第23話 へろへろでむかえる三回戦
10分間の休憩時間が終わり、校内大会予選三回戦がはじまろうとしていた。
「……アリス、ホントにだいじょうぶなの?」
閃芽が、眉をひそめて心配そうにたずねる。
三回戦からは、バトルに出せるワンダーが二体までに増える。
けれど、アリスのパートナーであるブルーもミルフィーヌも、すでに二試合を全力で戦い抜き、体力はほとんど残っていなかった。
たった10分の休憩で、万全に戻るはずもない。
つまりアリスは、はじめから大きなハンデを背負って、三回戦に挑むことになるのだ。
「だいじょうぶだよ! みんな条件は同じなんだから!」
緋羽莉は、いつもの調子でからっとあかるく言う。
「いやいや、全然同じじゃないでしょ」
閃芽はやれやれと肩をすくめた。
「ここまで勝ち残ってる子たちは、みんなワンダーバトルのガチ勢だよ。ワンダーを何体も持ってて、ローテーションしながら体力を温存してる」
「……あ」
「ついこの前までバトル禁止で、新しい仲間を増やす機会もなかった、だれかさんとは――状況がちがうんだよ」
「あ、そっか……そういえば、そうだね」
緋羽莉はぽん、と手を打った。
「つまり、結局アリスちゃんの圧倒的不利は変わらないってことだね……」
りんごはしょんぼりとうつむく。
「それでもね!」
緋羽莉は大きな胸を張った。
「わたしは、アリスならだいじょうぶって思うよ! だってアリスだもん!」
「そのとおり!」
アリスも、きりっと顔を上げる。
「これくらいのピンチ、はね返せないようじゃ、天空の楽園なんて目指せないよ!」
その言葉に、ウォッチの中でぐったりしているブルーとミルフィーヌも、ほんの少しだけ、うなずいた。
「はーい! それじゃあ三回戦に出場するみんなー! コートの上に立ってちょーだーい!」
マミ先生の元気な声が、バトルコートに響きわたる。
親友たちの声援を背中いっぱいに受けながら、アリスは1番コートへと歩き出した。
そして、次の相手は――
「よう、アリス! まさかお前とワンダーバトルできる日が来るとはな!」
くすんだ金髪をホウキみたいに逆立て、日に焼けた肌にタレ目が印象的な少年が立っていた。
紫のランニングシャツに迷彩柄のズボンという、なんともワイルドなかっこうだ。
その名は杉山雷壱。
去年はクラスの“ツートップ”と呼ばれたほどの実力者で、体育のサッカーではアリスとよく競い合ったライバルだ。
「そうだね! サッカーのときみたいに、キリキリ舞いにしてあげる!」
アリスは腕を組み、にやりと笑った。
パートナーがへろへろだなんて、ちっとも感じさせない堂々っぷりだ。
「みんな知っての通り、三回戦からは出せるワンダーが二体になるよ~! 相手を二体とも倒さないと勝ちにならないから、そのつもりでね~!」
マミ先生が、あらためてルールを説明する。
「それじゃ~……試合開始!」
その合図とともに、各コートでいっせいにバトルがはじまった。
「いくよ、ブルー!」
「たのむぜ! エレキャット!」
アリスと杉山は、同時にセンターサークルへパートナーを呼び出す。
アリスの一体目は、【セルリアンドラコ】のブルー。
二回戦では休ませていたぶん、ミルフィーヌよりは体力が戻っている――そう判断しての選択だった。
対する杉山の一体目は、黄色い毛を逆立て、全身にバチバチと電気をまとった猫型ワンダー【エレキャット】。
ミルフィーヌより少し小柄だが、逆立った毛のおかげで、ひとまわり大きく見える。
「先手必勝! いくぜ! 《イナズマダッシュ》だ!」
『ニャアーッ!』
エレキャットは地面を蹴り、ジグザグに走りながら一気に距離を詰める。
雷のようなスピードで、とてもよけられそうにない。
(その技は……さっき見た!)
くしくも、それは二回戦でミルフィーヌが披露した技。なんならきのう、オデコの【ロボ・ロフスキー】っも似たような技を使っていた。
ブルーはそのときの動きをしっかり見ていて、見切っていた。
『ニャッ!?』
エレキャットは、体当たりをかわされ、思わず声を上げる。
「《スカイナックル》!」
ブルーは右のこぶしにエナを集中させ、反撃に出た。
「下がれっ!」
杉山の指示で、エレキャットは『ニャッ!』とすばやく跳びのく。
ブルーの空色のこぶしは、ブオンと空を切った。
「あぶねえ、あぶねえ……」
杉山は冷や汗をかきながらも、楽しそうに笑う。
エレキャットは体が小さいぶん耐久力は低い。まともにくらえば一発ノックアウトだったろう。
「《プリズムボール》!」
アリスは、間髪入れずに次の指示を出す。
ブルーは両手をつきだし、サッカーボール大の虹色の光球を作り出し、発射した。
「《イナズマダッシュ》!」
エレキャットは、ふたたびジグザグに走ってかわす。
残念ながら、光球よりも相手の足のほうが速かった。
そしてそのまま――エレキャットはブルーに突っこんでくる。
攻撃直後のスキを突かれ、よけるのも防ぐのも間に合わない。
『あわわわっ!?』
体当たりが直撃。
さらに、全身にまとった電気が走り、ブルーはびりびりとしびれた。
技の威力以上のダメージを受け、思わずひざをつく。
エレキャットはすぐさま距離をとる。
ヒットアンドアウェイ――手慣れた戦い方だ。
「ブルー!」
アリスの声に、焦りがにじむ。
ダメージ自体は致命的ではない。
だが、ひざをついてしまったのは――一回戦の疲れが、まだ抜けきっていない証拠だった。
バトル回数の多さ。手持ちワンダーが二体しかいないというハンディキャップ。
それが、じわじわと重くのしかかってくる。
「できれば、おたがい万全のときにやり合いたかったけどな!」
杉山は、バッと右手を上げる。
「これも勝負のきびしさってヤツだ!」
その合図で、エレキャットの毛がさらに逆立ち、体じゅうに電気が走る。
――充電だ。
バチバチという音が、みるみる大きくなっていく。
「あれは……ちょっとまずいよ!」
閃芽が、あせった声を上げる。
りんごも思わず口を押さえた。
だが、緋羽莉だけは変わらず、信頼のまなざしでアリスを見つめている。
「いくぜ! 《ライジングスパート》!」
『ニャニャーッ!』
雷のような電気をまとい、エレキャットが猛ダッシュで突っこんでくる。
見ただけでわかる。これを受ければ、ノックアウトは確実だ。
ギャラリーの視線が、「これで終わりか……」とブルーに集まる。
「ブルー!」
けれど――アリスの目は、少しもあきらめていなかった。
すっと左手をかざし、まっすぐに呼びかける。
ブルーはその声に応え、せまりくるエレキャットをキッと見すえた。
その頭の中に――きのう、研究所で交わした、親友たちとのバトルの記憶がよみがえる。




