表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/98

第54話 ブルー、がんばる

『うわあっ!』


 機械人形の銃撃をまともに受け、ブルーは草原の上を転がるように吹き飛ばされた。


 自分がおとりになると決めた以上、攻撃をくらうことは最初から覚悟していた。


 体をこわばらせ、体内のエナをすばやく巡らせ、衝撃を分散させる。ダメージは最小限に抑えられた――はずだった。


 それでも、強烈な一撃だった。


 骨の奥までじんじんと震えるような痛み。何発も受ければ、さすがに体がもたない。


『キューッ!』


 ブルーの背後では、半透明の球体に閉じ込められたモモイロハネウサギが、か細い悲鳴をあげた。


 うるんだ赤いひとみが、ブルーをまっすぐ見つめている。


 その声を聞いた瞬間、ブルーはすぐに跳ね起きた。


(あの子を、不安にさせちゃダメだ!)


 それだけで、さっきまでの痛みがすこし遠のく気がする。


 守るべき存在がいる。


 それが、こんなにも心を強くするなんて。


「頑丈だな。悪くはないが……面倒だ」


 ガンマン男は感情のない声でつぶやく。


 そのとなりで、機械人形が無言のまま銃口を向け、ふたたび引き金を引いた。


 ドォン!


『ぐうっ……!』


 今度は右腕に直撃。


 衝撃で体がねじれ、また地面に叩きつけられる。


 ブルーは悲鳴をのみこみ、歯をくいしばった。


 あの銃撃は、強いうえに速い。


 弾丸が見えない。狙いも正確。かわすスキがない。


 せめて一撃でもやり返したい――そう思うが、どうもそれはムリっぽい。


 いまはとにかく、アリスが来るまで、時間をかせぐ。


 それが自分の役目だ。


 しかし――


(右腕が……上がらない……!)


 さきほどの一撃で、右腕がじんじんとしびれ、一時的にマヒしている。


 これでは、ガードの姿勢すら取れない。


 ドォン!


『んんっ!』


 三発目。


 今度は額に命中した。


 パリン、と軽い音がして、アリスが買ってくれた飛行用ゴーグルが粉々に割れる。


 視界の端に、砕けたレンズの破片が散った。


 体の痛みより、そのことのほうが胸に刺さる。


(ごめん、アリス……!)


 涙がにじむ。


 それでも、心は折れない。


 守るべきモモイロハネウサギがいる。


 自分が倒れたら、あの子はあいつにさらわれてしまう!


『キュー……』


 モモイロハネウサギは、震えながらもブルーを見つめている。


 そのひとみには恐怖だけでなく、強くあろうとするブルーへのあこがれの光も宿っていた。


 小さな前足で、透明な壁をとんとんと叩く。


 がんばって、と言うように。


 その健気な仕草が、ブルーの胸をさらに熱くする。


「しぶといな……」


 これまで無機質だったガンマン男の声に、かすかな苛立ちが混じった。


 ブルーの粘り強さが、予想以上だったらしい。


「そろそろ寝ていてもらおう」


 機械人形が、銃身と化した右腕をまっすぐ向ける。


 狙いは、ブルーの頭部。


 今度こそ気絶させるつもりだ。


 ガンマン男の目的は、あくまでブルーとハネウサギの捕獲であって、討伐ではない。


 だからこそ、確実に意識を奪う一撃を放つつもりなのだ。


 ブルーはぐっと歯を食いしばった。


 倒れない。


 ここで終わるわけにはいかない。


 トリガーが引かれようとした、その瞬間――


「《音波砲》!」


『ワオーーーン!』


 草原を切り裂くような、すさまじい音波。


 突風がうねり、舞い散る桜の花びらが大きく巻き上がる。


 ピンク色の吹雪が視界を埋めつくした。


「ぐ……!」


 ガンマン男と機械人形は、とっさにテンガロンハットを押さえ、身をかがめる。


 ボロボロのコートが、ばさばさと激しくはためいた。


『あ……!』


 ブルーの顔が、ぱあっと明るくなる。


 覚えのある展開。


 けれど、なつかしむにはあまりに早い時間。


「ブルー! だいじょうぶ!?」


『ワーン!』


 青いひとみをいっぱいに見開き、駆け寄ってくる少女――アリス。


 その横には、小さな体で全力疾走するミルフィーヌの姿。


 ブルーの、はじめてできた友だち。


 胸の奥が、じんわりあたたかくなる。


(……また、助けてもらっちゃったな)


 ブルーは、痛みの中で小さく苦笑した。


 そしてアリスのうしろから、もうひとりの頼もしい影が現れる。


 緋色のポニーテールをなびかせ、すらりとした長身で駆けてくる緋羽莉。


 引き締まった体に、燃えるような生命力。


 その姿は、まるで春風のなかに立つ一本の火柱のようだった。


 ブルーは思う。


 アリスが光なら、緋羽莉は炎。


 ふたりがそろえば、きっとどんな闇にも負けない。


 胸の奥で、ふたたび勇気が灯った。


「……飼い主がいたか。残念だ」


 体勢を立て直したガンマン男は、感情のこもらない声でつぶやいた。


 機械人形も、ウィーン……と無機質な駆動音を鳴らすだけ。


 加減したとはいえ、《音波砲》の直撃を受けたはずなのに、ほとんどダメージを感じさせない。


 場ちがいな西部劇風の男と、銀色のガイコツめいたアンドロイド。


 春の草原というのどかな景色とあまりに不釣り合いなその姿に、アリスはぞくりとした不気味さと、重くのしかかる威圧感を覚えた。


 だが――目はそらさない。


 アリスは一瞬で状況を整理する。


 透明な球体に閉じ込められた【モモイロハネウサギ】。


 ボロボロになりながらも、それを守り抜いたブルー。


 そして、あきらかにただ者ではない敵。


 本来なら、目的の、希少なワンダーを見つけたことに胸を躍らせてもおかしくない。


 けれど今は、そんな余裕はない。


(まずは……あいつを止める!)


 直感と本能が、警鐘のように鳴り響いていた。


 緋羽莉も、胸元に大きな手を当て、静かに相手を見すえる。


 引き締まった体に、ぴんと伸びた背筋。


 その立ち姿は堂々としているが、ひとみの奥は鋭い。


 アリス以上に戦い慣れている彼女は、ガンマン男の底知れない強さを一目で見抜いていた。


(この相手は……アリスひとりじゃ危ない!)


 瞬時に判断し、左手のスマートウォッチを構える。


 ガンマン男はテンガロンハットを指で押し上げ、アリスの青いひとみをじっと見返した。


 揺らぎのない、まっすぐな視線。


 覚悟を決めた目だ。


 言葉では引かない――そう悟ると、男は低く言った。


「俺とやる気のようだな」


 アリスは、無言でうなずく。


 ブルーの傷ついた姿が、視界の端に映る。


 胸の奥が、熱くなる。


 緋羽莉も、ごくりとつばを飲みこみ、ウォッチを操作する。


「シンディさん……!」


 紅蓮の光とともに現れたのは、【灰焔姫シンデレラ】――シンディ。


 長身で、重厚な筋肉に包まれた褐色の肉体。


 肩幅は広く、腕は丸太のように太い。


 隆起した筋肉は鎧のように盛り上がり、その一歩ごとに地面が低く震える。


 それでいて、琥珀色のひとみはふしぎなほど穏やかで、炎を宿しながらも慈しみに満ちていた。


 戦場に立つ者の強さと、誰かを抱きしめることのできる優しさが、同時にそこにある。


 燃えさかる炎の気配をまとい、堂々と立つその姿は、まるで戦場に降り立つ女王のようだった。


 はじめて彼女を間近で見るブルーは、思わず息をのむ。


(お、おっきい……! まさに、緋羽莉ちゃんのパートナーって感じだ……アカネより!)


 頼もしさと同時に、圧倒的な存在感。


 緋羽莉がその背に立つ姿は、まるで炎を従える姫君のようだった。


「おねがい……!」


 その声には、命令でも依存でもない、まっすぐな信頼がこめられている。


 シンディはその響きを聞くだけで胸が熱くなる。


 ――この子のためなら、どれほどの痛みでも受け止めよう。


 それが彼女の、ゆるぎない誓いだった。


「ガンマ、すぐに仕留めろ」


 男が命じる。


 機械人形――正式名称【ガンマ-10000】が一歩前へ出る。


 右腕は巨大な銃身。


 百発百中を誇る、射撃特化型アンドロイドワンダー。


 その銃口が、ミルフィーヌに向けられた。


 アリスのひとみがするどく光る。


「右に跳んでっ!」


 ドォン!


 指示は、発砲より速かった。


 ミルフィーヌは地面を蹴り、すれすれで回避。


 さっきまで立っていた場所の草がえぐれ、黒く焦げた煙が立ちのぼる。


「そのまま突っこんで!」


 止まれば撃たれる。


 アリスの先読みと的確な判断が、戦況をつなぐ。


「チッ……!」


 ガンマン男が舌打ちする。


 小柄で俊敏なミルフィーヌは、照準が定まらない。


「わたしたちも!」


 緋羽莉が大きく腕を振り、シンディに合図を送る。


 緋色のポニーテールが弧を描く。


『まかせて!』


 その声には力強さがあった。


 そして、ほんのわずかにやわらぐ。


 振り向きざま、シンディは一瞬だけ緋羽莉を見る。


 その視線はやわらかく、深く、限りなくあたたかい。


 まるで「あなたと、あなたの大切なものたちは、私が必ず守る」と言葉にせず伝えるように。


 重厚な肉体が、大地を揺らすように走り出した。


 ドス、ドス、ドス――


 迫りくる威圧感。


 だが、男は冷静だった。


「狙いは、あのデカブツだ」


 すばしっこいミルフィーヌをあえて無視し、まずは鈍重な最大戦力から削る。


 合理的で、冷酷な判断。


 ガンマの銃口が、走るシンディの額を正確にとらえる。


 ドォン!


『ふぐっ!?』


 額を撃ち抜かれ、巨体がぐらりと揺れる。


 強靭な首が衝撃を受け止めきれず、視界が白く弾ける。


 頭が跳ね上がり、炎のような髪が散る。


 皮膚が裂け、焦げた匂いが漂った。


 赤黒い弾痕がにじみ、整った顔立ちが一瞬でゆがんだ。


 それでも前へ出ようとした足が、わずかに空を踏む。


 だが――彼女は止まらない。


 そこに、二発目、三発目。


 ドォン! ドォン!


『ぐうっ!? ああっ……!』


 右腕を撃たれ、筋肉がはじける。


 腹部への直撃で、肺の空気がすべて押し出される。


 すさまじい激痛に、思わず前のめりに折れる。


 呼吸が一瞬止まり、喉からかすれた音がもれる。


 足取りが乱れ、片ひざが地面に触れかける。


 内臓を揺さぶられるような衝撃に、シンディの美しい顔が、苦痛でさらにゆがむ。


 決して優雅ではない、痛みに耐える姿だった。


 足元の土がえぐれ、踏みしめた地面にひびが走る。


 大きな体ゆえに、狙いは外れない。


 強烈な連射が、ついにその足を止めた。


 ぐらり、と体が揺れる。


 それでも――


 ひざはつかない。


 琥珀色のひとみが、炎のように燃えている。


 肩で荒く息をし、額から汗が流れ落ちる。


 美しかった戦場の女王は、いまや弾痕と焦げ跡にまみれている。


 だが、そのひとみの奥だけは、少しもくもっていなかった。


 背後には、愛する家族が、緋羽莉がいる。


 その存在が、彼女を立たせている。


 あの子を思うだけで、胸の奥が焼けるように熱くなる。


 どれほど無様でも、あの子の前で倒れるわけにはいかない。


「シンディさんっ……!」


 緋羽莉の声が震える。


 だが、恐怖ではない。信頼だ。


 こんなことで、シンディは倒れない。そう信じている。


 その声を聞いた瞬間、シンディの意識がはっきりと戻る。


 どれだけ体が悲鳴をあげても、あの子の声が届くかぎり、私はまだ終わらない。


 緋羽莉への、あまりに深い愛情。それこそが、彼女の強さの源だった。


 その間に――


「《ズバットスパート》!」


『ワオーン!』


 地を駆ける、こむぎ色の影。


 シンディが受け止めた銃撃のスキを突き、ミルフィーヌが一気に間合いを詰める。


 剣をくわえたまま、渾身の一閃。


 金属を裂く、耳をつんざく音。


 マントごと、ガンマの鋼鉄の脇腹が深く切り裂かれた。


 火花が散り、内部の配線が露出する。


 戦況は、動きはじめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ