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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第38話 新しい仲間をもとめて

 ピピピピ……


 スマートウォッチのアラーム音に反応して、アリスはゆっくりと目を覚ました。


 時刻は朝の6時30分。


 きょうは土曜日。学校はお休み。


 本来なら、あと30分は眠っていてもいい時間だ。


 それでもアリスは、平日と同じ時刻にアラームをセットしていた。


 理由は、ゆうべウォッチに届いた、ひとつのメッセージにある。


 ――ふしぎ小学校校内ワンダーバトル大会春の陣・敗者復活戦開催のお知らせ。


(文書のため、途中省略)


 ~つきましては日曜日の本戦開催前に、敗者復活戦を執り行うことが決定いたしました。


 参加資格は、本メッセージを受信した予選成績上位者に限られます。


 詳細は当日発表いたしますので、参加希望の児童の皆さんは、入念な準備をしておのぞみください。~


 敗者復活。


 つまり、まだ本戦出場の目は残っている。


 一時はもう終わったとあきらめていたものの、アリスに乗らないという選択肢はなかった。


 もともとは、腕試しとブルーの修行をかねての参加だった。


 けれど、いまはもうそれだけじゃない。ぜったいに、負けられない理由ができてしまったのだ。


 その理由とは、同じクラスで予選を通過し、代表に選ばれた少女――剣城玲那。


 本戦に進めば、彼女と戦うことができる。


 きのうは、あらゆる意味で「戦わずして敗北」を味わわされてしまった。


 けれど今度こそ、正面から向き合い、直接対決で――


(ぜったい、あの子の鼻をあかしてやる!)


 そんな負けん気が、胸の奥でめらめらと燃えていた。


「……わたしが緋羽莉ちゃんの親友にふさわしくないなんて、二度と言わせないんだから!」


「へえー! それ、すっごくうれしいなあ! わたしのために戦ってくれるんだ!」


 その声と同時に、ベッドの上でパジャマ姿のまま気合を入れていたアリスの目の前に、見覚えがありすぎる――いや、見慣れすぎた顔が、ひょこっと現れた。


 羽のようにふわふわした緋色の髪を、黄色いリボンでポニーテールに結い、健康的な浅黒い肌に、くりっとした黄色いひとみ。


 すらりと背の高い、太陽みたいな女の子。


 幼なじみであり、大親友――花菱緋羽莉だ。


「うひゃあっ!?」


 思いもよらぬ早朝の来訪に、アリスはおどろきのあまりベッドの上でひっくり返った。


「おはよう、アリス!」


 そんな親友のおまぬけな姿など気にもとめず、緋羽莉はいつもと変わらない、朝陽のような笑顔であいさつする。


 その存在感は、ただそこに立っているだけで、部屋の空気をぱっとあかるく変えてしまう。


 朝の光さえ、緋羽莉を引き立てるために差しこんでいるみたいだった。


 よく見ると、服装はいつものパステルピンクのオフショルダーにマゼンタのミニスカート。


 けれどきょうは、ところどころに大小の白いフリルがあしらわれ、さらにピンク色のかわいらしいポーチを、たすきがけにしていた。


 朝風呂でも浴びたんだろう、肌はたまごみたいにつやつやで、くせっ毛ぎみの髪も、ゆるやかなウェーブを描いている。


 まるで、これからデートにでも出かけるかのような装いだ。


 花のように咲き誇る服と笑顔。


 ダイヤモンドみたいにきらめく肌。


 あたたかさと明るさに満ちた緋色の髪。


 羽のようにふんわりした雰囲気と、ジャスミンを思わせる甘く濃厚な香り。


(……まさに、“花菱緋羽莉”って名前を、そのまま形にしたみたい。名は体を表すって、こういうことなのかなあ)


 そんなことが、ふと頭をよぎった。


 かわいい、ってひとことだけじゃ足りない。


 元気で、あたたかくて、そばにいるだけで安心できる。


 そんなぜんぶをまとめて「緋羽莉ちゃん」なのだと、アリスは思った。


 ……それはともかく、聞きたいことは山ほどある。


 けれどアリスは、まずいちばん大事な質問を口にした。


「……どうして、ここにいるの?」


 緋羽莉は満面の笑顔のまま、左手の自分のウォッチを指さす。


「決まってるでしょ? 敗者復活戦にそなえて、アリスを応援しに来たんだよ!」


 自分の都合じゃなく、相手の気持ちをいちばんに考えて行動できるところ。


 そういうところも、緋羽莉のすごさだ。


 まぶしすぎて、ときどき直視できないくらいに。


「おうえん……?」


「だってアリス、きょうはひとりで修行したいって言ったでしょ?」


「う、うん……まあ、言ったけど」


 アリスと緋羽莉は、毎晩のようにメッセージや通話でやりとりをしている。


 おもに連絡してくるのは、緋羽莉のほうだが。


 だから敗者復活戦のことはもちろん、アリスの予定だって緋羽莉はぜんぶ知っているのだ。


 ――きょう、だれの力も借りず、ひとりで大会に向けた修行をするつもりだということも。


「でもね、わたし、ど~~~してもアリスの力になりたい、って気持ちがおさえられなかったんだ! だから早起きして、お弁当も作って、おうちにむかえに来ちゃった!」


「来ちゃった、って……」


 あきれたように自分の学習机を見ると、そこには大きなバスケットが、どーんと置かれていた。


 もちろんアリスのものではない。どう考えても、緋羽莉が持ってきたお弁当だ。


 デートどころか、ピクニックでもする気なのか?


 緋羽莉の気持ちは、正直とてもうれしい。


 つきあいが長いぶん、こうなる予感もしていた。


 けれど――これは、わたし自身の問題だ。


 剣城玲那に勝つために、だれの手も借りちゃいけない。


 アリスは、そんなふうに少し意固地になっていた。


 ましてや、対抗心の最大の理由である緋羽莉に協力してもらうなんて、もってのほかだ。


 だから、もし来たら、やんわり断ろう……そう考えていたはずなのに。


 朝早くからここまで入念に支度をして、わざわざ自室まで乗り込んできた彼女の気持ちを思うと、そんな言葉、とてもじゃないが口に出せなかった。


 礼節を重んじる、英国淑女としては。


「それとも……やっぱり、ダメ……かな……?」


 考え込むアリスを見かねたのか、緋羽莉は、あざといほど自然な仕草で人さし指を口元に当て、うるんだひとみの上目づかいで見つめてきた。


「うっ……!」


 もともとかわいい子だとは出会ったときから思っていた。


 けれど、おめかしとポーズの効果で、かわいさはふだんより数割増しだ。


 輝きを増した太陽みたいなまぶしさに、アリスは思わず目をそらしてしまう。


「ど、どうしたの!? ぐあい悪いの!?」


 心配した緋羽莉が、さらにかわいらしい顔を近づけてくる。完全に逆効果だ。


「ち……ちがうちがう! 断じてちがう! わたし、元気!」


 アリスは緋羽莉の顔を直視できず、両手をぶんぶん振る。


「ほ、ほんとうに? 顔、まっかだよ?」


「これは……照れてるの! 緋羽莉ちゃんが、あんまりにもかわいいから!」


 困惑のあまり、アリスは正直すぎる気持ちを吐き出してしまった。


 緋羽莉は、うっとりとほほに両手を当て、ぱあっと花が咲くような笑顔を浮かべる。


「わあ……うれしいよ、ありがとう!」


 すっかり安心したようすで、緋羽莉は少しだけ顔を引っこめた。


「と、とにかく! 緋羽莉ちゃんの気持ちは、よーくわかりました! わたしのウィザード修行に、同行することを許可します!」


 アリスはやけくそ気味に、ベッドの上に立ち上がり、びしっと緋羽莉を指さして宣言した。


 ふだんは自分よりずっと背の高い緋羽莉を、見下ろすこの感覚。


 ――ちょっと、クセになりそうだ。


「やったー!」


 緋羽莉は満面の笑顔で、元気いっぱいにバンザイした。


 両腕を高く伸ばした拍子に、ポニーテールがぴょんと跳ねる。


 黄色いリボンが朝の光を受けて揺れ、その動きひとつひとつが、見ているだけで元気を分けてくれる。


 よろこびを全身で表現するところも、緋羽莉らしかった。


 アリスは、こうしてまっすぐに気持ちをぶつけてくれる緋羽莉に、どうしようもなく弱いのだった。


「そのかわり、ひとつ約束して! いっしょに来るのは認めるけど、助言や手助けはいっさい禁止! いつもみたいに応援したり、ほめてくれるだけでいいから!」


 これは、あくまでアリスひとりの修行だ。


 いざとなれば緋羽莉が助けてくれる――そんな甘えは、できるかぎり排除したかった。


 もちろん、もし命の危機にひんするような事態になれば、緋羽莉は迷わず助けに入るだろう。


 けれど、それはもう――しかたのないこととして、あきらめるしかない。


「わかった。約束するね」


 緋羽莉は、やわらかなほほえみを浮かべてうなずいた。


 迷いがない。アリスの覚悟を、ちゃんと理解したうえでの返事だ。


 緋羽莉は、やさしいだけじゃない。信じて、待てる強さを持っている。


 その包みこむような慈愛の雰囲気は、おめかしのせいでふだんよりもいっそう強く感じられる。


 アリスは、またしても頭がくらりとした。


「それと……もうひとつ、聞きたいことがあるんだけど」


「なあに?」


「そのかっこう、どうしたの?」


 緋羽莉はくるっと一回転してみせる。


 瞬間、スカートのすそがふわりとひろがり、緋色の髪が一拍遅れて追いかける。


 自分を見せることを恥ずかしがらない、けれど、決して押しつけがましくない――


 そんな自然体のあかるさが、そこにはあった。


「え、これ? アリスといっしょにお出かけするわけだし、わたしももう高学年だから、ちょっとおしゃれしてみようかなーって思って」


 修行を手助けするために来たんじゃなかったのか?


 そんなツッコミがのどまで出かかったが、アリスはぐっと飲みこんだ。


 ――だって、緋羽莉がかわいいから、という理由だけじゃない。


 自分のために、こんなにも楽しそうに準備してくれたことが、胸の奥に、じんわりとあたたかくひろがっていた。


 それだけで、もう何も言えなくなってしまうのだ。


 おめかしした彼女の姿を見られるのは、たしかに、めったにない貴重な体験とも言えるし。


「よーし! そうと決まれば、さっそく準備よ! ミルフィーヌ! ブルー! 起きてー!


 アリスは、なかばヤケクソ気味に声を張り上げる。


 ミルフィーヌとブルーは、まだ眠たそうに目をこすりながら起き上がった。


 緋羽莉は、そんな光景を見て、くすっと笑い、とても楽しそうにほほえんでいる。


「……あの、着替えたいんだけど」


 アリスが半目のまま、ぽつりとつぶやいた。


 体育の時間やお泊まりのときなど、緋羽莉に着替えを見られるのは、もう慣れっこだ。


 けれど、自分だけが着替えているところを、じーっと見つめられるのは、やっぱり少し恥ずかしい。


「あ、ごめんね。じゃあ、いったん、部屋出るね」


 緋羽莉がもうしわけなさそうにドアへ向かうと、今度はアリスのほうが、なぜか胸がちくりと痛んだ。


「……あ、いいです。お好きにおくつろぎください……」


 よそよそしい敬語で、あきらめたように言ってしまう。


 緋羽莉は一瞬きょとんとしたが、すぐにくすっと笑って、部屋のすみに腰を下ろした。


 背筋を伸ばして、きちんと両ひざをそろえた座り方。


 視線は向けつつも、じっと見すぎない。


 気づかいが、呼吸みたいに自然で、それがかえって、意識してしまう理由になっていた。


 その自然体な距離感が、またアリスの心をざわつかせるのだった。


 踏みこみすぎない。けれど、離れもしない。


 その絶妙な距離を保てるのは、長い時間をいっしょに過ごしてきた、緋羽莉だからこそだ。



 ☆ ☆ ☆



 着替えと身支度をすませたアリスは、ミルフィーヌ、ブルーといっしょに朝ごはんを食べた。


 緋羽莉は、すでに家ですませてきたようで、アリスが食べている様子を、いとおしそうにじっと見つめている。


 急かすでも、話しかけるでもなく、ただ「そこにいる」だけで、空気がやわらぐ。


 緋羽莉のまなざしには、がんばる人を、まるごと肯定するやさしさがあった。


(……落ち着かないなあ……)


 胸がどきどきして、正直、味なんてほとんど覚えていない。


 けれど、それを口に出す勇気もなかった。


 沙織とブラウンにあいさつをして、家を出る。


 朝の澄んだ空気の中、朝陽を全身に浴びて、アリスと緋羽莉はぐーっと背伸びをした。


 となりに立つ緋羽莉は、背が高いぶん、少しだけ空が近い。


 けれど、見下ろす感じはなく、同じ景色を、同じ目線で見てくれている。


 そのことが、アリスには心強かった。


「それで、最初はなにをするの?」


 緋羽莉は、わくわくした表情でアリスの顔をぐいっとのぞきこむ。


 どんな場所へ向かうときも、こんなふうに楽しそうに話を聞いてくれる。


 緋羽莉がとなりにいるだけで、ちょっぴり不安な未来さえ、少しあかるく見える気がした。


 アリスは、小さく息を吸い込み、意を決した表情で答えた。


「これまでの反省を活かして、敗者復活戦を突破し、本戦を勝ち抜いて、優勝するために……まず、いちばんたいせつなこと」


 一瞬の間。


「――新しいワンダーを、仲間をさがすこと!」


 大会という、短時間で行われる連戦を勝ち抜くためには、複数のワンダーのローテーションは必須。


 まだたった二体しかパートナーを持たないアリスは、きのう文字通り痛感したのだから。


 ブルーは、ぴくっと反応した。


 自分も、ミルフィーヌに次いでアリスのパートナーになったが、“ワンダーを仲間にする”という意味を、まだ完全には理解できていないのだ。


「と、いうことは……」


 緋羽莉の目が、きらりと輝く。


「いよいよ行くんだね? “ワールド”に!」


「そのとおり!」


 アリスは笑顔の緋羽莉の小さな鼻先に、びしっと人さし指をつきつけた。


 ワールド。


 それっていったい、どんなところなんだろう?


 ブルーは、期待と不安が入り混じった表情で、これから始まる新たな冒険に思いをはせるのだった。

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