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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第63話 マッサージとお弁当

 アリスたちは、市街地にある広い自然公園で、お昼ごはんを食べることになった。


 ビルが立ち並ぶ都会の真ん中にありながら、この公園には背の高い木々が何本も並び、整えられた色づきのよい草が一面に生い茂っている。不自然なほどに、豊かな自然に満ちあふれていた。


 その理由となっているのが、"千年樹"と呼ばれる、公園の中心にそびえる大木だ。


 千年樹の大きなウロには、ブロッサムスクエアの入口と同じように、虹色にゆらめくオーロラ状の膜がひろがっている。これはゲート型と呼ばれる、異空間――ワールドへの入口のひとつだ。


 そこからわずかに漏れ出る、異空間のエナの恩恵によって、この公園は都市の中にありながらも、これほどまでに豊かな自然を保っていられるのだという。


 アリスたちは、立ち並ぶ木のうちの一本の下に、緋羽莉の服と同じ薄いピンク色のシートを敷き、お弁当をひろげようとしていた。


 やわらかな春の風が吹き、シートの端と、緋羽莉のポニーテールをふわりと揺らす。


「あ、アリス。先にシンディさんのケアをしてあげたいんだけど、いいかな?」


 緋羽莉は、長い脚をぺたんと折って座りながら、すっと大きな右手をあげた。


 その動きは無駄がなく、それでいてどこか愛らしい。差しのべられた手の指先まで、健康的な美しさに満ちていた。


「うん、いいよ」


 アリスは、すぐにうなずいた。


『ケアって?』


 アリスのとなりで、ちょこんと座っているブルーがたずねる。


 緋羽莉は、小さな子に教えてあげるみたいに、やさしく目を細めてほほえんだ。


「手当てとか、体調管理とかのことだよ。シンディさん、まださっきのバトルのダメージが残ってるみたいだからね」


 そう言われて、緋羽莉のそばに座っているシンディをよく見ると、その体には、まだ痛々しいキズの跡が残っていた。


 爆発に巻き込まれた顔は、ところどころ腫れが残り、右のまぶたも完全には開いていない。


 銃弾を何発も受けた全身にも、まだふさがりきっていない傷口が見え隠れしている。


 さらに、体の奥にまで流し込まれた電流のダメージも、完全には回復していないはずだった。


『これくらい、自力で治しちゃうから、気にしなくっていいのに……』


 シンディが、少し困ったように笑った。


 瞬間、整った顔立ちがいっそうやわらいだ。


 長いまつげの影が頬に落ち、琥珀色のひとみがやさしく細められる。


 がっしりとした体格でありながら、その表情には女性らしい包容力があふれていた。


 膝を折って座る姿勢でも、その体の大きさは際立っている。


 厚みのある太ももと引き締まった腰の線が、深紅の装いの上からはっきりと浮かび上がっていた。


「ううん。さすがにここまで、こっぴどくやられたのははじめてでしょ? やっぱり、ちゃんとケアしておいたほうがいいよ。体、痛むんでしょ?」


 緋羽莉は、まっすぐにシンディを見つめて言った。


 そのひとみには、まったく迷いのない、純粋な心配の色が宿っている。


 シンディは、その視線から逃げることができず、小さくうつむいた。


 緋羽莉にこうして真剣に心配されると、どうしても断れなくなってしまうのだ。


 それに実際、体のあちこちが、まだじくじくと痛んでいる。


 このままでは、ゆっくり休むことも難しいだろう。


『そんなことしなくても、アタシの再生の炎で一発なのに』


 緋羽莉のたくましい膝の上にちょこんと座っている赤いヒヨコ――【スカーレットチック】のアカネが、少しすねたように言った。


 緋羽莉は、そんなアカネを安心させるように、やわらかくほほえむ。


「アカネちゃんは、きょういっぱい力を使ったでしょ? 無理しなくていいんだよ。それに――」


 そして、少しだけ照れくさそうに続けた。


「シンディさんは、わたしがケアしてあげたほうが、元気になってくれるみたいだから」


 その言葉に、シンディはふっと表情をゆるめ、うれしそうにほほえんだ。


 アカネは、しぶしぶといったようすで、ぷいっと横を向いた。


 それを見て、緋羽莉は小さく笑う。


 そして、たすきがけにしているピンクのポーチの中から、円形の容器を取り出した。


 フタを開けると、中には、うすいピンク色の透明なジェルが入っていた。


 甘くてやさしい香りが、ふわりとあたりにひろがる。


『それはなあに?』


 ブルーが、目をきらきらさせながらたずねる。


 緋羽莉は、長くてきれいな指でジェルをすくいながら答えた。


「これはね、ヒーリングジェルっていうの。ワンダー専用の塗り薬の一種なんだよ」


 そう言って、手のひらいっぱいにジェルをひろげていく。


 健康的でつややかな緋羽莉の手は、ジェルの光を受けて、宝石のようにきらめいていた。


 そのやさしい表情と相まって、それだけで心まで癒されそうな光景だった。


『それじゃあ……お願いね』


 シンディは目を閉じ、すべてをゆだねるように顔を差し出した。


 長い深紅の髪が肩から胸元へと流れ落ちる。


 その隙間から見える首筋は太く力強いのに、ふしぎなほどなめらかだった。


 目を閉じた表情は穏やかで、普段の勇ましさとは違う、やわらかな一面を見せている。


 大きな体を小さく預けるその姿は、信頼そのものだった。


 緋羽莉は、そっと両手を伸ばす。


 その動きは慎重で、まるで壊れやすいものを扱うかのようだった。


 腕の筋肉がやわらかく盛り上がり、健康的な力強さを感じさせる。


 同時に、その指先の動きは驚くほど繊細だった。


 そして、ジェルをたっぷり塗った手で、シンディの頬にやさしく触れた。


 大きくてあたたかい手が、いたわるように包みこむ。


『んっ……』


 シンディの厚いくちびるから、小さく甘い声がもれた。


 どうやら、よほど気持ちがいいらしい。


 緋羽莉の手は、やさしく、ていねいに動き続ける。


 キズついた部分をいたわるように、ゆっくりと、やわらかく。


 ジェルに包まれた褐色の肌が、光を受けてきらきらと輝いた。


 シンディの表情から、少しずつ苦しさが消えていく。


 固くこわばっていた筋肉も、しだいにほぐれていった。


 シンディの豊かな体つきが、ゆったりと呼吸に合わせて上下する。


 張りのある胸元から腹部へ続く線は、力と美しさを兼ね備えていた。


 そして、そのそばでケアを続ける緋羽莉の姿もまた、同じ輝きを放っている。


 寄り添うふたりの姿は、まるで鏡に映した未来と現在のようだった。


 そして――ジェルが塗りひろげられていくたびに。


 腫れやキズが、まるで魔法のように、みるみるうちに引いていったのだった。


 これにはブルーも感心し、小さく息をもらした。


 緋羽莉の手は、シンディのおでこやまぶた、耳の裏まで、ていねいに、やさしくなでていく。


 さっきのバトルで、顔じゅうを相当ひどく傷つけられていたのだ。念入りにケアしておかなければならない。


 その指の動きは、まるで春風が花びらをなぞるようにやわらかだった。


 大きな手でありながら、触れ方は驚くほど繊細で、相手を気づかう気持ちがそのまま伝わってくる。


 身を乗り出した拍子に、ポニーテールが肩から胸元へさらりと流れ落ちた。


 緋色の髪が、彼女の健康的な肌をいっそう鮮やかに引き立てている。


 ――さらに、緋羽莉はシンディの口を大きく開けさせ、その中に指をそっと差し入れた。


『んあ……!』


 シンディは思わず、苦しそうな声をもらした。


 そのようすを見ていたアリスも、思わず目を伏せる。


 自分も病院で、お医者さんに口を大きく開けさせられたとき、同じような気持ちになったことがあるからだ。


「ごめんなさい。ちょっとだけ、がまんしてくださいね」


 緋羽莉が心配そうに眉を寄せ、もうしわけなさそうに言うと、シンディの表情がふっとやわらぐ。


 まるで、「だいじょうぶよ」と語りかけているようだった。


 緋羽莉は、シンディの口の中にもジェルをていねいに塗りひろげていく。


 案の定、口の中もかなりキズついていたため、必要な処置だった。


 歯も何本か欠けていたが、そこにもやさしくジェルをなじませてやる。


 ワンダーの歯は何度でも生え変わるため、これも時間とともに自然に治る。


 最後に、やわらかなくちびるを指先でそっとなぞり、口のケアは完了した。


 シンディのくちびるが、ほんのわずかにほころぶ。


 安心しきったようなその表情は、普段の凛々しい姿からは想像もできないほど穏やかだった。


 大きな体を預けている様子からは、深い信頼が感じられる。


 続いて、緋羽莉は鼻へと手を伸ばす。


『アンタは、これ以上見ちゃダメ!』


『ぶっ!?』


 さすがに見た目にも恥ずかしい場面だったため、アカネがブルーの目の前に飛び込み、翼で視界をふさいだ。


 シンディは内心、そこまで気をつかわなくてもいいのに、と思いながらも、おとなしく身をゆだねている。


 緋羽莉の指は、ためらうことなく、シンディの鼻の中へ入り、ジェルを塗っていく。


 片方が終わると、もう片方も同じように。


 シンディはむずむずするのか、くすぐったそうに、わずかに肩を震わせた。


 その動きに合わせて、長い深紅の髪がさらさらと揺れた。


 光を受けた髪は艶やかに輝き、その豊かな量が彼女の存在感をいっそう際立たせている。


 広い肩としなやかな首筋の対比が、美しい輪郭を描いていた。


 そして――すぽん、と軽い音を立てて、緋羽莉の指が抜ける。


「はい! これで顔のケアはおしまい! 次は……」


 緋羽莉が容器からジェルを取り足そうとした、そのとき。


『ちょっと待って、緋羽莉ちゃん。いまは顔だけでじゅうぶんよ。先に、ごはんにしましょう? アリスちゃんたちも、待ちくたびれているでしょうし……』


 シンディが、やさしく制止した。


 その視線の先では――アリスが、おなかをそっと押さえながら、こちらを見ていた。


 ケアのようすをうらやましそうに見つめつつも、ずっと空腹をがまんしていたのだ。


 くいしんぼうのミルフィーヌにいたっては、よだれを垂らしながら、お弁当の入ったバスケットを食い入るように見つめている。


 お姫さまのような格好とのギャップで、なおさら滑稽だった。


 その光景に気づき、緋羽莉ははっと目を見開いた。


「あ! そうだね、待たせすぎちゃいけないよね! ごめんね、アリス!」


 緋羽莉は、申し訳なさそうに両手を胸の前で合わせた。


 指先同士をちょこんと合わせる仕草は、どこか幼くて愛らしい。


 けれど、その胸元から腰にかけての体の線は、年齢以上の成熟を感じさせた。


 黄色いひとみが不安そうに揺れ、その表情を見ているだけで、胸がきゅっと締めつけられる。


「う、ううん。気にしなくていいよ。いいもの見れたし」


 アリスは、えへへ、と照れ笑いを浮かべた。


 緋羽莉とシンディのやさしい触れ合いは、見ているだけで胸があたたかくなる。


 並んでいたふたりの姿は、まるで並木に咲く大小の花のようだった。


 大きさはちがっても、そこにある輝きは同じ――そう感じられた。


 寄り添う空気そのものが、やさしさに満ちていた。


 まるで、大切な絆そのものを見ているようで――


 アリスは、なんだか尊いものを見ている気分になっていた。


 本当は、もっと見ていたかった。


 けれど、おなかは正直で、もう限界だった。


 アリスはまだまだ、花より団子のお子さまなのだ。


『続きは、おうちに帰ってからでいいわ。私はウォッチの中で休んでいるわね』


 そう言ってほほえむシンディの顔には、凛とした気品があった。


 整った目元と、ゆるやかに上がった口元が、包み込むような安心感を与えている。


 緋羽莉のケアのおかげでもうキズひとつ残っておらず、つやつやと美しく輝いていた。


 立ち上がると、その長身がひときわ目立った。


 引き締まった脚と堂々とした姿勢が、圧倒的な存在感を放っている。


『え? シンディ……さんは、いっしょに食べないの?』


 ブルーは、アカネを押しのけながら、首をかしげる。


『ふふ、私は見てのとおり体が大きいからね。みんなよりたくさん食べてしまうの。いっしょに食べたら、ひとりじめみたいになってしまうでしょう?』


 シンディは、少しはにかむように笑った。


『じゃあね、ブルーちゃん』


 そう言って、ひらひらと手を振り――光となって、緋羽莉のウォッチの中へ戻っていった。


 ブルーにとって、シンディとちゃんと話したのは、これがはじめてだった。


 沙織に匹敵する高身長と、圧倒的な筋肉の迫力に最初は驚いたが――


 その雰囲気は、緋羽莉によく似て、やさしくてあたたかいものだった。


 きっと、あの人ともなかよくなれる。


 ブルーは、そう思った。


 そのとき、緋羽莉が、にっこりとほほえんだ。


 ジェルの残った手を、わきわきと動かしながら――


「今度、ブルーにもやってあげようか?」


 少し身を乗り出してのぞき込む。


 それは、マッサージのお誘いだった。


 その距離の近さと、まっすぐなまなざしに、思わずどきりとしてしまう。


 差し出された手は大きくて、けれど――とてもあたたかそうに感じる。


 さっきのようすを見るかぎり、緋羽莉のマッサージは、とても気持ちよさそうだった。


 ぼくも……やってもらいたいかも。


 ブルーは、そう思う。


 けれど――


『う……うん……』


 なんとなく恥ずかしくて、素直にうなずくことができない。


 言葉が、にごってしまった。


 すると――となりにいたアカネが、じろりとブルーをにらんだ。


 その目はまるで、


 ――アンタなんかに、緋羽莉のマッサージはもったいないわよっ。


 そう言っているようだった。


「さあみんな! お待ちかねの、お弁当の時間だよ!」


 緋羽莉はジェルを洗い落とした大きな両手を、パン! と元気よく打ち鳴らし、音頭をとった。


 そのあかるい声に誘われるように、アリスとミルフィーヌが、


「イエーイ!」


 と歓声をあげる。


 ブルーは声には出さなかったものの、その胸の奥は期待でいっぱいだった。みんなで囲むごはんの時間が、大好きだからだ。


 緋羽莉はそんなみんなの反応を見て、うれしそうに目を細めると、お弁当の入った大きなバスケットを開いた。


 ――その瞬間。


「『わあ〜〜〜っ!』」


 歓声が、さっきよりもさらに大きくはじけた。


 バスケットの中には、緋羽莉手作りのおかずが、ぎっしりと詰まっていた。


 体の大きな緋羽莉らしく、一つ一つがボリューム満点で、どれも存在感がある。一人や二人では、とても食べきれそうにない量だ。


 美しい三角形を描くおむすび。つやつやとしたまんまるのミートボール。きれいな層を作った四角い玉子焼き。こんがりきつね色のからあげ。なめらかなポテトサラダに、かわいいうさぎ型に切られたりんご。


 お弁当の定番メニューが、宝石箱のように並んでいた。


『おお……』


 アリスやミルフィーヌほどではないが、ブルーも目をきらきらと輝かせていた。


 アリスの作ってくれたカレーも、本能に直接うったえかけるすばらしい料理だった。


 だが、緋羽莉のお弁当は、それとはまたちがう魅力がある。


 料理の技術ももちろんだが――それ以上に、このお弁当からは、作り手の愛情と真心が、目に見えるほどあふれている気がしたからだ。


 それはまるで――お母さん竜が作ってくれた、ごはんのようなあたたかさだった。


『キュー……』


 それは、新入りのモモも同じだった。


 草食のウサギであるモモは、うさぎ型のりんごに特に心をひかれたようで、目を輝かせている。


「それじゃあ……」


「『いっただっきまーす!』」


 一同は声をそろえて合掌し、お弁当を食べはじめた。


「んむ~! おいひ~!」


 アリスはさっそく三角おむすびをほおばった。


 緋羽莉の大きくてやさしい手で、ひとつひとつ丁寧ににぎられたおむすび。


 包み込まれるような丸みは、まるでそのまま緋羽莉のぬくもりを閉じ込めているかのようだった。


 ふっくらとしたごはんが口いっぱいにひろがり、飲み込むと、おなかだけでなく、心の奥までじんわりと満たされていく。


 それは、ただの味ではない。


 緋羽莉の気持ちそのものを食べているような、ふしぎな幸福感だった。


 ブルーが選んだのは、つやつやとしたミートボール。


 小さな体ながら、さすがドラゴン。自然と肉に手が伸びていた。


 一個でもずっしりと重く、かじると、肉汁がじゅわっとあふれ出す。


 きっと、いい材料を使っているのだろう。


 その味わいは、ドラゴピアでお母さん竜が作ってくれた料理にも負けていなかった。


 胸の奥にひろがる、なつかしくてあたたかい感覚。


 ブルーの目が、じんわりとうるむ。


『あむあむ……私、ず~っと、手づかみでごはんを食べるのが夢だったんです!』


 ミルフィーヌは、右手にからあげ、左手に玉子焼きを持ち、満面の笑みを浮かべている。


 人間の姿に進化したことで、手を使って食べられるようになったことが、本当にうれしいのだろう。


『キュ~!』


 モモもうさぎりんごをかじり、しあわせそうに目を細めていた。


 ブロッサムスクエアにはない食べ物だからこそ、そのおいしさは格別なのだ。


 アカネは、緋羽莉のひざの上で、からあげを夢中でついばんでいる。


 鳥がからあげを食べるのは共食いでは――そんな考えが、一瞬よぎる。


 しかし、アリスたちはすっかり慣れていたし、ブルー自身も故郷でドラゴンの肉を食べていたことがある。


 だから、だれもそのことを口にする者はいなかった。


 ――そして、作った本人の緋羽莉は。


 おむすびを手にしながら、おいしそうに食べているアリスたちを、やさしい目で見つめていた。


 その大きな体は堂々としているのに、いまはどこか控えめで、ただみんなを見守ることによろこびを感じているようだった。


 まるで――みんなのしあわせそのものが、自分のしあわせであるかのように。


 その表情は、とても穏やかで、満ち足りている。


 自分の料理をよろこんでもらえたことも、もちろんうれしい。


 けれど――それ以上に。


 アリスが、こんなにもしあわせそうな顔をしていること。


 ほおをゆるめて、夢中でおむすびを食べていること。


 その姿を見ているだけで、胸の奥がぽかぽかとあたたかくなる。


(よかった……)


 緋羽莉は、胸の中でそっとつぶやく。


(アリスが、笑ってる……)


 それだけで。今日のお弁当をがんばって作った意味が、すべて報われた気がした。


 緋羽莉は、だれにも気づかれないように、小さく、でも心からしあわせそうにほほえんだ。


 その笑顔は、春の日だまりのようにやわらかく――


 見ている者すべてを、そっと包み込んでしまうほど、深く、あたたかいものだった。

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