表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/98

第58話 ワンダフルな幕切れ

 人間のすがたになったミルフィーヌは、ハンターめがけてダッと駆け出した。


 草を踏みしめる音すら、遅れて聞こえるほどの速さだった。


 ガンマは迎え撃とうと右腕を構えるが――


 次の瞬間には、もう目の前まで距離を詰められていた。


「速い!」


 ブルーも思わず舌を巻く。


 ミルフィーヌの変化のしくみはわからない。


 けれど――


 子犬の姿だったときよりも、すべてがケタちがいにパワーアップしている。


 それだけは、はっきりとわかった。


『《ハニースパイク》!』


 ミルフィーヌは、右手の剣をするどく突き出した。


 アメ細工のような水色の剣先が――ガンマの右肩の関節に突き刺さる。


 瞬間――


 ドバァン!


 はじけるような衝撃。


 ガンマの右腕が、壊れたオモチャのように胴体から吹き飛び、草の上にボトリと落ちた。


 断面がバチバチとショートし、火花を散らす。


『いまのは――ブルーくんと、ウサギちゃんをいじめたぶんです!』


 ミルフィーヌは、かわいらしい顔の眉をキリッと上げて言った。


 そのすがたは愛らしいのに――騎士のように凛としていた。


 ガンマは痛みを感じていないために、微動だにしない。


 だが――


 その主人であるガンマン男からは、ゴーグルとスカーフ越しでも、はっきりわかるほどの苛立ちがにじみ出ていた。


『すごい……』


『キュー……』


 ブルーと、捕らえられているモモイロハネウサギが、そろって感嘆の声をもらす。


 さっきまで、あれほど苦戦していた相手を――いまのミルフィーヌは、完全に圧倒している。


(これが……ミルフィーヌの、本当のチカラ……)


 ブルーの胸が、高鳴る。


(このチカラなら……)


 もしかしたら――


 あの剣城玲那と、そのパートナーのコハクとさえ、対等に戦えるかもしれない。


 そんな未来への希望が、胸の奥に灯りはじめていた。


 ミルフィーヌは、その場でくるりと一回転する。


 そして、すぐさま次の突きを繰り出した。


 狙いは――顔面。


 ドパァン!


 鋼鉄の頭部が弾け飛ぶ。


 ガンマは、首なしの姿となった。


『……!』


『キューッ!』


 あまりにも衝撃的な光景に、ブルーとハネウサギは思わず目を覆う。


 火花が、桜の花びらの中に散った。


『いまのは――シンディさんと、緋羽莉ちゃんのぶんです!』


 ミルフィーヌの声は、はっきりと怒りを帯びていた。


 シンディは顔を破壊され、倒された。


 だから――同じ場所を狙った。意趣返しだった。


 どうせ相手はロボットだ。


 頭をふっとばされたくらいで死にはしないと、ミルフィーヌもわかったうえでやっている。


『そして――これが……』


 ミルフィーヌはふたたび回転する。


 今度は両手で剣をにぎりしめ――全身の力を込める。


 そして――


 フルスイング!


 カッキィィン!


 乾いた衝撃音。


 ガンマの鋼鉄の体が宙を舞い――


 そのまま後方のガンマン男へ、一直線に飛んだ。


「ぐはあっ!?」


 直撃。


 ガンマン男は、パートナーの巨体の下敷きになり、草原に叩きつけられた。


 ドシャッ!


 重たい音。


 どう見ても――ものすごく痛そうだった。


 けれど、ブルーとモモイロハネウサギは、少しも同情しなかった。


 自分たちを、あれだけ苦しめた相手だ。


 むしろ――胸がスカッとする思いだった。


『……私の、たいせつなアリスちゃんを――』


 ミルフィーヌは、スイングの姿勢のまま。


 ふんっ、と鼻息を鳴らした。


『痛い目にあわせてくれたぶんです!』


 怒りと、愛情と。


 誇りが込められた一撃だった。


「う……ん……」


 そのとき。


 アリスが、小さくうめいた。


 銃弾を受けて倒れていた体を、ゆっくりと起こす。


 右脇腹を押さえながら――体が震えている。


 まだ痛みが残っているのだろう。


 アリスは、状況を確認しようと顔を上げた。


 そして――見た。


 剣を持った、お姫さまのような少女を。


 見覚えはない、けれど。


 アリスには、すぐにわかった。


 心が――教えてくれた。


「ミルフィーヌ……なの?」


 かすれた声。


 その声に、少女は、くるりと振り向いた。


 そして――満面の笑顔で答えた。


『……はい! アリスちゃん!』


 変わらない。


 ひとなつっこい笑顔。あかるくて、元気な声。


 すがたがどれだけ変わっても。


 それは――ずっといっしょにいた、大切な家族そのものだった。


「……ミルフィーヌ……!」


 アリスの青いひとみが、涙でにじむ。


 笑顔がこぼれる。


 ゆっくりと、立ち上がる。


 脇腹の痛みも――いまはもう、気にならなかった。


 胸いっぱいにひろがるのは――よろこびだった。


「……やってくれたな……!」


 なごやかな雰囲気を取り戻しかけていた草原に、うらみがましい声がするどく響いた。


 倒れていたはずのガンマン男が、ふらりと起き上がってきたのだ。


 どうやらガンマをスマートウォッチの中に戻したらしく、巨体の下敷きからは解放されている。


 しかし、その声には、あきらかな怒りと執念がこもっていた。


 ミルフィーヌはとっさに剣を突きつける。


『あなたの負けです! おとなしくお縄についてください!』


 凛とした声。


 けれど――ガンマン男は、まるで動じていなかった。


 左手のスマートウォッチを操作し、新たなパートナーを呼び出そうとしている。


「わたしが許す! 取り押さえてっ!」


 アリスが脇腹を押さえながら叫ぶ。


 息が荒い。それでも、そのひとみには強い意志が宿っていた。


 ワンダーが人間に直接危害を加えるのは、たとえ正当防衛でもためらいがある。


 だが――もう、ためらっている余裕はない。


 ミルフィーヌはうなずき、一歩を踏み出した。


 しかし――その一瞬の判断の迷い。


 それが、致命的なスキとなった。


 ガンマン男は、すでにパートナーを呼び出していたのだ。


『あつっ!』


 伸ばしかけたミルフィーヌの手が、見えない壁に弾かれる。


 反射的に引っ込めた。


 交代直後のワンダーを守るための――特性によるバリアだった。


 現れたのは――宙に浮かぶ、オレンジ色の弾丸型のワンダー。


 しかし、これまでのバレットンとはあきらかにちがう。


 丸みを帯びたふくらんだ胴体。


 全身には、燃え盛る炎のペイント。


 後部で回転するプロペラは、爆撃機を思わせるような不気味なフォルムをしていた。


【バーストバレットン】――炸裂弾頭型ワンダー。


 それを見た瞬間――


 アリスの背筋に、冷たいものが走った。


(まさか……!)


 目を見開く。


(自爆させるつもり……!)


 自分たちもろとも――すべてを吹き飛ばす気だ!


「みんな! 逃げてーっ!」


 脇腹の激痛を押して、アリスは叫んだ。


 無駄かもしれない。


 それでも――叫ばずにはいられなかった。


 ガンマン男はスカーフの下で、笑っていた。


 自分の狙いを瞬時に見抜いたアリスに対する、感心と――勝利を確信した、余裕の笑みだった。


 バーストバレットンが、オレンジ色の光を放ち始める。


 その輝きは、どんどん強くなる。


 もう、止められない。


 数秒後には――すべてが、爆炎に包まれる。


 アリスは駆け出した。


 ブルーも、捕らえられたモモイロハネウサギをかばうように身を寄せる。


 ミルフィーヌは、自爆そのものを止めようと剣を構えた。


 けれど――すべてをあざ笑うかのように。


 バーストバレットンの光は、臨界へと達しようとしていた。


 そのときだった。


「《音波砲》!」


『ワッフーン!』


 聞き覚えのある声。


 次の瞬間――


 轟音とともに、巨大な突風が巻き起こった。


 バーストバレットンが――はるか彼方へと吹き飛ばされる。


「ぐおおおっ!?」


 近くにいたガンマン男も巻き込まれ、宙を舞った。


 しかし――爆発を止めようとしていたミルフィーヌはちがった。


 長い髪とオーバースカートが激しく揺れるだけで――その場に、しっかりと立っていた。


 ちゅどおおおん!!


 遠方で、爆発。


 巨大な火柱が空へと立ち昇る。


 だが――そこには、もう誰もいない。


 アリスたちは、守られたのだ。


「ぐはっ!」


 ガンマン男が草の上に墜落する。


 もう――立ち上がる力は残っていないようだった。


『いまのは……』


 ブルーが、小さくつぶやく。


 この感覚。この展開。


 この――ちょっと間の抜けた吠え声。


 忘れるはずがない。


「おーい! アリスちゃーん! 無事ー?」


『ワフワフ!』


 ドスン、ドスン、ドスン。


 地面を揺らしながら現れたのは――巨大な白いポメラニアン。


 その背中には――白いキャップをかぶった、みつあみの小柄な女性。


 それを見た瞬間、アリスとブルーの顔が、一気にあかるくなった。


「もふるさん!」


『わたあめ!』


 ワンダーレンジャー――犬飼もふる。


 そして、そのパートナー――【ドデカニアン】の、わたあめ。


 彼女たちは、間一髪のところで――戦場へと駆けつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ