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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第40話 ブロッサムスクエア

「ワンダフル……!」


 アリス、ブルー、緋羽莉は、そろって感激の声をもらした。


 目の前に広がるのは、あかるい黄緑色の草原。ゆるやかに起伏する丘の地形。そのあちこちに、満開の桜の木が無数に立ち並んでいる。


 心地よい春風が吹き抜け、花びらを空へと舞い上げる。


 見上げれば、空は青から淡いピンクへと溶け合うようなグラデーションを描いていた。


 すべてが現実離れした幻想的な風景で、三人は、はっきりと実感していた。


 ――ここは、もう元の世界じゃない。まぎれもないふしぎの国、別世界だ。


『でも、どうして……こんなに広いの?』


 ブルーがふしぎそうに首をかしげる。


 それもそのはずだ。この異空間ワールドは、中に入るまでは、市街地の一角にぽつんとあった、桜の木が何本か生えているだけの、小さな四角い空き地だったはずなのだから。


「ワールドはふしぎな空間なの。外から見るより、ずっと広くなってるのよ」


 アリスは、当たり前のことのように言った。


 ふしぎ――なんて都合のいい……いや、便利な言葉なんだろう。


 ブルーはあきれたような、それでいて感心したような気持ちで、心の中でうなずく。


「いわゆる“空間歪曲”だね。ワンダーのチカラで、空間そのものをひろげてるんだよ」


 そう補足したのは緋羽莉だった。


 少し困ったような、でも楽しそうな笑顔を浮かべている。


 大きな黄色いひとみがきらきらと輝き、話す相手をまっすぐ見つめるその視線には、やさしさと誠実さがにじんでいた。


「りんごちゃんか閃芽ちゃんがいたら、もっとくわしく解説してくれたと思うけど」


 そう言ってから、緋羽莉はいったんお弁当のバスケットを地面に置き、両腕を大きくひろげた。


 腕をのばす動作ひとつとっても、迷いがなく、しなやかだ。


 大きな手のひらがぱっと開き、長い指が春の空気をつかむように動く。


 そして胸いっぱいに、すうーっと息を吸いこむ。


 肺活量のすごさを物語るように、空気を吸いこむ音がはっきりと聞こえた。


 緋色のポニーテールが春風に揺れ、黄色いリボンがひらりと踊る。


 マゼンタ色のミニスカートと白いフリルがそよそよと波打ち、ピンクのオフショルダーとたすきがけのポーチも、この景色によく映えていた。


 おめかしした服装はかわいらしいのに、立ち姿は堂々としていて、頼もしさすら感じさせる。


 そのアンバランスさが、かえって緋羽莉らしかった。


 舞い散る桜の花びらに包まれたその姿は、まるで春の妖精のよう――……と呼ぶには、体が大きすぎるか。


「あー! すっごくいい空気! 景色もきれいだし、最高だね!」


 声が少し大きいのも、いつものこと。


 でも、その元気な声は、この草原によく似合っていた。


 桜にも負けない、ぱっと咲いたような笑顔。


 健康的な肌は陽ざしを受けてつややかに輝き、見ているだけで元気をもらえる。


 アリスは、そんな親友の横顔を見つめながら、


(……緋羽莉ちゃんのほうが、きれいだよ)


 なんて、思ってしまった。


 背が高くて、たくましくて、それでいてやさしくて。


 いっしょにいると、ふしぎと安心できる存在。


 次の瞬間、はっとして、顔が熱くなる。


 あわてて、ぷいっと視線をそらした。


『ヒバリちゃんも、ここに来るのはじめてなの?』


 ブルーが、また疑問を口にする。


 緋羽莉は、バトルを禁止されていたわけじゃない。


 それなら、ワールドに入った経験があってもおかしくないと思ったのだ。


 緋羽莉は後ろ手を組み、ブルーを見下ろしながら、やさしくほほえんだ。


 少しかがんで目線を合わせる、そのしぐさが自然で、相手を思いやる気持ちが伝わってくる。


「んーん。きょうがはじめてだよ。アリスの禁止令が解けるまで、冒険はひかえてたからね」


 その言葉に、アリスの胸がきゅんと鳴った。


 親友だから知っていた。


 でも、あらためて言葉にされると、うれしさと、もうしわけなさが一気にこみ上げてくる。


「だからね――わたし、きょうこの瞬間を、ずっと楽しみにしてたんだ!」


 緋羽莉は、まっすぐアリスを見て言った。


 大きなひとみに、まっすぐな気持ちを宿して。


「アリスとこうしていっしょに、ワンダーワールドへの最初の一歩を踏み出す日をね!」


 いつもの、太陽みたいな満面の笑顔。


 その笑顔には、迷いも、計算もない。


 ただ純粋に、大好きな友だちといっしょにいられることが、うれしくてたまらないのだ。


 それだけで、アリスは心がほどけていくのを感じた。


「……そうだね、待たせちゃって、ごめんなさい」


 アリスは、やさしくほほえんで言った。


 緋羽莉はなにも言わず、もう一度にっこりと笑い返す。


 その笑顔は、さっきよりも少しだけ、やわらかかった。


 そのやりとりを見ていたブルーは、


(ぼくも、こんなふうにアリスとなかよしになりたいな)


 と、自然と顔をほころばせていた。


『……それで、ここはなんていう名前なの?』


 ブルーは、さらに質問する。


 ドラゴピアのように、このワールドにも名前があるはずだと思ったのだ。


 アリスは両腕をひろげ、誇らしげに答えた。


「ここは"ブロッサムスクエア"。桜の広場って意味よ。春のあいだしか入れない、人気の限定スポット!」


 たしかに、周囲を見渡すと、自分たち以外にもウィザードとワンダーの姿がちらほら見える。


 町中ほどではないが、なかなかのにぎわいだ。


 緋羽莉は周囲を見回しながら、楽しそうにきょろきょろしている。


 知らない世界、知らない景色に、胸が高鳴っているのが、表情からはっきりと伝わってきた。


「でも、忘れちゃいけないのは、あくまでここはワンダーの領域だってこと。野良のワンダーがたくさんいる。その中には、攻撃的な子だってたくさんいるから、お花見には向かないんだよね」


 そう言いながら、アリスは、かわいらしくバスケットを両手で下げている緋羽莉を、ちらりと見た。


 そのバスケットも、緋羽莉の大きな手にかかると、少し小さく見える。


 けれど、あつかいはとても丁寧で、そっと大切そうに持っているのがわかる。


 緋羽莉は視線に気づくと、条件反射のように、にこっと笑う。


 皮肉のつもりだったアリスの視線は、まったく通じていない。


 さすがの純真無垢っぷりだった。


『モチー!』


 ドーン!


『うわー!』


 次の瞬間、ブルーがなにかにぶつかられ、小さくふっとばされた。


「……ほらね」


 アリスが、いたずらっぽく笑う。


 言ったそばから、野生のワンダーの登場だ。


 薄いピンク色で、体高は30センチほど。


 まるっとした体に、目がふたつついただけの、さくらもち型ワンダー、【サクラモッチー】。


 体はおもちのようにやわらかいが、弾力があり、いきおいよく体当たりされると、けっこう痛い。


「かーわいい!」


 緋羽莉は目を輝かせるが、ブルーにとっては、それどころではない。


 ふるふると首を振り、ぴょんと跳ね起きると、相手をにらみつけた。


 いきなり攻撃してきたんだ、敵意ありとみるべきだろう。


『モチー!』


 サクラモッチーは、ぷくーっと体をふくらませ、戦闘態勢に入る。


(ぷくーってしたいのは、ぼくのほうだ!)


 ブルーは目をつりあげた。


「よし、異空間(ワールド)に入って、さらに野生のワンダーと初バトルだね!」


 アリスは気合いを入れ、左肩をぐるりと回す。


「がんばって、ブルー!」


 緋羽莉のあかるい声援が飛ぶ。


 その声は大きくて、まっすぐで、聞いているだけで力が湧いてくる。


 ブルーとサクラモッチーの、バトル開始だ。


『モチー!』


 野生のサクラモッチーは、体を大きくふくらませ、もう一度いきおいよく突進してきた。


「よけて!」


 アリスのするどい指示が飛ぶ。


 たしかに、あの体はみごとな弾力だが、動きの速さはそれほどでもない。


 いまのブルーなら、十分対応できるはずだ。


 ブルーは横っ飛びで、ひょいとかわす。


 ――が。


『モチー!』


 サクラモッチーは着地すると同時にくるりと向きを変え、ふたたびブルーめがけて跳ねてきた。


 その動きは、地面に当たったあと逆回転して戻ってくるボールのようだ、とサッカー好きのアリスは思う。


『うわわっ!』


 横っ飛びの直後で、もう安全だと油断していたブルーは、今度は反応が遅れ、体当たりを受けて転ばされてしまった。


『モッチー!』


 サクラモッチーは、勝ち誇ったような目で、ぴょんと跳ねる。


 倒れたブルーは、一瞬、やられたと思った。


 無防備に近い状態だったとはいえ、体のダメージ自体はそれほど大きくない。


 だが、「してやられた」という気持ちが、胸にずしりと残った。


(くやしい……!)


 ブルーはその感情をかみしめながら、すぐに体を起こした。


『モッ!?』


 今度は、サクラモッチーのほうがびっくり仰天だ。


 思ったより攻撃が効いていないことに気づき、ぷるぷると体を震わせる。


 まるで冷や汗をかいているみたいだった。


 アリスと緋羽莉は、落ち着いた表情でそのようすを見守っている。


 ふたりのまなざしには、不安よりも、ブルーへの信頼がはっきりと宿っていた。


 緋羽莉は胸の前で大きな手をきゅっとにぎり、長いまつげをふるわせながら、まっすぐにブルーを見つめている。


 その姿は、応援しているだけなのに、そこにいるだけで場の空気をあたたかく照らしていた。


 高い背と引き締まった体つきが目立つのに、ふしぎと威圧感はなく、むしろ包みこむような安心感がある。


「さあ、おかえしよ! 《プリズムボール》!」


 ブルーは両手を前に突き出し、チカラをこめる。


 次の瞬間、虹色にきらめく光の球が放たれた。


『モーッ!』


 プリズムボールは、バーン! と小気味よい音を立てて命中し、まぶしい光を散らす。


 サクラモッチーの体は、とろけたチーズのようにふにゃりと崩れ、くるくると目を回して、そのまま気を失った。


「やったあー!」


 緋羽莉が、思わず大きく跳ねた。


 背の高い体がふわっと宙に浮き、着地と同時に、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。


 自分のことのように、全力でよろこんでいるのが一目でわかった。


 跳ねた拍子に、緋色のポニーテールが弧を描いて揺れ、黄色いリボンがきらりと光る。


 健康的につやのある肌と、よく鍛えられた脚が生む軽やかな動きは、まるでダンスのワンシーンのようだった。


 大きな体なのに、しぐさひとつひとつが素直で無邪気で、見ているだけで元気をもらえる。


 相手はそれほど強敵ではなかったため、実際に戦ったアリスとブルー自身の達成感は、そこまで大きくはなかった。


 けれど、緋羽莉がこんなふうに全身でよろこんでくれると、つられるように、ふたりの胸にもあたたかいよろこびがひろがっていく。


「ところで、ブルー」


『なあに?』


 アリスがふいに声をかけたので、ブルーはきょとんとした。


「なにか、聞きたいことがあるんじゃない?」


 あまりにも唐突な質問だった。


 急にそう言われても、すぐには思い浮かばない。


 けれど、たしかに――なにかが、引っかかっているような気もする。


 そんなときだった。


 背中に、じんわりとした熱を感じる。


 振り向くと、緋羽莉が腰をかがめ、目線を低くして、ブルーを見つめていた。


 大きな体なのに、その表情はとてもやさしく、まるで小さな弟を見るようだ。


 どんな小さな疑問でも、打ち明けたほうがいいよと、うったえているような気がした。


 緋羽莉はアリスに直接助言しないと約束している。


 だから、こうして目で伝えようとしているのだろうか。


 ……いや。


 緋羽莉の性格を考えると、そんな器用なことができるとは思えない。


 たぶん、ただ単に思ったことが、そのまま顔に出ているだけだ。


 ブルーは、そう結論づけた。


『……じゃあ、ホントにちいさな疑問なんだけど』


「うんうん」


 アリスと緋羽莉は、ほぼ同時にうなずいた。


『どうして、《プリズムボール》を指示したの?』


 ブルーの中では、相手のスキを突く場面では、《スカイナックル》を使うものだと思っていたのだ。


「いい質問ね」


 アリスは満足そうにほほえむ。


「ブルー、“特性”についてはおぼえてる?」


『おぼえてるよ。ワンダーが持ってる特殊能力でしょ? 自動で発動するタイプの』


「その通り。【サクラモッチー】は〈モチモチボディ〉って特性を持ってるの」


 アリスは、指を一本立てて説明する。


「これは、打撃系のダメージを大幅に軽減する効果があるのよ」


『あ……それで、プリズムを……』


 ブルーの顔に、ぱっと理解の色がひろがった。


 攻撃の種類によって、有効・不利が変わる。


 ただ技を出すだけじゃなく、相手を知ることが大事なのだ。


 ブルーは、またひとつ成長した気がした。


 アリスは満足そうにほほえみ、緋羽莉も、にこにこしながら、何度も「うんうん」とうなずいている。


 まるで自分のことのように、うれしそうだ。


「それじゃ、そろそろこのワールドの探検をはじめようか!」


「おー!」


 そして、親友ふたりがこぶしをつきあげると、


『ね、ねえ、あの子はどうするの?』


 ブルーが、へなへなになって倒れているサクラモッチーを指さして、たずねた。


 アリスは、くすっと笑って答えた。


「ほうっておけば、すぐに回復して、どこかへ行くからだいじょうぶだよ」


 緋羽莉も、安心させるようににっこり笑って言った。


「ブルーは、ほんとうにやさしいんだね!」


 その笑顔はとてもあかるくて、まっすぐで、見ているだけで胸の奥がほっとあたたかくなる。


 長いまつげに縁どられた大きなひとみがやさしく細められ、緋色のポニーテールが、気持ちに合わせるように小さく揺れた。


 背が高くて存在感のある体なのに、笑うとふしぎなくらい近くて、親しみやすい――そんな空気をまとっている。


『べ、べつに、そんなこと……ないよ……』


 ブルーは急に照れくさくなって、視線をそらした。


 でも、たしかに――そこまで気にする必要はないのかもしれない、とも思った。


 ただ、襲ってきた相手を、身を守るために返り討ちにしただけだ。


 いちいち全部を気にしていたら、きっとキリがない。


 それでも、胸の奥がちくりとする。


(やっぱり、あんまりいい気分じゃないな……)


 だから、次からは、できるだけ加減できるようにしよう。


 ブルーは、そう心に決めた。


「……でも、やっぱり、このままほっぽっとくのはかわいそうだからね! アカネちゃん!」


 緋羽莉は、左手のスマートウォッチに軽く触れて、【スカーレットチック】のアカネを呼び出した。


『あらステキ! ここが異空間(ワールド)なのね!』


 飛び出すなり、アカネは興味津々といった様子で、キョロキョロと首を左右に回す。


 そのひとみは、主人である緋羽莉と同じように、きらきらと輝いていた。


「感激してるところ、もうしわけないけど、あの子を治してあげてくれる?」


『いいわよ。おやすいごようだわ!』


 アカネはとくいげに胸を張って答える。


 ウォッチの中にいても、外のようすは見聞きできるため、状況はすでに把握しているようだった。


 そして緋羽莉は、静かに目を閉じ、祈るように両手を組むと、やさしく唱えた。


「《再生の炎》」


 緋色のポニーテールが、そよ風にふわりと舞う。


 黄色いリボンがきらりと光り、ピンク色の服のフリルが、光を受けて淡くきらめく。


 その姿は、このふしぎなワールドの中でも、ひときわ清らかで、まるで聖女のようだった。


 背すじをすっと伸ばしたその姿は、年齢以上に凛としていて、自然と目を引く。


 アカネは口を開き、やわらかな光を帯びた炎を、サクラモッチーにそっとあびせる。


 すると、体についたキズや歪んでいた弾力が、みるみるうちに元どおりになり、出会ったばかりの、まるまると元気な姿へと戻っていった。


『モチー!』


 サクラモッチーは、元気いっぱいに鳴き、笑顔でぴょんと跳ねる。


「はい! これでもとどおり!」


 緋羽莉は、満開の笑顔で両手をぱっと広げて言った。


 その瞬間、場の空気が一気にあかるくなる。


 背の高い体をいっぱいに使ったそのしぐさは、元気そのもので、見ている人まで笑顔にしてしまう力があった。


「うまくいってよかった!」という気持ちが、言葉より先に全身からあふれている。


 すごいチカラを使った直後なのに、少しも気取った様子がない。


 それどころか、誰かを助けられたことを、心からよろこんでいるのが伝わってきた。


 ブルーは、思わずあんぐりと口を開け、ぽかんとしていた。


 アカネが、こんなすごいチカラを持っていたなんて――。


 さすが、不死鳥のヒナというだけはある。


『で、でも、そんなチカラがあるなら、予選のとき、ぼくたちのことも元気にできたんじゃ?』


 考えていたことが、そのまま口からこぼれてしまった。


 どんな小さな疑問でも打ちあけろ、さっき、緋羽莉が目でそう教えてくれたばかりだ。


 緋羽莉は、ブルーの気持ちをすべて察したように、くすっと笑い、説明しようと口を開きかけたが――


「《再生の炎》は、キズは治せるけど、疲労回復の効果はないの」


 アリスが、やさしく、けれどはっきりと先に説明した。


「むしろ体力を消耗するから、あのとき使っていたら、よけいに動けなくなってたわ」


 きっと、緋羽莉の名誉を守りたかったんだろう。


『そっか……そう、だよね……』


 ブルーはうつむきながら、静かにうなずいた。


 緋羽莉の性格を考えれば、理由はすぐにわかるはずだったのに。


 一瞬でも疑ってしまった自分が、少しだけ恥ずかしい。


 その気持ちを読み取ったのか、緋羽莉はしゃがみこんで、ブルーと目線を合わせ、やさしく笑った。


「気にしなくってもいいよ。わたしのほうこそ、教えてなくてごめんね」


 その言葉に、ブルーの心の中で、ぎゅっと固まっていたものが、ふわりとほどけていく。


 あたたかくて、やさしい気持ちだった。


 アリスが、緋羽莉のことを「いちばんの大親友」だと言う理由が、またひとつわかった気がした。


 強くて、やさしくて、まっすぐで。


 それでいて、笑うと誰よりも無邪気でかわいらしい。


 ただそばにいるだけで、まわりの人を前向きにしてしまう――


 そんな特別な輝きを、緋羽莉は自然に放っていた。


『緋羽莉ったら! こんなおチビに、あやまる必要なんてないわよ!』


 あいかわらず、ブルーにはきびしいアカネだった。


 またさわぎだす前に、緋羽莉はやさしくなだめてから、アカネを自分のウォッチへと戻した。


「ほら、いくよ、ブルー!」


 先に歩き出したアリスが、振り返って呼ぶ。


『……ごめんね』


 ブルーはサクラモッチーに、最後にそうひとこと声をかけてから、アリスのもとへ走った。


 サクラモッチーも、「こちらこそ!」と言いたげに鳴き、ぴょんと跳ねて、逆の方向へ去っていく。


『……』


 その様子を、少し離れた桜の木の影から、じっと見つめているものがいた。


 それは、走っていくブルーの姿を、いつまでも目で追っていた。

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