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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第1章 アリス・ハートランドと三人の親友

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第13話 緋羽莉とアカネ

「はい、ここが第二試験室。自由に使っていいけど、あんまりハデにやりすぎて壊したりしないでね」


 白衣のポケットに手を入れながら、オデコがくるりと振り返った。


「ちょっとやそっとで壊れるような、ヤワなつくりしてないでしょ」


 腕を組んだ閃芽が、すぐさま口をはさむ。


「こういうのは、あらかじめ言っとかないと、あとあと問題になるの!」


 ぷいっと横を向くオデコに、アリスは思わず苦笑した。


 案内されてやってきた第二試験室の中には、学校で見たものとよく似たバトルコートが一面だけ敷かれていた。けれど、広さは学校とは段ちがい。白い壁も床もぴかぴかにみがかれていて、まるで未来の体育館みたいだ。


 コートの表面はガラスみたいにつややかで、照明の光を反射してきらきらしている。足を踏み入れるだけで、ここが特別な場所だとわかる。


『あの、どうして試験室っていうんですか?』


 ブルーは大きな手で、くいくいっとオデコの白衣のすそを引っぱった。


「いい質問だね」


 オデコはすぐに機嫌をなおし、にこっと笑う。


「この部屋は、ただバトルするためだけの場所じゃないの。ここで研究中のワンダーがどんな技を使えるのか、どんな能力を持っているのか、それをウィザードがどれだけあつかえるのか――そういうことを実際に試して、たしかめるための場所なの。だから“試験室”っていうのよ」


『へえー……すごいね』


 ブルーの目がきらきら輝く。未知のワンダーや新しいチカラの話は、知的好奇心の強いドラゴンの男の子にとって、わくわくするものばかりだ。


「まあとどのつまり、バトルする場所なんだけどね」


 閃芽が、身もフタもないひと言をつぶやいた。


 オデコはムッとして、じろりとにらむ。


「じゃあ私は、所長急かしてくるから。どうぞごゆっくり!」


 そう言い残すと、つかつかと試験室を出ていった。


 自動ドアが閉まる音が、やけにピシャッと大きく響く。まるでオデコの怒りが乗りうつったみたいに。


『ヒラメちゃんとオデコさんって、仲悪いの?』


 ブルーはちょっと不安そうに、アリスを見上げた。


「逆だよ」


 アリスはくすっと笑う。


「そういうことを言い合えるくらい、気をつかわなくていい仲なんだよ」


『なかよしなのに、ツンツンするの? むずかしいね……』


 ブルーは首をかしげる。年齢的に、まだ理解しがたい感情みたいだ。


「さーあ! 今度こそ、わたしとバトルだよ! アリス、ブルー!」


 元気いっぱいの声が、広い試験室にひびきわたった。


 部屋の奥、バトルコートの端では、すでに緋羽莉がスタンバイしていた。肩をぐるぐる回しながら、ぴょんぴょん軽く跳ねている。


 つややかな緋色の髪がふわりと揺れ、ぱっちりしたひとみはやる気でまぶしいくらいに輝いている。そこに立っているだけで、まわりの空気まであかるくなるような女の子だ。


 その姿はまるで、これからステージに立つアイドルみたいだった。


「きのうは負けちゃったけど、きょうは勝たせてもらうからね! アリス!」


 ビシッと大きな人さし指を向ける。そのしぐささえも、なぜか絵になる。


「のぞむところよ! かかってきなさい!」


 アリスは腕を組み、堂々と言い返した。気分は挑戦者をむかえ撃つチャンピオンだ。


 ……まだ、お昼休みにみんなから応援された“アイドル気分”が抜けていないのかもしれない。


 対して、当のバトルパートナーのブルーは、ちょっと緊張ぎみのチャレンジャー顔だ。


「さあ、アカネちゃん! 出ておいで!」


 緋羽莉がスマートウォッチにタッチする。


 次の瞬間、光の粒子がセンターサークルに集まり、ブルーの目の前でひとつの姿を形づくった。


 現れたのは、赤いヒヨコのような小さなワンダー。


 だが、ただのヒヨコではない。不死鳥のヒナといわれるめずらしいワンダー、【スカーレットチック】――名前はアカネ。


 体は小さいのに、羽の色は燃えるような緋色。つぶらな金色の目の奥には、気の強そうな光が宿っている。


『よ、よろしくね』


 ブルーはぺこりと頭を下げた。


 決闘は格式ある儀式。最初のあいさつは、ぜったいに忘れてはならないと、お母さん竜から教わっている。


『……ふん!』


 しかしアカネは、つんとそっぽを向いた。


『ちょ、ちょっと……?』


 ブルーはガーンとショックを受ける。


「もー! アカネちゃん! ダメだよ、ちゃんとあいさつしなきゃ!」


 緋羽莉があわてて注意するが、


『やーよ! ミルフィーヌならともかく、こんなちんちくりんなんかに!』


『ち……ちんちくりん??』


 ブルー、ふたたびガーン。


(ぼくのほうが、ミルフィーヌより大きいんだけど!?)


 心の中ではツッコミを入れるものの、アカネから伝わってくるピリッとした気迫に、声が出ない。


 小さい体なのに、まるで炎みたいに強気なオーラを放っている。


「ブルー、いいじゃない。言わせておけば」


 アリスがやさしく声をかけた。


「そのくやしさ、バトルでぶつけてやろうよ」


『……うん!』


 ブルーのひとみに、ぐっと力がこもる。


 お昼休みの一件で自分のチカラを知り、ミルフィーヌから勇気をもらった。あのとき芽生えた自信は、まだ胸の中であたたかく燃えている。


(だいじょうぶ。ぼくは強い。おかあさんの子だから!)


 小さなドラゴンは、しっかり前を見すえた。


「それじゃ、バトル開始まで――3、2、1……はじめ!」


 部屋の右手にある観察室から、閃芽の声がマイクごしに響く。大きなガラス窓の向こうでは、りんごがちょこんと席に座り、身を乗り出して見守っていた。


『《ラピッドファイア》!』


 いきなりアカネがクチバシを開き、高速の火の玉を撃ち出した。


『ぷわっ!?』


 火の玉が顔のあたりで弾け、ボンッと小さな爆発。ブルーはのけぞり、よろよろと後ずさる。


『あーらら、もう勝負ありかしら?』


 アカネの挑発的な声がひびく。


 ブルーはぶるぶるっと首を振り、立ちこめる爆煙を振り払った。


「ちょっとアカネちゃん! まだわたし、攻撃していいって言ってないよ!」


 後ろで緋羽莉が困った顔をする。ほんとうは、まずブルーに先手をゆずってあげるつもりだったのだ。


『だーって、あんな青いおチビに先手ゆずるなんて、やだったんだもーん!』


 アカネはすまし顔で言い放つ。


 緋羽莉はやれやれと肩をすくめ、すぐにブルーへ声をかけた。


「ごめんね、ブルー! だいじょうぶ?」


 その問いに答えたのはアリスだった。


「心配ご無用! だいじょうぶだよね、ブルー?」


『うん、アリスの言ったとおりだ。ぜんぜん痛くない!』


 ブルーの言葉は、強がりではない。


 ドラゴピアの守護竜であるお母さん竜から受けついだ強じんな体と、属性攻撃への高い耐性。それが、ブルーの体をしっかり守っていた。


 これまでは自信のなさのせいでチカラをうまく引き出せなかったけれど、いまはちがう。自分の強さを知った今、そのチカラは頼もしい鎧のように働いている。


『……ふん! いい気にならないでよね! いまのはあいさつがわり! 次はもっと強いのいくから!』


 アカネはクチバシをとがらせる。


(あいさつなら、ことばで言ってほしかったなあ……)


 ブルーは心の中でそっとツッコんだ。


「じゃあ、火力上げるよ! 《マジカルファイア》!」


 緋羽莉の声が、あかるく弾む。


 本気のバトルはやっぱり楽しい。ブルーが攻撃に耐えてくれたことも、彼女にはうれしかった。


 アカネのクチバシから放たれたのは、緋色の炎がぐるぐるとうずを巻く、ねじれた火炎弾。


「よけて、ブルー!」


『え、あ、わわっ』


 ブルーはまだ実戦経験が少ない。自分の体の強さはわかってきたけれど、とっさの回避はうまくできない。


 思わず頭をかかえ、体をかがめる防御姿勢。これは、いじめられっ子だったころに身についた反射的な動きだった。


 《マジカルファイア》はブルーに直撃する。


 けれど――


 ドンッと炎がはじけても、ブルーはその場に立っていた。体についたのは、うっすらとしたコゲあとくらいだ。


『たしかにさっきよりは熱かったけど……また耐えられるよ!』


 ブルーはにかっと笑った。その顔には、はっきりとした自信が宿っている。


「反撃よ、ブルー! 《ダッシュアタック》!」


『だあーっ!』


 床を蹴り、ブルーが一気に加速する。小さな体とは思えないスピードで、アカネへ体当たり!


(あれ……?)


 その途中、ふっと力が抜けるような違和感が走った。


 けれど考えるひまもなく、ブルーはアカネに激突。赤い小さな体がコートの上を転がった。


 ――決まった!


 そう思った次の瞬間。


 ぴょこん、とアカネはすぐに立ち上がった。


 動きは軽やかで、大きなダメージを受けた様子がない。


『えっ……な、なんで?』


 お昼休みのバトルでは、ザックを一撃でノックアウトした体当たりだ。それが通じないことに、ブルーはまたショックを受ける。


『ザンネンだったわね。いまアンタに当てた《マジカルファイア》は、相手のエナの循環を乱す効果があるの』


『エナの……じゅんかん?』


 聞きなれない言葉に、ブルーは目をぱちくり。


「つまりね、体に力が入りにくくなっちゃうってことだよ!」


 緋羽莉がウインクしながら、やさしくかみくだいて説明する。


 その笑顔は明るいけれど、ウィザードとしての知識と実力もしっかり感じさせる。


『それに、アタシはヒナでも不死鳥なの。こんなダメージ、すぐ治っちゃうんだから』


 胸を張るアカネの体を見ると、たしかにキズや汚れがみるみる消えていく。


 ブルーは感心すると同時に、胸の奥がぎゅっと重くなった。


(こんな相手……どうやって勝てばいいんだろう)


「だいじょうぶだよ、ブルー」


 アリスの声が、まっすぐ背中に届く。


「ミルフィーヌはきのう、アカネに勝ってるんだから」


 ブルーはハッと顔を上げた。


 ――そうだ。勝つ方法は、ちゃんとあるんだ。


 胸の中に、小さな希望の火がともる。


『ぷーだ! きのうははじめてのバトルだっていうから、花を持たせてあげただけだもんね! きょうはアタシの本気を見せてやるんだから!』


 アカネは早口でまくしたてる。


 その後ろで緋羽莉は「あはは……」と苦笑い。けれどそのひとみは、しっかり前を見て燃えている。


「だったらわたしも、きのうよりさらに強くなったところ、見せてあげる! ブルー!」


『うん!』


 ブルーは力強くうなずき、ふたたびアカネを見すえた。


 負けたくない気持ち。信じてくれるパートナーの声。


 それが、小さなドラゴンの胸を熱くしていく。


 バトルは、まだこれからだ。

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