第四十七話「最終決戦、ベルゼブブを超えて」
ベルゼブブとの戦いは、激しかった。
彼の魔法は、強力だ。
闇の波、闇の槍、闇の嵐。
次々と、攻撃が襲ってくる。
「【イースト・シールド】!」
俺の盾が、防ぐ。
だが、盾が侵食される。
「くっ……!」
「【聖なる光】!」
エミリアの魔法が、闇を浄化する。
「【ファイアストーム】!」
クラリスの炎が、ベルゼブブを襲う。
だが、ベルゼブブは避ける。
速い。
「【シャドウブレード】!」
セラフィナの影の刃。
ベルゼブブの腕に、傷がつく。
「ぐっ……やるな……」
ロイドとグスタフが、剣で斬りかかる。
だが、ベルゼブブは魔法で防ぐ。
「【闇の壁】!」
黒い壁が、剣を阻む。
ガキィン!
二人が、弾き飛ばされる。
「くそ……!」
ダミアンとミレーユが、魔法で援護する。
雷と氷。
だが、ベルゼブブには届かない。
「無駄だ!」
ベルゼブブが、反撃する。
「【闇の鎖】!」
黒い鎖が、俺たちを縛ろうとする。
「【時間停止】!」
ルシファーが、時間を止める。
鎖が、空中で止まる。
「今のうちに、逃げろ!」
全員、鎖から離れる。
だが、ベルゼブブは笑った。
「時間停止か……相変わらずだな、ルシファー」
「だが――」
ベルゼブブの体から、黒いオーラが溢れ出す。
「私には効かない」
時間停止が、解ける。
ベルゼブブが、動き出す。
「何!?」
ルシファーが、驚愕する。
「時間停止を破るなんて……!」
「私は、お前より強い」
ベルゼブブが、ルシファーに向かう。
拳を振るう。
ドガァ!
ルシファーが、吹き飛ばされる。
「ルシファー!」
その時、ヴォイドが前に出た。
「私が相手だ」
「虚無の王か……」
ベルゼブブが、ヴォイドを見る。
「力を封印した今のお前に、何ができる?」
「見せてやる」
ヴォイドの目が、光る。
「私の、新しい力を」
ヴォイドの体から、光が溢れ出す。
虚無ではない。
希望の光。
「これは……」
「私は、もう虚無の王ではない」
ヴォイドが、微笑む。
「私は、希望の戦士だ」
ヴォイドの剣が、光を纏う。
「【希望の刃】!」
剣が、ベルゼブブを斬る。
ズバァ!
ベルゼブブの胸に、傷がつく。
「ぐあっ……!」
血が、流れる。
「やった……!」
だが、ベルゼブブは倒れない。
「くく……面白い……」
ベルゼブブが、笑う。
「虚無の王が、希望を持つとは……」
「だが、それでも私には勝てない」
ベルゼブブの体が、変化し始める。
黒いオーラが、さらに膨れ上がる。
体が、巨大化する。
角が生える。
翼が生える。
悪魔の姿。
「これが……私の真の姿だ……」
ベルゼブブの声が、低くなる。
「魔界の大公、ベルゼブブ」
その姿は、圧倒的だった。
高さ、十メートル。
全身が黒い鱗に覆われている。
赤く光る目。
「まずい……本気を出された……」
ベルゼブブが、翼を羽ばたかせる。
風圧だけで、俺たちが吹き飛ばされる。
「うわああ!」
壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
ベルゼブブが、魔法を放つ。
「【絶望の波】!」
黒い波が、部屋全体を覆う。
その波に触れると――
体から、力が抜けていく。
「何だ……これは……」
「希望を奪う魔法だ」
リーゼが、膝をつく。
エミリアも、倒れる。
全員が、力を失っていく。
「くそ……動けない……」
ベルゼブブが、近づいてくる。
「終わりだ」
その手が、俺たちの持つ魔石に伸びる。
「魔石を、いただく」
その時――
俺の胸が、熱くなった。
ポケットの中。
何かが、光っている。
取り出すと――
それは、ルナがくれた小さなペンダント。
そういえば、ずっと持っていた。
ペンダントが、光を放つ。
その光が、絶望の波を打ち消す。
「これは……」
「ルナの……ペンダント……」
光が、広がる。
全員を包む。
力が、戻ってくる。
「動ける……!」
ベルゼブブが、驚く。
「何だ……その光は……」
「ルナの、希望だ」
俺は、立ち上がる。
「彼女が、俺たちに残してくれた希望」
ペンダントの光が、さらに強くなる。
その光が、全員の武器に宿る。
剣が、光る。
魔法が、光る。
「みんな、今だ!」
全員で、最後の攻撃。
「【魂の共鳴・希望の極光】!」
全員の力を合わせた、巨大な光の刃。
希望の力。
それが、ベルゼブブを斬る。
ズバァァァァァァン!
ベルゼブブの体が、真っ二つになる。
「ギャアアアアアア!」
ベルゼブブが、悲鳴を上げる。
体が、崩れ落ちる。
「やった……!」
ベルゼブブが、倒れる。
だが、まだ息がある。
「くっ……まさか……敗れるとは……」
ベルゼブブの目が、俺を見る。
「だが……門は……もう開き始めている……」
「何!?」
見ると――
背後の門が、光り始めていた。
ベルゼブブが持っていた三つの魔石が、門に吸い込まれている。
「くそ……!」
俺は、魔石を止めようとする。
だが、遅い。
三つの魔石が、門に嵌まる。
そして――
門が、開き始めた。
わずかに。
黒い亀裂。
「まずい……!」
俺たちが持っている四つの魔石も、反応し始める。
門に引き寄せられる。
「魔石を、手放すな!」
必死に、握りしめる。
だが、引力が強い。
「くっ……!」
その時、ルシファーが叫んだ。
「魔石を、門にぶつけろ!」
「何!?」
「三つと四つ、合わせて七つ!」
ルシファーが、説明する。
「七つ揃えば、門は完全に開く!」
「だが、逆に――」
「七つの力をぶつければ、門を破壊できる!」
「本当か!」
「やってみるしかない!」
俺たちは、四つの魔石を門に向かって投げる。
氷、火、深海、砂漠。
四つの魔石が、門にぶつかる。
すでに門に嵌まっている三つの魔石と、反応する。
パリィィィィン!
魔石が、砕ける。
七つ、すべて。
そして――
門が、崩れ始めた。
「ギィィィィ……」
門が、割れる。
黒い亀裂が、消えていく。
完全に、閉じる。
「やった……!」
だが、その衝撃で――
塔全体が、崩れ始めた。
「まずい、塔が崩壊する!」
「逃げろ!」
全員で、階段を駆け下りる。
壁が、崩れる。
天井が、落ちてくる。
「急げ!」
必死に走る。
そして――
何とか、塔の外に出た。
直後、塔が完全に崩壊した。
ドガァァァァン!
巨大な音と、土煙。
全員、地面に倒れ込む。
疲れた。
体力も、魔力も、限界だ。
「終わった……のか……?」
ロイドが、呟く。
「ああ……」
俺は、空を見上げる。
「終わった……」
リーゼが、俺に寄り添う。
「お疲れ様、ケン」
「ああ……お前もな……」
エミリアも、微笑む。
「みんな、よく頑張りました」
「ああ」
全員、安堵の表情。
だが、その時。
崩れた塔の瓦礫の中から――
何かが、動いた。
「何だ!?」
瓦礫が、動く。
そして――
ベルゼブブが、這い出してきた。
「まだ……生きているのか……!」
ベルゼブブは、ボロボロだった。
体中、傷だらけ。
だが、まだ息がある。
「くっ……私は……まだ……」
ベルゼブブが、立ち上がろうとする。
だが――
力尽きて、倒れる。
「計画は……失敗した……」
ベルゼブブの目が、俺たちを見る。
「だが……これで終わりではない……」
「魔界の王は……必ず……この世界を……」
そう言って、ベルゼブブは息絶えた。
ベルゼブブが死んだ後。
体が、黒い霧になって消えていく。
「終わった……本当に……」
全員、へたり込む。
長い戦いだった。
だが、勝った。
「よくやったな、みんな」
グスタフが、笑顔で言う。
「ああ。俺たちの勝利だ」
ダミアンも。
「帰ろう」
俺は、立ち上がる。
「サンライズシティへ」
闇の森を抜けて、街へ戻る道中。
途中、ノアの村に寄った。
「帰ってきたんですね!」
ノアが、嬉しそうに迎える。
「ベルゼブブは……?」
「倒した」
「本当ですか!」
ノアが、涙を流す。
「ありがとうございます……」
「これで、村も安全になる」
村人たちも、喜んでくれた。
「ありがとう、英雄たちよ!」
「今夜は、祝宴だ!」
その夜、村で盛大な祝宴が開かれた。
食事、酒、音楽。
みんなで、楽しむ。
「乾杯!」
全員で、杯を掲げる。
「勝利に!」
「平和に!」
楽しい時間。
幸せな時間。
リーゼが、俺の隣で微笑む。
「ケン、よかったね」
「ああ」
「これで、本当に平和になるね」
「……ああ」
だが、俺の心の中には――
まだ不安が残っていた。
ベルゼブブの最後の言葉。
「魔界の王は、必ずこの世界を……」
まだ、終わっていない。
新たな脅威が、いつか来る。
だが、今は――
この平和を楽しもう。
翌朝、村を出発した。
ノアが、見送ってくれる。
「お元気で」
「ああ。お前も」
「また、会えますか?」
「ああ。きっと」
ノアが、微笑む。
「待ってます」
一週間後、サンライズシティに戻ってきた。
街の人々が、大歓迎してくれた。
「帰ってきた!」
「英雄たちが!」
人々が、歓声を上げる。
ソレイユも、出迎えてくれた。
「よくやった、ケンたち」
「ベルゼブブを倒したそうだな」
「はい」
「魔界の門も、閉じた」
「素晴らしい」
ソレイユが、微笑む。
「今夜、王宮で祝宴を開く」
「みんなで、祝おう」
その夜、王宮で盛大な祝宴。
豪華な食事。
美しい音楽。
みんなが、楽しんでいる。
「ケン君、すごいな」
アポロが、言う。
「また、世界を救った」
「いえ、みんなの力です」
「謙遜するな」
アポロが、笑う。
「お前は、本物の英雄だ」
宴もたけなわの頃。
ヴォイドが、一人でバルコニーにいた。
星を見上げている。
「ヴォイド」
俺が、近づく。
「一人?」
「ああ。少し、考え事を」
「何を?」
「私の、これからのことだ」
ヴォイドが、俺を見る。
「戦いが終わった」
「私は、どうすればいい?」
「……」
「このまま、お前たちと一緒にいてもいいのか?」
「当然だ」
俺は、即答する。
「お前は、仲間だ」
「これからも、ずっと」
「……ありがとう」
ヴォイドの目に、涙が浮かぶ。
「お前たちと出会えて、本当によかった」
翌日、俺は決断した。
「しばらく、ベルガルド村に帰ろう」
「本当に?」
リーゼが、嬉しそうに言う。
「うん。久しぶりに、村に帰りたい」
「パンを焼いて、のんびりしたい」
「賛成!」
エミリアも、手を挙げる。
「わたしも、村が恋しいです」
「じゃあ、決まりだ」
全員で、ベルガルド村へ帰ることにした。
ソレイユに報告する。
「しばらく、故郷に帰ります」
「わかった」
ソレイユが、微笑む。
「ゆっくり休んでくれ」
「また何かあったら、呼ぶから」
「はい」
一週間後、ベルガルド村に到着した。
懐かしい村。
変わらない風景。
「ただいま!」
村人たちが、出迎えてくれる。
「おお、ケン君!」
ハインリヒが、手を振る。
「無事だったか!」
「はい」
「よかった」
アレクも来ている。
「ケン、お疲れ様」
「ただいま、アレク兄さん」
工房に戻る。
懐かしい場所。
自分の家。
「ああ……やっぱりここが一番だ……」
リーゼが、微笑む。
「そうだね」
「明日から、またパンを焼こう」
「うん!」
その夜、みんなで食事をした。
俺が作った料理。
簡単なものだが、美味しい。
「やっぱり、ケンさんの料理は最高です」
エミリアが、笑顔で言う。
「ありがとう」
セラフィナも、ロイドも、グスタフも、ダミアンも、クラリスも、ミレーユも、ヴォイドも、ルシファーも。
全員が、笑顔だ。
「平和っていいな」
ロイドが、呟く。
「ああ」
本当に、平和だ。
こんな日々が、ずっと続けばいい。
だが――
遠い魔界では。
玉座に座る、一人の男。
魔界の王。
「ベルゼブブが、やられたか……」
王の声が、重く響く。
「だが、構わぬ」
「次は、私自ら動く」
王の目が、光る。
「人間の世界を、必ず手に入れる」
新たな脅威が――
静かに、動き始めていた。
だが、今――
ケンたちは、それを知らない。
平和な日々を、楽しんでいる。
明日も、パンを焼く。
仲間と笑い合う。
リーゼと、幸せな時間を過ごす。
そんな、穏やかな日々。
だが、いつか――
また、新しい戦いが来るだろう。
その時、ケンたちは――
また立ち上がる。
世界を守るために。
大切な人を守るために。
そして――
希望を守るために。




