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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第1章 アリス・ハートランドと三人の親友

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第17話 ドキドキの予選前夜

「う~ん! やっぱりいっぱい遊んだあとのごはんって、おいしい~!」


 アリスたちは、自宅のダイニングで晩ごはんを囲んでいた。


 メニューはまたまた、にんじんたっぷりのカレーライス。


 稲葉家では一度カレーを作ると、最低三日は食べ続けるシステムになっている。


 でも、新入りのブルーをふくめ、だれひとり文句なんて言わない。だって、おいしいんだもの。


「楽しそうでなによりです。今まで窮屈な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」


 沙織はアリスの食べっぷりをいとおしそうに見つめながら、あやまった。


 沙織はアリスの保護者、つまりアリスにバトル禁止令を出していた張本人なのだから。


「べつにいいよぉ。沙織さんには沙織さんの考えがあったんでしょ? それにおかげで、バトル未経験者が元プロの子で現プロの弟を負かすっていう、エンターテインメントな展開ができたしね」『ワン!』


 ミルフィーヌも、口のまわりをカレーで黄色くしながら元気に鳴いた。


「エンタメといえば、きょうはチャンピオンチャレンジがある日じゃありませんでしたっけ?」


 沙織がふと思い出したように言う。


「あー! そうだった! 校内大会予選のこととか、バトルが楽しすぎてすっかり忘れてた! テレビテレビ!」


 アリスはあわててリモコンを手に取り、テレビをつけた。


『チャンピオンチャレンジって?』


「チャンピオン……この国でいちばん強いウィザードが、毎週挑戦者とバトルする番組だよ!」


 アリスが興奮ぎみに説明するので、ブルーはカレーをのどにつまらせそうになった。


「決まったァー! ブレス・オブ・グロォーリィー! 銀翼の竜皇・シルヴァリオ、またも圧巻の三タテ! チャンピオン、連勝記録をさらに更新ですッ!」


 やかましい実況とともに映し出されたのは、勝ち名乗りをあげる大きな銀色のドラゴンと、そのウィザード――金髪碧眼で白いマントをまとった男性だった。


「あー! もう終わっちゃってる! また速攻で決めちゃったのね! 沙織さんってば、もうちょっと早く教えてくれればいいのに!」


「私は興味ありませんから。まだまだ記憶力の訓練が足りないようですね」


「むー!」


 アリスは子どもらしくほっぺをふくらませた。


 そんな相棒(パートナー)をよそに、ブルーは画面の銀色のドラゴンに目をうばわれていた。


『あのドラゴン、かっこいい……』


 思わず声に出てしまうほど、見とれていた。


「お、ブルーもわかる? 人呼んで"銀翼の竜皇"【シルヴァリオ】。この国で最強のドラゴンなの」


『最強……』


 ブルーのまなざしが、憧れの色に変わっていく。


「そして、わたしたちが超えなくちゃいけない相手でもある」


「……」


 アリスのひとことを聞いて、ブルーは天野博士の言葉を思い出した。



 ☆ ☆ ☆



 天野研究所でバトルを楽しんだあと、帰ろうとしたときのこと。


「そうだ博士、ドラゴピアについてなにか知りませんか?」


 アリスが思い出したようにたずねた。


 ブルーもハッとした。アリスは言っていた。もっと知識のある人やえらい人なら、ドラゴピアのことを知っているかもしれないと。


 ちょうど天野博士は、両方に当てはまっている。……ブルーとしては、ちょっぴり不本意だけれど。


「うーん、まっことにもうしわけありませんが、私も聞いたことないんですよお」


 博士は眉間にしわを寄せ、悩ましげに答えた。


「そ、そうですか……」


 アリスとブルーは肩を落とした。


 とくにアリスは、自信満々に「ほかの人ならわかるよ!」と言ってしまった手前、ブルーにもうしわけない気持ちでいっぱいだった。


 そんなふたりを見て、博士はあわてて言葉をつづけた。


「そ、そんなに気を落とさなくてもいいですよお! 存在するということは、行く方法も必ずあるということです! 手がかりはなくとも、可能性はゼロじゃあありません!」


「そんなあわあわしながら言ってたら、説得力と信憑性もゼロになっちゃいますよ」


 となりのオデコがため息をつき、メガネをくいっと押し上げた。


「こんなだけど、博士の言うことは正しいわ。この世界に存在する以上、ドラゴピアに行く方法は必ずある」


 平常に戻った博士はうなずき、さらに真剣な声でつづけた。


「ですが、そのためには最低限クリアしなきゃいけない課題があるんですよねえ。それも、とびきり難易度の高い」


「それが、Aクラスウィザードになることですよね」


 アリスが真剣な顔で言う。


 しかしオデコはメガネを光らせ、首を振った。


「いいえ、正直それじゃ足りないわ。ただ空の上の領域に行くってだけならそれでいい。でも、前人未到の、それもワンダーとしては最上級の種族であるドラゴンまみれの楽園に行くなら、それ以上の……"チャンピオンクラス"にならないとダメよ」


『チャンピオン……クラス?』


 響きだけで、すごそうだとわかる。ブルーは目をぱちぱちさせた。


「ひらたく言えば、この国最強のウィザードってことですねえ」


『え』


 ブルーは衝撃を受けた。


 もう絶望なんてしないと誓ったけれど、これはさすがにハードルが高すぎて、心が折れてしまいそうだった。


 ぼくたちが、最強になんかなれるんだろうか。なれたとしても何年、ううん何十年かかるんだろうか。


 それだけの時間、おかあさんはぼくの帰りを待っててくれるだろうか。不安が胸の中でぐるぐる回った。


 けれどそんな不安を振り払うように、アリスは不敵に笑って言った。


「いいじゃない。目標が高いほうが、燃えてくる!」


 その目は、まっすぐで、強くて、迷いがなかった。


 ブルーはその顔を見て、胸の奥がじんわり熱くなった。


 ――アリスといっしょなら、できるかもしれない。


 そう思えた。


 やっぱりアリスは、ぼくの希望の光だ。



 ☆ ☆ ☆



 そう、ぼくたちがチャンピオンクラスになるためには、あの銀色のドラゴンを倒さなくちゃいけないんだ。


 そう考えると、ブルーは胸がドキドキしてきた。


 でも同時に、地上にもあんな立派なドラゴンがいるんだと思うと、戦うのとはべつに、純粋に会ってみたい気持ちもわいてきた。


「その機会、貴方が思っているより早く訪れるかもしれませんよ」


 沙織がまるで心を見透かしたように言うので、ブルーはびくっとした。


 たしか沙織のお仕事は探偵さん、モノやヒトさがしのプロだ。だから人の考えを読み取るなんて、朝ごはん前だとアリスも自慢げに言っていた。


 こういった一面があるからこそ、自分は沙織をどこかおそれているのかもしれないと、ブルーは思った。


「どういうこと? 沙織さん」


「さあ、どういうことでしょうか」


 沙織はいたずらっぽく笑って、アリスの質問をかわした。


 ――こういうところだけ見ると、ほんとうにきれいな人なんだけどなあ。


 ブルーはそんなことを思った。



 ☆ ☆ ☆



「ぷはー! きょうはさすがに疲れた~!」


 お風呂から上がり、お気に入りの水色のパジャマに着替えたアリスは、ベッドにばふっと倒れこんだ。


 とくに、きょういちばんがんばったミルフィーヌは、すでにすやすや寝息を立てている。


 アリスは寝る前に動画でも見ようかと思ったが、そんな気分にはならなかった。


 そもそも疲れたと口にしたものの、これぐらいで本気で疲れるほどアリスはヤワな鍛え方はしていない。


 ワンダーバトルが解禁されてはじめての学校生活、きょうはあまりにも充実していて、この余韻のまま眠りたかったのだ。


 ブルーも同じ気持ちだったのか、ベッドの上にちょこんと座り、自分の手のひらをじっと見つめていた。


「どうしたの?」


『うん、ぼくの中にはちゃんと、おかあさんからもらったチカラがあるんだなって思うと、うれしくて』


「よかったね」


『それに気づけたのは、アリスのおかげだよ。ありがとう』


「うれしいけど、それはお昼にも聞いたよ」


『何度でも言いたいんだよ。何度言っても足りないんだ。ぼく、アリスに、感謝しきれないほど感謝してるんだよ』


「それはちょっと大げさ……とも言い切れないのかな、ブルーにとっては」


 アリスは照れくさそうに頭をかいた。


『うん。だからドラゴピアに帰る前に、アリスにいっぱい恩返しがしたいんだ』


「わたしは、その気持ちだけでじゅうぶんだけどね」


『それじゃ、ぼくの気がすまないんだよ。そういえば、アリスにはなにか、夢とか目標とかってないの?』


「わたしの夢? わたしの夢はね……」


『うんうん』


 ブルーは身を乗りだした。


「いいウィザードになること、かな」


『……へ?』


 ブルーはぽかんとした。


 いいウィザード――あまりにも抽象的で、ふわふわした夢だ。


『いいウィザードって、アリスはとっくにいいウィザードだよ!』


 ブルーは思わず声が大きくなった。


「そう言ってもらえるのはうれしいよ。でも、わたしはまだまだそう呼ばれるには足りないと思うんだ」


『アリスの言ういいウィザードって、どんなのなの?』


「どんなまちがったチカラにも、負けない存在だよ」


 アリスは迷いなく言い切った。


 その表情は笑顔でも真剣で、ブルーは思わず息をのんだ。


『まちがったチカラっていうと、きのうぼくをつかまえようとしたニンゲンたち、とか?』


 ブルーは犬童たちのことを思い出した。


 ちなみに町中でワンダーを痛めつける行為はりっぱな犯罪なので、あのあとアリスが警察に通報し、連中はいまごろオリの中だ。


「そうだね。あんなふうにワンダーを使って悪いことをする人たち、わたしはどうしても許せないんだ」


 アリスの声には、怒りと悲しみがまじっていた。


 ブルーは胸がきゅっとした。


 正義感が強い子だとは思っていたけれど、想像以上のようだ。


 どうしてそこまで悪を許せないと思うのか、とてもじゃないけどいまはたずねる勇気がなかった。


 あんまり深く踏みこんだら、アリスに嫌われてしまうんじゃないかと思ったから。


「だからわたし、まずはだれよりも強いウィザードになる。強くて悪いことはないし、そもそも強くないとチャンピオンにもなれないしね。だから、ブルーもチカラを貸してね」


『……うん!』


 理由はどうあれ、アリスにたよられるのはうれしいので、ブルーは力強くうなずいた。


「まずはあしたの校内大会予選、がんばろう!」


『おー!』


 こうしてふたりは、明日の勝利を誓い合い、心地よい疲れと期待を胸に眠りについた。

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