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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第2章 アリス・ハートランドと学校の大会

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第20話 虹の輝き

「次はオレのターンだ! 《古代の牙》!」


 ガブリューのキバが、ゴツゴツとした岩石のような形へと変化した。


 見るからに硬そうで、当たればただではすまなそうだ。


 ブルーを噛み砕くつもりなのだろう。ガブリューは威圧感をまといながら、のっしのっしと突進してくる。


 頭でっかちな体つきのわりに、足は思った以上に速い。


(でも、このくらいなら……)


 本来なら、ブルーにとっては十分によけられる速さ――のはずだった。


(あ、あれ……?)


 足が、動かない。


 理由はすぐにわかった。ガブリューとの距離が縮まるたび、重たい威圧感が押し寄せ、体が言うことをきかなくなっていたのだ。


(ダメだ……このままじゃ……!)


 よけるには、もう遅い。


 そのとき――。


「《ガード》で受け止めるのよ、ブルー!」


 まるで天啓のように、アリスの声が飛んだ。


 ブルーはハッと我に返り、両腕をクロスさせてぐっと力をこめ、防御のかまえを取る。


『ギャオーッ!』


 岩石のキバが、目の前までせまる!


 ――ガキーン!


 ブルーは交差した両腕で、真正面からキバを受け止めた。


 次の瞬間、全身に衝撃が走り、体が後方へはじき飛ばされる。


「うわっ……!」


 ズザーッ、と地面をすべり、あおむけに倒れ込んだ。


 両腕はじんじんと痛むが、体を丸ごと噛み砕かれる最悪の事態だけはまぬがれた。


「いまよ! 《スカイナックル》!」


『うん!』


 ブルーはすぐに起き上がり、エナを集中させる。


 右手が空色のオーラにつつまれ、充填完了。


 大技の直後で動きがにぶくなっているガブリューへ、一気に駆け出した。


「させるか! 《テールスイング》!」


 だが、カジラもだまってはいない。


 ガブリューは短く太いしっぽをいきおいよく振り回し、突進してきたブルーをはじき飛ばした。


『うわっ!?』


 ブルーはバランスを崩し、しりもちをつく。


 ダメージはほとんどない。しかし集中が途切れ、オーラは霧散し、スカイナックルは不発に終わった。


「《ワイルドバイト》!」


 アリスの指示に、ブルーは反射的に体を右へ転がし、間一髪で噛みつきをかわした。


「《スカイナックル》!」


 すぐさま立ち上がり、もう一度こぶしに力をためて接近する。


 今度は、しっぽの動きにも注意を払って――。


「だからさせるか! 《古代の咆哮》!」


『ギャオオーッ!!』


 地鳴りのような咆哮が響き、ブルーはびくっと体をすくめ、またもしりもちをついた。


(ダメだ……!)


 何度挑んでも、攻撃がつながらない。


 このままではラチがあかない。


「いったん、距離を取って!」


 アリスの声にしたがい、ブルーはすぐに立ち上がって走り、コートの端――アリスのもとへ戻った。


「接近戦じゃ、分が悪そうだね」


 閃芽が腕を組み、冷静に分析する。


「なら、離れたところから攻撃すればいいんだよ!」


 緋羽莉は名案だと言わんばかりに、にっこり笑った。


「それができれば、苦労しないんじゃないかな……」


 りんごは苦笑いする。


 ブルーが遠距離攻撃の技を持っていないことは、三人とも知っていた。


 ――けれど。


 緋羽莉だけは、ブルーの可能性を信じていた。


 それはもちろん、ウィザードであるアリスも同じだった。



 ☆ ☆ ☆



 ――きのう、研究所でのこと。


 なかよし四人娘が集まって、バトルの練習をしていたときだった。


「ブルーって、息吹(ブレス)は吐けないんだっけ?」


 緋羽莉の問いかけに、ブルーは少し気まずそうにうなずいた。


『うん。おかあさんに、何度も教えてもらったんだけど……ダメだった』


「じゃあさ。自信もついてきた今なら、どう?」


『……ううん。ためしてみたけど、やっぱりダメ』


 そのとき、メガネを光らせた天野博士がやってきた。


「それはですねえ、ブレスの発生器官がまだ未発達だからですよ」


 博士は、いかにも研究者らしい口調で続ける。


「いまのブルーくんは、ブレスを吐けるほど体が成長しきっていないんです。体型が人型に近いことも、影響しているでしょうねえ」


 オデコとのバトルを通じて、ブルーの体を徹底的に調べたという博士の説明には、妙な説得力があった。


「よかったじゃない、ブルー」


 アリスがにっこり笑う。


「つまり、もっと大きくなれば吐けるようになるってことだよ」


『……うん。それは、よかったけど……』


 ブルーは、そこで言葉を切ったあと、ぽつりと本音をこぼした。


『でも、ぼく……いま、吐けるようになりたい。離れた相手を攻撃できる技があったほうが、もっとアリスの役に立てるでしょ?』


 アカネの火の玉や、ロボ・ロフスキーのコータローのビーム。


 遠距離攻撃の怖さと厄介さを、ブルーは身をもって知っていた。


「おっ、わかってるね。うれしいね」


 アリスは、ブルーの頭をやさしくなでた。


「ふむふむ。遠距離攻撃をしたいのなら、なにもブレスだけにこだわる必要はありませんよお」


 博士の言葉に、ブルーの目がぱっと輝いた。


『えっ……? ひょっとして、ぼくにもできるの?』


「ええ、できますとも。たとえば――」


 そうして、博士のレクチャーがはじまった。


 ブルーは両手を使い、エナを集める練習をした。


 何度も失敗しながら、少しずつ、技の輪郭は見えてきた。


 けれど――。


 門限いっぱいまで練習しても、安定して形にすることはできなかった。


 こうしてその技は、未完成のまま、本番をむかえてしまったのだ。



 ☆ ☆ ☆



「あれをやるよ、ブルー!」


 アリスが、まっすぐにブルーを見て言った。


 あれ――それは、研究所で練習していた、あの未完成の遠距離攻撃の技のことだ。


『え? でもあれは……まだ一回も、成功したことないんだよ?』


 ブルーは思わずアリスを振り返り、とまどいを隠せなかった。


「だからこそ、やるんだよ!」


 アリスは迷いなく言い切る。


「そうしなきゃ、勝てないんだから!」


 その声には、不安よりも確信があった。


 ブルーの胸は、きゅっと縮こまる。


 正直、自信はなかった。


 でも――このままじゃ勝てない、ということだけは、はっきりわかっている。


(やるしか……ない)


 ブルーは意を決し、両手をぱっと開いて前へかざした。


 手のひらの先に、きらきらと光の粒子が生まれる。


 それは、ブルーの体の奥から呼び集められたエナだった。


「《スカイナックル》――あれは、いい技でしたねえ」


 天野博士の言葉が、脳裏によみがえる。


「こぶしにエナを集中させる。シンプルですが、とても強力です。遠距離攻撃をするなら、あんなふうに“手”を使うほうが、ブルーくんには合っているかもしれませんよお」


 博士の推測は、実際、その通りだった。


 ブルーは両手を使うことで、口ではできなかった、遠距離攻撃用のエナをしっかりと集められるようになっていた。


 ――けれど。


 できるのは、そこまでだ。


 いざ放とうとすると、エナはシャボン玉みたいに、ぱちんとはじけて消えてしまう。


 研究所をあとにしてからも、ウォッチの中で何度も何度も練習した。


 それでも、結果は同じだった。


「本番なら、うまくいくかもしれないよ」


 バトル前、アリスはそう言ってくれた。


 けれどブルーは、どうしても自信を持てずにいた。


(いまも……うまくいく気が、しない)


 エナの充填は、うまくいっている。


 それなのに、きっとまた不発に終わってしまう――そんな予感ばかりが、胸を占めていた。


(せっかく……落ちこぼれから、抜け出せそうだったのに)


(結局、ぼくは……できそこないのまま、なのかなあ……)


 その考えが頭をよぎったとき、ブルーは、ふとお母さん竜の言葉を思い出した。


 ブレスの練習に、何度も何度もつきあってくれたときの声。


『だいじょうぶ。きっとできるようになるわ。ぼうやは、お母さんの子どもなんだから』


『大事なのは、できると信じることよ』


 あのころは、信じられなかった言葉。


 落ちこぼれで、できそこないだと思っていた自分には、「おかあさんの子どもだ」ということすら、信じられなかったから。


 ――でも、いまはちがう。


 アリスと出会い、戦い、支えられて、ブルーは気づいた。


(ぼくは……ちゃんと、おかあさんのチカラを受け継いでる)


(ぼくは、おかあさんの子どもなんだ)


 胸の奥に、あたたかい何かがともる。


(だから……できるはずなんだ!)


「ブルー! がんばれ! わたしたちがついてるよ!」


「練習の成果、見せてみてよ!」


「きっとできるよ。わたしも……信じてるから!」


 親友三人娘の声が、背中を押す。


『ワンワン!』


 ウォッチの中から、ミルフィーヌの元気な応援も響いた。


「おもいっきりやっちゃえ、ブルー!」


 アリスは両手を大きくひろげ、笑顔で叫ぶ。


「空の上のママにも、とどくくらいに!」


 ――ブルーの心に、もう迷いはなかった。


 両手にこめたエナが、静かに、しかし確かにうなりを上げる。


 その先に、虹色の光が集まり、丸い球体を形作っていく。


 それはまるで、ブルー自身と、彼を支えてきた仲間たちの想いを映し出したかのようだった。


「おお……」


「きれい……」


 観客席から、思わず漏れる声。


 カジラとガブリューでさえ、一瞬その輝きに目を奪われ――すぐに首を振って気を引き締めた。


「なにをする気か知らねえが、その前にケリをつけてやる! 《古代の牙》!」


『ギャオーッ!』


 ふたたび、キバが岩石におおわれる。


 さっきよりも速く、重く、迫力を増して、ガブリューが突進してくる。


 威圧感に体がこわばる――でも、もう関係ない。


(あとはもう、放つだけ……!)


『《プリズムボール》!』


 ブルーは、両手を前へ突き出した。


 虹色の光球が、一直線に飛ぶ!


 ――ドーン!!


『ギャオオオッ!?』


 胴体に直撃。


 爆発的なエナが弾け、ガブリューは大きく吹き飛ばされ、あおむけに倒れた。


 サッカーボールほどの大きさながら、凝縮されたエナの威力は絶大だった。


『ガ……ガ……』


 ガブリューは動こうとするが、すぐには起き上がれない。


 その一瞬を、アリスは逃さなかった。


「とどめよ! 《スカイナックル》!」


『うん!』


 ブルーは右こぶしにチカラを集中させ、走り、跳ぶ。


「立て! ガブ! やられるぞ!」


 カジラは必死に叫んだ。


 なんとか体を起こそうとするガブリューの目の前には、空色の右こぶしを振り上げるブルーの姿。


『ギャオ、ギャオ!』


 ガブリューは涙目で弱々しく声をあげた。


 翻訳するなら、『ちょ、ちょっとタンマ!』だろう。


 ざんねんながら、ブルーの心にはとどかないし、意味も理解できてない。


『たああーっ!』


 ――ドンッ!


 腹部に深々と突き刺さり、ガブリューは大きくえずいて、気を失った。


 場がしんと静まり返る。


 次の瞬間――。


「せ……戦闘不能! 勝者、アリス&ブルー!」


 マミ先生の声が響いた瞬間、会場の空気が一変した。


 一拍の静寂のあと――。


「やったああーっ!」「すごい!」「勝ったぞー!」


 割れんばかりの歓声が、コートをつつみ込む。


「やったあー! アリスとブルーが、勝ったあーっ!」


 緋羽莉は満面の笑みで、両脇のりんごと閃芽をぎゅっと抱きしめた。


 りんごと閃芽も、少し照れながら、その腕の中でブルーの勝利をかみしめていた。


「勝った……」


 ブルーはコートの上で大の字になり、青空を見上げる。


「そうか……ぼく、勝ったんだ……」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


 あの空のどこかに、ドラゴピアはあるのかな。


 あの空の向こうに――おかあさんは、いるのかな。


 そんなことを考えていると、アリスが近づいてきて、上からのぞき込むように笑った。


「おつかれさま。ほら、聞いて」


 言われて耳を澄ますと、そこには罵声のひとつもなく、ブルーをたたえる声ばかりがあった。


 もう、この場の誰も、ブルーをバカにしたりはしないだろう。


 アリスの言った通り、罵声は大歓声に変わったのだ。


「うん……なんだか、すっごく気持ちいい」


 ブルーは照れくさそうに笑い、つづけて自分の両手を見つめた。


「でも、それ以上に……ぼく、おかあさんと同じ、虹のチカラが使えたんだ。それが、すごくうれしい」


 大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれる。


「やっぱり、ぼくはほんとうに……おかあさんの子どもだったんだ……!」


 お母さん竜の得意技は、虹色の光のブレス。


 その輝きが、いま確かに、ブルーの中にも宿っていた。


 アリスはその姿を見て、胸がいっぱいになり、やさしい表情でうなずいた。


「うん。よかったね、ブルー」


 そこへ、のしのしとカジラが近づいてきた。


「オマエ、なかなかやるじゃねえか!」


 照れたように頭をかきながら続ける。


「さっきはさんざんバカにして、悪かったな!」


 試合が終わればノーサイド。どうやら、そのタイプらしい。


『ううん。もう気にしてないよ』


 ブルーはそう答えた。


 本当は少し引っかかるものもあったけど、いまは勝利と、おかあさんとのつながりを確かめられた喜びのほうが、ずっと大きかった。


「でも次は、負けねえからな! なあ、ガブ!」


『ギャオー!』


 いつのまにか目を覚ましていたガブリューも、元気よく鳴いた。


 そうしてカジラたちは、コートの外へと去っていく。


「乱暴で口は悪いけど、そこまで悪い子じゃないんだよ」


 アリスは、その背中を見送りながら苦笑した。


『……でも、ぼくはああいうタイプ、やっぱりニガテ』


 ブルーは、ぽつりと正直な感想をもらした。


「あー! ほんとにすごかったな、ブルーの技!」


 緋羽莉はまだ興奮がおさまらない様子で叫ぶ。


「まだドキドキしてるよー!」


 その腕の中で、ずっとされるがままだった閃芽が、苦しそうに口を開いた。


「ねえ……キミ、忘れてない?」


「なにを?」


「次のアリスの対戦相手、キミだってこと」


「あ」


 緋羽莉は、ぽかんとした顔になった。

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