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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第1章 アリス・ハートランドと三人の親友

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第14話 博士登場

「じゃあいくよ、アリス、ブルー! 《ファイアボール》!」


 アカネはクチバシをぱかっと開き、火の玉を吐き出した。


「《ガード》よ、ブルー!」


『う、うん!』


 まだ、とっさにかわすのはむずかしい。けれど防御の態勢ならとれる。


 ブルーはぎゅっと目を閉じ、頭を下げ、顔の前で両腕を交差させた。直後、ファイアボールが腕にぶつかって弾ける。


「もっともっと、いくよ!」


 緋羽莉の元気いっぱいなかけ声に合わせ、アカネはファイアボールを連発した。


 ドン、ドン、ドンッ!


 ブルーは交差した腕でぜんぶ受け止める。けれど、さすがにだんだんキツくなってきた。


 一発一発は決定打ではない。でも、まったく効いていないわけでもない。


 ダメージは少しずつ、たしかにブルーの体力を削っていく。


「アカネのエナは無尽蔵といっていいからね。このままじゃやばいよ」


「緋羽莉ちゃんと同じで、スタミナ自慢だもんね……」


 となりの観察室で見ていた閃芽とりんごが、不安そうに声を上げる。


 けれど――


 ウィザードであるアリスの表情だけは、ちっともあわてていなかった。


 むしろ、なにかを待っているような、静かな自信がにじんでいる。


 そのことに、いちばんの親友である緋羽莉も気づいていた。


(アリスのことだから、なにか考えがあるんだよね? 見せてみてよ!)


 期待に満ちたまなざしが、アリスとブルーに向けられる。


「いくよブルー! そのままの姿勢で、《ダッシュアタック》!」


 アリスの声が、ピシッと響いた。


 ブルーはガードのかまえのまま、前へ突っこんでいく。


 どうしてこの姿勢のまま走るのか、正直よくわからない。


 でも――アリスが言うなら、きっと意味がある。


 そう信じたブルーの足に、迷いはなかった。


『バカのひとつ覚えね!』


「《マジカルファイア》!」


 アカネはニヤリと笑い、螺旋状の炎を放つ。


「あれを受けたら、また弱体化させられちゃう!」


 観戦しているりんごが思わず叫ぶ。


「ブルー! 右に曲がって!」


『う、うん!』


 アリスの指示に、ブルーは即座に反応した。


 ガードで顔を守ったまま、体ごとぐいっと右へ方向転換。


 その結果、マジカルファイアは空を焼くだけで、ブルーには当たらなかった。


『なんですって!?』


「やるう!」


 アカネが驚きの声を上げる一方で、緋羽莉は目を輝かせて感心している。


「でも、まだまだ! 《ラピッドファイア》!」


 手をゆるめず、次の指示を飛ばす。


 アカネもハッとして、高速の火の玉を連射した。


「そのまま、まっすぐ!」


『うんっ!』


 スピードに乗ったブルーは、アリスの声だけを頼りに一直線。


 火の玉は後ろの床を焦がすだけで、ブルーをとらえられない。


『もー! どうして急に当たらなくなっちゃったのよー!』


 アカネは地団駄を踏んだ。


「そういうことか……」


 観察室で閃芽が、納得したようにうなずく。


「どういうこと?」


 りんごが首をかしげる。


「ブルーはまだ実戦に慣れてない。攻撃が見えると、びびって動きが止まっちゃう。でも、あのガードの姿勢なら前がほとんど見えない。だから“攻撃を見て怖がる”ことがないんだよ」


「なるほど……あとはアリスちゃんが動きを指示するだけでいいってわけか!」


 りんごは目を丸くした。


「次は左! そこで、もう一回左!」


 ブルーは前を見ないまま、ただアリスの声だけにしたがって走る。


 それができるのは、アリスへの絶対の信頼と、ブルーの素直な性格があるからだ。


 アカネのまわりをぐるぐる回りながら、少しずつ距離を詰めていく。


『んも~~~っ!』


 攻撃を当てられないアカネは、イライラが最高潮だ。


「これがラスト! そのまま、まっすぐ!」


『たあーっ!』


 ラストスパート。ブルーは残った力をふりしぼり、全力ダッシュ!


『きゃーーーっ!』


 ついに体当たりがアカネをとらえた。


 赤い小さな体が宙に高く舞い上がる。


『ふんぎゃ!』


 アカネは頭からゴチーン!と床に落ち、ぴくりとも動かなくなった。


 いくら自己再生能力があっても――一撃で気絶してしまえば、回復する前に勝負ありだ。


 コートの中央で、ブルーは肩で息をしながら立っていた。


 その小さな背中が、さっきよりずっと大きく見える。


「試合終了。アリスとブルーの勝ちー」


 観察室のマイクから、閃芽が少し気だるげな口調で宣言した。けれどその顔は、どこか満足そうだ。


 となりのりんごも、ブルーの勝利をたたえるようにパチパチと拍手している。


「やったねブルー! またまた勝っちゃったよ!」


 アリスはコートの中へ駆けより、ブルーの体をひょいっと高く抱きあげた。


『う、うん、ありがとう。ぜんぶアリスのおかげだよ。アリスの言うとおりにしたから、勝てたんだ』


 ブルーは照れながらも、まっすぐな目で言った。謙遜ではなく、本心からの言葉だ。


 自分の体が強いことはわかった。でも、アリスの指示がなければ、きっと負けていた。


(これが……ワンダーとウィザードが力を合わせるってことなんだ)


 ブルーの胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。


「アカネちゃんもおつかれさま。ごめんね、また負けさせちゃって」


 緋羽莉は気絶したアカネをそっと抱きあげ、やさしく声をかけた。


 目を覚ましたら、またブルーに悪態をつきそうな気もしたので、そのままそっとウォッチへ戻してあげる。


 ブルーも、ほっとしたように小さく息をついた。


「ブルー! すごかったね! 落ちこぼれなんて言ってたけど、ぜんぜんそんなことないじゃない!」


 緋羽莉はぱっと花が咲いたような笑顔で、アリスに抱かれたブルーに顔を近づけた。


 そのあかるさは、まるで青い空に輝く太陽みたいだ。


『……ありがとう。ぼくも、もっと早く自分の力に気づきたかったよ。そしたら、地上に落とされずにすんだかもしれないのにね……』


 ブルーはふと、遠い空を思い出すように目を伏せた。


 すると緋羽莉は、くすっとやさしく笑う。


「いまからでも、ぜんぜん遅くないよ。むしろ地上に落ちたからこそ、空の上じゃできない体験、いっぱいできるんだもん。ラッキーだよ!」


 そして胸を張って続けた。


「そのおかげで、わたしたち友だちになれたんだしね!」


 その言葉は、まっすぐで、あたたかくて、力強かった。


 ブルーはハッとする。


 さっきまで、地上は楽しい場所だと感じていた自分の気持ち。


 それが今、はっきりとした確信に変わった。


(ぼく……地上に来て、本当によかった!)


「……ヒバリちゃん、ほんとうにありがとう。ぼくも、ヒバリちゃんと友だちになれて、すごくうれしい」


 ブルーは少しはにかみながら言った。


 緋羽莉は、ぱあっと満面の笑顔になる。


「ふふっ、どういたしまして! わたしもブルーの友だちになれて、うれしいっ!」


 そう言って、ブルーに思いきりほおずりした。


『わわっ!?』


 突然のスキンシップにびっくりしつつも、ブルーの顔はどこかうれしそうだ。


(ヒバリちゃんはこんなにやさしいのに、どうしてアカネはあんなにツンツンしてるんだろう?)


 ブルーはちょっぴりふしぎに思った。


「もー、緋羽莉ちゃんってば。わたしの言いたかったこと、ぜんぶ先に言っちゃうんだもんなあ」


 アリスはほっぺたをぷーっとふくらませながら、ブルーを抱く腕の力をぎゅっと強めた。


「あははっ、ごめんごめん! でもそれって、親友同士で気持ちが通じ合ってるってことだもんね!」


「そうだね……それはうれしいことだけど」


 アリスはふっと笑った。


 なんだかんだ言っても、いちばんの親友と胸を張って言えるほど、緋羽莉のことが大好きだからだ。


 これまで何度、彼女に助けられてきたかわからない。


「いやー! みなさん、遅れてもうしわけない! ようこそ! わが天野研究所へ!」


 そのとき、自動ドアが開き、ひとりの女性が勢いよく試験室に入ってきた。


 閃芽と同じ色の長い髪を後ろでまとめ、ぐるぐるのビン底メガネをかけた白衣姿の女性だ。


「あー、お姉ちゃん。やっと来たよ」


 いつのまにか観察室から出ていた閃芽が、あきれたように言う。


「ごめんなさいねえ、実験が長引いちゃって。……その子が、ウワサのブルーくんですね?」


 ビン底メガネの女性は、キラリと目を光らせてブルーを見た。


 ブルーはなぜかゾクッと背筋に寒気を感じ、びくっと体をこわばらせる。


「はじめまして。私はこの天野魔法生物研究所の所長、天野(あまの)宇図芽(うずめ)と申します。気軽に“天野博士”と呼んでくださいねえ」


 天野博士はにこにこと笑いながら、ていねいに一礼した。

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