第25話 竜虎激突
『ぷはあ~……勝った……』
ブルーはコートの上にへたりこみ、大きく息をついた。
そのようすを見た瞬間、アリスの声が飛ぶ。
「気が早いよ、ブルー! まだあと一体、残ってるんだから!」
『――っ! そ、そうだった!』
ブルーはハッとして、あわてて立ち上がった。
この予選三回戦から、使用できるワンダーは二体。
アリスの手持ちはブルーとミルフィーヌ。
いっぽう、【エレキャット】を失った杉山も、まだ一体残している。
つまり――バトルは、まだ終わっていない。
(まだ、気を抜いちゃダメだ……!)
ブルーは自分に言い聞かせ、ぐっと気合を入れ直した。
正直、体はもうクタクタだ。
けれど、控えているミルフィーヌは、もっと消耗している。
(ぼくが……がんばらないと)
「さすがアリスだな!」
杉山はくやしそうにするどころか、ニッと笑って言った。
「パートナーはボロボロだってのに、まさかこっちが先手を取られるとは思わなかったぜ!」
その口ぶりは、負け惜しみではなく、素直な称賛だった。なかなかにさわやかな男子である。
ブルーも、ガキ大将のカジラとはえらいちがいだなあと、杉山にちょっと好感を持った。
「それはどうも!」
アリスは胸を張り、腕を組んで応じる。
「だったら――こっちも、マジのマジでいくしかねえよな!」
杉山は左手を高くかかげた。
「出てこい! サンダー!」
次の瞬間。
ウォッチからほとばしる雷とともに、二体目のワンダーが姿を現した。
『ガオオオオッ!』
雷鳴のような咆哮。
【エレキャット】をはるかに上回る電気を全身にまとい、黄色い体毛には紫色の稲妻のようなシマ模様。
大きく、たくましく、堂々たるトラ型ワンダー――その名も【サンダイガー】。
『うっ……』
ブルーは、思わず一歩ひるんだ。
(強い……)
ひと目でわかる。
まちがいなく、いままで戦ってきたワンダーの中で、いちばんの強敵だ。
しかも――
「ぜんぜん、無キズだね……」
りんごが、不安そうにつぶやく。
その言葉どおり、サンダイガーはキズひとつなく、疲れているようすもまるでない。
こちらは、バトル前からボロボロのヘロヘロだというのに。
「たしか杉山くんも、シードじゃなかったから、アリスと同じで二試合やったはずだよね?」
緋羽莉が首をかしげる。
閃芽がメガネをクイッと直して答えた。
「私はアリスの応援してる合間に、ほかのコートの試合チラ見してたけど、彼、二試合ともオール一撃KOで終わらせてたよ。あれじゃ疲労も温存もあったもんじゃないね」
「そ、そんな……」
りんごの顔色が、さらに青くなる。
コートに立つブルーは、肩で息をしていた。
ただでさえ限界なのに、技を無効化する《バタフライエフェクト》を使ったことで、消耗は決定的だ。
きっと、もう大技をくりだす体力なんてないだろう。
それは、サンダイガーと向き合っているブルー自身が、いちばんよくわかっていた。
視界がぼやけ、足がふらつく。ちょっとでも気を抜いたら、倒れてしまいそうだ。
きっとぼくは、勝てないだろう。アリスだってきっとそう思ってるはずだ。
だって背中ごしでも、アリスのあせりが伝わってくるんだもの。
もうパンチもプリズムも出すチカラもない。だったら、ぼくのやることはひとつ。
「いくぜ! 《イナズマダッシュ》だ!」
『ガオオッ!』
サンダイガーが駆けだす。
ジグザグに軌道を変えながら、一気に距離を詰めてくる。
スピードも迫力も、エレキャットとはケタちがいだ。
「《ガード》!」
アリスの指示で、ブルーは腕を交差し、必死に踏んばる。
『ぐ……ああっ!?』
衝撃。
ブルーの体は軽々と宙を舞い、受け身も取れずにコートへ叩きつけられた。
「ブルー! だいじょうぶ!?」
『だ……だいじょうぶ……』
震えながら起き上がるブルー。
どう見ても、ぜんぜんだいじょうぶじゃない。
けれど、ブルーは強がってそう言った。
――強がるのは、慣れてる。
ドラゴピアでも、お母さん竜を心配させないよう、どんなにいじめられても強がっていた。
でも、いまの強がりはちがう。これは、希望をつなぐための強がりだ。
そう、ぼくのやることはひとつ。
できるだけこのバトルを長引かせて、二番手のミルフィーヌを休ませることだ!
だから、まだ倒れるわけにはいかない!
「まだ立てるか! 《サンダーボルト》!」
サンダイガーの体から放たれた電気が、いったん空へ昇り――
次の瞬間、落雷のようにブルーへと降りそそいだ。
『うわああああ!』
感電し、悲鳴をあげるブルー。
「ブルー!」
アリス、緋羽莉、りんごの声が重なる。
放電が終わると、ブルーはぷすぷすと煙を上げ、ばたりと倒れた。
「ブルー、戦闘不能……」
総合審判のマミ先生が、判断を下そうとした、そのとき――
「待って、先生!」
アリスが叫んだ。
「ウォッチが戦闘不能をアナウンスしてない! まだブルーは戦える!」
「で、でもね、アリスちゃん……」
マミ先生は困ったように眉を下げる。
「これ以上はキケンだと、先生は思うんだよ……」
教師として、児童とパートナーのワンダーの命を守る責任がある。
「……っ」
アリスは歯をかみしめた。
バトルを続行したいのはやまやまだが、審判の言うことは絶対だ。それが英国淑女の条件。
ブルーを収納しようと、泣く泣くウォッチに手を伸ばした、その瞬間――
『ま……まだ……』
焦げた体を引きずりながら、ブルーが、ふたたび立ち上がった。
「ブルー……!」
アリスと、親友三人娘の声が重なる。
緋羽莉とりんごは、今にも泣きだしそうだ。
「マミ先生、そのチビ……立ったぜ」
杉山が、少しうれしそうに言った。
「バトル続行で、いいよな?」
「……うーん」
マミ先生はしばらく迷い、やがてうなずいた。
「でも、次に倒れたら、今度こそ止めるからね~」
「よっしゃ!」
杉山はこぶしを鳴らす。
「チビ! ブルーっていったな? いいガッツしてるじゃねえか! オレとしてもこのままじゃ終われねえ! もっともっと、バトルを楽しもうぜ!」
杉山はノリノリで宣言した。
その言葉に、ブルーの胸が熱くなる。
二回戦のアリスと緋羽莉の、ミルフィーヌとアカネのバトル。
いままでブルーが体験してきた、一方的にいじめるでもなくいがみあうわけでもない。
ぶつかり合い、認め合い、心を通わせる戦い。
そのすばらしいバトルを、ただウォッチの中で見ていることができなくて、ブルーはとてもはがゆくて、もどかしい思いをしていた。ぼくも、あんなふうなバトルをしてみたいと。
そしていま、そのときがおとずれようとしていた。
目の前の少年、杉山は、ブルーのことを気に入り、認めてくれている。
そんな相手となら、ぼくもミルフィーヌたちのような、すばらしいバトルができる!
こんなにうれしいことなんて、ない!
『うん! やろう! サンダー! スギヤマくん!』
『ガオッ!』
【サンダイガー】のサンダーも、うれしそうに吠えた。
ブルーの中には、いままでに感じたことのないチカラがわきあがっていた。
ものすごく疲れているはずなのに、元気なときより元気になっている気がするのだ。
もう時間かせぎなんて関係ない! ただただ全力で、このバトルを楽しみたい!
その想いを感じ取ったように、アリスも顔を上げた。
「そうだね、ブルー」
キリッと前を向き、はっきりと言う。
「わたしも、全身全霊でこたえるよ!」
ギャラリーが沸き立つ。
竜と虎の激突は、ここからさらに大きなうねりとなって、加速していくのだった。




