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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第2章 アリス・ハートランドと学校の大会

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第31話 ぼくらは空の子

「よしよし、やったな、ファルコン!」


『キィー!』


 風間は、そばに降りてきたパートナーの頭をやさしくなでてやり、勝利をねぎらった。


【エアファルコン】は、全高1.5メートルもある大きな鳥型ワンダーだ。翼をたたんだ状態でも、風間の身長より少し高い。


 二人のうれしそうな表情が、これまで積み重ねてきた絆の深さを物語っている。見ているだけで、胸があたたかくなるような光景だ。


「おつかれさま、ミルフィーヌ」


 いっぽう、アリスはスマートウォッチを操作し、光の粒子に変わったミルフィーヌを収納してやる。


 ウォッチの中では、ブルーも「おつかれさま」と声をかけ、ぐったりしたミルフィーヌをねぎらっていた。


「これで一対一、次が最後の勝負だな」


 風間は表情を引きしめ、アリスをまっすぐ見すえる。


 ファルコンとミルフィーヌの対決は、結果だけ見ればファルコンの圧勝だった。だが、その黄色いくちばしには、深いキズが残っている。


 最後に受けた《ワンダフルストライク》のダメージが、いかに大きかったかを物語っていた。


 大技を二発も使ったこともあり、残っている体力は、おそらく六割ほど。


 つまり、ワンダーとしての格の差はあっても――ブルーにも、まだ勝機はあるということだ。


「いくよブルー、準備はいい?」


『うん!』


 ブルーは力強くうなずくと、ウォッチの中からいきおいよく飛びだした。


 同時に、ファルコンも風間のもとを離れ、バサッと羽音を立ててブルーの前に立ちはだかる。


『うっ……!』


 【エアファルコン】の特性、《威圧》。


 ミルフィーヌのように耐性を持たないブルーは、その影響をモロに受けてしまった。


 胸の奥がきゅっと縮み、足がすくむ。恐怖で体がふるえ、思うように力が入らない。


「しっかり! ブルー!」


「がんばって、ブルー!」


 アリスと緋羽莉の声援が、同時に飛ぶ。


 とくに緋羽莉は、両手を胸の前でぎゅっとにぎりしめ、いまにも祈りだしそうな顔でブルーを見つめていた。


 大好きなふたりの声に背中を押され、ブルーは気合いで恐怖を振り払った。


「こんなの、アリなの?」


 あまりに感情に寄った、およそロジカルとはいえない展開に、白衣を着た知的な雰囲気の閃芽は、苦笑いしながらぼやく。


「いいんじゃない。わたしはこういうの、好きだな」


 対して、人情家のりんごは、にこりとほほえんだ。


「ブルー! オレもオマエと戦うのを楽しみにしてた! 杉山を苦しめたその実力、見せてもらうぜ!」


 風間は笑顔でさわやかに言ってのけた。


 風間は、さわやかな笑顔で言い切った。


 ブルーもまた、杉山のときと同じように、彼に好感を抱いたようだった。


「《ストームアタック》!」


『キイーーーッ!』


 ファルコンが甲高く鳴き、大きく羽ばたく。


 巻き起こされた強風は、やがて嵐へと変わり、うずを巻く竜巻となってブルーに襲いかかった。


 ミルフィーヌですら逃れられなかった攻撃、ブルーが正面から防げるはずもない。


 ならばと、アリスは、迷いなく決断した。


「思いきって、飛びこんじゃえ!」


『えっ!?』


 ブルーは思わず声をあげる。


 でも、アリスのことだ。きっと、なにか考えがあるんだろう……たぶん。


 そう信じて、ブルーは走りだし、みずから嵐の中へと飛びこんだ。


「あいつ、なに考えてんだ!?」


 杉山やギャラリーがどよめく。


 そんな中、緋羽莉だけは目を輝かせている。


(今度はいったい、どんなびっくりを見せてくれるの?)


 そう思って、わくわくしていた。


『うわあああ~!』


 ブルーは泣きそうな顔で、大きな悲鳴をあげる。


 嵐の中は、まるで巨大な洗濯機かミキサーだ。体がぐるぐるともてあそばれ、風に叩きつけられるたび、ダメージがたまっていく。


 上下も左右もわからなくなった、そのとき――ブルーの脳裏に、ひとつの記憶がよみがえった。


 ――天空の楽園、ドラゴピアで暮らしていたときのこと。


 お母さん竜と、空の散歩をしていた日のことだ。


 さっきまで晴れていた空が、急に怒りだしたように荒れはじめた。


 風はビュービューと吹き荒れ、雷はゴロゴロとうなり声をあげ、雨はザーザーと降り注ぐ。


 幼いブルーはこわくてこわくてたまらなくて、泣きながらお母さん竜の背中に必死でしがみついていた。


 お母さん竜は、そんなわが子をはげますように、ただひとこと――


『だいじょうぶよ』


 そう言って、安定した飛行で、無事に家へと帰りついた。


 あとで、ブルーはたずねた。


『どうしておかあさんは、あのひどいお天気のなかでも、ちゃんとお空を飛べたの?』


 お母さん竜は、くすっとほほえんで答えた。


『それはね。私たちが、空の子だからよ』


『おそらのこ?』


 お母さん竜は、そっとブルーにほほをすりよせた。


『お母さんがぼうやを大事に思うように、空も私たちを大事に思ってくれているの。だから、素直に身をゆだねれば、傷つけたりなんてしないわ。たとえ、機嫌が悪くてもね』


 おかあさんがぼくを大事に思ってくれている、それはうれしかったけれど、正直、その言葉の意味はいまだによくわかっていない。


 けれどおかあさんの言うことは、いつだって正しい。ブルーにはそれでじゅうぶんだった。


 ブルーは、嵐に逆らうのをやめた。


 力を抜き、風に身をまかせる。


 すると、不思議なことに、体を打ちつけていた痛みが、すっと消えていった。


 むしろ、心地よささえ感じはじめる。


 ――そうか。そういうことだったんだ。


 風は、敵じゃない。空に、悪意なんてない。


 ぼくは、空の子。


 身をゆだねれば――ほら。


 ブルーの体は、嵐の中をぐるぐると回りながら、螺旋のように上へ上へと運ばれていく。


 そして、嵐のてっぺんから――


 キリッと顔を引きしめ、外へと飛びだした!


「ブルー!」


 アリスと緋羽莉の声が、重なって響く。


 いっぽう、風間と杉山は、勝ち誇った表情を浮かべていた。


 ブルーもミルフィーヌのように、嵐のえじきとなって吹き飛ばされたのか。


 だれもがそう思った、その瞬間。


『アリスー!』


 しかし、そうではなかった。


 ブルーは大きな声で、健在をアピールする。


 言い出しっぺで、頭の回転の速いアリスは、一瞬で状況を見きわめ、叫ぶ!


「《スカイナックル》!」


『たあーっ!』


 ブルーは、右こぶしに空色のオーラをまとわせ、振り上げる。


 眼下では、ファルコンが完全に面食らっていた。


 ブルーが嵐に巻きこまれても無事でいることにおどろいているようだ。


「やばい! よけろぉ!」


 風間が叫ぶが、わずかにひるんだのが運のツキ。


 空色の鉄拳が、上空からファルコンの背中にたたきこまれる。


『グエーッ!』


 りりしい顔に似合わない悲鳴をあげ、ファルコンはコートへと墜落した。


 ブルーもくるりと体勢を立て直し、軽やかに着地する。


 同時に、嵐はぴたりと止み、跡形もなく消え去った。


「おおおおおっ!」


 ギャラリーから、大歓声がわき起こる。


 緋羽莉は、あまりの展開に、声も出ず、ただ胸を押さえていた。


「ナイスよ、ブルー!」


 アリスは満面の笑みで、親指を立てる。


『アリスは……こうなるって、わかってたの?』


 ブルーは息をととのえながら、たずねた。


 嵐に突っこめとムチャな指示を出したのは、アリスだ。


「ううん。ぜんぜん。ブルーは空生まれだから、なんとかなるかなーって」


 アリスは、しれっと答える。


 ブルーは目を見開き、言葉を失った。


 まさかの、完全ノープラン。


 トゲトゲビリビリのハーリーに突っこませたことといい、アリスはそういうところがあるんだとブルーは肝に銘じた。


 でも、その直感が、信じるに足るものだということも、もうよくわかっている。


 おかげでこうして、またおかあさんの言葉を実践できたのだから。


『キィーーーッ!』


 ファルコンが起きあがり、あきらかに怒りのこもった声を響かせる。


 背中をおもいっきりぶんなぐられたんだから、ムリもない。


「アリス! ブルー! お前ら、最ッ高だぜ! こんなに熱くなったのは、杉山以来だ!」


 風間は、全身で興奮をあらわにして叫んだ。


 背後で杉山が、妬いているのか、苦笑いしている。


「さあ、いよいよクライマックスだ! マジの大マジでいくぞ、ファルコン!」


『キイーッ!』


 風間とファルコンが、するどくにらみつける。


 アリスとブルーも、負けじと視線を返した。


「わたしたちも、それ以上の本気でいくよ、ブルー!」


『うん!』


 バトルは、ついに最終局面。ギャラリーは息をのみ、静まり返る。


 ――ただひとりを除いて。


 その人物は、心の底からあきれたような目でその光景を見つめ、


「……はあ」


 と、深いため息をついた。

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