第16話 空色の鉄拳
「うん、その言葉を待ってたよ、ブルー!」
アリスは不敵に笑い、力強くうなずいた。
「ブルー、いい顔してる!」
なんて言う緋羽莉自身も、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。
「相手の動きを、よく見て!」
『うん!』
アリスの声にこたえ、ブルーは【ロボ・ロフスキー】のコータローを、その大きなひとみでじっと見つめた。
(さっきまでみたいに、ただ見るだけじゃダメだ。目に、意識を集中させるんだ……!)
「なにか気づいたみたいね。《メカラビーム》!」
オデコもまた、不敵な笑みを浮かべて指示を飛ばす。
コータローの目が光り、ビームが発射された。
機械だけに文字通りギアが上がってきたのか、さっきよりも威力が増している。
(見える……! ビームがどこへ飛んでくるのか、はっきりと!)
ブルーのひとみは、その軌道を完全につかんでいた。
「よけて!」
アリスの声が響く。
ブルーは反射的に右へ跳び、ビームをみごとにかわした。
さっきまで攻撃におどろいて固まっていたのが、まるでうそのようだ。
「やるう!」
「ウソぉ!?」
緋羽莉は歓声をあげ、オデコは目をむいた。
観察室の博士たちも同じ反応だ。とくに博士は、よだれをたらすほど興奮している。
「戦いの中で急成長するとか、マンガじゃないんだから!」
オデコはくやしさとうれしさが入りまじった顔で、白衣をひるがえしながら次の指示を出した。
「《電鋼石火》!」
コータローは四足歩行の姿勢になり、地面をけって走りだした。
その軌道はまるで、イナズマを描くようにジグザグだ。
「《ダッシュアタック》!」
アリスも負けじと、ブルーに体当たりを命じる。
コータローの動きは見えている。確実に当てられる!
そう思ったのもつかのま、ブルーの体当たりは空を切り、逆に横からコータローにぶつかられてしまった。
鉄の体に高速でぶつかられたぶん、ビームよりずっと痛い。
『ううっ……!』
ブルーはころがり、苦しげにうめいた。
攻撃に集中しすぎて、守りの意識がおろそかになっていたことも、ダメージの大きさにつながったのだと気づく。
「動きの単調さが、アダになった感じですねえ」
観察室の天野博士が、冷静に分析した。
「ブルー! いまのはいいセンいってたよ! 相手の動き、ちゃんと見えてるんだよね?」
落ちこみかけたブルーを見て、アリスがはげますように声を張る。
『う、うん、見えてるけど……』
「だったら自分から突っこまずに、待っててやればいいんだよ!」
『相手を、待つ……?』
アリスの言葉に、ブルーはハッとした。
そうだ。相手の攻撃に合わせて動く――ミルフィーヌもやっていた。
でもぼくには、ミルフィーヌみたいにバリアは出せない。じゃあ、どうやってむかえ撃つ?
ミルフィーヌは、手からバリアを出してた。手、手のひら、こぶし……
『……そうだ!』
ブルーの頭の中に、ひらめきが走った。
右のこぶしをぎゅっとにぎりしめ、コータローをまっすぐに見すえる。
「またなんかに気づいたカンジ? じゃあ見せてもらっちゃおうかな!」
オデコはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ふたたび、《電鋼石火》を命じた。
とっとこ走るコータローが、イナズマのごとくブルーへとせまる。
ブルーは動かない。
ただ、相手の動きと自分のこぶしに意識を集中させる。
すると――
ブルーのこぶしが、空色のオーラをまといはじめた。
「これは……」
その場の全員が、思わず息をのんだ。
突っこんでくるコータローに合わせ、ブルーは足をふんばり、右のこぶしを振り抜いた!
『《スカイナックル》!』
ドガシャアアアン!
金属が押しつぶされたような音が響き、コータローのボディはパーツをばらまきながらふっとばされ、コートの上にガシャンと落ちた。
「コ、コータローーー!」
オデコは絵画のごとく両手で顔をはさみ、叫び声をあげた。
「やったあ! ブルーの大勝利だあーっ!」
緋羽莉はアリスよりも先に、大きな体でぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。
「ブルーっ!」
アリスはウォッチからミルフィーヌを呼び出し、いっしょにブルーのもとへ駆け寄った。
「えらいよブルー! わたしの言ったとおり、ちゃんとミルフィーヌのバトル、見てたんだね!」『ワンワンッ!』
ブルーが生み出した《スカイナックル》は、ミルフィーヌの《パウパンチ》やガンゴーレムの《ゴーレムパンチ》から着想を得た技だった。
『うん、あのときのイメージがあったから、とっさに思いつけたんだ。だからこの勝ちも、アリスとミルフィーヌのおかげだよ。ありがとう』
ブルーがにっこり笑うと、アリスとミルフィーヌもにま~っと笑った。
そこへ、コータローをスマートフォンに戻したオデコが歩いてきた。
「完敗だよ、ふたりとも。私もまだまだ……」
「いやー! すんばらしいバトルでしたよブルーくん! ラストの新技習得、胸アツすぎです! 戦いながら動きをみがく学習能力もおどろきですよ! ドラゴピアではどんな教育を!?」
観察室から飛びだしてきた天野博士が、オデコの言葉をさえぎって割りこんだ。
ブルーもアリスも、たじたじだ。
「ちょっと! せっかく私がいいこと言おうと思ってたのに!」
「えー!? いいじゃないですか。どうせ負け惜しみでしょう? 子どもには刺さりゃしませんよ!」
「なんだとこのヘンタイビン底メガネ!」
ふたりは取っ組み合いをはじめ、緋羽莉以外の子どもたちは心の底からあきれた目を向けた。
そして博士は、なにもなかったようにせき払いをひとつ。
「とにかく、いまのバトルでブルーくんの生態データはすべて採取できました。健康状態も問題ありません。ご協力、感謝いたします」
きゅうに所長らしい口ぶりになったので、アリスたちはぽかんとした。
『健康状態って……そんなこともわかるの?』
ブルーは目を丸くする。
「コータローがバトル中、ずっとあなたの体をスキャンしてたからね。おかげで体のすみずみまで、バッチリ観察できたわ」
オデコが胸を張って答えた。
体のすみずみまで……ブルーは少し恥ずかしくなったが、それ以上に、コータローが観察に徹していたというのなら、その意識をちゃんとバトルにまわしていれば、もしかしたら結果はちがったんじゃ……と、ちょっとだけ思った。
「こちらこそ、ブルーに自信をつけさせてもらえました。ありがとうございます」
アリスも深くおじぎをした。
「うんうん。無事ドラゴピアに帰れるといいですねえ。私も応援させていただきますよお」
博士はブルーの顔にぐいっと近づいて言った。
応援してくれるのはうれしいけれど、もうちょっと距離感を考えてほしいとブルーは思った。
「それじゃあ応援ついでに、もうひと勝負いっちゃう?」
緋羽莉は気合まんまんで、ピンクのオフショルダーの袖をまくりあげた。
さっき戦闘不能になったアカネも、再生能力があるなら、もう元気になっているだろう。
「緋羽莉ちゃんは元気だなあ。よーし、やろうか、ブルー?」
『ええっ!? ぼ、ぼくはもういいよ、疲れちゃったし……』
実際、きょうはじめておもいっきりチカラを使ったので。ブルーはほんとうにへとへとだった。
「せっかくだから、わたしもまざろうかな」
「わたしは……見てるだけでいいや」
閃芽とりんごも輪にくわわり、なかよし四人娘は門限いっぱいまでバトルにあけくれた。
「あの子たち見てると、未来は明るいって感じちゃいますね」
「ですねえ。その未来を守るのが、私たちのお仕事です」
オデコと博士はオトナらしくおとなしく、笑顔で子どもたちを見守るのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
きのうで毎日二話更新を終了する予定でしたが、10万字を越えるまで続けることにしました。
きょうも引き続き21時ごろに二話目を公開するので、よろしくおねがいします。
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