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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第78話 モモの初陣

 モグラ型ワンダーが掘った穴に落ちてしまった緋羽莉とりんご。


 地上に取り残されたアリスと閃芽。


 分断された二組は、それぞれ別のルートで山のボスのナワバリをめざすことになった。


 さいわいなことに、進んでいる方向は同じだ。運がよければ、再会できる可能性もなくはない……かもしれない。


『キュー!』


「こっち、穴があるみたい。気をつけて」


 地上サイド――アリスと閃芽は山道を進んでいた。


 この一帯はモグラ型ワンダーの生息域。彼らが掘った見えない落とし穴が、あちこちに口を開けている。


 ……いや、彼らも誰かを落とすつもりで掘ったわけではないのだろう。だが、登る側からすれば迷惑な話であることには変わりない。


 感知能力の高い【モモイロハネウサギ】のモモの協力を得て、落とし穴を避けながら、少しずつ進んでいく。


「モモは、最初から出しっぱなしにしておいたほうがよかったね」


 閃芽が、息を少し荒くしながら苦言を呈した。


 アリスは何も言葉を返さなかった。


 けれど、心の中では、たしかにその通りだと思っていた。


 最初からモモをウォッチから出していれば、緋羽莉が穴に落ちることもなかったはずだ。


 ハンターに目をつけられることや、人目にさらされてモモが奇異の目を向けられることをおそれて、仲間にしてから、アリスはモモをウォッチから出すのを控えていた。


 しかし、ブロッサムガーデンを出るとき、レンジャーのもふるに誓ったはずだった。


 すべて覚悟のうえで、この道を進む――どんなことがあっても、パートナーを守り抜いてみせる、と。


 その真意は、パートナーたちが思う存分、自由にすごせる日常を守るということ。


 ウォッチの中に閉じ込めっぱなしでは、アリスの基準では、それを守れているとは言えない。


 どうせ明日の大会で、いずれ知られてしまうことだったはずなのに――どうして自分は、こんな中途半端な判断をしてしまったのだろう。


 原因は、なんとなくわかっている。


 きのうの予選棄権から、ここまでの冒険で、自分の未熟さを何度も痛感したからだ。


 自分に自信が持てていないのはブルーだけじゃない。アリスもまた、同じだった。


 もしまたハンターに襲われたとき、今度はモモを守りきれるのか。


 その絶対の自信が、まだ持てなかったのだ。


 閃芽の言葉で、アリスはこれまでのことをあらためて反省した。


 そして、これからはもっと堂々と、モモやパートナーたちを大切にしよう――そう思い直す。


『キュ!』


 そのとき、アリスの足もとで、モモの長いたれ耳がピンと立ち上がった。


 モモの言葉はわからない。


 だが、この反応には見覚えがある。


 なにか厄介な存在が、近くにいるという合図だ。


『キュー!』


『わっ!?』


 モモはあわてて、そばにいたブルーにしがみついた。不安からの行動。


 つまり――その厄介な存在は、どうやら避けて通れないらしい。


「来るよ、警戒して!」


「オーライ!」


 アリスと閃芽は、表情を引きしめた。


 そして、モモが示す方向を見すえる。


 すると――


 モコモコモコ……と、地面がこちらへ向かって盛り上がってくる。


 まるで地面の下をなにかが泳いでいるようだ。


 それはぐんぐん近づき、やがて――


 ボコッ!


 勢いよく地面を突き破り、姿を現した。


『モリー!』


 現れたのは、体長一メートル半はあろうかという巨大なモグラ型ワンダー。


 緑色の、草むらのようにもこもこしたアフロヘアーが特徴の――【モリモール】だ。


 モリモールはキラリと両手のツメを光らせている。どうやら、戦う気まんまんのようだった。


『キュー……』


 モモは、ブルーにしがみつく力をさらに強める。


 赤いつぶらなひとみはうるみ、かなりおびえているのがわかった。


 その反応を見て、アリスは目の前のモリモールの強さをおおよそ判断した。


「一体だけど……あの相手は骨が折れそうだな。閃芽ちゃんも、協力して!」


「どうやら、そうみたいだね……」


 閃芽はメガネをくいっと持ち上げながら、静かにうなずく。


 ワンダーにくわしい彼女も、アリスひとりでモリモールを攻略するのは難しいと判断したのだ。


 さらに――苦戦が予想される理由は、もうひとつあった。


「アリス、今回はモモに指示を出して。アタッカーは、私がやるよ」


 ふだん一歩引いている閃芽にしては、めずらしく前に出る提案だった。


 おりこうさんのアリスは、その意図を瞬時に察する。


「わかった。ブルー、いったんわたしのそばに! モモ、はじめてのバトルになるけど、おねがい!」


 そう言って、ブルーだけを自分の足もとへ呼び戻そうとした。


『え? ダ、ダメだよ! モモを戦わせるなんて!』


 だが――ブルーは、めずらしくアリスの指示を拒んだ。


 ブルーにとって、モモは守るべき存在だ。


 たしかにアリスは、戦ってもらうためにモモを仲間にしたのだろう。


 それでも――ブルーは、どうしてもモモを戦わせたくなかった。危険な目にあわせたくなかった。


「だいじょうぶよ。あぶない目にあわせないよう努力する。この戦いに勝つには、モモのチカラが必要なんだよ」


 アリスはブルーを説得しようとした。


 そのまなざしと言葉には、あいかわらず強い意思が宿っている。


 ブルーもそれを感じ取り、賛成と反対の気持ちの板挟みになって、口をもごもごさせるが――


『キュ!』


 くっついてふるえていたモモ自身が、覚悟を決めたまなざしでこちらを見上げていることに気づき、ハッとする。


「わたしにやらせて」――まっかなつぶらなひとみが、そう訴えかけてくるのだ。体を、小さく震わせたまま。


『……モモ』


 ブルーは小さく声をもらす。


 たしかにこわいけど、わたしもみんなの役に立ちたい――そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。理解できる。


 だって、それは自分もいつも抱いている想いだから。


 ……ブルーに認めてもらいたい、という気持ちは、どうやら伝わっていなかったようだけれど。


『……わかった。今回はモモにまかせるよ。がんばってね』


 ブルーは観念したように、モモのひとみをじっと見つめ、その小さな両手をぎゅっとにぎってあげた。


『キュ!』


 モモは満開の笑顔で応える。


 そしてブルーは、アリスの足もとへと戻り、モモの応援に回るのだった。


「さあ、おいで。リース!」


 閃芽も左手のウォッチからパートナーを呼び出した。


 あふれた光の粒子が集まり、小さな生きものの姿を形づくっていく。


『チー!』


 現れたのは、オレンジ色の体毛を持つ小さなリス型ワンダー――【ヒマワリス】。


 名前のとおり、自分の体よりも大きな、大輪のひまわりの花を一本、小さな両手でしっかりにぎっている。


(かわいい……)


 ブルーは思わず胸がキュンとなった。


 大きな花を抱えた小動物の姿は、そう思ってしまうのも無理がないほど愛らしい。


 けれど閃芽は、自らアタッカーを務めると宣言した。


 あの小さな子に、そんなチカラがあるのだろうか――という疑問も浮かぶ。


『モリーッ!』


 対するモリモールは、両手を振り上げておたけびをあげた。


 準備完了。愛らしい小さな生きものふたりが並び立ち、バトルの火ぶたが、いま切って落とされる。



 ☆ ☆ ☆



 いっぽう、こちらは地下サイド。


 落ちてしまった緋羽莉とりんごは、穴の中を進んでいた。


 薄暗い地下でも、緋色のポニーテールは元気よく揺れ、黄色いリボンがかすかな光を受けてきらりと光る。


 白いフリルのついたおめかし服も、歩くたびにふわりと動き、花畑の姫君のような華やかさを失っていなかった。


 地面の土はふかふかで柔らかいが、そのぶん足を取られやすく、体力の消耗も大きい。


 そのため緋羽莉は、ふたたびりんごを背負って歩いている。


 たくましく長い脚は、ふとももにしっかり力が入り、不安定な地面でもぐんぐん前へ進んでいく。


 ミニスカートの裾が歩みに合わせて揺れ、健康的な脚のラインがちらりとのぞく。


 人を背負っているとは思えないほど、動きは軽やかだった。


 りんごは、やはり少しもうしわけない気持ちはある。けれど今この場には、ふたり以外だれもいない。


 だれにも見られていないのをいいことに、りんごはぎゅっと緋羽莉に甘えていた。


 もし自分とのあいだにどんなことがあっても、緋羽莉はそれをだれかに言いふらしたりしない――そんな信頼感もあるからだ。


 花の冠と、揺れる緋色のポニーテールから漂う甘い香りが、りんごの鼻をくすぐる。


 動くたびに、くせっ毛ぎみの髪がふわりと揺れ、その香りがまたやさしくひろがる。


 背中から伝わる体温が、りんごの胸までぽかぽかと温めてくれる。


 しっかり鍛えられた体なのに、ふしぎとやわらかな安心感があった。


 ケガの功名という言葉の意味を、りんごは心の中でしみじみとかみしめていた。


「すごいね。どこまで続いてるんだろうね、この穴」


 ふいに緋羽莉が口を開いた。


「そうだね……まるでダンジョンみたい」


 りんごは反射的にあいづちを打つ。


「ダンジョン……ってことは、どこかに宝物とかあったりするのかな? よく知らないけど、そういうものなんだよね?」


 緋羽莉は元気な声で、りんごの言葉に乗るように言った。


 くるりと振り向いた横顔には、あかるい笑顔が浮かんでいる。


 大きな黄色いひとみがきらきらしていて、地下にいることも忘れそうなほど楽しそうだった。


 少しでも気分をあかるくしようという、彼女なりの気づかいなのだと、りんごにもわかった。


「ふふっ……そうだね。もしかしたら、あるかもしれないね」


 りんごはおかしくなって、くすくすと笑う。


 緋羽莉もそれがうれしくて、自然と笑顔になった。


 頬がふんわりゆるみ、童顔らしい愛らしさがいっそう際立つ。


 その笑顔は、暗い洞穴の中でもぱっとあかるく感じられるほどだった。


 ――そのときだった。


 緋羽莉が、ぴたりと足を止める。


 ポニーテールがふわりと揺れて静かに止まり、さっきまでの柔らかな雰囲気がすっと引き締まる。


 長身の体がすっと立ち、頼もしい存在感を放った。


「ど、どうしたの?」


 りんごが目を丸くしてたずねた。


「気をつけて、りんごちゃん。なにか来る」


 緋羽莉はりんごを背負う手の力を強め、黄色いひとみを細めて前方をにらんだ。


 大きな手のひらがしっかり支え、絶対に落とさないという意思が伝わってくる。


 背中越しでも、その優しさと力強さがはっきり感じられた。


 りんごは、ごくりとつばを飲みこむ。


 モコモコモコ……という音とともに、地面が盛り上がりながらこちらへ伸びてきた。


 しかも、それは一つや二つではない。


 かなりの数だ。


 りんごの顔にも、心にも、不安の色が広がる。


 ここが地下だということを考えると、その正体はきっと――モグラ型ワンダーの群れ。


 そう想像するのは、むずかしくなかった。


 りんごはぎゅっと、緋羽莉にしがみつく。


 胸の鼓動が背中越しに伝わるほど、ぴったりと抱きついた。


 その震えを感じ取り、緋羽莉もまた、この子を守らなければと気を引きしめた。


 そして――


 無数の盛り上がった地面から、それらはいっせいに飛び出してきた!

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