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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第46話 本領発揮の第二ラウンド

 異空間ブロッサムスクエア。


 さわやかな風が吹きわたり、桜の花びらがひらひらと舞う、明るい色の草の原っぱ。その中央で、二人のウィザードとパートナーのワンダーたちが、にらみ合っていた。


 金髪碧眼の小学五年生、アリス・ハートランド。


 そのパートナーは、空色のドラゴンの子【セルリアンドラコ】のブルー。


 対するは、異空間(ワールド)で活動する"ワンダーレンジャー"、犬飼もふる。


 そのパートナーは、三メートルを超える白いポメラニアン【ドデカニアン】のわたあめだ。


 いまは、いわば第二ラウンド。


 第一ラウンドで先鋒をつとめたアリスのパートナー、子犬の【キャリバリア】ミルフィーヌは、善戦むなしく倒れてしまった。


 巨体のわたあめに一矢報いるべく、頭上へ必殺の一撃をたたきこんだものの、手ごたえはあったのかどうかも分からない。


 わたあめは相変わらず舌を出し、ポメラニアン特有ののんきな顔を浮かべている。


 そんな相手を前にして、ブルーは小さな胸をどきどきさせていた。


 ウィザードのアリスも、迷いは振り切ったものの、決定的な攻略法はまだ見つけられていない。


「アリスー! ブルー! だいじょうぶだよーっ!」


 後方から、元気いっぱいの声援が飛んできた。


 アリスの大親友、緋羽莉だ。


 春の光を受けて立つその姿は、遠目にもすぐ分かるほど目立っている。


 長身で引きしまった体つきに、ふわりとかわいらしい服。


 動きやすさと可愛らしさが同居したその姿は、元気いっぱいの彼女にぴったりだ。


 満開の桜にも負けない、ぱっと明るい笑顔。


 緋色のポニーテールと黄色いリボンが風に揺れ、健康的な肌は桜の舞う景色の中でもひときわ生き生きと輝いている。


 その姿は、まるでこの空間の太陽みたいだった。


 その声に、アリスはハッとする。


 もちろん、親友の応援はうれしい。


 けれど――それだけじゃない。


 緋羽莉は、とびきりあかるくて、ウソやごまかしがとにかく苦手だ。


 思ったことは、そのまま顔や声に出てしまうタイプ。


 だからこそ、その言葉にはいつだって“ほんとう”がこもっている。


 探偵の沙織に鍛えられたアリスの観察力は、その変化を見逃さなかった。


(この声は……ただのはげましじゃない……?)


 劣勢のアリスを元気づけるための、根拠のない言葉じゃない。


 このバトルには、まだ勝ち目がある。


 そう確信している声だった。


 緋色のポニーテールは、うれしい犬みたいにぶんぶん揺れている。


 泣いたあとの大きな黄色いひとみには、もう不安の色はなく、まぶしいくらいの希望が宿っていた。


 笑うと大きな黄色いひとみがきらきら細まり、まわりの空気まであかるくなる。


 声を出すたび胸いっぱいに息を吸いこむから、体ぜんたいが弾むように上下していた。


 ぎゅっとにぎられた大きな手、地面をしっかり踏みしめる長い足。


 その体ぜんぶからあふれる“信じてる”という気持ちが、言葉以上にアリスへ届いていた。


 そして、アリスは気づく。


(……そういうことか!)


 わたあめはダメージを受けていないんじゃない。


 ただ、ダメージに鈍感なだけだ。


 ミルフィーヌの《ワンダフルストライク》や《音波砲》は、確実に効いている。


 あののんきな顔に、だまされていただけだ。


 同じように体が大きくて、体力自慢の緋羽莉だからこそ、わかったのかもしれない。


 緋羽莉は、つらさや苦しさを顔に出さないクセがある。


 いつも平気なふりをして、ぎゅっとこらえてしまう子だから。


 ――ほんとうはアドバイスしたい。


 でも、それはマナー違反になる。


 その板ばさみの中で、緋羽莉は“応援”という形で想いをぶつけてきたのだ。


 まっすぐで、不器用で、全力の声援。


 それはもう、ほとんど暗号みたいなメッセージだった。


 そしてアリスは、それをちゃんと受け取った。


(攻撃が効いてるなら、こわくない!)


 胸の奥に、勇気が灯る。


(緋羽莉ちゃん……ありがとう。でも今は言わない。この気持ちは――勝って返す!)


 視界の端で、桜吹雪の中に立つ親友の姿がまぶしく光る。


 背すじを伸ばし、全身で応援を送り続けるその姿は、どんなお守りよりも心強かった。


「いくよ、ブルー! 《プリズムボール》!」


『はあーっ!』


 ブルーは両手を前にかざし、サッカーボールほどの大きさの虹色の光球を生み出す。


 それを、思いきり前へ打ち出した。


『ワフーン!』


 光球はわたあめの顔面に直撃し、ぱっとはじける。


 のんきな鳴き声があがる。


 けれど、もうアリスはだまされない。


 あれはまちがいなく、ダメージを受けた悲鳴だ!


「ダッシュ!」


 アリスの声に、ブルーは地面をけって走り出す。


「来るよ! ふんづけちゃえ!」


 もふるも腕を振って指示を出した。


『ワフン!』


 わたあめは顔をぶるぶる振ると、目の前まで迫ったブルーの小さな体を、大きな前足で踏みつぶそうとする。


「すべりこんで!」


 アリスの指示。


 ブルーはさらにスピードを上げ、ヘッドスライディングのように体を低くし、踏みつけを紙一重でかわした。


 そのまま、わたあめの大きなおなかの下へ!


「《スカイナックル》!」


 アリスは思わずアッパーカットのポーズ。


 ブルーの右こぶしに空色のオーラが宿る。


 ジャンプ一番――


 小さなドラゴンの渾身の一撃が、巨体を下から打ち上げた!


『ワフォーン!?』


 どてっ腹に強烈なアッパーを受け、わたあめの巨体がわずかに宙へ浮いた。


 今のは――かなり効いたはずだ。


「わたあめ!?」


 主人であるもふるの、あせりをにじませた声が、その事実をはっきり物語っている。


(わたしの……ううん、緋羽莉ちゃんの考えは正しかった!)


 アリスはそう確信し、ぎゅっとこぶしをにぎる。


「もういっちょー!」


『たあーっ!』


 ブルーが真下から二発目のアッパーカット!


 わたあめの腹に二度目の衝撃が突き上げ、苦しそうな声とともに、体はさっきより高く持ち上がった。


「いつまでもこのままでいくと思わないでよ!」


 ムキになった表情のもふるが、両腕をばっとひろげる。


 その動きから、アリスは次の行動を即座に読み取った。


「そこから逃げて!」


 ブルーはすぐさまダッシュで、わたあめのおなかの下から脱出する。


 その判断の早さに、もふるはぎょっと目を見開き、二本の三つ編みがびくっと跳ねた。


 次の瞬間――


 ズズーン!!


 わたあめは巨大な体を地面にたたきつけるように“伏せ”の体勢へ。


 さっきまでいた場所を、ぺしゃんこに押しつぶした。


 ブルーを下じきにするつもりだったのだろう。


 だが、それもアリスの先読みどおり。


「ムキーッ!」


 もふるは白目になり、歯を食いしばって両こぶしをにぎりしめた。


 その姿には、もはや大人の余裕などかけらもない。


「いいよっ! アリス! ブルー! さいっこうーっ!!」


 緋羽莉は大きくジャンプし、両手をぶんぶん振って大歓声。


 すらりと長い手足が大きくしなり、全身でよろこびを表現している。


 引き締まった体が軽やかに弾むたび、緋色のポニーテールと黄色いリボンが春の空気をはじくように跳ねた。


 桜色の空に映える笑顔は、まぶしい太陽みたいだ。


 健康的な色のほおが紅潮し、大きな黄色いひとみがきらきらと輝いている。


 ころころ変わる表情は愛らしく、その場の空気まであかるくしてしまいそうだった。


 揺れるポニーテールも、全身の動きも、うれしさをかくしきれていない。


 足先までぴょこぴょこと動き、応援のたびに体が前のめりになる。


 背すじがすっと伸びた立ち姿は驚くほどきれいで、元気いっぱいなのにどこか凛として見えた。


 その圧倒的なほどの熱は、まっすぐアリスたちに届いていた。


「しっぽが来るよ!」


「体当たりだよ!」


「横っ飛びしてプリズム!」


 バトルはさらに激しくなる。


 アリスの先読みは冴えわたり、的確な指示が次々と飛ぶ。


 ブルーはそれに完璧に応え、攻撃をかわし、反撃を重ねていく。


 ふたりの呼吸は、まるでひとつの心みたいにぴったりだった。


 そんな姿に、緋羽莉は胸いっぱいに熱をためこんで、ぴょんぴょん跳ねたり、その場でくるりと回ったり。


 そのたびにポニーテールが大きな弧をえがき、手足の長さがいっそう目立つ。


 動きのひとつひとつがのびやかで、見ているだけで元気を分けてもらえるようだった。


 その全力の応援が、アリスとブルーの背中を押し続ける。


 大きな手を口元にそえて声を張り上げる姿は、まるで頼もしい応援団長。


 あかるさと力強さが同居したその存在感は、戦場の空気さえも押し上げていた。


 いっぽうのわたあめは、相変わらずのんきな顔をしているものの、体にははっきりと疲れが見えはじめていた。


 息は荒くなり、ふわふわの毛並みは乱れ、足どりもわずかにふらついている。


 ダメージは、確実に蓄積している。


(あと一押し……!)


 アリスがそう確信した、そのとき。


「勝った気になるのは早い! 今度は加減なしよ! 《音波砲》!」


『ワオーーーーーン!!』


 わたあめが、全身の力をこめてほえる。


 空気がビリビリと震え、超巨大な衝撃波のリングがブルーめがけて放たれた。


 アリスは、この技が来ること自体は読んでいた。


 ミルフィーヌを倒した、あの技だ。


 だが――


(大きすぎる……!)


 規模が、想像をはるかに超えていた。


 地面の草がえぐれ、波のように押し倒されていく。


 それがブルーをのみ込み、さらに後方のアリスまで一直線に襲ってくる。


(このままじゃ……ブルーも、わたしも……!)


 安全を守るはずのレンジャーが、人間まで巻き込む攻撃を放つなんて――


 そんな考えがよぎるが、いまはそれどころじゃない。


(ぼくが止めなきゃ、アリスがあぶない!)


 ブルーはとっさに両手を前へかざし、衝撃波を受け止めようとする。


 その姿を見て、アリスは叫んだ。


「《バタフライエフェクト》!」


 ブルーの両手からピンク色の光があふれ出す。


 相手の技を無効化してしまえる、ひときわふしぎなチカラ。


 だが――


「……! だめっ!」


 緋羽莉が、悲しげな声をあげた。


 さっきまで太陽みたいに笑っていた顔が一瞬でこわばる。


 長い足が思わず一歩踏み出し、大きな手が胸の前でぎゅっと組まれた。


 衝撃波があまりにも巨大すぎる。


 ピンクの光は直撃コースこそそらしたが、完全には打ち消しきれなかった。


 音の奔流はブルーの体をかすめ、いきおいを保ったまま後方へ流れ――


 アリスをのみこんだ。


「きゃあああーっ!」


 高い悲鳴。


 金色の髪が宙にひろがり、小さな体がふわりと持ち上がる。


 アリスは、衝撃波に吹き飛ばされ、空中へと放り出された――。

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