第三十三話「氷の試練、そして守護者の真意」
氷の兵士が、一斉に襲いかかってくる。
数は、三十体以上。
すべて氷でできているが、動きは滑らかだ。
「【イースト・ウェポン】!」
俺は、剣に発酵魔法を纏わせる。
氷の兵士に斬りかかる。
ガシャン!
兵士が、砕ける。
「よし、倒せる!」
「【聖なる光】!」
エミリアの魔法が、複数の兵士を照らす。
氷が、溶け始める。
「効いてる!」
「【シャドウブレード】!」
セラフィナの影の刃が、兵士を切り裂く。
ロイドとグスタフも、剣で応戦する。
「数が多いぞ!」
「ケン、後ろ!」
リーゼの警告。
振り返ると、三体の兵士が背後から迫っていた。
「くっ!」
だが――
リーゼの剣が、兵士を斬り裂く。
「あたしが守る!」
「ありがとう!」
クラリスとミレーユは、魔法で援護する。
「【ファイアボール】!」
火球が、氷の兵士を溶かす。
「【ライトニング】!」
雷が、複数の兵士を貫く。
だが、倒しても倒しても――
新たな兵士が、現れ続ける。
「きりがない……!」
「どうする、ケン君!?」
ダミアンの叫び。
俺は、周囲を見渡す。
氷の床、氷の壁、氷の柱。
すべてが、氷でできている。
「なら――」
俺は、床に手を当てる。
「【イースト・グロース】!」
床の氷の中に、微生物を増殖させる。
すると――
氷が、もろくなる。
「みんな、床から離れろ!」
全員が、柱に飛びつく。
そして――
床が、崩れた。
氷の兵士たちが、下に落ちていく。
「やった……!」
だが、その時――
「ほう」
フロストの声。
彼が、手を叩く。
「面白い。氷そのものを、攻撃するとは」
「……」
「だが、これで終わりではない」
フロストが、手を上げる。
すると――
崩れた床が、再生し始めた。
そして、氷の兵士も、再び現れる。
「嘘だろ……」
「無限に、再生する……?」
「その通り」
フロストが、微笑む。
「この神殿の氷は、私の魔力と繋がっている」
「なら、お前を倒せば……!」
ロイドが、フロストに向かう。
だが――
氷の壁が、立ちはだかる。
「無駄だ」
フロストが、首を振る。
「私には、触れられない」
「くそ……!」
再び、氷の兵士との戦いが始まる。
だが、勝てない。
倒しても、再生する。
魔力も、体力も、限界が近い。
「このままじゃ……」
その時、エミリアが叫んだ。
「待って! 戦うのをやめて!」
「エミリア!?」
「これは、試練なんです!」
エミリアが、剣を下ろす。
「戦って勝つことが、目的じゃない!」
「なら、何が……?」
「わからないけど、戦い続けるのは違う気がします!」
エミリアの言葉に、俺も剣を下ろした。
「みんな、武器を下ろせ!」
「ケン君!?」
「いいから!」
全員が、武器を下ろす。
氷の兵士たちは、まだ迫ってくる。
だが、攻撃はしない。
ただ、囲むだけ。
「……やはり」
フロストが、微笑む。
「気づいたか」
「これは、戦闘能力の試練じゃない……」
「その通り」
フロストが、手を下ろす。
すると、氷の兵士たちが消えた。
「これは、判断力の試練だ」
フロストが、説明する。
「無限に再生する敵と、いつまで戦い続けるか」
「諦めて逃げるか、無謀に戦い続けるか、それとも――」
フロストの目が、俺たちを見る。
「別の答えを見つけるか」
「……」
「お前たちは、正解を見つけた」
フロストが、拍手する。
「素晴らしい」
氷の兵士が消え、ホールに静寂が戻った。
「第一の試練、クリアだ」
フロストが、玉座に座る。
「だが、まだ終わりではない」
「まだあるのか……」
「ああ。三つの試練がある」
フロストが、指を三本立てる。
「一つ目は、判断力。これはクリアした」
「二つ目は、知恵」
「三つ目は、心」
「心……?」
「ああ。だが、それは後だ」
フロストが、立ち上がる。
「まずは、二つ目の試練」
フロストに案内されて、別の部屋に来た。
そこには、巨大な氷の迷路があった。
「これが、第二の試練」
フロストが、説明する。
「この迷路を、抜けろ」
「迷路……」
「ただし、条件がある」
フロストが、指を指す。
「全員、バラバラにする」
「何!?」
「一人ずつ、別のルートから入る」
フロストの目が、真剣だ。
「そして、中心で合流しろ」
「でも、どうやって……」
「それを、考えるのが試練だ」
フロストが、俺たちを迷路の前に並ばせる。
「では、始めろ」
俺は、迷路の中にいた。
一人で。
周りは、すべて氷の壁。
「リーゼ……みんな……」
声をかけるが、返事はない。
壁が厚すぎるのか、声が届かない。
「どうすれば……」
とりあえず、歩き始める。
右に曲がる。
また右。
行き止まり。
戻って、左に曲がる。
また、行き止まり。
「くそ……普通の方法じゃ、無理か……」
俺は、考える。
この迷路を、どうやって攻略するか。
「待てよ……」
俺は、氷の壁に手を当てる。
そして、発酵魔法を使う。
「【イースト・センス】」
微生物を通じて、周囲の環境を感知する魔法。
氷の中の微生物は少ないが、ゼロではない。
それを通じて――
迷路の構造が、ぼんやりと見える。
「これだ……!」
俺は、最短ルートを進み始める。
十分後。
俺は、迷路の中心に到着した。
そこには――
リーゼが、すでに待っていた。
「ケン!」
「リーゼ! 無事だったか!」
「うん!」
リーゼが、駆け寄ってくる。
「どうやって来たの?」
「魔法で、迷路の構造を感じ取った」
「すごい! あたしは――」
リーゼが、説明する。
「壁に、小さな印をつけながら進んだの」
「印?」
「うん。爪で引っかいて」
リーゼが、手を見せる。
確かに、爪が少し欠けている。
「同じ場所に戻らないように」
「賢いな」
次に、エミリアが到着した。
「ケンさん! リーゼお姉ちゃん!」
「エミリア、よく来た!」
「わたし、光の魔法で壁を透かして見たんです」
「透かして……?」
「はい。薄く光を当てると、壁の向こうが少し見えるんです」
「なるほど……」
その後、ダミアン、ロイド、グスタフ、セラフィナ、クラリス、ミレーユも、次々と到着した。
それぞれ、独自の方法で迷路を攻略していた。
「全員、揃ったな」
フロストが、現れた。
「第二の試練、クリアだ」
「これで、何を試したんですか?」
「知恵だ」
フロストが、説明する。
「単純な力では、解決できない問題」
「それを、どう乗り越えるか」
フロストの目が、満足げだ。
「お前たちは、それぞれの方法で答えを見つけた」
「素晴らしい」
迷路を出ると、また別の部屋に案内された。
そこは――
小さな、温かい部屋だった。
「ここが、第三の試練の場所」
フロストが、言う。
「心の試練」
部屋の中央に、椅子が八つ並んでいる。
「座れ」
俺たちは、椅子に座る。
「これから、お前たちに幻を見せる」
「幻……?」
「ああ。それぞれの、最も恐れるものを」
フロストの目が、光る。
「それに、耐えられるか」
「待って――」
だが、遅かった。
フロストが、魔法を発動する。
視界が、歪む。
俺の前に、景色が広がった。
ベルガルド村。
だが――
村は、炎に包まれていた。
「何……!?」
建物が、燃えている。
村人たちが、倒れている。
「嘘だ……」
俺は、走る。
村の中心へ。
そこには――
リーゼが、倒れていた。
「リーゼ!」
駆け寄る。
だが、彼女は動かない。
「リーゼ……! 起きてくれ……!」
涙が、溢れる。
「こんなの……嫌だ……」
エミリアも、グスタフも、みんな倒れている。
「どうして……どうして……!」
絶望が、心を侵食する。
「俺が……俺が守れなかったから……」
自責の念。
圧倒的な、罪悪感。
「俺のせいだ……」
その時――
背後から、声が聞こえた。
「ケン」
振り返ると――
リーゼが、立っていた。
「これは、幻よ」
「リーゼ……?」
「あなたの恐れが、見せている幻」
リーゼが、微笑む。
「でも、現実じゃない」
「……」
「あたしは、ここにいる」
リーゼが、俺の手を握る。
「ずっと、一緒」
その瞬間――
景色が、消えた。
元の部屋に、戻っている。
「はあ、はあ……」
冷や汗が、止まらない。
「リーゼ……」
「ここにいるよ」
隣の椅子のリーゼが、俺の手を握ってくれる。
「大丈夫」
他のみんなも、目を覚ましていた。
それぞれ、辛そうな顔をしている。
「みんな……」
「第三の試練、クリアだ」
フロストが、満足そうに頷く。
「全員、自分の恐れに打ち勝った」
部屋を出ると、フロストが説明を始めた。
「お前たちは、三つの試練をクリアした」
「これで、終わりですか?」
「ああ。お前たちには、資格がある」
「資格……?」
「世界を守る、資格だ」
フロストの目が、真剣だ。
「判断力、知恵、そして強い心」
「それらを、お前たちは持っている」
「……なぜ、こんな試練を?」
「教えよう」
フロストが、深く息を吐く。
「この北の大陸には、秘密がある」
「秘密?」
「ああ。世界を滅ぼしかねない、秘密が」
フロストの表情が、暗くなる。
「そして、それが目覚めようとしている」
「目覚める……?」
「ああ。だから、試練を課した」
フロストが、俺を見る。
「お前たちに、それを止めてほしい」
「何を止めるんですか?」
「来い。見せよう」
フロストに案内されて、神殿の最深部へ。
そこには――
巨大な氷の棺があった。
「これは……」
「古代の魔獣だ」
フロストが、説明する。
「千年前、アルテミスと戦った」
「アルテミスと……」
「ああ。そして、封印された」
フロストが、棺を見つめる。
「だが、封印が弱まっている」
確かに、棺にヒビが入っている。
「あと数ヶ月で、完全に目覚める」
「そうなれば……?」
「世界が、滅ぶ」
フロストの声が、重い。
「この魔獣――【氷龍王フィンブルヴェト】は、世界を氷で覆う力を持つ」
「世界を……氷で……」
「ああ。すべての生命が、凍りつく」
沈黙。
重い、沈黙。
「だから、お前たちに頼む」
フロストが、深く頭を下げる。
「この魔獣を、倒してくれ」
「でも、どうやって……」
「封印を強化する方法がある」
フロストが、古い書物を取り出す。
「この大陸には、三つの神殿がある」
「三つの神殿……」
「ああ。それぞれに、封印の鍵がある」
フロストが、地図を広げる。
「東の炎の神殿、西の風の神殿、南の大地の神殿」
「それらの鍵を集めれば、封印を強化できる」
「わかりました」
俺は、決意する。
「やります」
「ケン君……」
「だって、世界を守るのが、俺たちの役目でしょう?」
俺は、みんなを見る。
「みんな、いいか?」
「当然だ」
ロイドが、頷く。
「わたしも、やります」
エミリアも。
「あたしも」
リーゼも。
全員が、頷く。
「よし、決まりだ」
その夜、神殿で休息を取った。
フロストが、部屋を用意してくれた。
「明日から、旅が始まる」
ダミアンが、地図を確認する。
「まずは、どこへ行く?」
「一番近いのは、東の炎の神殿」
ミレーユが、計算する。
「三日で着けるはず」
「なら、そこから行こう」
俺は、窓の外を見る。
雪が、降っている。
美しいが、冷たい。
「この世界を、守らなきゃ……」
翌朝、出発の準備をしていると――
フロストが、近づいてきた。
「ケン・サトウ」
「はい」
「一つ、忠告がある」
「何ですか?」
「氷龍王は、お前を狙っている」
「俺を……?」
「ああ。お前の中の、創造魔法の力を」
フロストの目が、真剣だ。
「もし、その力を奪われたら――」
「世界が、終わる」
「……わかりました。気をつけます」
「もう一つ」
フロストが、小さな氷の結晶を渡す。
「これは?」
「私の魔力の欠片だ」
「危険な時、それを砕け」
フロストが、微笑む。
「私が、駆けつける」
「……ありがとうございます」
神殿を出て、東へ向かう。
雪の平原を、歩く。
寒いが、防寒具のおかげで耐えられる。
「あれが見える」
ミレーユが、指差す。
遠くに、赤い光が見える。
「炎の神殿……」
「ああ。あそこに、最初の鍵がある」
俺たちは、歩き続ける。
新たな試練に向かって――




