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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
プロローグ アリス・ハートランドと落ちこぼれのドラゴン

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第2話 ドラゴンくんとカレーライス

『ん……』


 ドラゴンの子は、ゆっくりと目を覚ました。


 背中に、ふにふにとしたやわらかい感触。どうやら何かの上に寝かされているらしい。


 体を起こしてあたりを見回すと、見たことのない物ばかりが並んでいる。


 けれど、壁や天井、窓がある。


 どうやらここは、だれかの“家の中”のようだった。


 ドラゴピアでも家で暮らしていたから、そのくらいの概念はわかる。


 くんくん、と鼻を鳴らす。


 すると、おいしそうなにおいがただよってきた。


 おかあさんが作ってくれた料理のにおいに、ほんの少し似ている気がする。


 たぶん自分は、このにおいに誘われて目を覚ましたんだ、とドラゴンの子は思った。


 でも――


(ぼく、どうしてこんなところにいるんだろう)


 たしか、ドラゴピアのはしっこのがけから飛び降りたところまでは覚えている。


 それがどうして、だれかの家の中に?


 もしかして、あれは夢だったのかな。


 それとも、まだ夢の中?


 それとも……死んだあとの世界?


 頭がこんがらがってきた。


 自分が生きているのか、死んでいるのかもわからない。


(ぼくは……どうなっちゃったの? だれか、だれかおしえてよ……)


 不安で胸がぎゅっとしめつけられた、そのとき。


「あ、気がついた? ちょうどお昼ごはんできたとこなの。いっしょに食べよう?」


 あかるくてやさしい声が、部屋の奥から聞こえてきた。


 現れたのは、二本の長い脚で立つ大きな生きもの。


 金色の長い髪をふわりとなびかせ、澄んだ青いひとみをした、とてもきれいな姿。


『天使……?』


 ドラゴンの子は、思わずつぶやいた。


 死後の世界には、そういったものが存在するとおかあさんから聞いていたから。


(やっぱり、ぼく死んじゃったんだ……)


「あははっ、天使だなんて。そう言ってくれるのはうれしいけど、わたしは人間だよ。羽も輪っかもないでしょ?」


 “ニンゲン”。


 それもおかあさんから聞いたことがある。地上に暮らす生きもので、むかしはドラゴンと仲よくしていたらしい、と。


 その証拠かどうかわからないけれど、ドラゴンの子の記憶の中にも、うっすらとその存在が刻まれている。


 だからか、ふしぎとこわい気持ちはなかった。


 アリスからは、ぽかぽかした日だまりみたいな安心感がにじみ出ている。


『あの、ここは……?』


 ドラゴンの子は、おそるおそるたずねた。


「ここはわたしの家だよ。あなたは空から落っこちてきたの。びっくりしちゃった」『ワン!』


 アリスの足もとで、ミルフィーヌも元気よく鳴いた。


 見たことのない生きものだけれど、この子からも悪い気配はまったく感じない。


『空から? そうか、ぼくは……』


 本当に、生きたまま地上に落ちてきたんだ。


 夢じゃなかったんだ。


 その事実を理解したとたん、ドラゴンの子はしょんぼりとうつむいた。


 それを見て、アリスは声のトーンをやわらかくする。


「とりあえず、こっちに来てごはん食べよう。おなかすいてるでしょ?」


 ドラゴンの子はとまどいながらも、こくりとうなずいた。


 きのうからなにも食べていなくて、たまらなくおなかがすいていることを思い出したから。


(おなかがすくのは、生きてる証だっておかあさん言ってたな…)


 昨夜、おかあさんが「最後の食事だから」って、たくさんごちそうを用意してくれたのに、悲しくて何も食べられなかったことも思い出す。


 胸の奥が、きゅっと痛んだ。


 アリスはテーブルにお皿を並べると、ソファの上のドラゴンの子をやさしく抱き上げた。


「よいしょ。ここに座ろうね」


 子ども用のイスにそっと座らせてくれる。


 それからエプロンを外し、まとめていた髪をほどいて、向かいの席に腰かけた。


 ドラゴンの子の目の前には、にんじんたっぷりのカレーライス。


 見たことのない料理だけど、大好きだったおかあさんのシチューに少し似ていて、鼻をくすぐる香りが「絶対おいしいよ」と語りかけてくる。


「こうやって食べるんだよ。マネしてみて」


 アリスはスプーンでカレーをすくい、ぱくり。


「ん~! おいし~! やっぱり二日目のカレーは最高だね!」


 ほっぺに手を当てて、とろけそうな笑顔。


 そのようすを見ているだけで、ドラゴンの子のおなかがぐうっと鳴った。


 見よう見まねでスプーンをにぎり、カレーをすくって口へ運ぶ。


『お……おいしい~!』


 体の中がぽかぽかする。


 悲しい気持ちも、不安も、ぜんぶやわらいでいくみたいだ。


 おかあさんのシチューにも負けないくらい、おいしい。


 ドラゴンの子の笑顔を見て、アリスもほっとしたように笑った。


「よかったぁ」


『ワンワンッ!』


 ミルフィーヌも床のごはん皿に顔をつっこんで、夢中でカレーを食べている。


 ワンダーだから、なにを食べても平気なのだ。


 こうして――


 空から落ちてきた小さなドラゴンの子は、生まれてはじめて“地上のごはん”を食べたのだった。



 ☆ ☆ ☆



「『ごちそうさまでした!』」『ワンワーン!』


 アリスたち三人はカレーを食べ終わり、おなかも心もぽかぽかになっていた。


 スパイスのいい香りがまだ部屋に残っていて、なんだか幸せな空気がただよっている。


 そのあたたかい雰囲気のなかで、アリスはそっと切り出した。


「わたしはアリス・ハートランド。アリスって呼んでね。……ドラゴンくんは、どうして空から落っこちてきたの?」


 さっきまで少し元気を取り戻していたドラゴンの子の顔が、ふたたび曇った。


(しまった……いきなり聞きすぎちゃったかも)


 そう思ったアリスは、あわてて言い直した。


「ごめんね。よっぽどつらいことがあったみたいだね。話したくなかったら、話さなくていいよ」


 その声は、とてもやさしかった。春の日だまりみたいに、あたたかい声だった。


 ドラゴンの子は胸の奥がじんわりしてきた。


(なんだか……おかあさんみたいだ)


 この人は、信頼できる。


 気がつくと、自然に口が動いていた。


『じ、じつはね……』


 ドラゴンの子は、空のはるか上にある天空の楽園――ドラゴピアのことを話しはじめた。


 自分が故郷で落ちこぼれと呼ばれていたこと。


 やさしくて大好きだったお母さん竜のこと。


 そして、楽園を追い出されてしまったこと……


 話し終えたとき、部屋はしんと静まり返っていた。


 アリスの大きな青いひとみは、涙でうるんでいる。


「それは……つらかったね」


 そのひと言に、ドラゴンの子の胸がぎゅっとなった。


(ぼくのことを、自分のことみたいに悲しんでくれてる……)


 そんなふうに思ってくれるのは、おかあさん以外ではじめてだった。


 アリスは腕でごしごし目をこすると、今度はぱっと明るい顔になった。


「それにしても、天空のドラゴンの楽園だなんて、そんなステキな場所があるんだ! 行ってみたいなあ!」


 きらきら光るひとみで見つめられて、ドラゴンの子は思わず身を乗り出した。


『うん、ぼくも帰りたいんだ。ドラゴピアに行く方法、わからない?』


 あのときは死ぬつもりで飛び降りた。


 でも、いまこうして生きている。


 だったらきっと――おかあさんのところへ帰れるはずだ。


 そんな願いをこめての問いだった。


「うーん……ごめんね。いまのところ、わたしには見当もつかないわ」


 アリスは困ったようにほほをかいた。


「世界じゅうにワンダーの生息域はたくさんあるけど、ドラゴピアなんて名前、聞いたことないの。学校の図書室にも、ネットの検索にも出てこなかったはず……」


 アリスは同年代の子よりずっとものしりだ。けど、それでも知らないことはある。


 ドラゴンの子の胸に、ひやりとした風が吹いた。


(もしかして……地上に落ちたドラゴンが帰ってこなかったほんとうの理由って……)


 墜落して死んだからでも、力つきたからでもなくて。


 どれだけ探しても、帰り方が見つからなかったからなんじゃないか?


(ぼくがこうして生きてるんだ。ほかのドラゴンだって……きっと……)


 考えれば考えるほど、気持ちは暗く沈んでいく。


 その表情を見て、アリスはきゅっとくちびるを結んだ。


(まだ絶望するのは早いよ)


 自分はただの小学生。知らないことがあって当たり前だ。


 でも、世の中にはもっと詳しい人がたくさんいる。


 たとえ今すぐ方法がわからなくても、探すことはできる。


 あきらめなければ、きっと道は見つかる。


 でも――いまいちばん大事なのは。


(ママと離ればなれになって心細い思いをしてる、この子を元気にしてあげること!)


 アリスはいきおいよく立ち上がった。


「ねえ、ドラゴンくん! せっかく地上に来たんだから、ちょっと外を見て回ってみない?」


 にこっと笑うその顔は、太陽みたいに明るい。


 ドラゴンの子はぽかんとした。


 さっきまで、帰れないかもしれないって話をしていたのに。


 でも……だからこそ。


 ほんの少しだけ、地上がどんなところなのか見てみたい気持ちがわいてきた。


「う……うん」


 気がつくと、うなずいていた。


「決まり! じゃあ行こう! ミルフィーヌも!」


『ワン!』


 こむぎ色でもふもふのミルフィーヌが元気よくほえる。


 アリスはドラゴンの子の手をきゅっとにぎった。小さくて、でもほんのりあたたかい手だった。


「だいじょうぶ! 地上もね、けっこう楽しいところだから!」


 その言葉に、ドラゴンの子の胸の中に、ほんの少しだけ希望の光が差しこんだ。


 アリスに引っぱられるようにして外へ出ると、青い空がどこまでもひろがっていた。風がやさしく吹き、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえる。


 そのあとを、ミルフィーヌがしっぽをぶんぶん振りながら追いかけていった。


 こうして、ドラゴンの子のはじめての“地上さんぽ”がはじまったのだった。

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