第29話 バトルステーション
バトルステーション。
その名の通り、ワンダーバトルを専門とする屋内型のアミューズメント施設だ。
天井の高い広々としたフロアには、白いラインで区切られたバトルコートがいくつも並び、それぞれのコートからはエナの光や歓声が絶え間なくあふれている。
壁際には休憩用のベンチが整然と配置され、自動販売機の低いうなり音と、ワンダーたちの鳴き声が混じり合って、独特のにぎわいを生み出していた。
利用方法はいたってシンプルだ。
受付で一試合ぶんの使用料を前払いし、空いたコートに案内される順番制。
待ち時間は、ほかのバトルを観戦したり、ワンダーといっしょに体を休めたりしながら過ごすことになる。
アリスも受付で料金を支払い、風間との対戦を申し込んだあと、親友三人娘とともに順番を待っていた。
そのあいだ、アリスはブルーをウォッチの外に出し、休憩用ベンチに腰かけて、ほかのコートの試合を眺めている。
『わあ……』
ブルーは思わず声をもらした。
ふしぎ小からいちばん近いこのステーションには、全部で6面ものバトルコートがある。
小学生だけでなく、中高生や大人のウィザードまで、年齢も性格もさまざまな人たちが、それぞれのパートナーとともに真剣勝負をくりひろげていた。
エナのぶつかり合う音、ワンダーたちの気合のこもった咆哮、勝敗が決した瞬間に起こる拍手と歓声。
その熱気は、学校のバトルコートとはくらべものにならないほどだ。
周囲には、対戦待ちのウィザードや、純粋に観戦を楽しんでいる人たち、それぞれの足元や肩の上には、思い思いにすごすワンダーたちの姿も見える。
――実は、アリスがはじめてブルーにこの町を案内したとき、このバトルステーションも候補に入っていた。
けれどそのときのブルーは、故郷を離れたばかりで、心細さを隠せない状態だった。
ここまでの熱気と人の多さは、きっと刺激が強すぎる。そう判断して、あえて立ち寄らなかったのだ。
そして今。
ブルーは目を輝かせ、身を乗り出すようにしてバトルを見つめている。
(連れてきてよかったなぁ)
アリスはそんなことを思いながら、そっとほほえんだ。
やがて、アリスと風間のスマートウォッチが同時に短い電子音を鳴らす。順番が来た合図だ。
二人は顔を見合わせ、うなずき合ってから、2番コートへと足を運んだ。
☆ ☆ ☆
アリスと風間は、2番コートの両端に立ち、向かい合った。
使用するワンダーの数は、校内予選と同じ二体。先に相手のワンダーをすべて戦闘不能にしたほうが勝利という、オーソドックスなルールだ。
「いくぜアリス! 正々堂々、真剣勝負だ!」
風間が腕を伸ばし、ビシッと指を突きつけて宣言する。
青みがかった黒髪に、引き締まった表情。
杉山と同じく、さわやかでまっすぐな雰囲気をまとった少年だ。
クラスのツートップと呼ばれるのも、うなずける。
「のぞむところよ!」
アリスも不敵な笑みを浮かべ、即座に応じた。
アリスの背後には親友三人娘が、風間の背後には杉山が、それぞれ見守るように立っている。
二人が同時にウォッチへと手を伸ばし、いざ勝負――という、その瞬間。
「あれ? アリスじゃない?」「石切に勝ったっていう、あの子でしょ?」 「でも学校大会の予選で、あっさり負けたんじゃなかった?」
観戦スペースのあちこちから、ひそひそとした声が上がり、しだいにざわめきがひろがっていった。
ネットに流れた情報というのは、ひろがるのがほんとうに早い。
それがご近所の話題となれば、なおさらだ。
耳に届く言葉の多くは、称賛よりも嘲笑や心ない決めつけばかり。
アリスの胸の奥を、ちくりと刺すような視線が集まってくる。
「あいつら……好き放題言いやがって……!」
杉山が歯ぎしりするように、ギャラリーをにらみつけた。
「アリス。オレたちは、お前の強さをちゃんと知ってる。外野の連中の言うことなんて、気にすんな!」
風間もまた、まっすぐな目で言い切る。その声には、少しの迷いもなかった。
それを受けて、アリスはふっと口もとをゆるめた。
「ありがとう。でも、わたしはだいじょうぶ」
教室では、ネットの罵詈雑言に胸をかき乱されていたはずなのに、今のアリスの表情はふしぎと晴れやかだった。
緋羽莉にぎゅっと抱きしめられたことで、あらためて気づいたのだ。
――自分には、信じてくれる人がいる。
ちゃんとわかってくれる仲間がいる。
『アリス!』『ワンッ!』
そして、なにより愛すべきバートナーたちもいる。
そんなみんながそばにいてくれるなら、まわりの声なんて、もう気にならない。
(わたしがブルーに教えてあげたことだったのに、わたしも逆に教えてもらっちゃったな)
アリスは小さく苦笑し、そして――キリッと前を見すえた。
「さあ勝負よ! 風間くん!」
アリスの声がコートにひびく。
そして二人は同時にスマートウォッチに手を触れ、センターサークルへと先鋒のパートナーを呼び出した!
アリスが選んだのは、おなじみの子犬型ワンダー【キャリバリア】のミルフィーヌ。
対する風間のパートナーは、黄色いクチバシに緑色の羽毛と翼を持ち、飛行帽をちょこんとかぶった鳥型ワンダー――【ウイング】だ。
直球すぎる名前だが、それは人の生活圏にもっとも近く、長いあいだ共に生きてきたワンダーの系譜である証とも言われている。
「いくぜー! バトル、スタートだっ!」
頼まれたわけでもないのに、杉山が思わず叫ぶ。
その一声を合図に、空気が一気に張りつめた。
「先手必勝だ! 《ウイングダーツ》!」
風間が迷いなく指示を出す。
ウイングは翼を大きくひらき、羽毛をするどいダーツのように撃ち放った。
りんごのパートナー、フクロウ型ワンダー【ワカバズク】のザックも使っていた技だが、こちらのほうがあきらかに精度も速度も段ちがいだ。
「よけてっ!」
『ワン!』
ミルフィーヌは地面を蹴り、紙一重で高速の羽をかわしてみせる。
ギャラリーから、どよめきが起こった。
ウォッチの中で見守るブルーも、思わず息をのむ。
「《イナズマダッシュ》!」
間髪入れず、アリスの反撃指示。
ミルフィーヌはジグザグに走り、一気に距離を詰めてウイングへ体当たりをくらわせた。
『クエッ……!』
ウイングは苦しげな声をあげるが、とっさに後方へ下がり、衝撃を逃がす。
指示なしでこの判断力。さすがにバトル慣れしてるな、とアリスは内心で舌を巻く。
(これは、最初から飛ばしていかないと!)
そう悟ったアリスは、迷いなく叫んだ。
「ミルフィーヌ!」
『ワンッ!』
ミルフィーヌは背中の剣をくわえ、引き抜く。いきなり本気モードだ。
「そうこなっくっちゃ! 《グライドストライク》!」
風間はうれしそうに声を張り上げる。
ウイングは翼をひろげ、キィンと空気を切る音を立てて滑空。
一直線にミルフィーヌへ突っこんできた。
「《ローリングカッター》!」
ミルフィーヌは前へ飛び出し、縦回転しながらジャンプ。
すれちがいざまに、ウイングの背をズバッと斬りつける!
『クエーッ!?』
ウイングはバランスを崩し、ズザーッとコートに落下した。
「とどめよ!」
アリスの声に、ミルフィーヌは即座に反転し、追撃に入る。
「飛べっ! ウイング!」
風間の必死の叫び。
その声に応えるように、ウイングはふたたび翼を打ち、ぎりぎりのところで空へ舞い上がった。
『ワウッ!?』
ミルフィーヌは急ブレーキをかける。
その一瞬のスキを、風間は見のがさない。
「《フェザーバルカン》!」
ウイングが空中で羽ばたき、無数の羽をいっせいに撃ち下ろす。
バルカンというだけあり、ダーツとはくらべものにならない数と威力。
『ワオーン!?』
ミルフィーヌは反応こそできたものの、防ぎきれず、羽の雨をまともに受けた。
「ミルフィーヌっ!」
アリスと、ウォッチの中のブルー、そして観戦していた緋羽莉の声が重なる。
「やったか?」
風間がつぶやき、舞い上がる爆煙を見つめた。
『ワッフー!』
次の瞬間、ミルフィーヌが首をぶるぶると振り、爆煙を吹き飛ばして姿を現す。
ダメージはけっして小さくない。それでも、そのひとみはまだ闘志に満ちていた。
「これでおたがい、技ありひとつずつってわけか!」
風間はにっと笑う。
「でも、先に一本取るのはわたしよ!」
アリスも、不敵でステキな笑みを返した。
いつしか、アリスに心ない言葉を投げていたギャラリーは静まり返り、ただ息をのんでこのバトルを見守っている。
――そして。
教室からずっと続いて、二人の戦いをじっと見つめている影があることに、やっぱりだれも気づかなかった。
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