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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第57話 ミルフィーヌ完全解放

「ミルフィーヌ!」


『ワンッ!』


 緋羽莉が倒れ、シンディも戦闘不能となった――


 その現実を胸に刻みながらも、アリスは一瞬たりともためらわず、ミルフィーヌに攻撃の指示を飛ばした。


 シンディを確実にしとめるために強力な技を放った反動か、ガンマはひざまずいたまま、すぐには動けないでいる。


 そのスキを逃さない。


 ミルフィーヌの剣が、鋼鉄のボディの関節を正確に斬り裂いた。


 ――一閃。


 だが、それで終わらない。


 着地と同時に反転。


 間髪入れずに、二撃目。


 三撃目。四撃目。


 斬って、斬って、斬り続ける。


 そのすべてに、怒りが込められていた。


 緋羽莉が――シンディが――


 傷つけられた怒りが。


(間髪入れずに、ここまでの連撃……しかも、一撃ごとに威力が増している……?)


 ガンマン男は目を見開き、分析する。


 それは、モモイロハネウサギのそばでへたりこんでいるブルーも同じだった。


(これが、ミルフィーヌの特性……? それとも技の効果……?)


 ブルーは首を振る。


(……ううん、ちがう)


 思い出していた。


 昨日の校内大会予選。ミルフィーヌとアカネの戦いを。


 あのときも――戦いが激しくなるにつれて、ミルフィーヌはどんどん強くなっていった。


 あとで閃芽に聞いた話では、あれは技でも特性の効果でもない。


 もともと持っていたチカラが、少しずつ解き放たれていったのだという。


 7年間の訓練で鍛えられ、たくわえられたミルフィーヌのチカラ。


 だが、長いあいだ戦うことを禁じられていたため、本気で振るわれることはなかった。


 だから今――かつてない強敵との戦いによって、そのチカラがすべて、解放されはじめているのだとしたら。


(いったい……ミルフィーヌって、どれだけ強いんだろう……)


 ブルーは息をのんだまま、戦いを見つめていた。


「うっとうしい!」


 ガンマン男が怒鳴る。


 ガンマの右腕の銃口が向けられる。


 発砲。


 だが――当たらない。


 ミルフィーヌはすでに、そこにはいなかった。


 スピードも上がっている。


 それだけではない。


 アリスの冴えわたる先読みが、パートナーを導いているのだ。


(真にうっとうしいのは……あのガキか!)


 ガンマン男の視線が、アリスへ向く。


 右手を突き出す。


「!」


 アリスの目がするどく細められた。


 予測した。次の狙いを。


 ガンマの銃口が――ミルフィーヌから外れ、アリスへ向けられる!


『ワウ!?』


『あぶな……!』


 ミルフィーヌとブルーが叫ぶ。


 だが――遅い。


 発砲。


「ぐうっ!?」


 アリスの悲鳴が、草原に響いた。


 予測はできていた。


 だが――人間の体と反応では、とてもよけきれない。


 銃弾は、右の脇腹をかすめた。


 衝撃と激痛。


 特注の青いベストが貫通を防いだものの、衝撃は骨の奥まで響いた。


「っ……!」


 アリスの顔が歪む。


 体勢を崩し――草の上へ倒れた。


『アリス!』


 ブルーが叫ぶ。


 怒りに燃える目で、ガンマン男をにらみつける。


 飛びかかろうとする。


 だが――そのとき。


『……ワウ』


 ミルフィーヌの気配が変わった。


 ブルーは凍りついた。


 感じたのだ。


 自分の怒りなど、比べものにならないほどの――圧倒的な怒りを。


 ミルフィーヌの種族――【キャリバリア】。


 その名は、騎士を意味する"キャバリア"にも由来する。


 主人への、絶対の忠誠。


 だが――ミルフィーヌにとって、アリスはそれ以上の存在だった。


 主人であり、相棒であり、家族だった。


 7年以上、ずっといっしょに生きてきた。


 その大切な存在が――傷つけられた。


 ミルフィーヌのひとみが、燃えていた。怒りの炎で。


 その姿に、ブルーは思った。


(この怒りは――きっと、もう――誰にも止められない……!)


 すると――


 ミルフィーヌの体が、カッとまばゆい光に包まれた。


『わわっ⁉』


『キューッ⁉』


 あまりのまぶしさに、ブルーと、球体に捕らえられたモモイロハネウサギは、とっさに目を覆い、体をよじる。


 桜舞う草原が、一瞬、昼の太陽が落ちてきたかのように白く染まった。


「これは……!」


 ガンマン男も、ゴーグル越しであるにもかかわらず、思わず顔をそむけていた。


 光の中心で――ミルフィーヌのすがたが、変わっていく。


 小さな子犬の輪郭が、ゆっくりと伸びていく。


 体が大きくなり。四足が二足へ変わり。


 しなやかな、人の形へと近づいていく。


「進化か……だが、させん!」


 ガンマン男は叫び、ガンマへ攻撃を命じた。


 右腕の銃口が、光の中のミルフィーヌへ向けられる。


『や、やめてっ……!』


 ブルーが手を伸ばし、叫ぶ。


 だが――


 無情にも、銃弾は放たれた。


 炎をまとった弾丸が、光の中心へ突き進む。


 命中――


 する、その瞬間。


 カッ――!


 光が、さらに強く弾けた。


 シャキィン!


 澄みきった鈴のような音が響き――


 銃弾は、跡形もなく消え去った。


「むおっ⁉」


『わあっ⁉』


 ガンマン男とブルーは、思わず身をよじった。


 やがて――光が、静かに消えていく。


 そこに立っていたのは――


 ひとりの少女だった。


 オレンジに近い、あかるいライトブラウンの長い髪。


 春風に乗って、桜の花びらとともに、ふわりふわりと揺れている。


 頭には、小さく気品ある銀のティアラ。


 目の色は、アリスよりもさらに淡い、水色に近い青。


 大きく、澄んだそのひとみは、まっすぐ前を見すえていた。


 外見は、16歳ほど。


 だが、その整った顔立ちは、どこか無垢な幼さも残している。


 青と白のエプロンドレス。プリーツのミニスカート。


 後ろを覆う長いオーバースカートが、風にたなびき、まるで物語に出てくるお姫さまのようだった。


 白いグローブの右手には――一振りの剣。


 赤と白のキャンディのような柄。


 半透明の水色の刀身は、まるで氷菓子のようにきらめいている。


『ミルフィーヌ……?』


 ブルーは、迷いなくそうつぶやいていた。


 はじめて見る姿なのに――なぜか、確信できた。


 少女は、ブルーを見て、ふわりと、ほほえんだ。


『はいっ、ブルーくん!』


 それは――あかるく、元気で、やさしい、人間の少女の声。


 けれど……まちがいない。


 この子は――ミルフィーヌだ。


 すがたがどれだけ変わっても――


 あの、あたたかくて、人なつっこい雰囲気は、少しも変わっていなかった。


「……チッ!」


 ガンマン男が舌打ちする。


 すぐにガンマへ、再び発砲させた。


 銃弾が、空気を裂いて迫る。


 だが――


 ぷにん。


 ミルフィーヌの前に、半透明のピンク色の肉球が、突如として現れた。


 銃弾は、やわらかく受け止められ――


 ぽんっ、と弾き返された。


 威力を失った弾丸は、草の上をころころと転がり、光の粒となって消えた。


『えっ……』


 ブルーは、息をのんだ。


 ガンマン男も、言葉を失う。


 あのガンマの早撃ちを――防いだ?


 いままで、よけることすら難しかった攻撃を。


 まるで、子どもの投げたボールのように。


「バカな……」


 ガンマン男が、後ずさる。


 理解してしまったからだ。


 これは――まぐれではない。


 進化したミルフィーヌには、銃弾の軌道が、完全に見えている。


 スカーフの下で、冷たい汗が流れた。


 ミルフィーヌは、お姫さまのようなすがたで、剣をまっすぐ突きつけた。


 そのひとみには――燃えるような怒りと。


 守る者としての、強い意志が宿っていた。


『よくも――』


 静かな声。


 だが、はっきりと響く。


『私の大切な家族と――』


 倒れているアリスを見た。ブルーを見た。


『友だちを――』


 気を失った緋羽莉を見た。シンディを見た。


『キズつけてくれましたね』


 一歩、前へ出る。


 スカートが、ふわりと揺れる。


 そして――凛と、宣言した。


『とっておきのおしおき――あげちゃいます!』


 その言葉は、どこかかわいらしく、けれど――そのひとみには。


 凍りつくほどの闘志が、宿っていた。


 もう――誰にも、止めることはできない。


 アリスを守護するプリンセスのチカラが今、完全に解き放たれたのだから。

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