第18話 わくわくの予選開始
アリスたちは、朝ごはんのフレンチトーストをおなかいっぱい食べて、元気いっぱいに家を飛び出した。
きょうは校内ワンダーバトル大会の予選の日。
バトル禁止令が解けたアリスにとっては、はじめての大きなイベントだ。
アリスは胸を弾ませ、ウォッチの中のブルーは緊張で胸がどきどき。
ふたりはそんな気持ちを共有しながら、いつもの通学路を歩いていた。
「よう! スーパースター!」「きょうもかわいいね!」
「予選がんばってね、アリスちゃん!」「またジャイキリ、期待してるぜ!」
ふしぎなことに、けさは老若男女問わず、いつも以上に人に声をかけられる。
中にはスマホを向けてくる人までいて、アリスは芸能人にでもなった気分だった。
たしかにアリスはこのあたりでは人気者だが、ここまでチヤホヤされるのはさすがに異常だ。
……とはいえ、悪い気はしないので、アリスは軽く手を振りながら歩き、校門をくぐった。
☆ ☆ ☆
「おっ、ウワサの超新星が来たぞ!」
教室に入った瞬間、そんな声が飛び、アリスは一気に注目の的になった。
クラス中がざわざわと色めき立つ。
その中を、親友三人娘がいきおいよく駆け寄ってきた。
「アリス! おはよう! すごいことになっちゃったね!」
緋羽莉はいつもどおりの満面の笑み。
でも、いつもよりちょっとだけテンションが高い気がする。
「すごいことって、どういうこと?」
「もしかして、まだネット見てないの?」
「ネット? ゆうべはごはんのあと、すぐ寝ちゃったからなあ……」
閃芽の言葉に、アリスはきょとんと首をかしげた。
「これ、見てみて!」
りんごがスマートウォッチの画面を空中に投影し、拡大する。
「うわっ! なにこれ!?」
アリスは目を丸くした。
きのうの石切大三とのバトル動画が、爆発的拡散っていたのだ。
「たしかに、バトル未経験のわたしがプロの弟を倒すシーンが盛り上がるのはわかるけど……これはちょっと異常すぎない?」
「きのうのチャンピオンチャレンジで、そのプロのアニキがハデにボロ負けしたから、相乗効果で話題になったんだよ」
「ああ……きのうの対戦相手、お兄さんだったんだ」
アリスは番組のことをすっかり忘れていたので、対戦相手が誰だったかも知らなかった。
ゆうべはすぐ寝てしまったので、見逃し配信も見ていない。
「まあ、さわぎの理由がわかってスッキリしたよ」
アリスはあっさりしたものだ。
「リアクションうすいなあ……」
りんごが苦笑する。
「わたしは推す側じゃなく、推される側の人間だって、つねづね思ってたからね」
アリスはふふーんと胸を張った。
人間、ちょっとくらいうぬぼれていたほうがいい、それがアリスの持論だ。
「そうだね! わたしもアリスがたくさんの人に注目されて、うれしいよっ!」
緋羽莉はうれしさのあまり、アリスを大きな胸にぎゅっと抱きしめた。
アリスはそのやわらかさと温かさに、思わず笑顔になった。
「そんな注目の超新星が、予選であっさり負けたりしたら……とんだ笑いものだね」
閃芽がいたずらっぽく笑う。
「のぞむところよ。これでますます負けられなくなったってことだよね!」
こういう状況でこそ燃えあがる――それがアリス・ハートランドのスター性だった。
☆ ☆ ☆
アリスのクラスの予選は、3・4時間目を使っておこなわれる。
参加希望者全員によるトーナメントで、上位2名が週末の本選に進める。
5年2組は33名中24名が参加。つまり、システム上3~4連勝すれば予選通過だ。
アリスはクジでシードの番号を引けなかったので、4連勝が必須。
だが、バトル歴三日のアリスにとっては、むしろ経験を積めるチャンスだった。
「わたしはシードだから、二回戦でアリスと当たるね!」
緋羽莉はうきうきしている。
「そうだね。次もわたしが勝っちゃうから」
アリスはぱちんとウインクした。
「まあ、せいぜいがんばってちょうだいね」
「うん、ふたりとも、応援してるよ」
閃芽とりんごは競技会にはあまり興味がないので、参加せず今回は応援にまわるらしい。
クラス全員でバトルコートへ移動する。きのうのお昼休みに戦った、あの場所だ。
2時間ごとに1クラスがコート4面を貸し切り、同時に試合を進める。
もちろん早めに全試合終了すれば、あまった時間は通常授業になるので、早期決着がいやがられるのは言うまでもない。
さて、アリスの初戦は2番コート。対戦相手は――
「おうおう! アリス! ずいぶん調子に乗ってるみてーじゃねーか!」
横に大柄で、逆立った髪の男子、梶良兵。あだ名はカジラ。
国民的アニメに出てきそうなガキ大将タイプだ。
いつもいばりちらし、自分が一番でないと気がすまない。
バズって注目を浴びているアリスに嫉妬しているのはあきらかだった。
当然、バトル歴はアリスよりはるかに長い。実力もクラスの中では上位レベルだ。
「勉強じゃ勝てねーが、ワンダーバトルじゃオレ様のほうが上だってコト、わからせてやるぜ!」
実際は勉強だけじゃなく、運動でもカジラはアリスに一度も勝ったためしはない。
だがアリスは、そんなことを言い返したりはしない。
それが英国淑女のたしなみ――というより、相手にするのがめんどうなだけだ。
「カジラとアリス、どっちが勝つかな?」「やっぱカジラだろ!」「いやいや、アリス一択っしょ!」
「そうそう、石切に勝ってるんだし!」「そーだね、やっぱりここはアリスよ!」「カジラ生贄確定!」
なんと、試合にのぞむ8人以外の児童が、全員この2番コートに集まってしまっていた。
もちろんお目当ては、いま話題の中心にいるアリス。
それがまた、カジラの燃える嫉妬心に油を注いでいた。
「アリスー! がんばれー!」
いちばんの大親友の緋羽莉が、ひときわ大きな声援を送る。
人一倍体が大きく、よく鍛えているだけあって、声の大きさもいちばんなのだ。
対照的に閃芽とりんごは静かに見守っていた。
応援するまでもなく、アリスが勝つと確信しているからだ。
アリスとカジラは、コートの両端で向かい合った。
予選一回戦と二回戦は、使用ワンダーは一体のみ。
つまり、もっとも信頼するパートナー同士の真っ向勝負だ。
「出てこい! ガブ!」
カジラのスマートウォッチから現れたのは、体とはアンバランスな大きな頭と口が特徴の、黄色い恐竜の子ども、【ガブリュー】。
子どもとはいえ、ブルーの倍はある大きさだ。
あんなのにかみつかれたら……ブルーもミルフィーヌも丸飲みにされてしまいそうだ。
対するアリスは――
「さあ! 出番だよ! ブルー!」
光の中から現れたのは、【セルリアンドラコ】のブルー。
ちなみに種名は、天野博士がつけてくれたもの。
「なにあれ? 青いトカゲ?」「ドラゴンじゃない?」「石切を倒した、あのワンコじゃねーのかよ?」
「てかあいつ、強そうにみえねーんだけど」「ミルフィーヌちゃんが見たかった~!」
『え? えっ?』
ギャラリーがざわつき、ブルーはおろおろした。
大勢の視線が一気に集まり、ブルーの胸がぎゅっと縮こまる。
「……これ、まずいんじゃないかな?」
りんごが眉をひそめた。
「え、なにが?」
緋羽莉が首をかしげる。
「ブルー、故郷じゃいじめられっ子だったんだよね? こんなに大勢から目を向けられたら……いやな記憶を思い出しちゃうかもしれないよ」
りんごの悪い予感は、残念ながら当たってしまう。
そのことを、親友ふたりもこのあとすぐ思い知ることになるのだった。




