第三十二話「黄昏の門、そして新たなる戦い」
黒い渦が、さらに広がる。
空全体を覆うほどの、巨大な門。
「みんな、避難しろ!」
ロイドが、叫ぶ。
村人たちが、慌てて逃げる。
だが、その時――
渦の中から、巨大な手が現れた。
石でできた、巨人の手。
「うわあああ!」
村人たちの悲鳴。
手が、地面に叩きつけられる。
ドシン!
大地が、揺れる。
そして――
渦から、巨人の全身が現れた。
高さ、五十メートル以上。
全身が黒い石でできている。
目には、赤い光。
「これが……破壊の巨神……」
セラフィナが、恐怖に震える。
「古代文明が作った、最終兵器……」
「最終兵器……?」
「ええ。千年前の大戦で使われた」
セラフィナの声が、震える。
「これ一体で、都市を一つ滅ぼせる」
「そんなものが……」
巨神が、動き出す。
ゆっくりと、村に向かって歩く。
一歩ごとに、地面が揺れる。
「止めなきゃ……!」
俺は、剣を抜く。
「みんな、戦うぞ!」
「ああ!」
ロイド、グスタフ、ガレスが、武器を構える。
クラリスとミレーユは、魔法を準備する。
「【アイスランス】!」
クラリスの氷の槍が、巨神に突き刺さる。
だが――
まったく効いていない。
「嘘……」
「【ファイアボール】!」
ミレーユの火球も、同じ。
巨神の体に当たるが、傷一つつかない。
「くそ、硬すぎる……!」
「物理攻撃だ!」
ロイドが、巨神の足に斬りかかる。
だが――
剣が、弾かれる。
「何!?」
「無理だ……この硬さは……」
絶望的だ。
魔法も、剣も、効かない。
「どうすれば……」
その時、巨神が動いた。
腕を振り上げる。
そして――
村に向かって、拳を振り下ろす。
「みんな、逃げろ!」
ダミアンの叫び。
だが、間に合わない――
その瞬間。
「【イースト・ガーディアン】!」
俺は、創造魔法を使った。
光の巨人が、現れる。
巨神の拳を、受け止める。
ドガン!
衝撃波が、広がる。
「ケン!」
リーゼの声。
「大丈夫だ!」
光の巨人が、巨神と力比べをする。
だが――
力が、拮抗している。
「くっ……同じくらいの力……!」
巨神が、もう片方の腕を振るう。
光の巨人が、吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
俺も、衝撃を受ける。
創造魔法は、使用者と繋がっている。
巨人がダメージを受ければ、俺も受ける。
「ケン!」
グスタフが、俺を支える。
「大丈夫か!?」
「ああ……でも、これじゃ勝てない……」
巨神が、再び村に向かってくる。
このままでは――
村が、滅びる。
「待って!」
エミリアが、前に出た。
「わたしも、手伝います!」
「エミリア、危ない!」
「大丈夫です!」
エミリアが、両手を広げる。
「【聖域展開・極大】!」
金色の光が、村全体を包む。
強力な結界。
巨神の拳が、結界にぶつかる。
ガキン!
弾かれる。
「やった……!」
だが――
「ぐっ……!」
エミリアが、膝をつく。
「魔力が……持たない……」
「エミリア!」
「あと、数分が限界です……」
時間がない。
数分で、巨神を倒さなければならない。
「どうする……どうすれば……」
その時――
「私に、考えがある」
セラフィナが、前に出た。
「考え……?」
「ええ。破壊の巨神には、弱点がある」
「弱点!?」
「ああ。胸の中心に、制御核がある」
セラフィナが、説明する。
「それを壊せば、巨神は停止する」
「でも、どうやって胸まで……」
「私が、囮になる」
セラフィナの目が、決意に満ちている。
「私が巨神の注意を引く。その間に、ケンとエミリアが制御核を狙う」
「危険すぎる!」
「他に方法がない」
セラフィナが、剣を構える。
「行くわよ」
「待て!」
だが、セラフィナは走り出していた。
巨神に向かって。
「こっちよ! 化け物!」
巨神の視線が、セラフィナに向く。
腕が、振り下ろされる。
セラフィナが、ギリギリで避ける。
「もっと速く動きなさい!」
セラフィナの挑発に、巨神が反応する。
連続攻撃。
だが、セラフィナは巧みに避ける。
「今よ、ケン!」
「わかった!」
俺とエミリアは、巨神の背後に回る。
そして――
巨神の体を、登り始める。
「急げ、エミリア!」
「はい!」
五十メートルの巨体。
登るのは、大変だ。
だが、諦めない。
十メートル、二十メートル、三十メートル。
ついに、胸の高さまで来た。
「あれが、制御核……!」
胸の中心に、赤く光る石。
「あれを、壊す!」
俺は、剣を構える。
「【イースト・エンハンス】!」
剣に、発酵魔法を纏わせる。
切れ味が、増す。
「行くぞ!」
剣を、振り下ろす――
その瞬間。
巨神が、気づいた。
手が、俺たちを掴もうとする。
「エミリア、結界を!」
「【聖なる盾】!」
ギリギリで、防ぐ。
だが、その隙に――
俺の剣が、制御核に届いた。
「砕けろ!」
ガシャン!
制御核が、割れる。
すると――
巨神が、動きを止めた。
「やった……!」
巨神が、ゆっくりと倒れる。
俺とエミリアは、急いで飛び降りる。
ドシン!
巨神が、地面に倒れる。
そして――
石になり、崩れ始めた。
「終わった……」
俺は、その場に座り込んだ。
「勝った……」
だが、その時。
黒い渦が、まだ消えていないことに気づいた。
「まだ……終わっていない……?」
渦の中から、声が聞こえた。
「よくやったな、ケン・サトウ」
その声は――
低く、重く、威厳に満ちていた。
「誰だ!?」
「私の名は、ゼノス」
渦の中から、一人の男が現れた。
長い白髪。金色の瞳。
古代の衣装を纏っている。
「ゼノス……」
「ああ。黄昏の会の、真のリーダーだ」
ゼノスが、地面に降り立つ。
「そして――アルテミスその人だ」
「何……!?」
「アルテミスが……生きている……!?」
全員が、驚愕する。
「ああ。私は、千年間生き続けてきた」
ゼノスの目が、遠くを見る。
「創造魔法で、自分の命を延ばしながら」
「なぜ……」
「世界を、見守るためだ」
ゼノスが、俺を見る。
「そして、真の後継者を、探すためだ」
「後継者……?」
「ああ。創造魔法を、正しく使える者」
ゼノスが、近づいてくる。
「そして、ついに見つけた。君だ、ケン・サトウ」
「俺が……?」
「ああ。君は、私の血を最も濃く受け継いでいる」
ゼノスの目が、輝く。
「君こそ、真の後継者だ」
「……」
「さあ、私と共に来い」
ゼノスが、手を差し出す。
「そして、新しい世界を作ろう」
「新しい世界……?」
「ああ。創造魔法で、完璧な世界を」
ゼノスの声が、熱を帯びる。
「飢えも、病気も、争いもない世界」
「それは……」
「君の力があれば、できる」
「……断る」
俺は、はっきりと言った。
「そんな世界、望まない」
「なぜだ?」
「完璧な世界なんて、つまらない」
俺は、リーゼを見る。
「俺は、不完全な世界でいい」
「不完全な……?」
「ああ。苦しいことも、悲しいことも、ある世界」
俺は、みんなを見回す。
「でも、仲間がいて、愛する人がいて、笑顔がある世界」
「……」
「それが、俺の望む世界だ」
「愚かな……」
ゼノスの表情が、変わる。
「なら、力ずくで連れて行く」
ゼノスが、魔法を発動する。
「【創造魔法・極大】!」
膨大な魔力。
空間が、歪む。
「これは……!」
「私の力を、見せてやる」
ゼノスの周りに、光が集まる。
そして――
何かが、生まれようとしている。
「【ドラゴン・クリエイト】!」
光から、巨大な竜が現れた。
全長、百メートル以上。
金色の鱗。
圧倒的な存在感。
「これが……創造魔法の真髄……」
「生命を、創造した……」
全員が、言葉を失う。
竜が、吠える。
その咆哮で、大地が揺れる。
「さあ、私の竜よ」
ゼノスが、指を指す。
「あの者たちを、殲滅しろ」
竜が、口を開ける。
炎が、集まる。
「逃げろ!」
ロイドの叫び。
だが――
竜の吐く炎は、範囲が広すぎる。
避けられない。
「くそ……!」
その時――
「【イースト・フォレスト】!」
俺は、ありったけの魔力を使った。
地面から、巨大な森が生える。
発酵魔法で作った、生命の森。
竜の炎が、森を焼く。
だが、森は再生し続ける。
「耐えろ……!」
魔力が、急速に減っていく。
体が、悲鳴を上げる。
「ケン! 無理しないで!」
リーゼの声。
だが、止められない。
みんなを、守らなきゃ。
「まだだ……まだ……!」
視界が、暗くなる。
限界が、近い。
だが――
「ケン君、一人で背負うな!」
ダミアンの声。
「【アースウォール・極大】!」
土の壁が、森を補強する。
「私も! 【アイスバリア】!」
クラリスの氷の壁。
「【ウィンドシールド】!」
ミレーユの風の盾。
みんなの魔法が、重なる。
竜の炎を、防ぎ切る。
「やった……!」
だが、次の瞬間――
竜が、爪で襲いかかってきた。
「まずい!」
爪が、俺たちを掴もうとする――
その時。
「させない!」
セラフィナとエミリアが、同時に魔法を放つ。
「【暗黒の鎖】!」
「【聖なる縛鎖】!」
闇と光の鎖が、竜を縛る。
「今よ、ケン!」
「わかった!」
俺は、最後の力を振り絞る。
「【クリエイション・ウェポン】!」
光から、巨大な剣を創造する。
すべての魔力を注ぎ込んだ、究極の武器。
「これで……終わりだ!」
剣を、竜の心臓に突き刺す。
ズブリ。
竜が、咆哮する。
そして――
光になって、消えた。
「はあ、はあ……」
俺は、地面に倒れ込む。
もう、魔力が残っていない。
「ケン!」
リーゼが、駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ……何とか……」
ゼノスが、驚愕の表情を見せた。
「私の竜を……倒した……」
「ああ」
俺は、立ち上がる。
体は、ボロボロだ。
だが、まだ戦える。
「ゼノス、お前の考えは間違ってる」
「間違って……?」
「ああ。完璧な世界なんて、必要ない」
俺は、剣を構える。
「今の世界で、十分だ」
「……そうか」
ゼノスの表情が、悲しげになる。
「なら、仕方ない」
彼が、両手を広げる。
「私自身が、戦おう」
「来い」
最後の戦いが、始まろうとしていた――
だが、その時。
「待って」
一人の少女が、前に出た。
エミリアだ。
「エミリア?」
「ゼノスさん、聞いてください」
エミリアが、ゼノスに向かって言う。
「あなたは、千年間孤独でしたね」
「……」
「一人で、世界を見守り続けた」
エミリアの目が、優しい。
「それは、とても辛かったでしょう」
「……ああ」
ゼノスの目に、涙が浮かぶ。
「辛かった。あまりにも」
「友も、家族も、みんな死んでいった」
ゼノスの声が、震える。
「私だけが、生き続けた」
「そして、完璧な世界を作ろうとした」
「ああ。もう、誰も死なない世界を」
「でも、それは無理なんです」
エミリアが、首を振る。
「完璧な世界は、作れない」
「なぜだ……」
「だって、人間は不完全だから」
エミリアが、微笑む。
「不完全だから、美しい」
「……」
「ゼノスさん、もう休んでください」
エミリアが、手を差し出す。
「千年の旅、お疲れ様でした」
ゼノスは、しばらくエミリアの手を見ていた。
そして――
ゆっくりと、その手を取った。
「……ありがとう」
涙が、頬を伝う。
「ようやく、解放される……」
ゼノスの体が、光り始める。
「さらばだ、後継者よ」
「ゼノス……」
「君に、私の力を託す」
光が、俺に流れ込んでくる。
創造魔法の、すべての知識。
そして――
「世界を、頼む……」
ゼノスは、笑顔で消えた。
戦いが、終わった。
黒い渦も、消える。
空が、晴れる。
平和が、戻ってきた。
「終わった……」
俺は、リーゼを抱きしめた。
「本当に、終わった……」
「うん……」
リーゼも、泣いている。
「よく、頑張ったね……」
「ああ」
みんなが、集まってくる。
グスタフ、エミリア、セラフィナ、ダミアン、ロイド、クラリス、ミレーユ、ガレス。
そして、村人たち。
みんな、笑顔だ。
「勝ったぞ!」
「世界を、救った!」
歓声が、上がる。
長い戦いが、ついに終わった。




