー。


 アリスに――正確にはその保護者である沙織に負けた恨みがあるとはいえ、ウィザード本人を直接狙ってこないあたり、案外冷静なのか。それとも、あくまでバトルのルールにのっとって勝利することで、屈辱を晴らそうという腹づもりなのか。


 いずれにせよ――クマという生きものは、巨体に似合わず俊敏だ。


 ましてや目の前の相手は、ただのクマではない。圧倒的な威圧感をまとった“山のボス”。


 その迫力に、ブルーは一瞬ひるんでしまい、回避の判断が遅れる。


 ――だったら!


 ブルーはとっさに頭上で腕を交差させ、防御の構えを取った。


 ガキィン!!


 金属同士がぶつかり合うような鋭い音が、広場に響き渡る。


『ぐっ……!』


 赤熱したツメを受け止めたブルーの顔が、苦痛にゆがむ。


 なんとか一撃を防いだものの、両腕はじゅうっと焦げつき、皮膚が裂け、血がにじんでいた。


 衝撃も、先ほどの【キングハナモグラ】とは比べものにならない。


 正直――泣き出しそうなほど痛い。


 それでも、歯を食いしばって耐える。


「次が来る! 右によけて!」


 するどく飛んできたのは、アリスの指示。


 ブルーははっと我に返り、すぐさま右へ大きく跳んだ。


 次の瞬間――さっきまでいた場所に、ボスの左のツメが振り下ろされる。


 ブオンッ! と空気を裂く重い音。


 もし回避が一瞬でも遅れていれば、間違いなく直撃していた。


(アリスの読み……すごい……!)


 ブルーは冷や汗をにじませながら、すぐに距離を取るため走り出した。


 パワーはもちろん、突進力も攻撃速度もケタ違い。


 正面から殴り合って勝てる相手ではない。


 ならばどう戦うか――それを考えるのはアリスの役目。


 ブルーの役目は、指示が来るまで生き残ること。


 そして――その“生き残りやすさ”なら、小柄で素早い自分に分がある。


「《プリズムボール》!」


 すぐさまアリスの声が飛ぶ。


 接近戦ではなく、遠距離戦へ切り替えろという指示だ。


『うんっ!』


 ブルーは両手を前に突き出し、サッカーボールほどの大きさの虹色の光球を生成。そのまま、ボスめがけて撃ち放った。


 ドカァン!!


 直撃。光球はボスの顔面で炸裂し、爆煙が立ちこめる。


 その凶悪な表情は、完全に煙の中へと消えた……かに思えたが。


『グルル……!』


 ブルブルッ! と頭を振ると、煙はあっさりと吹き飛ばされる。


 現れたのは、さらに怒りに燃える顔。


 ギンッ! とするどい目でにらみつけてくる。


『ひっ……!』


 ブルーは思わず体をこわばらせる。


 だが――


「しっかりして!」


 アリスの声が、背中を押した。


 ブルーはぐっと息をのみ、なんとか踏みとどまる。


 次の攻撃に備えなくっちゃ。ツメでも、突進でも――なんでも来い!


 そう身構えた、そのとき。ボスの動きが止まった。


(あれ……?)


 そして――その口の奥で、メラメラと揺れる“なにか”が見える。


 炎だ。


 次の瞬間――


『ガアアッ!!』


 咆哮とともに、巨大な火の玉が吐き出された!


『ええっ!?』


 ブルーだけでなく、アリスたち全員が目を見開く。


 世界のどこを探しても、火を吐くクマなんていやしないだろう。


 しかしここは異空間であり、相手はクマ型のワンダー。ふしぎな世界と生きもの。現実の常識なんて通用しないのだ。


(しまった……!)


 アリスは一瞬で理解した。


【バーニングリズリー】という名前の時点で、炎の能力を警戒すべきだったのだ。


 見た目に引きずられた、自分のミス。だが、後悔しているヒマはない。


『うわっ!』


 ブルーはとっさに横へ大きく跳び、火の玉を回避する。


 直後――


 ボゴォン!!


 火の玉は地面に着弾し、大爆発。


 周囲の草木は一瞬で焼け焦げ、小さなクレーターがえぐり出された。その威力に、誰もが息をのむ。


 これこそが――彼が“山のボス”と恐れられる理由だろう。


 木々生い茂る山の中で、これほどの火力を振るう存在。それは、まさに災害そのものだ。


 けれど――


(このチカラ……やっぱり、ほしい!)


 アリスの胸に浮かんだのは、恐怖ではなかった。むしろ逆。


 これほどのチカラを持つワンダーを、仲間にしたいという強い想い。


 パワー、スピード、そして強力な火の属性。


 どんな戦いでも頼りになる、理想的なパートナーだ。


 ――それにクマは、ドラゴン、ウサギ、イヌ、ネコに続いて、アリスの大好きな動物ランキング上位の存在。


 故郷イギリスには、有名なクマのキャラクターだっている。


 だからこそ――このバーニングリズリーは、絶対に仲間にしたい。


 アリスの青いひとみは、ますます強い意志で輝いていた。


「《プリズムボール》!」


 がぜんやる気になったアリスは、さっきよりも張りのある声で指示を飛ばす。


 ブルーも応えるように、先ほどよりも大きく、強く輝く光球を作り出した――が、


『それはもう撃たせん!』


 ボスが一気に間合いを詰めてきた。


『うわっ!?』


 あまりにも素早い対応に、ブルーは目を見開く。技を中断せざるを得ず、とっさに横へ跳んで回避した。


 次の瞬間、赤熱化したツメが空気を裂く。


 ブオンッ! と唸るような音。


 ブルーは必死によけ続けるしかなかった。


 もはや距離を取る余裕はなく、戦いは完全に接近戦へと移行してしまっている。


 後方では――おびえるりんごを抱きしめる緋羽莉と、腕を組んで見守る閃芽が、息をのんで戦況を見つめていた。


 ふだんはアリスに絶対の信頼を置いている緋羽莉ですら、その表情は強ばっている。りんごを抱く腕にも、思わず力がこもる。


 胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚に、思わず息が浅くなる。


 それでも、しなやかに引き締まった体はぶれず、りんごを支える腕には頼もしさとぬくもりが宿っていた。


 小さく上下する胸元に、彼女の緊張と必死さがにじんでいる。


 ――それでも。


 緋羽莉は大きく息を吸い込み、


「……がんばれ! アリス! ブルー!」


 広場じゅうに響くほどの、あかるく力強い声で応援した。


 その声に合わせて、花冠がふわりと揺れ、きらきらと光を受ける。


 まっすぐ前を見つめる大きな黄色いひとみには、不安を押しのけるほどの強い信頼が宿っていた。


 ただ見守るだけではいられない――そんな想いが、声となってあふれている。


 そばにいたりんごと閃芽が、思わずびくっとするほどの大声だ。


 けれど、その声は確かに――戦うふたりに届いた。


 ブルーの胸に、あたたかい力がわきあがる。


 アリスもちらりと右手のウォッチに目をやり、次の手を見極める。


「ブルー! そのまま、もうちょっとだけねばって!」


『うん!』


 正直、かなり無茶な指示だ。


 それでもブルーは迷いなくうなずいた。


 ――信じてくれているから。アリスも、みんなも。


 そして自分も、ここで逃げたくない。


 ブルーは回避に意識を集中させる。


 すると――さっきよりも、ボスの動きが見えてくる。


 それでもなお、速く、重く、するどい連撃。


 少しでも気を抜けば、たちまち餌食になるだろう。


「左! 次は後ろ!」


 アリスの指示が飛ぶ。


 先読みされた最適な回避方向。


 そのおかげで、ブルーの動きは格段に安定していた。


 ――そして。


 しばらく攻防が続いた、そのとき。


(……あれ?)


 ツメの動きが、ほんのわずかに鈍くなった。


 よく見ると、ボスは汗をびっしょりとかき、呼吸も荒くなっている。


 顔にも、はっきりと疲労の色が浮かんでいた。


(そりゃそうだ……!)


 ブルーは理解する。


 よけるだけでもこれだけ疲れるのだ。


 それ以上に力を込めて攻撃し続けているボスの消耗は、比べものにならない。


 その瞬間――アリスの目がするどく細められた。


 狙いを定めるように、左手をバッと突き出す!


「《バタフライビート》!」


 ブルーの両手に、ピンク色の光が宿る。


 この裏山に入ってすぐ、新たに身につけた、打撃と回避を両立するための技。


 次のツメをかわしたブルーは――一気にボスの懐へ飛び込んだ!


 そして――


 ドンッ!


 みぞおちめがけて、右のパンチを叩き込む!


『グウッ……!?』


 ボスが顔をしかめ、わずかに体を折る。


 間髪入れず――


 ドンッ!


 左のこぶしも、同じ場所へ!


『グゥハッ……!』


 たまらず息を吐くボス。


「まだまだ! もっともっとよ!」


 アリスの声が飛ぶ。


 そのいきおいに乗るように、ブルーは三発目、四発目――連続でこぶしを叩き込む!


 ドドドドドッ!!


 衝撃のたびに、ボスの巨体がびりびりと震える。


 確実に、ダメージが蓄積していく。


 そのようすを見つめる緋羽莉の表情にも、ぱあっと光が差し込む。


 緊張でこわばっていた頬がゆるみ、思わずくちびるがほころぶ。


 ぎゅっと抱きしめていたりんごを、さらに胸元へ引き寄せながら――勝利を信じる気持ちが全身に満ちていく。


 そして――


「フィニッシュ!」


『たあーっ!』


 ブルーは右こぶしを強くにぎりしめ、全身の力をこめて――


 ボスの眉間へ、渾身の一撃を叩き込んだ!


 バキィッ!!


『グガアッ……!』


 ついにボスは大きくのけぞり、


 ドシン、ドシン、と数歩後ずさったあと――


 ズズゥゥン……!


 大の字になって、地面へと倒れ込んだ。


 一瞬の静寂。


 そして――


「やっ……」


「やったあーーーっ!!」


 アリスと、見守っていた緋羽莉たちの歓声が、広場いっぱいに響きわたった。


 その中でもひときわ大きな声をあげていたのは、やっぱり緋羽莉だった。


 ぱっと顔を輝かせ、全身でよろこびを表現するその姿は、まるで咲き誇る花のようにあざやかだ。


 弾むように一歩踏み出した拍子に、スカートのフリルがふわりと舞い、健康的な脚線が一瞬のぞく。


 そのまま、りんごごと自分の体を抱きしめながら、うれしそうに何度もうなずいた。

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