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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第67話 レッツ・アドベンチャー!

 【キリカブロッカー】たちをしりぞけたものの、その枝による手痛い一撃でキズを負ったブルーは、緋羽莉にヒーリングジェルを塗ってもらっていた。


 緋羽莉のあたたかくやさしい手つきと、ヒーリングジェルの確かな治癒効果のおかげで、ブルーの体はみるみる回復していく。


 ひんやりとしたジェルが傷口にしみこむたび、痛みがやわらぎ、かわりに心地よさがひろがった。


 それだけではない。緋羽莉の指先から伝わってくるぬくもりが、ブルーの心まで元気にしてくれる。


 ――ケガする前よりよくなった、そう思えるほどに。


「はい! これでよし!」


 ジェルを塗り終えた緋羽莉は、満足そうに顔をほころばせた。


 少しかがんでいた体を起こすと、すらりとした長身があらためて際立つ。


『ありがとう、ヒバリちゃん』


 ブルーが見上げた先には、やさしく見守る大きな黄色いひとみがある。


 その表情は陽だまりのようにあたたかく、ブルーの胸を静かに満たしていった。


 ブルーが完全に回復し、万全の状態に戻ったアリスたちは、異空間(ワールド)化した裏山の奥へと進んでいった。


 山道とはいえ、傾斜はそれほどきつくない。


 木々のあいだからやわらかな光が差しこみ、草の香りをふくんだ風が頬をなでていく。


 数十分歩き通しでも、みんなまだまだ元気だった――りんご以外は。


「はー……はー……」


 最後尾で、りんごは汗だくになり、肩で大きく息をしている。


 前髪に隠れた額には玉のような汗が浮かび、足どりも少し重そうだ。


「だいじょうぶ? りんごちゃん? わたし、おんぶしようか?」


 緋羽莉が後ろ手を組み、首をかしげながら声をかける。


 その表情から、本気で心配していることがよくわかった。


 額にはうっすらと汗がにじんでいるが、呼吸はまったく乱れていない。


 その姿からは、底知れない持久力と、友だちを気づかう余裕が同時に伝わってきた。


「ううん……だいじょうぶだから……」


 りんごは、弱々しく笑って答える。


 緋羽莉がそう思ってくれているからこそ――もうしわけないと思ってしまう。


 りんごだって、緋羽莉のことが大好きだ。


 やさしくて、あかるくて、頼りになる大切な友だち。


 だからこそ、甘えてばかりいるのはイヤだった。


 迷惑をかけたくない――そんな思いが、つい強がりの言葉になってしまう。


「そう? ほんとうにムリそうなら、いつでも言ってね?」


 首をかしげると、ポニーテールが肩の上で弾む。


 その動きに合わせて、やわらかなウェーブを描く髪がさらりと流れた。


 緋羽莉も、りんごの気持ちをちゃんとわかっている。


 だから無理には勧めない。


 その代わり、いつでも頼っていいんだよ、という気持ちをこめて、やさしくほほえんだ。


「じゃあ、かわりに私をおぶってよ。もう足がパンパンなんだよ」


 閃芽が、いたずらっぽい笑みを浮かべて、緋羽莉の顔をじーっとのぞきこんだ。


 だが、その足どりは軽く、呼吸も乱れていない。


 どう見ても、疲れているようすはなかった。


「閃芽ちゃんは、まだまだがんばれるよね?」


 もちろん緋羽莉は、それをばっちり見抜いていた。


 にっこり笑うその顔には、からかいを受け止める余裕と自信が浮かんでいる。


 しっかりと地面を踏みしめる立ち姿は、まるで大樹のように安定していた。


「ちぇー」


 閃芽は口をとがらせるが、その顔は笑っている。


 もともと、冗談半分だったのだ。


『ふふふっ』


 すると、アリスの足もとを歩いていたブルーが、くすりと笑った。


「なにがおかしいの?」


 アリスが、やさしくたずねる。


 出会ったばかりのころ、不安でいっぱいだったブルーが、こうして自然に笑えるようになったことが――アリスには何よりもうれしかった。


『みんな、仲がいいんだな、って思って』


「まあね。ひとごとみたいな言い方だけど、ブルーもその一員だからね」


『それは……わかってるよ』


 ブルーは一瞬、ドキッとした。


 自分も、この輪の中にいる。


 友だちのひとりなんだと、あらためて実感したのだ。


 胸の奥が、じんわりあたたかくなる。


『ただ、こんなにタイプのちがうみんなが、どうやって出会って、なかよくなったのかな、って……ちょっと気になって』


「そんなにたいした話じゃないけどね」


 アリスは歩きながら、少しだけ遠くを見るような目をした。


「話すとけっこう長くなっちゃうから、今は省くけど……わたしはね、タイプがちがうからこそ、人もワンダーもひかれあうんだって思うな」


 そして、ブルーのほうを見て、にっと笑う。


「わたしと、ブルーみたいにね」


『ちがってるから、ひかれあう……』


 ブルーは、その言葉をくり返した。


 ふしぎと――胸に強く残る言葉だった。


 いつか、この言葉の本当の意味を、もっと深く知る日が来る。そんな気がした。


「今度、ちゃんと話してあげるね。わたしとみんなの、出会いの話」


『うん、楽しみにしてる』


 ブルーは、うれしそうにうなずいた。


 そんな会話を交わしながら、一行は山道を進んでいく。


 木々のざわめきと、仲間たちの笑い声が重なりあい、裏山の奥へと吸いこまれていった。



 ☆ ☆ ☆



「《プリズムボール》!」


 ブルーの放った虹色の光球が、子ギツネ型ワンダー【チロリン】に命中した。


『キュンッ!?』


 チロリンは小さく鳴き声をあげ、そのまま森の奥へと逃げていく。撃退成功だ。


「あ……あの子、かわいかったのにな……」


 りんごが、残念そうにつぶやいた。


 両手を胸の前でぎゅっとにぎりしめている。


 どうやら、パートナーにしたかったらしい。


「同意見だけど、私的にはちょっと大きすぎるかな」


 閃芽もつぶやいた。


 ハリネズミ型ワンダーという小さなパートナーを持っているだけあって、やはり小動物系が好みのようだ。


 そんなふうに言われると――実際に戦ったブルーは、少しだけもうしわけない気持ちになってしまう。


『アリスとヒバリちゃんも……あの子、仲間にしたかった?』


「わたしはいいよ。たしかにかわいい子だったけど、今回はパスかな」


 アリスはきっぱりと言った。


 今回の冒険では、金銭的な事情もあり、仲間にするワンダーは厳選すると決めている。


 正直に言えば、ブルーの攻撃一発で逃げてしまうワンダーでは、即戦力としては少し心もとない。


「わたしのことも、気にしなくてだいじょうぶだよ!」


 緋羽莉も、太陽のような笑顔で言った。


 胸に手を当てて言うその仕草は、堂々としていて迷いがない。


 張りのある声とともに、全身からあふれる自信が周囲の空気まであかるくした。


「バトルしたのはブルーなんだから! ブルーの判断がいちばんだよ!」


 その言葉には、強い信頼が込められている。


 裏表のない、まっすぐな気持ち。


 だからこそ――


『……うん!』


 ブルーは安心して、うなずくことができた。


 胸の中にあった小さな罪悪感が、すっと消えていく。


「あ、そうだ、かわいいといえば……」


 りんごが、思い出したように言った。


「【モモイロハネウサギ】……パートナーにしたんだよね? 見てみたいなーって……」


 そして、もじもじとおずおず、照れくさそうに続ける。


 内気なりんごは、自分の好きなものを口にするのが、少し気恥ずかしいらしい。


「そうだよ。私たちに、なんの紹介もないなんて、ひどくないかな?」


 閃芽も、あきれたような顔で同調する。


 研究者の妹だけあって、超がつくほどめずらしいハネウサギには、興味しんしんのようだ。


「え~? そんなに見たいのお~? しょうがないなあ~」


 アリスはニタニタしながら、もったいぶるように言った。


 だれかに自慢したくてたまらない、という顔だ。


 そして、右手のスマートウォッチを操作する。


「おいで、モモ!」


 ピンクの光の粒子がふわりとあふれ、姿を現したのは、羽のように大きなたれ耳と、くりっとした赤いひとみを持つ、ピンク色の子ウサギ――【モモイロハネウサギ】のモモだった。


『キューッ!』


『わあっ!?』


 登場するなり、モモはブルーの体にぎゅっと抱きつき、何度も何度もほおずりする。


 まるで、ずっと会えなかった大好きな相手に再会したかのようだ。


「わあ~! ほんものだあ~!」


 りんごは、人生最大といってもいいくらい感激していた。


 両手でほっぺを押さえ、顔じゅうが名前通り、りんごのように真っ赤に染まっている。目はきらきらと輝き、今にも涙がこぼれそうだ。


「ほお~……これはこれは、仲むつまじくてよろしいこと」


 閃芽はニヤニヤしながら、おばさんくさいことを言った。


 けれどその目は、好奇心とよろこびでしっかりと輝いている。


 ぶっきらぼうで素直じゃない閃芽も、内心ではりんごに負けないくらい感激していた。


「モモって、ほんとうにブルーのことが大好きなんだね!」


 緋羽莉は、あいかわらずうれしそうにほほえんでいる。


 その笑顔はくもりひとつなく、見ているこちらまで安心させる力を持っていた。


 ゆるやかなウェーブを描く緋色の髪が肩口で揺れ、健康的な肌が木もれ日の中でつややかに光る。


 純粋にその光景を「なかよし」として見ているようで、そこに込められた特別な感情の深さには、あまり気づいていないようだった。


 そのようすを見て、アリスも自然とほほえみ、提案する。


「このワールドの中なら、人に見られる心配もなさそうだし、モモもいっしょに歩こうか?」


『キュー!』


 モモは満面の笑顔で返事をした。


 ブルーといっしょに歩けるのが、よっぽどうれしいのだろう。ぴったりと体を寄せて、離れようとしない。


「よかったね! モモ!」


 そのようすを見て、緋羽莉も胸の前で手を合わせ、心からうれしそうに目を細めた。


 モモイロハネウサギが、幻と呼ばれるほどめずらしいワンダーだということは、ウィザードであればだれでも知っている。


 だからこそ、あまり見せびらかすのはまだ避けたかった。


 もしまたハンターに目をつけられでもしたら、厄介なことになりかねない。


『むにゅっ……そういえば、このへん、ほかの人間を見かけないね』


 ブルーはモモにほおずりされながら、ふしぎそうに言った。


 ブロッサムスクエアでは、けっこうな数のウィザードを見かけたのに、この学校の裏山には、人っ子ひとりいない。


「基本的にこのワールドは、ふしぎ小の児童しか入れないようになってるからね」


『え?』


 アリスの口から語られた新事実に、ブルーはぽかんとした。


「異空間の中には、特定の存在しか入れないような、結界が張られているものもあるの」


『だから、学校の生徒しか入れないの? なんでそんなことに?』


「むかしはね、この裏山は、ふしぎ小の児童たちの遊び場だったらしいの。でも、文明が発達して、楽しい遊びや娯楽が増えていくうちに、しだいにここで遊ぶ子どもは減っていったんだって」


 アリスは、まわりの森を見渡しながら続ける。


「それで、人間の立ち入りが少なくなったせいで、この場所はワールド化しちゃったらしいの」


 木々の葉が、風にゆれて、さらさらと音を立てた。


 まるで、昔のことを思い出しているかのようだった。


『へえー……つまり、ふしぎ小の子どもしか入れないのは……』


「うん、そういう背景が影響してるのかもしれない。この山も、いっしょに遊んだ子どもたちのことが、大好きだったんだろうね……」


 そう語るアリスの目は、どこかさみしそうだった。


 この山が感じていたであろう、長い時間の孤独を思ったのかもしれない。


『……そうだね。自然だって、生きものなんだもの』


 ブルーも、小さくうなずいた。


 モモも、ブルーに寄り添ったまま、静かに耳をゆらしている。


 そのとき――緋羽莉のひとみが、きらりと輝いた。


 胸いっぱいに空気を吸い込み、次の瞬間――バッと両腕をひろげ、満開の笑顔を咲かせた。


「だったら、ここでの冒険を思いっきり楽しまなくっちゃね! この山と、いーっぱい遊んじゃおう!」


 いきおいよくひろげられた腕は力強く、それでいてしなやかに伸びている。


 フリルのついたスカートがふわりと揺れ、元気な動きに合わせてリボンも弾む。


 長身の体が大きく開かれ、その存在感とともに、太陽の光みたいにあかるい声が、森の中にひろがる。


 声はどこまでもよく通り、まるで森そのものに語りかけているかのようだった。


 まっすぐ前を見つめるその姿には、迷いのかけらもない。


 ほんとうに緋羽莉は、底抜けにあかるくて前向きだ。


 その全身からあふれる活力は、そばにいるだけで自然と伝わってくる。


 その笑顔を見ていると、胸の奥まで元気がわいてくる。


 頼もしさと無邪気さが同時に感じられる、ふしぎな魅力を持っていた。


 だから、みんなもつられて、ぷっと笑みをこぼした。


「……そうだね。わたしも、野生のワンダーをもっと見てみたい」


 りんごも、ぎゅっと手をにぎりしめ、勇気をふるい起こす。


 さっきまでの遠慮がちなようすは、もうない。


「どうせなら、しゃぶりつくさないともったいないもんね」


 閃芽も、にっといたずらっ子の笑顔を浮かべた。


 未知の発見を前にした研究者気質が、すっかり顔を出している。


 緋羽莉自身も、みんなの反応がうれしいのか、さらに顔を輝かせる。


 その姿は、みんなと過ごす時間を心から楽しんでいる証そのものだった。


 そして――最後に、アリスが、ぐっと胸を張って宣言した。


「よーし、みんな! 今回の冒険、めいっぱい楽しもう!」


「『おー!』」


 元気いっぱいの声が、森にこだまする。


 子どもらしい、まっすぐな決意を胸に――一行は、ふしぎ小の裏山の奥へと、さらに歩みを進めていった。

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