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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第55話 装填されし紫電の銃弾

「やった!」


 緋羽莉は、ぱあっと顔を輝かせ、大きく両手でガッツポーズを作った。


 緋色のポニーテールが元気よく跳ね、その動きに合わせて、引き締まった体のラインがしなやかに揺れる。


 勝利を信じて疑わない、まっすぐで無邪気な笑顔。


 その姿は、戦場のただ中にいることさえ忘れさせるほど、まぶしく愛らしかった。


 ミルフィーヌに斬られたアンドロイド――ガンマは、わずかによろめく。


 だが、感情のないタイプのロボットのために、効いているのかどうか外見からは判断しづらい。


 それでも、観察力のするどいアリスは確信していた。


(効いてる……!)


 ミルフィーヌの表情にも、たしかな手ごたえがある。


 鋼鉄の装甲を斬ったにもかかわらず、剣の刃は欠けていない。


 さきほどの巨大ポメラニアン――わたあめのときと同じだ。


(無敵のワンダーなんて、この世にはいない!)


 どんな相手でも、ダメージは積み重なる。


 どれほど平然としていても、その内側では確実に限界へ近づいているのだ。


「思ったよりやる……!」


 ガンマン男は、わずかにくやしさをにじませる。


 次の瞬間。


 ガンマの右腕――銃身が、火を噴いた!


『ワンッ!』


 ミルフィーヌは即座に反応し、ぴょんと跳びのいて回避する。


 必殺技を放った直後とは思えない動き。


 長い日本での暮らしで身につけた、“残心”。攻撃のあとも油断しない、見事な戦いぶりだった。


 だが――敵の射撃は、あまりにも正確で速い。連射も可能。


 長く回避を続けるのは危険だ。


 反撃のスキも失われてしまう。


 アリスは即座に判断し、となりの親友へ叫んだ。


「緋羽莉ちゃん! シンディに壁、おねがい!」


 それは合理的で、あまりに心苦しい判断だった。


「うん! ……シンディさん!」


 緋羽莉は、一瞬だけ胸をぎゅっと押さえ――それでも、しっかりとうなずいた。


 その表情には、ためらいと信頼が同時に浮かんでいる。


 壁。つまり、シンディに弾よけになってほしいという意味だ。


 大切なパートナーに、傷つく役目を命じること。


 それは、誰よりも心優しい緋羽莉にとって、胸が張り裂けそうなほどつらい決断だった。


 それでも。アリスのために。モモイロハネウサギのために。戦うと決めた。


 その横顔は、凛として美しかった。


 シンディは、そんな緋羽莉の心をすべて理解していた。


『まかせて!』


 力強くウインクする。その声はあかるい。


 だが、緋羽莉を見るひとみの奥には、静かな決意が宿っている。


 どんな苦しみも、自分が引き受ける。そう誓う守護者の目だった。


 そして、迷いなく飛び出した。


 大地を揺らす重い足音。広い背中。燃え上がる闘志。


 隆起した背中の筋肉が盛り上がり、圧倒的な存在感を放つ。


 その背は高く、揺るぎない壁のようだった。


 そこには、一片の迷いもない。


 その姿は、まさに炎の女王と呼ぶにふさわしかった。


『ワン!』


 ミルフィーヌはアイコンタクトで意図を理解し、シンディの背後へ回り込む。


 たくましい体が、完全な盾となる。


「ジャマな筋肉ダルマめ!」


 ガンマン男は苛立ちをあらわにし、ガンマに連射を命じる。


 ドン!


 ドン!


 ズドォン!


『うっ……! ぐっ……! ああっ……!』


 弾丸が、シンディの体に次々と突き刺さる。


 衝撃に体が跳ねる。


 強靭な肉体が揺らぎ、顔が苦痛に歪み、歯を食いしばる。


 胸に直撃。


 皮膚が裂け、赤いエナが火花のように散る。


 腹部に命中。


 内側まで衝撃が突き抜け、筋肉が大きく波打つ。


 左肩に炸裂。


 骨まで響く衝撃に、体が大きくのけぞる。


 呼吸が乱れる。胸が大きく上下し、息が途切れる。


 視界の端が暗く揺れる。


 足が震える。今にも崩れ落ちそうになる。


 それでも――倒れない。


 背後に、守るべき仲間がいるから。愛すべき家族がいるから。


 その両足は、大地に深く食い込んでいた。


 傷だらけの体で、それでも立ち続ける。


 その姿は痛々しく、見る者の胸を締めつけた。


 だが同時に――何よりも気高かった。


「シンディさん……!」


 緋羽莉は、思わず自分の胸を抱きしめた。


 まるで、自分が撃たれているかのように。


 ひとみが涙でにじむ。


 それでも――信じている。


 自分のパートナーを。


「いまよ! ミルフィーヌ!」


『ワンッ!』


 アリスの合図。


 ミルフィーヌは、シンディの肩を踏み台にして跳躍した。


 高く。するどく。


 剣が、ピンクの光に包まれる。


 必殺技――《ワンダフルストライク》。


 ガンマが迎撃しようとするが――


 連射の直後で、わずかに動きが遅れる。


 剣が振り下ろされる――


 その瞬間。


「《チェンジ》!」


 ガンマン男が指鉄砲を構え、叫んだ。


 閃光。


 ガンマは光の粒子となってウォッチに戻る。


 そこからさらに、新たな粒子がこぼれだす。


 代わりに現れたのは――


 紫色の円筒形の体。白い手袋の細い腕。大きくするどい目。


 そのすがたはまるで、生きた弾丸――【パープルバレットン】。


 ミルフィーヌは止まらない。


 入れ替わった紫の弾丸を、そのまま斬りつける。


 ――だが。


 バリバリバリバリ!!


 半透明のバリアが、剣を受け止めた。


「なっ……!」


 アリスと緋羽莉が、同時に息をのむ。


 だが、ふたりはすぐ理解する。


 バトルの最中のワンダーの交代は、スキが大きいので、よっぽどのことがないと使われない。


 ワンダーが現実空間に転送された直後は、たとえるなら寝起きのような状態で、瞬時に動き出すことができないからだ。


 俗語で"召喚酔い"などと呼ばれる現象である。


 だが――それを防ぐため、あるいは対策のための特性も存在する。


 このパープルバレットンも、そのために呼ばれたのだ。


 おそらくガンマンの主力(エース)だろう、ガンマの身を守る盾として。


『ダムッ……!』


 パープルバレットンは、ミルフィーヌの剣の衝撃に顔をゆがめた。


 その体を包んでいた半透明のバリアが、大きくひずむ。


 このバリアは、あくまでダメージを軽減するもの――完全に無効化できるわけではないのだ。


 必殺の一撃の重さは、たしかにその身に届いていた。


 技を出し切ったミルフィーヌは、そのまま軽やかにバック宙し、距離を取る。


 同時に、シンディもふらつく体を必死に支えながら、再び盾となるようミルフィーヌのそばへ寄った。


 胸から、腹から、腕から――撃ち込まれた傷がじくじくと痛み続けている。


 それでも、その広い背中は、決して仲間から離れなかった。


 隆起した背筋が、深紅のレオタード越しに浮かび上がる。


 太くたくましい脚はわずかに震えながらも、大地に根を張るように踏みしめられていた。


 傷つき、血に濡れてなお――その立ち姿は、圧倒的だった。


 いっぽうのパープルバレットンはバリアを解き、ふらつきながら高度を落とす。


 宙に浮かぶその体は、明らかに弱っていた。


 さすがはミルフィーヌの必殺技。


 身を守っていても、無傷ではすまない。


(なにを考えてるの……?)


 アリスは、真剣な表情でガンマン男を見つめた。


 ガンマを守るために交代させた――それは理解できる。


 でも、それだけじゃない。なにか、もっと決定的な狙いがある。


 そんな予感が、胸の奥で警鐘を鳴らしていた。


 となりの緋羽莉も、同じものを感じているのか、長いまつげを震わせ、不安げに相手を見つめていた。


 整った顔立ちに影が落ちる。


 その美しい横顔には、パートナーを案じる強い想いが浮かんでいた。


 モモイロハネウサギのそばに座り込んでいるブルーも、胸騒ぎを覚えていた。


 ――そのとき。


 ガンマン男が、ふたたび指鉄砲を作る。


「《ローディング》!」


 瞬間。


 パープルバレットンの体が光の粒子へと分解され――男のウォッチへ吸い込まれた。


 そして――


 バチバチバチッ!!


 電流と光が炸裂し、ガンマがふたたび現れた。


 古いSF映画を思わせるような、片ひざをついた姿勢。


 アリスの目が光る。


(いまがチャンス!)


「《ワンダフルストライク》!」


『ワオーン!』


 ミルフィーヌが跳ぶ!


 光る剣が、一直線に振り下ろされる!


 ガンマは動かない――いや、動けない。


 今度こそ決まる!


 そう確信した――その瞬間。


 バリバリバリバリ!!


「えっ――!?」


 またしても、バリアが発生した。


 剣が弾かれる。


「ちょっ、また……!」


 アリスは思わず声をもらす。


 となりでは、緋羽莉が思わず両手で口元を押さえていた。


 驚きに見開かれたひとみ。


 その指先が、かすかに震えている。


 豊かな胸が、呼吸とともに大きく上下する。


 そのたびに、かすかな震えが全身へと伝わっていく。


 長い脚も、小刻みに揺れていた。


(どうして……!?)


 一瞬、ガンマ自身の能力かと思った。


 だが違う。


 アリスの直感が告げている。


 このバリアは――さっきのパープルバレットンと、まったく同じ性質。


 同じ“感触”。ミルフィーヌも、それを感じ取っていた。


 そしてアリスは、答えにたどり着く。


(チカラを引き継いだんだ……!)


 ガンマは能力を得たのではない。


 パープルバレットンを――銃弾として装填したのだ。


 《ローディング》――それは単なる交代の技ではない。


 パートナー自身を銃弾と化し――その能力を、ガンマへ与える技だったのだ。


 その代償として、銃弾と化した側は戦闘不能となる。


 だが――その代わりに、銃身の側にさらなるチカラを与える。


 そして、ガンマン男が叫んだ。


「《トライブラスト》!」


 ガンマが立ち上がる。


 銃口が向く。


 その先は――ミルフィーヌではない。


 シンディ。


 すでに傷つきながらも、仲間を守り続けている――彼女だった。


 ドン! ドン! ドン!


 紫電の閃光が走る。


 三発の銃弾が、逆三角形を描くように撃ち込まれる。


『あっ――がっ……!!』


 両腕。


 腹部。


 肉を貫く。


 焼き裂く。


 シンディの強靭な筋肉を突き破り、三つの穴を穿つ。


 赤黒い傷口から、紫の電光があふれ出す。


『がっ……!!』


 短く、潰れた声。


 誇り高い戦士のものとは思えない、みじめな響きだった。


 脚が折れかける。


 巨体がぐらりと揺れた。


 踏ん張ろうとする。だが、力が入らない。


 膝が大きく震える。


 守るための体が――守ることすらできずに崩れかけていた。


 美しくたくましい肉体が、大きく震えた。


『あ……ああっ……!!』


 息が詰まる。


 体が言うことをきかない。


 だが、それ以上に――体の内側が焼けていく。


 埋め込まれた銃弾が、体内で放電しているのだ。


『ああああああああああっ!!!』


 全身が跳ね上がる。


 雷に打たれたように。


 背筋が弓なりに反る。


 口がだらしなく開く。


 苦しさに耐えきれず、息が漏れる。


 整っていた顔が、苦痛で歪みきっていた。


 焦点の合わないひとみが揺れる。


 筋肉が硬直する。


 逃げ場のない激痛。


 その壮麗な肉体が、無残に蹂躙されていく。


 あれほど堂々としていた戦士は、いまや――ただ痛みに翻弄されるだけの存在だった。


「シンディさん――っ!!」


 緋羽莉が叫んだ。


 胸を押さえる。


 息ができない。


 まるで、自分が撃たれたかのように。


 美しい顔が苦痛にゆがむ。


 大きなひとみから、涙があふれた。


「あああーーーっ!!」


 そして、自身も大きく悲鳴をあげる。


 緋色のポニーテールが、電気を帯びたように逆立つ。


「緋羽莉ちゃん! シンディ!」


『ワーン!』


 アリスとミルフィーヌが叫ぶ。


 ほとばしる紫電の中で、シンディの巨体が――激しく震え続けていた。

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