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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第65話 裏山へレッツゴー!

 アリスたちは学校の外周をぐるりと回り、裏山の入口までやってきた。


 校門から見たときには気づかなかったが、こうして目の前に立つと、市街地の空き地――ブロッサムスクエアの入口でも見た、虹色のオーロラのような光が、山全体を薄く包みこんでいるのがわかる。


 風にゆらぐその光は、まるで巨大なシャボン玉の膜のように、かすかに揺らめいていた。


 一見すると、ただ木が生い茂っているだけの、どこにでもありそうな裏山だ。


 けれど――あの光の向こう側は、異空間(ワールド)化しているのだろう。


 見慣れたはずの学校の裏山が、まったく別の世界への入口になっている。そう思うだけで、胸の奥がざわりと波立った。


「こうして間近で見るの、はじめてだね!」


 緋羽莉は両手を胸の前で組み、裏山を見上げながら感慨深そうに言った。


 黄金色のひとみが、虹色の光を映してきらきらと輝いている。


 見上げる角度に合わせて、緋色のポニーテールがふわりと揺れる。


 健康的に引き締まった体の線は、かわいらしい衣装の上からでもはっきりとわかり、元気いっぱいの魅力をそのまま形にしたようだった。


「ふだんは、こんなところに来る用事もないしね。わたしはバトル禁止されてたから、なおさら」


 アリスは、そんな緋羽莉の横顔をちらりと見ながら言った。


 りんごたちと合流する前に、緋羽莉は一度自宅へ戻り、空になったお弁当のバスケットを置いてきた。


 けれど、服装は着替えず――ふりふりのフリルがあしらわれた、おしゃれなデートスタイルのままだった。


 裏山探索には少し不釣り合いな格好だが、本人はまったく気にしていないようすである。


 短めのスカートから伸びる長い脚は、すっとまっすぐで、思わず見とれてしまうほどバランスがいい。


 かわいい服装と、しっかりとした体つきの組み合わせが、ふしぎと彼女だけの特別な雰囲気を作り出していた。


 もちろん、りんごと閃芽もそのことにはツッコミを入れた。


 しかし、緋羽莉の純真で天然な笑顔を前にすると、細かいことを言う気も失せてしまう。


 その笑顔は太陽みたいにあかるくて、見ているだけで胸の奥までぽかぽかしてくる。


 ころころと変わる表情も愛らしく、誰もがつい甘やかしたくなってしまうのだった。


 それに――ふたりとも、緋羽莉の人間離れした身体能力についてはよく知っている。


 どんな服装であろうと、この子なら問題ないだろう。


 そう思えてしまう、ふしぎな安心感があった。


「うう……いざ入るとなると、ドキドキしてきた……」


 りんごは緊張した面持ちで、自分の体を抱きしめるように腕を組んだ。


 カーディガン越しに、ぞくりとした寒気を感じたようだった。


『ぼ、ぼくも……』


 ブルーも同じように、体を小さくすくめる。


 ドラゴンは寒さに弱い――というのはさておき。


 この裏山には、ブロッサムスクエアとはちがう、どこか不気味な空気が漂っていた。


 木々はうっそうと生い茂り、昼間だというのに奥の方は暗く沈んで見える。


 風が枝葉を揺らすたび、ざわ……ざわ……と、不安をあおるような音が響いた。


「まあ、そこまでビビることないよ」


 閃芽は白衣のポケットに手を入れたまま、落ち着いた声で言った。


「ここはノーランクでも入れるくらい、探索難易度は低いワールドだからね」


『ノーランクでも、入れる?』


 ブルーは、その言葉に引っかかりを覚えた。


「前に説明したよね?」


 閃芽はブルーを見る。


「ワールド――ワンダーの生息域に入るには、ウィザードのランクが関係するって」


『うん、覚えてるよ。GからAまであるんだっけ』


「へえ、感心感心」


 閃芽は満足そうにうなずいた。


「スマートウォッチにはね、ワールドの入口周辺のエナ濃度を検知する機能があるんだよ」


『エナのうど……』


「その数値とウィザードのランクを照らし合わせて、適正じゃない場合は警報を鳴らしてくれるんだよ」


『ああ……いまのランクじゃ危ないよ、って教えてくれるってこと?』


「そういうこと。理解が早いね」


 閃芽は少しだけ口元をゆるめた。


 ブルーは、さらに疑問を重ねる。


『でも……警報を鳴らすだけじゃ、低いランクのウィザードが無理に入るのを止められないよね? あぶなくないの?』


「キミはお人よしだねえ」


 閃芽はニッと笑った。


「そういうのは、基本的に全部、自己責任だからね」


 その言葉は、静かだったが重みがあった。


「子どもだって、小さいころからちゃんと教えられる。ウィザードになるっていうのは、そういうことなんだよ」


「じこせきにん……」


 ブルーは、その言葉を胸の中で繰り返した。


 そういえば――


 ブロッサムスクエアで出会った、ワンダーレンジャーの犬飼もふるも、似たようなことを言っていた。


 ワールドの中でなにがあっても、それはすべて自己責任なのだと。


 でも、レンジャーは、ウィザードの安全を守るのが仕事だとも言っていた。


 もしほんとうに、いざというときは、きっと彼女のような人たちが助けてくれるのだろう。


 けれど――


(それでも……)


 ブルーは、大きなこぶしをぎゅっとにぎった。


 アリスの安全を守るのは――パートナーである、自分の役目だ。


 その決意が、胸の奥で静かに燃えた。


 そのとき――


 パン、パン!


 軽やかな音が響いた。


 アリスが、しなやかな両手を打ち鳴らしたのだ。


「それではみんな、心の準備はオーケー?」


「オーケー!」


 緋羽莉が、元気いっぱいにこぶしを突き上げる。


 元気よく腕を上げた拍子に、全身がのびやかに伸びる。手足の長さと整った体のラインがひと目でわかり、その姿は頼もしさとかわいらしさを同時に感じさせた。


 りんごとブルーはおずおずと、閃芽は仕方なさそうに小さくうなずいた。


 乗り気じゃないわけじゃない。


 ただ、それぞれ、そういうガラじゃないというだけだ。


 そして――四人と一体は、横一列に並ぶ。


 目の前には、虹色の光に包まれた境界線。


 その向こうは、また新たな、未知の世界。


 アリスは、みんなの顔を見回した。


 だいじょうぶ、みんながいる。


「――せーのっ!」


 声を合わせて、なかよく一歩を踏み出し――


 アリスたちは、裏山のワールドへと突入した!



 ☆ ☆ ☆



「おお……」


 閃芽以外の三人とブルーは、思わず同じように声をもらした。


 入る前は、ただの山の入口にしか見えなかった。


 けれど、いざ一歩踏みこんでみると――


 目の前には、どこまでも続いていそうな、深く広大な森がひろがっていたのだ。


 木々は高くそびえ、枝葉は幾重にも重なり合い、まるで外の世界を閉ざす壁のようだった。


 これもきっと、空間のゆがみによるものなのだろう。


 外から見た裏山とは、まるで別の場所だ。


 あたりからは、さまざまな鳴き声が聞こえてくる。


 動物のような声。鳥のような声。昆虫のような声。


 ――そして、それらに混じって、


 チリン……チリン……


 鈴のような、ふしぎで澄んだ音も響いていた。


 風が吹くたびに、葉と葉がこすれ合い、さらさらと音を立てる。


 見上げれば、木々のすき間から差しこむ光が、赤や橙、金色といった暖色の輝きとなって、森の中に降り注いでいた。


 その光景は、幻想的で――そして、どこか現実離れしていた。


 内気なりんごやブルーにとって、それは胸が躍る光景であると同時に、心臓が落ち着かなくなるような場所でもあった。


 しかも、山道はゆるやかな上り坂になっている。


 足場も少し悪く、慣れていない者には歩きづらい。


 インドア派で体力に自信のないりんごにとっては、それだけで気持ちが沈んでしまいそうだった。


「ほ……ほんとうにここで冒険するの……?」


 つい、弱気な言葉が口をついて出る。


 初めてのワールド探索だというのに、興奮よりも不安のほうが勝ってしまっているようだ。


「帰りたいなら、いまのうちだよ」


 すかさず、閃芽が耳元でささやいた。


 いつもの、少しいじわるな声だ。


 けれど、その口元は楽しそうに笑っている。


 アリスがじっと見つめ、緋羽莉がにっこりとほほえむ。


 そのふたりの視線を受けて、りんごははっとした。


 そして――


「う、ううん……行くよ。わたしも、行く!」


 なかばやけくそ気味に、けれどしっかりと宣言した。


 森は怖い。山道はつらい。


 でも――それ以上に。


 大好きな友だちに置いていかれるほうが、ずっとイヤだった。


 すると、緋羽莉がすっと歩み寄り――どん、と胸を張った。


 フリルのついた服の上からでもわかる、丸みと引き締まりをあわせ持った体の線が、動きに合わせてしなやかに揺れる。


「だいじょうぶだよ、りんごちゃん!」


 太陽みたいな笑顔で言う。


 にっこりと笑った顔は花のようにあかるく、健康的につやめく肌が森の光をやさしくはね返す。


 大きなひとみはまっすぐで、その表情を見ているだけで、不安がどこかへ消えてしまいそうだった。


「あぶなくなったら、わたしが守るよ! 歩くのがつらくなったら、おぶってあげるから!」


 迷いなくそう言って、軽く腕を曲げると、ほどよく鍛えられたしなやかな力強さが感じられる。


 頼もしさと女の子らしいやわらかさが同時に伝わってきて、その姿はとても魅力的だった。


 りんごは知っている。


 緋羽莉がどれほど強くて、どれほど頼りになるかを。


 だから――その言葉は、なによりも心強かった。


「うん……ありがとう」


 りんごは、安心したようにほほえんだ。


 胸の中にあった不安が、ふっと軽くなる。


 緋羽莉の笑顔には、そんなふしぎな力があった。


 ふわりと漂う甘い香りと、包みこむようなあたたかい雰囲気が、そばにいる者の心を自然と落ち着かせてくれる。


 見上げるほどの長身もあって、同い年なのに、その存在はまるで頼れるお姉さんのようだった。


「さっすが緋羽莉ちゃん。たよりになるなあ」


 アリスは、自分のことのようにとくいげだ。


『そうだね』


 ブルーも、うなずいた。


 ブロッサムスクエアでの冒険で、緋羽莉の頼もしさはすでに証明済みだ。


 緋羽莉はチームの支柱。


 誰よりもやさしくて、誰よりも強い。


 まさに、力持ちのヒーローのような存在だった。


「よーし! じゃあ、登るよっ!」


 今度はアリスが、元気よく声を上げる。


 先頭に立ち、みんなを導く。


 緋羽莉が支える柱なら、アリスはみんなを引っ張る旗手だ。


 ひらめきと直感で動くことも多いが、決断は早く、迷いがない。


 その背中を見ていると――ふしぎと、ついていきたくなる。


 この子といれば、きっとだいじょうぶだと、ふしぎと思わせてくれる。


 みんながいっしょなら――こわくない。


 りんごが両手をぎゅっとにぎりしめ、気合を入れた――


 そのときだった。


 ガサガサッ!!


 右側の草むらが、大きく揺れた。


「『ひゃあ!』」


 りんごとブルーは悲鳴を上げ、反射的に緋羽莉の後ろへ隠れた。


 りんごは彼女のオフショルダーのすそをぎゅっとつかみ、ブルーはたくましい脚にしがみつく。


 引き締まりながらも丸みのある脚は安定感に満ちていて、しがみついていてもびくともしない。その堂々とした体つきは、小さなふたりに大きな安心を与えていた。


 緋羽莉は苦笑いを浮かべた。


 それでも、イヤな顔はせず、振り払ったりはしない。


 むしろ、守るように一歩前へ出る。それが、彼女だった。


 前へ出た瞬間、長い脚がすっと伸び、凛とした立ち姿が森の中でひときわ目を引く。


 かわいらしい服装でありながら、その背中には確かな強さと気高さが感じられた。


「いきなり来たね……」


 閃芽は、メガネをくいっと押し上げ、静かに身構える。


「さあ……なにが出るかな?」


 アリスは、わくわくした声でつぶやいた。


 恐怖よりも好奇心。


 まさに、生まれついての冒険者気質といった反応だった。


 そして――次の瞬間。


 草むらをかき分けて、野生のワンダーが、姿を現した――!

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