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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第41話 はじめてのぼうけん

「ぼっうけん、ぼっうけん、たーのしーいなー♪」


 アリスはにこにこ笑顔で鼻歌を歌いながら、先頭に立って歩いていた。


 ここは異空間(ワールド)・ブロッサムスクエア。


 あかるい黄緑色の草原がどこまでも広がり、ゆるやかな丘が波のようにつづいている。


 満開の桜の木々が無数に立ち並び、風が吹くたび、花びらが雪のように舞い落ちた。


 空は、澄んだ青から淡いピンクへと溶け合うようなグラデーションを描き、まるで夢の中にいるようだ。


 こんな場所を歩いていれば、胸がわくわくしてくるのも無理はない。


 その足もとをちょこちょことついてくるブルーも、最初は少し不安そうだったが、いつのまにか表情がやわらいでいた。


 桜の花びらが頭に乗るたび、くすぐったそうに身をよじらせている。


 その少し後ろを歩くのは、大きなお弁当バスケットをかかえた緋羽莉だ。


 バスケットは見た目以上に重そうだが、緋羽莉は涼しい顔で持ち上げている。

 

 腕や脚はよく鍛えられていて、力強さを感じさせるのに、動きはしなやかで、どこかやさしい。


 歩くたび、ほのかに甘い香りが風に混じり、ブルーは思わず振り返りそうになるのをこらえていた。


 アリスよりずっと背が高く、歩幅も大きいが、歩く速度はしっかり合わせている。


 やさしいまなざしでふたりを見守りながら、うれしそうにほほえんでいた。


 はたから見れば、同級生というより、面倒見のいいお姉さんのようだ。


 もっとも、ピンクを基調にしたかわいらしい服装と、あかるい雰囲気のせいで、自然と親しみやすさも感じさせる。


『そういえば、新しいワンダーを仲間にしたいって言ってたけど、どうするの?』


 ブルーが、ふと思いついた疑問を口にした。


 どうやら、ずっと気になっていたらしい。


「それはね、どうやって仲間にするのか、なのか。それとも、どんな子を仲間にするのか、かな? どっちが聞きたい?」


『どっちも、かな』


 アリスはくるりと振り返り、裸眼ながらメガネをくいっと持ち上げるようなポーズをした。


 そして、いかにもとくいそうな顔で解説をはじめる。


「どうやって仲間にするのか、はカンタンだよ! ワンダーと人間が、おたがいに仲間(パートナー)になりたい! って思えば、それだけでOK!」


『えっ』


 あまりにもざっくりした説明に、ブルーは目を丸くした。


 それはもう、解説と呼んでいいのかどうか、あやしいくらいだ。


 あれこれ言おうとしたが、言葉が見つからない。


 帰ったら、家にある本でも読んでみようかな。


 あ、でも、まだ地上の文字読めないや。


「そんな顔しないでよ。ブルーだって、そうだったでしょ?」


 アリスにそう言われて、ブルーはハッと思い出した。


 たしかに――。


 ぼくがアリスのパートナーになりたいって思って、それを口に出したら、アリスがこたえてくれた。


 そうやって、ぼくたちはパートナーになったんだ。


『そう……か、そうだったね』


 ブルーは、すとんと納得した。


 その様子を見て、緋羽莉も胸がぽかぽかするような表情で、ふたりを見つめている。


 大切なものを見守るような、あたたかい視線だった。


『でも、それって言うほど、カンタンなことじゃないよね』


 ブルーは、もうひとつの記憶を思い出していた。


 アリスのパートナーになる直前、犬童におどかされたときのことだ。


 犬童は悪いヤツだった。


 ブルーは、そんな相手のパートナーになんて、ぜったいになりたくないと思った。


 だれもがみんな、アリスや緋羽莉みたいな、いい人というわけじゃないだろう。


 そう考えると、ワンダーと人間が心を通わせるのは、やっぱりむずかしいことなのだ。


 けれど、アリスはふっとほほえんで、迷いなく言い切った。


「わたしはカンタンなことだと思ってるよ」


 自信に満ちたひとことだった。


 まるで、世界中すべてのワンダーとなかよくなれると信じているかのような――


 そのまっすぐさとスケールの大きさに、ブルーは思わず息をのむ。


「うん、わたしもそう思う!」


 今度は、緋羽莉がにっこりとうなずいた。


 その声はあかるくて、迷いがなくて、聞いているだけで元気をもらえる。


 強くてやさしくて、信じることを疑わない――そんな緋羽莉らしさが、そのひとことに詰まっていた。


 このふたりは、あまりにも――。


 ブルーは、またうまく言葉にできなかった。


 ただひとつわかっているのは、このふたりと友だちになれて、本当によかったということだ。


 いまは、それでいい。


『でも、さっきの【サクラモッチー】は、仲間にしなくてよかったの?』


「う~ん。たしかにかわいかったし、かじると甘いらしいけど……今回はスルーかな」


『どうして?』


 ブルーは、“かじると甘い”という部分には触れないことにした。


「むやみやたらと仲間にすると……その……ごはん代が……」


 アリスは両手の指をちょんちょんと合わせながら、バツが悪そうに目をそらす。


 一般的な小学生のおこづかい事情では、何体ものワンダーをお世話するのは難しい。


 ふしぎ小のバトルガチ勢でも、よっぽどのセレブ(おカネもち)でなければ、多くて4~5体が限界だ。


『そ、そっか……そういうことなら、しかたないね……』


「そう、しかたないの!」


 ごまかすように、きっぱり言うアリスを見て、緋羽莉はこらえきれずに笑った。


 その笑い声は、ころころと鈴が鳴るようで、場の空気を一気にやわらげる。


 緋羽莉が笑うと、まわりまでつられて楽しくなってしまうのだ。


「だからね、いまは仲間にするワンダーは厳選するの。このブロッサムスクエアに来たのは、どうしても会いたい子がいるからなんだ」


『どうしても、会いたい……?』


 ブルーは息をのみ、少しだけ複雑な気持ちになった。


 理由はわからない。けれど、アリスがそう言うと、胸の奥がちくりと痛む。


「その名も、【モモイロハネウサギ】! めずらしい【ハネウサギ】の中でも、とくにめずらしい子だよ!」


 アリスは胸を張り、とくいそうにそう言った。


 ――ハネウサギ。


 沙織のパートナーであるブラウンと同じ種族なので、ブルーももちろん知っている。


 羽のような形の大きなたれ耳を持ち、ぴょんぴょん跳ね回る姿がとても愛らしいワンダーだ。


 そのマスコット的なかわいさのせいで、かつては人間に乱獲され、数を減らしてしまったとも言われている。


 生きのびるため、姿を隠す技術を発達させ、いまではめったに姿を見かけなくなった――


 そんな話を、ブルーは思い出していた。


 ハネウサギの体色は基本的に茶色だが、色ちがいも多い。


 その中でも、とくにめずらしいのが桃色と空色なのだという。


「ワンダーの体の色ってね、住んでいる環境の影響を強く受けるんだよ。さっきの【サクラモッチー】みたいにね」


『ああ、たしかに……空とか、花の色みたいに、ピンクだったもんね』


 ブルーがうなずくと、アリスは満足そうに笑った。


「でしょ? だから、きっといるよ! ハネウサギが、こういうのどかな場所を好むってことも、わかってるし!」


 あかるい黄緑色の草原。ゆるやかに起伏する丘。


 満開の桜の木々が、どこまでもつづいている。


 花びらが風に舞い、空は青から淡いピンクへとなめらかに溶け合っている。


 この異空間――ブロッサムスクエアそのものが、まるでモモイロハネウサギのために用意された舞台のようにも思えた。


「さっすがアリス! あったまいい!」


 緋羽莉が、ぱっと花が咲くような笑顔で声を上げた。


 声を出した瞬間、彼女の表情はさらに生き生きと輝き、大きな黄色いひとみがきらきらと光を映していて、心から感心しているのが伝わってくる。


 背が高くて元気いっぱいなのに、その表情はやわらかくて、親しみやすい。


『でも、すごくめずらしいんだよね? 見つかるかなあ?』


 ブルーが正直な不安を口にすると、アリスは少し声をひそめて言った。


「あてはあるんだよ」


『あて?』


「わたしたちには、ブラウンがいるでしょ?」


『そりゃ、いるけど……。でも、ブラウンはサオリさんのパートナーだよね?』


「でもさ、わたしたちにも、なついてくれてるでしょ?」


『……まあ、そうだけど』


 ブルーも、それなりに、少しずつブラウンと距離を縮めているつもりではある。


「わたしも、ブラウンとはなかよしだよ!」


 緋羽莉が元気よく手をあげて、話に加わった。


 腕を上げた拍子に、ピンクの袖がふわりと揺れ、引き締まった腕と、健康的な肌がちらりとのぞく。


 大きな手で無邪気にアピールする姿は、頼もしさとかわいらしさが同時に感じられた。


 緋羽莉はごらんのとおりの性格で、稲葉家にもよく出入りしている。


 ブラウンとの付き合いも長く、ブルー以上に親しいと言ってもいい。


「だからね、わたしたちの体には、ブラウンのにおいとオーラが、自然としみついてるんだ。モモイロハネウサギも、それを感じ取って、警戒をゆるめてくれるはずだよ」


 アリスはそう言って、少しだけ声を弾ませた。


「もしかしたら、仲間だって思ってくれるかもしれないし!」


 そのひとみは、期待でキラキラと輝いている。


 ブルーは、ほっと胸をなでおろした。


 今回はちゃんと考えられていると、直感とひらめきだけで突っ走る、いつものノープランじゃないと。


 ……いや、今回も割とひらめきで突っ走ってるな。


「さっすがアリス! あったまいい!」


 緋羽莉は、またしても満面の笑みで絶賛した。


 その笑顔は、太陽みたいにまぶしくて、アリスへの好意が、まっすぐに伝わってくる。


「そういうわけだから、ブルーも手伝ってね。ドラゴンのセンスに、期待してるよ」


 アリスがぱちん、とウインクする。


 その一瞬で、ブルーの胸はじんわりと熱くなった。


 正直、自分の感覚にそこまで自信があるわけじゃない。


 それでも――アリスに期待されるのは、うれしい。


『……うん!』


 だから、力強くうなずいた。


「ねえ……やっぱり、わたしは手伝っちゃダメ……かな?」


 緋羽莉が、後ろ手を組んで、少しだけ身をかがめる。


 長い脚が自然とそろい、背の高い体がかがむことで、ぐっと距離が近づく。


 上目づかいになった大きなひとみと、ほんのり照れたような笑顔が重なり、無意識なのに、ずるいくらいかわいらしい。


 大好きな親友の役に立ちたい。その気持ちが、しぐさの端々からあふれていた。


 ブルーとアリスの胸が、きゅんとなる。


 強くて、たくましくて、スタイルも目を引くのに、その奥にある心は驚くほどやさしく、まっすぐだ。


 緋羽莉は、体格も感覚も、人並み外れている。


 それでいて心は純真で、やさしく、誰にでも分けへだてなく接する。


 ワンダーに好かれやすいのも、むしろ当然だ。


 ほんとうなら、モモイロハネウサギを探すうえで、これ以上ない戦力なのだが――


「……ダメ」


 アリスは、はっきりと言った。約束は約束だからだ。


 その顔は、ものすごく残念そうで、いやいやだという感じがとても伝わってくる。


 胸にも、ズキズキどころか、グサグサッときていた。


「……わかった。アリスが言うなら、応援だけにしておくね」


 緋羽莉は一瞬だけ残念そうに眉を下げ、それでもすぐに、あたたかい笑顔を浮かべた。


 その笑顔は、残念な気持ちを押しつけるものではなく、包み込むようなやさしさと、親友への信頼と尊敬に満ちていた。


 ――こうして、はじめてのぼうけんは、静かに、でも確かに動き出す。


 はたしてアリスたちは、モモイロハネウサギに出会うことができるのだろうか?

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