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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第77話 思わぬ落とし穴

 アリスたちは、引き続き裏山を登っていた。


 先頭を歩くリーダーのアリスが左手に持っているのは、トオレントからもらった導きの枝。


 その先端に一枚だけ生えている葉っぱが、方位磁針のように行き先を示している。


 目指すのは、山頂の一本杉……の前に、この裏山のボスと呼ばれるワンダーのナワバリだ。


 こちらの実力を認めてもらい、仲間にできれば、明日の校内大会に向けて大きな戦力アップが見込める。


 そう思うと、急な山道を進んでいても、足取りは自然と軽くなるというものだ。


 ……ただし、ひとりを除いて。


「はあ……はあ……」


 りんごはみんなからだいぶ遅れて、すっかり疲れ果てていた。


 頭のてっぺんのぴょこんと跳ねた浮き毛も、持ち主の気持ちを映すかのように、しょんぼりとしなだれている。


 無理もない。長い山道を歩いてきたうえに、さっきは激しいバトルを戦い抜いたばかりなのだ。


 そこへ、さっきまで楽しそうにスキップしていた緋羽莉が、心配そうに駆け寄ってきた。


「りんごちゃん、だいじょうぶ?」


 体をかがめ、両手をひざに置き、小首をかしげながら、大きな黄色いひとみでのぞきこむ。


 くせっ毛ぎみの前髪がさらりと揺れ、つやつやした頬がすぐ近くまで寄ってくる。


 距離の近さと、やさしさに満ちた表情に、思わず胸がどきりとするほどだった。


 その拍子に、元気に弾む豊かな胸の谷間が目に入り、りんごは思わず顔をそむけた。


「ご……ごめんね……もう、ムリかも……」


 さすがにもう、強がる元気も残っていないようだった。


 緋羽莉はそんなりんごに、よくがんばったねと言うようにほほえみ、しゃがみこんで大きく広い背中を差し出す。


 すらりと伸びた背中と、しなやかに引き締まった腰のラインが頼もしい。


 小学生とは思えないほどたくましいのに、どこかやわらかな女の子らしさも感じさせる背中だった。


「じゃあ、ここからはおぶってあげる」


 やさしい声。


 緋色のポニーテールがゆらぐその背中は、ここまでがんばったごほうびだと、りんごを歓迎してくれているようだった。


「うん……ありがとう……」


 りんごは、ふにゃりとした笑みを浮かべ、吸いこまれるように緋羽莉の背中に体をあずけた。


 りんごを背負った緋羽莉は、すっと立ち上がり、ぐっと足に力を入れると、ふとももの筋肉がきゅっと引き締まる。


 それでも動きは軽く、まるでりんごの重さなど感じていないかのようだった。


 ポニーテールがくるりと揺れ、元気いっぱいの笑顔がちらりとのぞく。


 そして、前を歩くアリスたちのもとへ駆け戻っていった。


 体格差があるとはいえ、自分と同い年の女の子を軽々と背負えてしまう緋羽莉には、やはり驚くしかない。


「アリスたちは、だいじょうぶ?」


 ふたりのそばに戻ってきた緋羽莉は、あかるい声でたずねた。


 額にはうっすら汗がにじんでいるのに、その笑顔はまぶしいほど元気だ。


 健康的な肌がほんのり赤くなり、楽しそうな空気まで周囲にひろげていた。


 アリスは汗こそかいているものの、まだまだ余裕がありそうだ。


 閃芽も息は少し荒くなっているが、手助けが必要というほどではない。


 りんごは緋羽莉の背中にしがみつきながら、わずかなもうしわけなさと――それ以上に、彼女をひとりじめしているようなうれしさを感じていた。


(このままずっと、こうしていたいな……)


 そんなことを思っていた、そのときだった。


 ボコッ!


「え?」


 緋羽莉の体が、ふっと浮遊感を覚える。


 ポニーテールがふわりと宙にひろがり、ミニスカートのフリルが花のように舞い上がる。


 大きな体が一瞬ふわっと浮かび、まるで時間が止まったかのようだった。


 足もとに目をやると……さっきまで立っていたはずの地面が――消えていた。


 その事実に気づいた瞬間――


「きゃーっ!」


 緋羽莉は大きな悲鳴をあげ、奈落へと落ちていった。


 普段は元気いっぱいの彼女らしくない、少し高い女の子らしい声だった。


 背負われていたりんごも必死に叫んではいたが、その声は緋羽莉の悲鳴にかき消されてしまっていた。


「緋羽莉ちゃん!?」


 声に反応してアリスが振り向くと、さっきまでそこにいたはずの緋羽莉の長身が忽然と消えている。


 そして、彼女が立っていた場所の地面には――


 ぽっかりと、円形の穴が開いていた。


「落とし穴!?」


 閃芽が、驚きの声をあげる。


 いったいどうして……と一瞬戸惑ったが、さすがは研究者のたまご。すぐに答えへたどりついた。


「そうか、このへん……モグラ型ワンダーのナワバリなんだ!」


 その言葉を聞いて、アリスもハッとする。


 裏山の中腹より上は難易度が上がり、そうしたワンダーが生息している――という事前情報を思い出したのだ。


 だが、まずは何よりも先に――ふたりの安否を確かめなければならない。


「緋羽莉ちゃーん! りんごちゃーん! だいじょうぶー!?」


 アリスはしゃがみこみ、穴の中へ向かって大きな声で呼びかけた。


 すると、しばらくして――


「だいじょうぶー!」


 という、緋羽莉の元気な返事が返ってきた。


 さすが耳がよく、声も大きい緋羽莉だと感心するが、その声の響き方からすると、どうやらかなり下まで落ちてしまったらしい。救助するのは骨が折れそうだ……というより、今の装備ではとても無理そうだった。


 どうしたものかと、アリスと閃芽が顔を見合わせていると、続けて緋羽莉の声が響いてきた。


「穴の中、道が続いてるから、進んでみるねー! アリスたちは、先に行っててー!」


 そのひとことを聞き、アリスと閃芽はもう一度顔を見合わせる。


「どうする?」


 閃芽がたずねる。


 緋羽莉はタフで強い。落ちたばかりだというのに、声はいつもどおり元気いっぱいだ。どうやら本人は、そこまで深刻に受け止めていないようだった。


「ここは緋羽莉ちゃんを信じて、わたしたちは先に進もう。なにかあれば、ウォッチで連絡を取り合えばいいし」


 ブロッサムスクエアでもふるに連絡したときと同じように、ワンダーを収納する機能を持つスマートデバイスは、異空間(ワールド)の中でも問題なく使えるのだ。


「そうするしかなさそうだね。せいぜい、私たちも落っこちないよう気をつけようか」


 閃芽は肩をすくめ、苦笑いしながらうなずいた。


『ヒバリちゃんにりんごちゃん、だいじょうぶかな……』


 アリスのウォッチの中で、ブルーが心配そうに声をもらす。


 緋羽莉は言うまでもなく、りんごとも気の弱い者同士、どこか通じ合うものがある。だからこそ、気になってしかたがないのだろう。


「だいじょうぶよ。緋羽莉ちゃんにまかせておけば、万事OKだから」


 アリスはパチンとウインクしながら、全幅の信頼を口にした。


 ウォッチの中では、ミルフィーヌも同じようにやさしくほほえんでいる。


 それを感じ取ったのか、ブルーはほんの少し安心したようだった。


 こうしてアリスと閃芽、そして地下に落ちた緋羽莉とりんごは、それぞれ目的地をめざし、別行動をとることになった。



 ☆ ☆ ☆



 穴に落ちてしまった、緋羽莉とりんご。


「りんごちゃん、ケガしてない?」


 いったんりんごを背中から降ろした緋羽莉が、心配そうにたずねた。


 しゃがみこんだ拍子に、フリルの袖がふわりとひろがる。


 心配そうにのぞきこむ顔は、さっきまで落ちてきたとは思えないほど落ち着いていた。


「う……うん。緋羽莉ちゃんが守ってくれたから」


 りんごは苦笑いを浮かべながら答えた。


 緋羽莉は落下しているあいだも、りんごをしっかり抱えたままだった。そのため、着地したときの衝撃はほとんど彼女が引き受ける形になっている。


 かなりの高さから落ちたにもかかわらず、緋羽莉はおそろしいほど平然としていた。


 ポニーテールについた土をぽんぽんとはらいながら、けろりとした顔をしている。


 健康的な体つきのおかげか、さっきの落下など運動の延長みたいなものらしい。


 今ふたりが踏みしめている地面の土が、ふかふかと柔らかかったのも幸いしたのだろう。


「それはよかった。じゃあ、わたしたちも奥へ行ってみようか」


 緋羽莉が視線を向けた先には、横向きの穴が洞窟のようにぽっかりと口を開け、奥へ奥へと続いていた。


 方角は、導きの枝が示していたのと同じ方向だ。ならば助けを待つより、自分たちも進んだほうがいい――そう考えたのだ。


「この穴って、モグラ型のワンダーが作ったものなんだよね……?」


 りんごは、おずおずとした様子でたずねた。


 読書家で物知りなりんごは、裏山に生息するワンダーについても事前に調べている。


「そうだね。でもワンダーの作ったものなら、その子にお願いすれば、地上への穴を掘ってもらえるかもしれないよ?」


 なんとも前向きな、緋羽莉らしい答えだった。


 こんなときにのんきだなあ、とりんごは思わなくもなかった。けれどふしぎなことに、今はその言葉を素直に信じられる気がしていた。


 その理由は、緋羽莉の緋色の髪を飾っている、花の冠。


 野生のワンダーたちがプレゼントしてくれたものだ。


 それほどワンダーに好かれやすい彼女が言うなら、本当にうまくいく気がしてしまうのだ。


「行こう、りんごちゃん! なにかあったら、わたしが守るからね!」


 そう言って、緋羽莉は大きな手で、りんごの小さな手をぎゅっと引いた。


 あたたかくて少し大きめの手のひらが、しっかりと包みこむ。


 その距離の近さに、ほんのり甘い香りがふわっと漂った。


 りんごの胸が、思わずもう一度どきんと跳ねる。


 顔を赤らめ、手を引かれるままに歩き出す。


 こうしてふたりは、モグラ型ワンダーの作った地下トンネルの奥へと進んでいくのだった。

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