第三十三話「新しい朝、そして未来へ」
戦いから、一週間が経った。
村は、復興作業に追われていた。
巨神との戦いで、いくつかの建物が壊れた。
だが、村人たちは前向きだ。
「ケン君、こっちを手伝ってくれ」
「はい」
俺も、復興作業に参加する。
壊れた家を修理し、畑を整える。
汗を流しながら、働く。
それが、心地いい。
「やっぱり、これだな」
平和な日常。
それが、一番幸せだ。
午後、工房に戻る。
リーゼとエミリアが、パンを焼いていた。
「おかえり、ケン」
「ただいま」
「疲れたでしょ? お茶、淹れるね」
「ありがとう」
三人で、工房の隅でお茶を飲む。
焼きたてのパン。
温かいお茶。
穏やかな時間。
「ねえ、ケン」
リーゼが、俺の手を握る。
「新婚旅行、どこに行く?」
「新婚旅行……」
そういえば、結婚式の後すぐ戦いになってしまった。
「どこがいい?」
「あたし、海が見たい」
「海か」
「うん。ケンと一緒に、夕日を見たい」
リーゼの目が、輝く。
「いいね。じゃあ、来月行こう」
「本当!?」
「ああ。もう、戦いもないし」
「やった!」
リーゼが、嬉しそうに飛び跳ねる。
その夜、俺は一人で考え事をしていた。
ゼノスから受け継いだ、創造魔法の知識。
それは、今も俺の中にある。
膨大な知識。
使い方、応用法、そして――
危険性。
「まだ、理解しきれていない……」
創造魔法には、まだ多くの謎がある。
ゼノスが千年かけても、すべては解明できなかった。
「俺も、研究を続けないと……」
だが、危険な力だ。
慎重に、扱わなければならない。
翌朝、ダミアンから緊急の連絡が来た。
「ケン君、すぐに王都へ来てほしい」
「何かあったんですか?」
「ああ。世界魔法陣から、奇妙な反応が出ている」
「奇妙な反応……?」
「詳しくは、来てから説明する」
ダミアンの声が、緊張している。
「急いでくれ」
王都に着くと、ダミアンが待っていた。
「ケン君、よく来てくれた」
「で、何があったんですか?」
「こっちだ」
ダミアンに連れられて、王宮の地下へ。
世界魔法陣のある場所。
そこには、ミレーユとクラリスもいた。
「ケン君!」
「二人とも」
「見て、これを」
ミレーユが、魔法陣を指差す。
確かに、様子がおかしい。
魔法陣の一部が、青白く光っている。
「これは……」
「修復してから、三日後に始まった」
ミレーユが、説明する。
「最初は微弱だったけど、どんどん強くなっている」
「何を意味しているんですか?」
「わからない。でも――」
ミレーユが、古文書を開く。
「この記録によると、世界魔法陣は他の大陸の魔法陣とも繋がっているらしい」
「他の大陸……?」
「ええ。この世界には、まだ知られていない大陸がある」
クラリスが、世界地図を広げる。
「東の大陸、南の大陸、そして――北の大陸」
「北の大陸……」
「そこから、信号が送られてきているの」
クラリスの目が、真剣だ。
「まるで、助けを求めているように」
「助けを……」
「ケン君」
ダミアンが、俺を見た。
「北の大陸へ、調査に行ってほしい」
「北の大陸へ……」
「ああ。何が起きているのか、確かめてほしい」
ダミアンの表情が、険しい。
「もしかしたら、新たな脅威があるかもしれない」
村に戻って、リーゼに報告した。
「北の大陸……」
リーゼの顔が、曇る。
「また、旅に出るの?」
「……ああ」
「新婚旅行は?」
「すまない。延期させてくれ」
リーゼは、しばらく黙っていた。
そして――
「わかった」
彼女が、微笑む。
「でも、条件がある」
「条件?」
「あたしも、一緒に行く」
「え?」
「だって、新婚なんだから」
リーゼの目が、輝く。
「どこへ行くにも、一緒」
「でも、危険かもしれない……」
「だから、一緒に行くの」
リーゼが、俺の手を握る。
「ケン一人じゃ、心配だから」
「リーゼ……」
「それに、あたしも強くなったよ」
リーゼが、剣を見せる。
グスタフに教わった剣。
「守られるだけじゃなく、あたしもケンを守る」
「……ありがとう」
翌日、探検隊の編成が始まった。
メンバーは、俺、リーゼ、エミリア、セラフィナ、ダミアン、ロイド、グスタフ、そしてミレーユ。
「今回も、大所帯だな」
ロイドが、苦笑する。
「でも、心強い」
「北の大陸は、未踏の地だ」
ダミアンが、地図を広げる。
「何があるか、わからない」
「気温も、かなり低いらしい」
ミレーユが、資料を見せる。
「氷と雪の世界だと、古文書には書かれている」
「氷の世界か……」
「装備を、しっかり準備しないとな」
出発の前日。
俺は、村の丘に来ていた。
夕日を見ながら、考える。
また、新しい旅が始まる。
平和は、長く続かなかった。
だが――
「これも、運命か」
ゼノスから受け継いだもの。
それは、力だけではない。
責任も、受け継いだ。
世界を守る、責任。
「ケン」
リーゼが、隣に来た。
「一人?」
「ああ。ちょっと、考え事を」
「心配?」
「少し」
リーゼが、俺の手を握る。
「大丈夫。あたしがいるから」
「ああ」
「それに、みんなもいる」
リーゼが、微笑む。
「一人じゃない」
「……そうだな」
俺も、微笑む。
「ありがとう、リーゼ」
「どういたしまして」
出発の朝。
村人たちが、見送りに来た。
「ケン君、気をつけてな」
ハインリヒが、手を振る。
「必ず、戻ってこい」
「はい」
「娘を、頼むぞ」
「任せてください」
グスタフも、一緒に来る。
「俺も、久しぶりの冒険だ」
「グスタフさん、よろしくお願いします」
「ああ」
エミリアも、決意の表情。
「わたし、今度こそ足を引っ張りません」
「エミリアは、十分強いよ」
「でも、もっと強くなります」
セラフィナは、静かに佇んでいる。
「セラフィナ、大丈夫?」
「ええ。ただ――」
彼女が、北の空を見る。
「何か、嫌な予感がするの」
「予感?」
「ええ。まるで、何かが待っているような」
セラフィナの目が、不安げだ。
「でも、行かなきゃいけないのよね」
「ああ」
港町から、船で北へ向かう。
船長は、またトーマス・ブレイク。
「よう、また会ったな」
「お久しぶりです」
「今度は、北の大陸か」
トーマスが、海図を見る。
「あそこは、危険だぞ」
「危険?」
「ああ。氷山、嵐、そして――」
トーマスの顔が、険しくなる。
「海の魔物が多い」
「海の魔物……」
「気をつけろ。命がいくつあっても足りない」
航海は、順調だった。
最初の数日は。
だが、北へ進むにつれ、気温が下がってくる。
「寒い……」
リーゼが、震える。
「大丈夫?」
「うん。でも、こんなに寒いなんて……」
海には、氷山が浮かび始めた。
美しいが、危険だ。
「注意しろ! 氷山だ!」
トーマスの叫び。
船が、巧みに氷山を避ける。
「すごい操船技術だ……」
「さすが、ベテランね」
クラリスが、感心する。
五日目の夜。
事件が起きた。
「船長! 何かが近づいています!」
見張りの叫び。
「何だ!?」
海面を見ると――
巨大な影が、船の下を泳いでいる。
「これは……」
「海竜だ!」
トーマスが、顔色を変える。
「全員、戦闘準備!」
海面が、爆発する。
巨大な竜が、飛び出してきた。
全身が青白い鱗で覆われている。
氷の竜。
「ギャアアアア!」
竜の咆哮。
船が、激しく揺れる。
「くそ、またドラゴンか!」
ロイドが、剣を抜く。
「ケン、どうする!?」
「戦うしかない!」
俺も、剣を構える。
竜が、口を開ける。
冷気が、集まる。
「まずい、氷のブレスだ!」
「【イースト・シールド】!」
俺の発酵の盾が、船を守る。
だが――
氷のブレスは、強力だ。
盾が、凍り始める。
「くっ……!」
「ケン!」
リーゼが、援護に入る。
彼女の剣が、竜の鱗を狙う。
だが、硬い。
「効かない……!」
「【聖なる光】!」
エミリアの魔法が、竜を照らす。
竜が、怯む。
「今だ!」
セラフィナが、暗黒魔法を放つ。
「【シャドウスピア】!」
影の槍が、竜の目を狙う。
命中。
「ギャアアア!」
竜が、悲鳴を上げる。
そして――
海に潜った。
「逃げた……?」
「いや、まだだ!」
ダミアンが、警戒する。
「奴は、まだ諦めていない」
その言葉通り――
竜が、船の下から襲ってきた。
船が、持ち上げられる。
「うわあああ!」
全員が、倒れる。
「しまった!」
船が、傾く。
このままでは、転覆する。
「【イースト・グロース】!」
俺は、海中に巨大な海藻を急成長させる。
海藻が、竜を絡め取る。
「ギャアアア!」
竜が、もがく。
「今だ、みんな!」
全員の攻撃が、竜に集中する。
剣、魔法、すべて。
ついに、竜が力尽きる。
「終わった……」
竜が、海に沈んでいく。
船は、無事だった。
「はあ、はあ……」
「全員、無事か!?」
「ああ、何とか……」
その夜、船室で話し合った。
「北の大陸は、予想以上に危険だな」
ロイドが、傷を手当てしながら言う。
「まだ、着いてもいないのに」
「ええ。でも、引き返せない」
ダミアンが、地図を見る。
「あと三日で、到着する」
「そこで、何が待っているのか……」
セラフィナが、不安そうに言う。
「嫌な予感が、どんどん強くなる」
「大丈夫」
リーゼが、明るく言う。
「あたしたちなら、乗り越えられる」
「……そうだな」
俺も、頷く。
「みんなで力を合わせれば」
三日後。
ついに、北の大陸が見えてきた。
「あれが……」
氷と雪に覆われた、白い大陸。
山々は、すべて氷河。
海岸も、凍りついている。
「寒そうだな……」
「防寒具を、しっかり着込め」
ダミアンの指示。
船が、大陸に接岸する。
上陸すると――
凍てつく寒さ。
「寒い……!」
「こんなところに、人は住めるのか……?」
「わからない。でも、調査しないと」
俺たちは、大陸の奥へ進み始めた。
雪の平原。
氷の山。
そして――
遠くに、巨大な建造物が見える。
「あれは……」
「城……?」
「いや、神殿だ」
ミレーユが、望遠鏡で確認する。
「氷でできた、巨大な神殿」
「あそこに、答えがあるかもしれない」
ダミアンが、決断する。
「行こう」
神殿に近づくと、門が開いた。
まるで、俺たちを招いているように。
「罠か……?」
「かもしれない。だが、行くしかない」
中に入ると――
広大なホール。
氷の柱。
そして、奥に――
一つの玉座。
そこに、誰かが座っていた。
「……ようこそ」
低い声。
玉座から、人影が立ち上がる。
青白い肌。銀色の髪。氷のような瞳。
「待っていたぞ、アルテミスの後継者よ」
「誰だ、お前は!」
「私の名は、フロスト」
男が、微笑む。
「北の守護者。そして――」
彼の目が、光る。
「お前たちに、試練を与える者だ」
「試練……?」
「ああ。お前たちが、真に世界を守る資格があるか」
フロストが、手を上げる。
「その力を、見せてもらおう」
瞬間、周囲の氷が動き出した。
氷の兵士が、次々と現れる。
「来るぞ、みんな!」
新たな戦いが――
今、始まった。




