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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第79話 モグラとウサギとヒマワリス

 地上サイド――


 突然現れた、体長一メートル半を超えるモグラ型ワンダー【モリモール】に戦いを挑まれたアリスと閃芽。


 アリスは、長いたれ耳を持つ【モモイロハネウサギ】のモモを。

 閃芽は、大輪のひまわりの花の茎を両手で握る小さなリス型ワンダー【ヒマワリス】のリースを、戦うパートナーに選んだ。


 こうして、バトルの火ぶたが切って落とされた。


『モリー!』


 口火を切ったのは、対戦相手のモリモールだった。


 すばやく地面にもぐり込み、土を盛り上げながらこちらへ突進してくる。


 まるで地面の下を巨大な魚が泳いでいるかのように、土がモコモコと波打った。


「よけて!」


 アリスと閃芽、ふたりの声が同時に響く。


『キュー!』


『キュルッ!』


 その瞬間、モモがなにか注意するように声をあげ、リースはそれに反応して小さくうなずいた。


 そして二体は、同時にその場からすばやく跳び退く。


 次の瞬間――


 ボコッ!


 大きな音を立てて地面が弾け、モリモールがいきおいよく飛び出した。


 両手の長いツメを振り上げ、鋭く振り下ろす。


 しかし――


 スカッ!


 攻撃は、空振り。


 もしその場にとどまっていれば、まちがいなくエジキになっていただろう。


 体長一メートル半のモリモールに対し、モモとリースはせいぜい三、四十センチほどの小さな体。


 この体格差では、一撃でもまともに受ければ致命傷になりかねない。


 アリスの足もとで見守っていたブルーも、モモが攻撃をよけたのを見て、ほっと胸をなでおろした。


 そして同時に、その動きに感心する。


「ハネウサギは警戒心が強いし、すばしっこいからね。攻撃なんて、そう簡単には当たらないよ」


 そんなブルーを安心させるように、アリスが解説した。


『モリー!』


 モリモールは攻撃をかわされたことに腹を立て、怒鳴り声をあげる。


 そして、ギロリとリースのほうをにらみつけた。


 小さな両手に握られた、大きなひまわりの花がどうしても目立つのだ。


 しかし――それでは困る。


 アリスはすぐさま指示を飛ばした。


「《プチウインド》!」


『キュー!』


 モモは軽やかにジャンプし、空中でくるりと一回転。


 その動きによって生まれた、小さな渦を巻く風がモリモールの顔に命中した。


 パアンッ!


 小さく弾ける音とともに、風がモリモールの顔面にぶつかる。


『モリッ!?』


 モリモールは思わず身をよじった。


 だがダメージ自体は、ほとんどないようだった。


 しかし、顔を撃たれたという屈辱が、怒りに火をつけた。


 どうやら敵意の標的を、リースからモモへと切り替えたらしい。


「よし! チャージ開始!」


 この瞬間を待っていたとばかりに、閃芽が右手をばっと掲げ、指示を出した。


『キュルーッ!』


 すると、リースが抱える大輪のひまわりに光が集まりはじめる。


 まるで太陽の光を吸い込んでいるかのように、花びらの中心がじわじわと輝きを増していく。


 ブルーも、そのまぶしい光に思わず目を奪われた。


『モリーッ!』


 いっぽうモリモールは、その光には目もくれない。


 怒りにまかせ、モモへ向かって猛然と突進してきた。


 両手の鋭いツメを振り回し、めちゃくちゃに切り裂こうとしてくる。


『あぶない!』


 ブルーは思わず叫んだ。


『キューッ!』


 しかし――


 モモはその心配をよそに、軽やかなステップでツメをぴょんぴょんとかわしていく。


 まるでダンスでもしているかのような身のこなしだ。


 ブルーは一転、びっくり仰天する。


『すごっ……』


 思わずそんな言葉がこぼれた。


 あんな動き、自分には――きっとミルフィーヌにだって、そう簡単にはできない。


 モモが、あんなにもすごい子だったなんて。


 アリスが彼女を仲間にした理由が、またひとつわかった気がした。


『モリー!』


 何度ツメを振っても当たらない。


 モリモールは顔を真っ赤にして、ぷんすか怒り出した。


 ドン! ドン!


 何度も地団駄を踏みつける。


 すると――


 ボコッ! ボコボコッ!


『わあっ!?』


 ブルーは驚き、目を丸くした。


 なんと、地団駄の振動によって、周囲の地面に無数の穴があきはじめたのだ。


 それらはすべて、この一帯をナワバリにしているモグラ型ワンダーたちが掘った穴なのだろう。


 表面が土で薄く覆われていたため、今まで気づかなかったのだ。


『……そうか!』


 そのとき、ブルーは気づいた。


 閃芽がモモを戦わせるよう提案した理由に。


 この穴だらけの地面を踏み抜く危険があるからだ。


 危機察知能力の高いモモならともかく、もし自分が戦っていたら――きっと気づかずに足を踏み外し、そのまま穴へ落ちていただろう。


 現にモモは、あれほどちょこまか動き回っているのに、一度も穴を踏んでいない。


 どこに穴があるのか、すべて把握しているかのようだった。


 さっきリースに合図を送っていたのも、きっと穴の場所を教えていたんだろう。


 これが「適所適材」というものなのだ。


 ブルーはまたひとつ、大切なことを学んだのだった。


「準備できたよ! 動き止めて!」


 そこに、閃芽からするどい指示が飛んだ。


『うわっ!?』


 ブルーがリースのほうを見ると、その手ににぎられている大輪のひまわりが、まばゆいばかりの光を放っていた。


 それはまるで、ミニチュアの太陽。


 どうやら、エネルギーの充填が完了したらしい。


 ひまわりの中心は白く燃えるように輝き、花びらの一枚一枚まで光をまとっている。


「モモ、よく狙って! 《プチウインド》!」


『キューッ!』


 モモはまたも空中でくるりと一回転。


 緑色に渦巻く小さな風を、モリモールめがけて放った。


『モリーッ!?』


 風はモリモールの鼻先でパーンと弾ける。


 視界をさえぎる突風に、モリモールは思わず身をすくめた。


 一瞬――動きが止まる。それを、閃芽は逃さなかった。


「グッジョブだよモモ! リース! 《サンシャインレーザー》!」


 閃芽がメガネをキラリと光らせ、高らかに右手をかかげる。


『キュルーッ!』


 リースが両手でかかげたひまわりの中心から――


 極太のレーザービームが、一直線にモリモールへ放たれた!


 カッ――!


 まばゆい閃光。


 次の瞬間、


 ドオォーーーン!


 地面を震わせる大爆発が巻き起こった。


 光と煙が弾け、爆風が草木を揺らす。


 モリモールは爆煙を尾のように引きながら、宙を舞った。


 そして――


 ドシャッ!


 地面に叩きつけられる。


 全身は真っ黒こげ。自慢の緑のアフロヘアーも、爆発したかのようにチリチリになっていた。


 体はピクピクと痙攣し、もはやまともに動けそうにない。


 このバトル――モモ&リースの完全勝利だった。


『や……やった!』


 ブルーは思わず歓喜の声をあげる。


『キュー!』


『キュルー!』


 功労者のモモとリースは、おたがいに駆け寄り――


 ちっちゃなおてて同士で、ぱちんとハイタッチ!


 小動物同士のなんとも愛らしい光景に、ウォッチの中で見ていたミルフィーヌも含め、みんなの顔が自然とほころんだ。


「おつかれさま!」


「そっちこそね」


 アリスと閃芽も、パンと軽いハイタッチを交わす。


 あっさりしたやり取りだが、そこにはたしかな信頼が感じられた。


 ブルーも、その空気をしっかり感じ取っていた。


『キューキュー!』


 次の瞬間。


 モモが勢いよく、ブルーに抱きついてきた。


『おつかれさま、モモ! すごかったよ!』


 ブルーは彼女をしっかり抱き止め、やさしくねぎらう。


『キュ~!』


 大好きなブルーにほめられ、モモはとろけるような笑顔を浮かべた。


『それにしても、びっくりだよ。モモがあんなに戦えるなんて……』


 ブルーは素直な感想を口にする。


 モモ自身はモリモールに大きなダメージを与えたわけではない。


 けれど――相手の攻撃をすべてかわし、注意を引きつける役目を完璧に果たした。


 その動きは、はじめてのバトルとは思えないほど堂々としていた。


 びびって思うように動けなかった自分の初戦とは、えらい違いだ。


『キュー! キュー!』


 するとモモが、まっかなつぶらなひとみをキラキラさせて、ブルーの顔を見上げてきた。


 まるで、なにかを伝えようとしているかのように。


『ど、どうしたの?』


 また危険が近づいているのか、と一瞬身構える。


 けれどモモは、うれしそうに笑っているだけだった。


 やっぱり言葉がわからないというのは、少し不便だ。


 すると、そのようすを見ていたアリスが、くすくすと笑いながら言った。


「ブルーのときと、同じだよ。モモだって、ブルーの戦う姿を見て学んだり、大切なものを受け取ったりしたんだよ」


 ブルーは、ハッとした。


 そうだ。ぼくもミルフィーヌの戦いを見て、同じことを感じたんだ。


 ――今度はぼくが、モモのお手本になってたってこと?


 そんな思いで、抱きついているモモを見下ろす。


『キュー! キュー!』


 モモは満面の笑みで、あかるい声をあげた。


 それが「そのとおりだよ」という返事だと、ブルーにもはっきり伝わった。


 自分が誰かの見本になっていた。


 その事実が、ブルーの胸をじんわりと熱くする。


『……ありがとう、モモ』


 胸がいっぱいになったブルーは、ぎゅっとモモを抱きしめた。


 桃のような、さくらんぼのような、甘いフルーツの香りがふわりと漂う。


『キュー!』


 大好きなブルーに抱きしめられ、モモも顔を赤らめて幸せそうだ。


「春だねえ」


 閃芽がニヤニヤしながら言う。


 アリスも、それを見て楽しそうに笑った。


 穴ボコだらけの戦場跡とは思えない、なごやかな空気がこの場に流れる。


 ――そのとき。


 ピピピピピ!


 アリスのスマートウォッチが激しく振動し、けたたましい音を鳴らした。


「なによ、こんなときに……」


 気分をぶち壊されたとばかりに、少しいらだちながら画面を見る。


 そこに表示されていたのは――りんごからの着信だった。


 その瞬間、アリスの表情が真剣なものへと変わる。


 まさか――地下に落ちたふたりに、なにかあったのか?


 そう思いながら、通話に出た。


「もしもし、りんごちゃん?」


 すると――


 泣き叫ぶような、必死な声が響いた。


「アリスちゃん! たいへん! 緋羽莉ちゃんが……緋羽莉ちゃんが……また、さらわれちゃった~!」


 数秒。


 沈黙が場を支配する。


 そして――


「な……なんですってえ!?」


 全員の叫び声が、山の中に響きわたった。

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