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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第56話 非情なる紅蓮の銃弾

『が……あっ……!』


 かすれた声をもらしながら、シンディの鍛え上げられた巨体が、両ひざをつき――ついに、地面へと崩れ落ちた。


 大地が、ずしんと重く鳴る。


 その衝撃は、見ている者の胸にまで響いた。


 地に落ちた巨体が、びくりと痙攣した。


 張りつめていた褐色の筋肉が、力を失い、わずかにたるむ。


 大きく開いた脚も、支えることすらできず、だらしなく崩れていた。


 圧倒的だったはずの肉体は、いまはただ――撃ち倒された存在として、無防備にさらされていた。


「……っ!」


 緋羽莉もまた、同じように苦痛に顔をゆがめ、ひざをついた。


 すらりと長い脚が折れ、その場に崩れる。


 引き締まった太ももが、小刻みに震えていた。


 華奢さと力強さをあわせ持つ体が、痛みに支配されている。


 緋色のポニーテールが、力なく揺れる。


 健康的な色だった顔は青ざめ、額には細かな汗がにじんでいた。


 胸を押さえ、浅い呼吸をくり返す。


 まるで、自分自身の体を撃ち抜かれたかのように。


 アリスは知っている。


 緋羽莉は、その心やさしさのあまり――パートナーの痛みを、自分の痛みのように感じてしまう少女だということを。


 その姿は痛々しく、見ているだけで胸が締めつけられそうになる。


 それでもアリスは、バトルフィールドから視線をそらさなかった。


 いま、やるべきことはただひとつ。


 この戦いに勝利し――モモイロハネウサギを守ること。


 そして、家族を、友だちを守ること。


 アリスは、もう二度と、自分のやるべきことから目をそらさないと、誓ったのだから。


 ――さて、シンディを沈めた、あの弾丸の正体。


 頭の回転の速いアリスには、すでに見当がついていた。


 紫色の、生きた弾丸のワンダー――【パープルバレットン】。


 あのワンダーは、自身の技、《ローディング》によって――アンドロイド型ワンダー、【ガンマ-10000】の“銃弾そのもの”となったのだ。


 そう、自らの体を、弾丸へと変える。それこそが、パープルバレットンの真価。


 あのワンダーは、身を守るバリアの性質から見て、おそらく雷の属性だった。


 だからこそ――ガンマの放った銃弾には、強力な電撃が宿っていた。


 紫電の銃弾は、シンディの鎧のような筋肉をやすやすと貫き――体内へ侵入し、内側から、電撃を解き放った。


 どれほど頑丈な肉体でも、えてして内部からの攻撃には弱いもの。


 それは、多くのワンダーに共通する弱点だった。


 ガンマン男はハンターだ。そういったワンダーの知識、戦闘経験、どれをとっても、こちらより上だろう。


 ――それでも。アリスには、ふしぎと負ける気がしなかった。


 たとえ経験が足りなくても、知識が及ばなくても。


 絶対に負けないと信じられるものが、ふたつある。


 ひとつは――沙織との7年間の訓練で身につけた、自分とミルフィーヌのチカラ。


 そしてもうひとつは――パートナーとの、絆。


 心でつながったそのチカラだけは――ワンダーを無理やり捕らえることを生業とするハンターなんかに、負けるわけがない!


『ワン!』


 ミルフィーヌが、シンディを見た。


 シンディもまた、苦しげに顔を上げる。


 そして、うなずいた。


 ――私のことは気にしないで。あなたの壁として、使って。


 言葉はなくても、その意思は伝わった。


『ぐ……っ!』


 シンディは、体内を焼きまわる電撃に耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。


 脚が震える。呼吸が乱れる。膝が笑う。


 今にも、もう一度崩れ落ちそうになる。


 それでも、太い脚は地面を踏みしめた。


 無様に揺れながら、それでも――倒れない。


 その広い背中は、愛するものを守るためにあるのだから。


「しぶとい筋肉ダルマめ……!」


 ガンマン男が、吐き捨てるように言った。


 その言葉に――アリスの胸に、小さな怒りが灯る。


 シンディが、ズタボロになりながらもがんばっているのに。


 その強さも、やさしさも、気高さも、美しさも知らずに侮辱するなんて。


『はああああっ!!』


 シンディが、雄叫びをあげた。


 大地を踏みしめる。


 ズン! ズン!


 一歩ごとに地面が揺れる。


 足運びは、重く、不格好だった。引きずるような動き。


 それでも、その巨大な背中は、決して後ろを向かなかった。


 弾丸に撃ち抜かれた体で――それでも、前へ。


 ミルフィーヌが、その背後につく。


 守られながら、守りながら。ふたりは、ガンマへと迫る。


『今度こそ、くたばれっ!』


 ガンマン男が叫ぶ。


 アンドロイド、ガンマの銃口が火を噴いた。


 ドン! ドン!


『ぐっ! ああっ……!』


 銃弾が突き刺さる。


 シンディの筋肉の鎧をたやすく貫き、体内で電撃が弾ける。肉体が大きく震えた。


『がっ……!!』


 口がだらしなく開く。唾液がわずかに飛ぶ。踏み出した足がもつれる。


 巨体が、みっともなく揺れた。


 それでも、止まらない。


 歯を食いしばり、前へ、前へ。


 膝が沈む。倒れかける。


 だが、倒れない。


 無様に、みじめに、それでも――前へ進む。


「……ううっ……!」


 緋羽莉が、胸を押さえた。


 全身が汗で濡れている。呼吸が苦しい。


 大きな手が、ピンクのオフショルダーの胸元を強くにぎりしめる。布地が、しわになるほどに。


 かわいらしい顔が苦痛にゆがむ。


 それでも――目は、シンディを見つめ続けていた。


 信じているから、パートナーを、愛する家族を、その強さを。


 ブルーもまた、モモイロハネウサギをかばいながら見守っていた。


 大きな手を胸の前で握りしめ、祈るように。


 シンディとミルフィーヌは――少しずつ、確実に、ガンマとの距離を詰めていく。


 ガンマは、無表情のまま動かない。


 だが、その背後のガンマン男は違った。


 ゴーグルとスカーフの奥で――確かな焦りを、にじませていた。


『ぐっ……今よ!』


『ワオーン!』


 シンディがさらなる銃弾の痛みに耐え、体を踏んばったその瞬間――


 そのたくましい背中を踏み台にするように、ミルフィーヌが飛び出した。


 広く厚い背中。汗に濡れた褐色の肌が、陽光を鈍く反射している。


 その肉体は、いくつもの傷を刻まれながらも――なお、美しかった。


 だからこそ、彼女の想いに応えたい。今度こそ、逃がさない。


 ピンクの光を宿した剣をくわえたその顔は、強い決意に満ちていた。


 ガンマの鋼鉄のボディめがけ、剣が振り下ろされる――


 その瞬間。


「《チェンジ!》」


 ガンマン男の叫び。


 ガンマの体が光に包まれ――またしても、別のワンダーと入れ替わった。


「またぁ⁉︎」


 アリスは思わず叫んだ。


 ルール違反ではない。そもそも、これは正式な試合ですらない。


 だが、それでも――しつこい。ずるい。そんな思いが胸にこみ上げる。


 そして、現れたのは――赤色の弾丸型ワンダー、【レッドバレットン】だった。


 その周囲には、炎のようにゆらめく赤いバリアが展開されている。


 ミルフィーヌの剣は、それに阻まれ、止められた。


(ブルーの〈ハーモニクス〉があれば……!)


 特性を無効化できたはずなのに、とアリスは歯がゆさを感じる。


 モモイロハネウサギのそばでへたりこんでいる、ブルー自身も同じ気持ちだろう。


 だが――今は、ないものをくやんでいる場合じゃない。


 ミルフィーヌはすぐにバック宙し、シンディのそばへ戻る。


 レッドバレットンもまた、バリアを解いた。


 ふらふらと、不安定に高度を下げる。


 そして。


「《ローディング》!」


 光に変わり――ウォッチへと吸い込まれる。


 入れ替わるように、ガンマがみたび姿を現した。


 今度はレッドバレットンを、自らの弾丸として。


「ミルフィーヌ!」


「シンディさん!」


 アリスと緋羽莉が叫ぶ。


 交代直後の召喚酔い、いまが最大のチャンス。


『ワオーン!』


 ミルフィーヌが跳ぶ。剣を振るう。


『はああああっ!!』


 シンディもまた、雄叫びをあげた。


 眉間に深いしわを刻み、歯を食いしばり、太い脚で地面を踏みしめる。


 腕の筋肉が、盛り上がる。太い肩から前腕へ、しなやかな力が流れる。


 引き締まった腹部が、鋼のように硬くなる。


 右こぶしに、紅蓮の炎をまとわせ――全身全霊で、ガンマへ叩きつける。


 その一撃には、緋羽莉のためにという、強い意志が込められていた。


 剣と拳、同時の一撃。


 だが。


 バチバチバチバチ!


 赤いバリアが、立ちはだかる。


 それでも――ミルフィーヌも。シンディも。あきらめない。


 力を込める。さらに、込める。


 火花が散る。空気が震える。地面の草がなぎ倒される。桜の花びらが、吹き荒れる。


 やがて――


 攻撃を終えたふたりは、地面へ着地した。


『……っ』


 シンディの体が、反動で大きく揺れた。


 ひざが崩れそうになる。足がもつれる。


 巨体が、不格好によろめいた。


 呼吸が乱れ、口がわずかに開いたまま閉じない。


 限界が近い。


 それでも――立っている。


 ガンマは、まだひざをついたまま。


 その体には、バチバチと電流が走っていた。


 確実に、ダメージは通っている。


「もう一発!」


 アリスが叫ぶ。


 今度こそ、とどめを刺す。


 その瞬間――


 ガチャリ。


 ガンマの右腕の銃口が、動いた。


 向けられる。


 よろめき、無防備なシンディへ。


 ガンマン男が、指鉄砲を作り――冷たく、つぶやく。


「《バーストショット》」


 次の瞬間。


 紅蓮の閃光。爆音。


 そして――シンディの顔面で、爆発が起きた。


『――――』


 声にならない。


 意識が、途切れる。


 その美しく凛々しい顔が、大きくのけぞった。


 口がだらしなく開く。唾液が、わずかにこぼれる。


 巨体は、糸の切れた人形のように力を失っていった。


 ひとみから光が消える。


 巨体が、ゆっくりと傾く。


 踏んばることもできない。支える力も残っていない。


 ただ、崩れる。


 守護者としてではなく、ただ撃ち倒された存在として。


 ドォン――――


 地面を揺らしながら、シンディは、大の字に倒れた。


 その顔からは、煙が立ちのぼっていた。


 美貌が見る影もなくぐちゃぐちゃで、見るにたえない。


 胸は、かすかにも動かない。指先も、もう、ぴくりとも動かなかった。


 圧倒的だった肉体は、完全に沈黙していた。


「――――っ」


 その瞬間。


 アリスのとなりで、緋羽莉が、力を失い、崩れ落ちる。


 長い脚から力が抜ける。体が傾く。


 支えることもできす、そのまま地面へと沈んでいった。


 黄色いリボンが、ふわりと揺れた。


「緋羽莉ちゃん!」


 アリスが叫ぶ。


 緋羽莉は、意識を失っていた。


 シンディと同じように、大の字で。深く傷ついたように。


 その表情には、深い苦しみと――それでも消えない、強い想いが残っていた。


 最後まで、彼女は、シンディを信じていた。


『ヒバリちゃん……!』


 ブルーが震える声をあげた。


 緋羽莉の性質を知らないから、どうして彼女が倒れたのか、わからない。


 けれど、大好きな友だちが苦しんでいる。


 それだけで――胸が、張り裂けそうだった。


 仲間が倒れた。親友が倒れた。


 それでも。アリスは――敵から、目をそらさなかった。


 そのひとみには、これまでにないほど強い――怒りの炎が、燃えていた。


 倒れたシンディのとなりで、ミルフィーヌもまた、低くうなった。


『……ワン』


 静かな、だが、激しい怒り。


 戦いは――まだ、終わっていない。

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