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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第70話 ブルーの成長のたしかな手ごたえ

「《ハニースパイク》!」


 ガキーン!


『ガロッ……!』


 ズズーン……


 ミルフィーヌのするどい突きが、岩のような装甲とするどい眼光を持つ【ガンキロサウルス】に炸裂した。


 金属を叩き割ったかのような衝撃音が響いた次の瞬間、その巨体は大地を震わせながら崩れ落ちた。


 ガンキロサウルスは、見た目どおり防御力とタフさが自慢のワンダーだ。


 しかし、体内に直接衝撃波を流し込む《ハニースパイク》の前では、その硬い装甲も意味をなさない。


 外側の強さでは、内側までは守れないのだ。


「マジかよ……」「ワンパンじゃん……」


 カジラの取り巻きの男子二人は、ぽかんと口を開けて呆然としている。


 カジラ本人はそれ以上だった。


 あごが外れそうなほど口を開き、目を見開いたまま固まっている。


 たった一日で、アリスにここまで差をつけられている――それがどうしても受け入れられないのだ。


 ……もっとも、昨日の予選でカジラが戦った相手は、バトル経験ほぼゼロのブルーだった。ミルフィーヌの出番はなかった。


 だからカジラは想像もしていない。


 もし子犬のころのミルフィーヌと戦っていたとしても、結果は大きく変わらなかったかもしれないということを。


 7年間、ミルフィーヌはアリスの保護者――沙織のもとで、厳しく鍛えられてきた。


 なによりも大切な養女――アリスを守るための、忠実なパートナーとして。


「すごいすごいっ! ミルフィーヌ二連勝っ! すごすぎるよ~っ!」


 緋羽莉は大興奮だった。


 頬をぱっと赤く染め、まるで自分のことのように胸を弾ませている。


 大きな黄色いひとみはきらきらと輝き、その無邪気なよろこびが全身からあふれていた。


 緋色のポニーテールを大きく揺らし、黄色いリボンをひらひらと躍らせながら、長い手足をいっぱいに使ってぴょんぴょん跳ね回る。


 白いフリルがあしらわれたピンクのトップスと、マゼンタのミニスカートが元気いっぱいに揺れる。


 健康的に引き締まった肢体はしなやかで、動くたびに若々しい躍動感があふれていた。


 鍛えられた体つきでありながら、どこかやわらかな丸みも感じさせる。


 力強さとかわいらしさが同居する姿は、目を引かずにはいられない。


「ねっ、ねっ! アリスとミルフィーヌ、すごいよねっ!」


 底抜けにあかるい声が、張りつめた空気を一気にやわらげる。


 りんごは思わず、顔を赤らめながら苦笑い。


 こんなにまっすぐによろこべるところも、身を乗り出すようにして話しかける距離の近さも、いかにも緋羽莉らしい。


 そういうところが、ほんとうに大好きなのだ。


 ほのかに甘い香りがふわりと漂い、りんごはさらに顔を赤らめた。


「大会ルールなら、これでリーチだね」


 閃芽は腕を組み、冷静に状況を整理する。


 大会では使用ワンダーは三体。たしかにそれにのっとった場合、あと一体倒せばアリスの勝利だ。


 しかし――これは野試合だ。公式ルールは関係ない。


 閃芽の視線がカジラへ向く。


 カジラはぎり、と歯を食いしばった。


「くっ……! ガブ! このままじゃすまさねぇ!」


 怒声とともに、三体目のパートナーを呼び出す。


 現れたのは、大きな顔に小さな体がアンバランスな、全長一メートルほどの黄色い恐竜の子ども――【ガブリュー】。


 昨日の予選でブルーと激闘を繰り広げた、おそらくカジラのエースパートナー。


 このタイミングで呼び出すということは、切り札を切ったも同然だ。


 ガブリューはするどいキバをのぞかせ、低くうなった。


 小柄だが、その目には獰猛な光が宿っている。空気が変わった。


 そのとき――


「ミルフィーヌ! おつかれさま! 一旦もどっておいで!」


 アリスは落ち着いた声で呼びかけた。


 ミルフィーヌはくるりと振り向き、


『はーい!』


 と、のんびりした満面の笑みで返事をする。


 二連戦を終えたとは思えない余裕。息ひとつ乱れていない。


 体が光の粒子へと変わり、アリスの右手のスマートウォッチへ吸い込まれていく。


 それを見たカジラは、怒りで顔を真っ赤にした。


「どーゆーつもりだ!? ナメてんのか!?」


 原っぱに怒声が響く。


 勝ちの流れを自ら切るなど、侮辱としか思えない。


 だがアリスは、静かにガブリューを見つめていた。


「……ガブの相手なら、もっとふさわしい子がいるからよ! おいで!」


 アリスはきっぱりと言い放ち、新たなパートナーを呼び出した。


 光の粒子が集まり、姿を結ぶ。


 現れたのは、昨日の予選でガブリューと激闘を繰り広げた【セルリアンドラコ】――ブルー。


 青いチビドラゴンの姿を見た瞬間、ガブリューの目つきが鋭く変わった。


 ギリリ、と歯を食いしばり、低くうなる。


 昨日の借りを返してやる――その闘志が、はっきりと伝わってくる。


「うっ……」


 ブルーは思わず息をのんだ。


 これまで幾度となく修羅場をくぐり抜け、精神面も確かに成長してきた。


 それでもなお、ガブリューの放つ威圧感は本能を揺さぶる。


 胸の奥をぎゅっとつかまれるようなプレッシャー。


 いまなら理解できる。ワンダーが持つ“特性”の影響だ。


 特性による精神への干渉は、同じく特性のチカラでしか完全には防げない。


「がんばって! ブルー!」


 緋羽莉の大きな声援が飛ぶ。


 緋色のポニーテールをぶんぶん振りながら、両手をいっぱいにひろげて応援する。


 胸いっぱいに空気を吸い込み、澄んだ声を張りあげる。


 背すじをぴんと伸ばした立ち姿は堂々としていて、応援しているだけなのに頼もしささえ感じさせた。


「ブルーなら勝てるよっ! 昨日よりずっと強くなってるもん!」


 いつもどおりの、底抜けにあかるい声。


 そのまっすぐな信頼は、たしかにブルーの背中を押す。


 だが――特性による威圧ばっかりは、元気だけではどうにもならなかった。


「ふーん、そういうことか。いいじゃねーか! ガブ! 昨日の借りを返してやろうぜ!」


 カジラの表情がにやりとゆがむ。


「いくぜ、さっそく新技だ! 《ダイナクエイク》!」


『ギャオー!』


 ガブリューはその場で大きくぴょーんとジャンプした。


 次の瞬間――


 ズズーンッ!!


 たくましい両脚で地面を踏み砕くように着地。


 衝撃が波紋となってひろがり、原っぱの大地が激しく揺れた。


『わわっ!?』


 ブルーはバランスを崩し、しりもちをつく。


「きゃあっ!?」


 りんごは思わず悲鳴をあげ、近くにいた緋羽莉にしがみついた。


 緋羽莉は一瞬ぐらりと揺れながらも、たくましい脚で踏んばる。


 しっかりと地面をつかむように立つその姿は安定している。


 引き締まった太ももに力が入り、大木のように揺るがなかった。


「だいじょうぶだよ、りんごちゃん!」


 怪力でりんごを支えつつ、安心させようと声を張りあげる。


 大きな手がりんごの背中をやさしく包みこむ。


 そのぬくもりには、ふしぎと安心できる力があった。


「いまだ! 《古代の牙》!」


『ギャオー!』


 ガブリューのキバが岩石のようにごつごつと変質し、するどさを増す。


 さっきの地震は、相手の体勢を崩すための布石だったのだ。


 しりもちをついたブルーへ、ドスドスと一直線に迫る。


(ブルーが立ち上がるより、かみつきのほうが早い……!)


 アリスは瞬時に判断する。


「転がってよけて!」


 ブルーは座りこんだまま体をひねり、くるりと左へ倒れ込んだ。


 ガチーンッ!!


 牙が空を切り、かみ合わさる。衝撃で、火花が飛び散った。


 ほんの髪一重のタイミング。


 すかさず、ブルーは素早く起きあがった。


 ガブリューは右へ逃れたブルーをギロリとにらむが、キバをかみあわせた反動で一瞬動きが止まる。


 そのスキを逃さない。


「《スカイナックル》!」


 ブルーのこぶしが空色に輝いた。


 空気を裂き、一直線。


 ドゴッ!!


 鉄拳がガブリューの右頬を撃ち抜く。


『ギャオッ……!』


 鈍い衝撃音とともに、ガブリューの体が大きく吹き飛んだ。


 地面を転がり、草をなぎ倒す。


 頬はじんじんと焼けつくように痛み、全身に衝撃が走る。


 筋肉がしびれ、うまく力が入らない。


 ――男子三日会わざれば刮目して見よ。


 昨日より自分も、確かに強くなったはずだった。


 だがブルーは、そのさらに上を行っていた。


 それを思い知らされるほどの、重く、するどく、迷いのない一撃。


 ガブリューの闘志が、ゆらりと揺らぐ。


 立ち上がろうとするが、脚が震えて言うことをきかない。


 そして――ふっと力が抜けた。


 戦闘不能。


 その体は光の粒子となり、主人のウォッチへと吸い込まれていった。


 原っぱに、静寂が落ちる。


「……勝った」


 こぶしを振り抜いたポーズのまま、ブルーは小さくつぶやいた。


 ゆっくりと右手を開き、じっと手のひらを見つめる。


 きのう、あれほど苦戦させられたガブリューを――たった一撃で倒してしまった。


 同じ相手に、この結果。


 さすがのブルーも、はっきりと実感せざるをえなかった。


 ――ぼくは、ちゃんと強くなってる……!


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 アリスはそのようすを見て、にっと満足そうにほほえんだ。


 わざわざミルフィーヌを戻し、ブルーにガブリューと戦わせたのは、まさにこれが狙いだった。


 まだまだ自己肯定感の低いブルーに、確かな成功体験を刻ませるために。


「やったあ! ブルーっ!」


 緋羽莉は歓声をあげ、しがみついていたりんごをそのまま抱きしめて何度も跳びはねる。


 満面の笑みがはじける。


 白い歯がのぞくその表情は、太陽のようにあかるく、見ている者まで元気にしてしまう。


 躍動に合わせて、緋色のポニーテールが大きく弧を描き、黄色いリボンがきらきらと揺れる。


 長い脚で力いっぱい地面を踏みしめるたび、スカートの裾と白いフリルがふわりと舞った。


 元気いっぱいの仕草のなかに、成長途中とは思えない存在感がにじんでいた。


「ブルーすごいよっ! ほんとにほんとにかっこよかった!」


 うれしさのあまり目尻に涙をにじませながら、心の底からほめたたえる。


 そのまっすぐさは飾りがなく、だからこそ胸に響く。


「ちょ、ちょっと……くるしい……」


 りんごはというと、緋羽莉の胸元に顔をうずめたまま、ゆさゆさと揺さぶられている。


 しなやかな腕に抱えられ、すっぽりと包まれる形になる。


 思わず甘えてしまいたくなる包容力。


 抗議する声は弱々しいが、どこかうれしそうでもあった。


「見事だね。昨日とは、別人みたいだったよ」


 閃芽も静かにほほえみ、小さく拍手を送る。


「ぐっ……また、負けちまった……」


 カジラは地面に手をつき、がっくりとうなだれた。


 昨日はパートナー一体のみの予選ルールだったため、ここまでの差を思い知らされることはなかった。


 だが今回は違う。


 バトル解禁直後のアリスに、完敗。


 その事実が、ずしりと重くのしかかる。


「カジラ~!」


 取り巻きの男子二人が、あわてて駆け寄る。


 アリスはそっとブルーの頭をなで、ねぎらいの言葉をかけてから、カジラのもとへ歩み寄った。


「わたしの勝ちだね。一本杉には、わたしたちが挑戦するから」


 静かな声だったが、揺るぎない宣言だった。


 負けたほうが挑戦をあきらめ、裏山を下りる。それが事前に決めたルールだ。


「くそっ……! 帰るぞ、オマエら!」


 カジラはよろりと立ち上がると、取り巻きを連れて山を下りていった。


 このあたりには、まだ凶暴な野生ワンダーは少ない。


 パートナーがダメージを負っていても、下山には問題ないはずだ。


 アリスもそれを見越して、必要以上に痛めつけないようミルフィーヌに指示を出していた。


 そこまでの余裕があったという事実は、カジラにとっては屈辱以外のなにものでもないが――


「さあ、みんな。先に進もう。めざすは頂上、だよ!」


 アリスはぐっと左手を高く掲げ、元気よく号令をかける。


「おーっ!」


 緋羽莉はいきおいよく手をあげる。その動作も大きく豪快だ。


 ピンクの袖口のフリルが揺れ、あかるい声が原っぱに気持ちよくひびいた。


 ブルーも力強くうなずき、りんごも少し遅れて、おずおずと手をあげる。


 だが――ただひとり、閃芽だけは去っていくカジラの背中を見つめていた。


 ブルーの、そしてアリスのウィザードとしての才能は、本物だ。けれど。


(強すぎる光は、同じだけの影を生む……)


 研究肌で理論派の彼女は、どうしても考えてしまう。


 この圧倒的な才能が、いずれ誰かの嫉妬や憎悪を呼び寄せるのではないか。


 それはやがて巨大な闇となって、アリスや――自分たち親友にキバをむく日が来るのではないか。


 さわやかな山風が吹き抜ける。


 だがその胸の奥には、かすかな不安が残ったままだった。


 アリスだって、人の感情には聡いほうだ。本人もきっと気づいているだろう。


 それでも、アリスは前を向いている。


 その姿を見ると、今考えてもせんないことだと思い直す。


 ブルーと、緋羽莉と、りんごと。


 そして閃芽は、ゆっくりと歩き出した。


 裏山の頂上をめざして。その先に待つ、新たな試練へ向かって――

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