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社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命  作者: yukataka


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第三十話「潜む影、明かされる真実」

 旅人が村に来てから、三日。

 俺は、何となく不安を感じていた。

「気のせいかな……」

 工房でパンを焼きながら、そう呟く。

 だが、この感覚は無視できない。

 何かが、おかしい。

「ケンさん、どうかしました?」

 エミリアが、心配そうに聞く。

「いや、何でもない」

「でも、顔色が悪いですよ」

「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだ」

 だが、実際は違う。

 誰かに、見られている気がする。

 敵意ではない。

 だが、強い視線を感じる。

「……」

 窓の外を見る。

 誰もいない。

 だが、確かに誰かがいた気がした。


 その日の午後。

 俺は村を歩いていた。

 いつもの巡回。

 村人たちの様子を確認する。

「ケン君、こんにちは」

「こんにちは」

 村は、平和だ。

 戦いの傷跡も、だいぶ修復された。

「いい天気だな……」

 だが、心は晴れない。

 何かが、近づいている。

 そんな予感がする。

 市場を通り過ぎようとした時――

 フードを被った旅人と、すれ違った。

 その瞬間。

 ゾクリとした。

「……!」

 振り返る。

 だが、旅人はもういない。

「今の……」

 紫色の瞳。

 一瞬、見えた気がした。

「まさか……」


 その夜。

 俺は一人で工房にいた。

 みんなは、もう寝ている。

 だが、俺は眠れない。

「誰だ?」

 突然、背後から声をかける。

 気配は感じていた。

 誰かが、ずっとついてきていた。

「……鋭いわね」

 闇の中から、一人の女性が現れた。

 フードを取ると――

 銀色の髪。紫の瞳。

「セラフィナ……!」

 俺は、剣を構える。

「何をしに来た!」

「落ち着いて」

 セラフィナが、両手を上げる。

「戦いに来たわけじゃない」

「嘘だ」

「本当よ。もし戦うつもりなら、もっと早く襲ってる」

 セラフィナが、近づいてくる。

「話がしたいの。あなたと」

「話……?」

「ええ。真実を、伝えたい」

 セラフィナの目が、真剣だ。

「黄昏の会のこと。あなたのこと。そして――世界のこと」

「……」

「聞いてくれる?」

 俺は、しばらく考えた。

 これは、罠かもしれない。

 だが、彼女の目は嘘をついていない。

「……わかった。話せ」

「ありがとう」

 セラフィナが、椅子に座る。

「どこから話せばいいかしら……」

 彼女が、深呼吸する。

「まず、黄昏の会の本当の目的から」

「本当の目的……?」

「ええ。世界征服とか、そんなものじゃない」

 セラフィナの目が、遠くを見る。

「私たちは――世界を救おうとしている」

「救う……?」

「そう聞くと、驚くでしょうね」

 セラフィナが、苦笑する。

「悪の組織が、世界を救うなんて」

「どういうことだ?」

「教えてあげる。この世界の、真実を」


 セラフィナが、語り始めた。

「千年前、古代魔法文明は滅んだ」

「それは、知ってる」

「でも、理由を知ってる?」

「創造魔法の、使いすぎだろう」

「半分正解。でも、半分は違う」

 セラフィナが、立ち上がる。

「創造魔法を使いすぎたのは事実。だが、それには理由があった」

「理由……?」

「世界が、死にかけていたの」

「何……?」

「千年前、この世界は魔力枯渇の危機にあった」

 セラフィナの声が、重くなる。

「大地の魔力が、急速に減少していた」

「それで……?」

「古代の魔法使いたちは、焦った」

 セラフィナが、窓の外を見る。

「魔力がなくなれば、文明が崩壊する。だから、創造魔法で魔力を生み出そうとした」

「……」

「でも、失敗した。創造魔法は、魔力を生み出すどころか、さらに奪った」

「それが、古代文明の滅亡……」

「ええ。そして今――」

 セラフィナが、俺を見た。

「同じことが、起きようとしている」

「同じこと……?」

「この世界の魔力が、また減少している」

「まさか……」

「信じられない? でも、事実よ」

 セラフィナが、小さな魔石を取り出す。

「これを見て」

 魔石は、くすんでいた。

 本来、魔石は光り輝くはずだ。

「これは、百年前の魔石。今はこんなに、くすんでいる」

「……」

「魔力が、減っているの。確実に」

 セラフィナの声が、切迫する。

「このままでは、五百年後――魔法が使えなくなる」

「五百年……」

「長いと思う? でも、文明にとっては一瞬よ」

 セラフィナが、拳を握る。

「だから、私たちは動いた」

「創造魔法で、魔力を生み出すために……」

「そう。でも、今度は失敗しない」

 セラフィナの目が、光る。

「古代の失敗を研究した。そして、わかった」

「何が……?」

「正しい使い方を」


 セラフィナが、説明を続ける。

「創造魔法は、確かに魔力を奪う」

「ああ」

「でも、それは使い方が間違っているから」

「使い方……?」

「ええ。古代の魔法使いは、自分の力だけで創造しようとした」

 セラフィナが、図を描く。

「でも、それは無理なの。人間一人の力では、世界を救えない」

「じゃあ、どうする?」

「複数の創造魔法使いが、協力する」

 セラフィナの目が、真剣だ。

「アルテミスの血を引く者たちが、力を合わせる」

「アルテミスの血を引く者……」

「そう。あなた、私、そして――」

 セラフィナが、驚くべきことを言った。

「エミリアよ」

「え……エミリア!?」

「ええ。彼女も、アルテミスの末裔」

「まさか……」

「信じられない? でも、彼女の聖浄魔法を見たでしょう?」

 セラフィナが、微笑む。

「あれは、生命魔法の一種。彼女も、素質がある」

「……」

「そして、私たち三人が力を合わせれば――」

 セラフィナの声が、高揚する。

「世界を救える。魔力を生み出せる」

「だが、代償は?」

「代償?」

「命を削るんだろう?」

「……ええ」

 セラフィナの表情が、暗くなる。

「三人とも、おそらく死ぬ」

「やっぱり……」

「でも、それで世界が救われる」

 セラフィナが、俺の手を握る。

「三人の命と引き換えに、何億人もが生き延びられる」

「……」

「価値があると思わない?」

 俺は、手を振りほどいた。

「思わない」

「何ですって?」

「俺は、そんな犠牲、認めない」

 俺は、セラフィナを睨んだ。

「たとえ世界を救えても、俺やエミリアが死ぬのは嫌だ」

「でも――」

「それに、リーゼとの約束がある」

 俺の声が、強くなる。

「結婚する約束。一緒に生きる約束」

「……」

「その約束を破ってまで、世界を救いたくない」

「自分勝手ね」

 セラフィナが、冷たく言う。

「世界より、自分の幸せが大事なの?」

「ああ、そうだ」

 俺は、はっきりと答えた。

「俺は、英雄じゃない。ただの人間だ」

「……」

「大切な人を守りたい。それだけだ」

 セラフィナは、しばらく黙っていた。

 そして――

「……そう」

 彼女が、立ち上がる。

「なら、仕方ないわね」

「どういう意味だ?」

「力ずくで、連れて行く」

 セラフィナの目が、冷たくなる。

「あなたとエミリアを。黄昏の会の本部へ」

「させるか!」

 俺は、剣を構える。

「戦うつもりか?」

「当然だ」

「愚かね」

 セラフィナが、魔法を発動しようとする――

 その時。

「待って!」

 工房の扉が、開いた。

 エミリアだ。

「エミリア!?」

「わたし、聞いてました。全部」

 エミリアが、涙を流している。

「わたしも、アルテミスの末裔なんですね……」

「エミリア……」

「でも、わたし――」

 エミリアが、セラフィナを見る。

「ケンさんと同じ気持ちです」

「……」

「世界を救うことは大切。でも、自分の命も大切」

 エミリアの声が、震える。

「わたし、まだ死にたくない。生きたい」

「……そう」

 セラフィナの表情が、崩れた。

「そうよね……当然よね……」

 彼女が、床に座り込む。

「私も、本当は……死にたくない……」

「セラフィナ……」

「でも、誰かがやらなきゃいけない」

 セラフィナが、泣き始めた。

「兄は、そう言った。誰かが犠牲にならなきゃ、世界は救えないって」

「……」

「だから、私が犠牲になろうと思った。兄の意志を継いで」

 セラフィナの涙が、止まらない。

「でも、怖い。すごく怖い」

「死ぬのが、怖い……」

 彼女は、ただの少女だった。

 冷酷な悪のリーダーではなく。

 怖れを抱く、普通の少女。


 俺は、セラフィナの隣に座った。

「セラフィナ」

「……何?」

「別の方法を、探そう」

「別の方法……?」

「ああ。誰も死なずに、世界を救う方法」

 俺は、拳を握る。

「そんな方法、あるはずだ」

「……ないわよ」

 セラフィナが、首を振る。

「何百年も研究して、見つからなかった」

「なら、俺たちが見つける」

「無理よ」

「無理じゃない」

 エミリアも、近づいてくる。

「わたしたちなら、できます」

「……」

「一緒に探しましょう。答えを」

 エミリアが、手を差し出す。

「セラフィナさん、わたしたちの仲間になってください」

「仲間……?」

「はい。敵じゃなくて、仲間」

 エミリアが、微笑む。

「一緒に、世界を救いましょう」

 セラフィナは、しばらくエミリアの手を見ていた。

 そして――

 ゆっくりと、その手を取った。

「……ありがとう」

「これから、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 その夜、三人で話し合った。

「まず、魔力減少の原因を突き止めないと」

 俺が、ノートに書き出す。

「原因がわかれば、対処法も見つかるはず」

「でも、原因は不明なのよ」

 セラフィナが、資料を見せる。

「黄昏の会でも、何百年も研究してわからなかった」

「じゃあ、仮説を立てよう」

「仮説……?」

「ああ。可能性のあることを、すべて挙げる」

 俺は、ペンを走らせる。

「一つ目。魔力の供給源が、枯渇している」

「二つ目。魔力を消費する何かが、増えている」

「三つ目。魔力が、外部に流出している」

「なるほど……」

 セラフィナが、考え込む。

「確かに、この三つのどれかかもしれない」

「それぞれ、調査しよう」

「でも、どうやって?」

「まず、古代の記録を調べる」

 エミリアが、提案する。

「王宮の図書館に、古文書があるはずです」

「それと、各地の魔力濃度を測定する」

 俺が、続ける。

「場所によって、減少率が違うかもしれない」

「……できるかも」

 セラフィナの目に、希望の光が宿る。

「本当に、別の方法があるかも」

「ああ」

「じゃあ、明日から調査開始ね」

 セラフィナが、立ち上がる。

「私、黄昏の会の資料を持ってくる」

「大丈夫なのか?」

「ええ。もう、組織とは決別する」

 セラフィナが、決意を込めて言う。

「これからは、あなたたちと一緒に戦う」

「ありがとう」


 翌朝。

 村人たちに、セラフィナを紹介した。

「みんな、紹介したい人がいる」

「これは、セラフィナ。今日から、仲間だ」

 村人たちが、ざわめく。

「あの、黄昏の会の……?」

「ええ。でも、もう敵じゃありません」

 エミリアが、説明する。

「一緒に、世界を救います」

「……本当か?」

 ハインリヒが、疑わしそうに見る。

「信じられるのか?」

「信じてください」

 俺が、前に出る。

「彼女は、変わった。もう、戦いは望んでいない」

「……」

 リーゼが、前に出た。

「あたしは、信じる」

「リーゼ……」

「だって、ケンが信じてるから」

 リーゼが、セラフィナに手を差し出す。

「よろしくね」

「……ありがとう」

 セラフィナが、その手を取る。

「迷惑かけたこと、謝ります」

「もういいよ。これから、仲間だから」

 リーゼの笑顔が、村人たちの心を動かした。

「……わかった」

 ハインリヒが、頷く。

「俺たちも、信じよう」

「ありがとうございます」

 グスタフも、近づいてくる。

「だが、一つ約束しろ」

「何でしょう?」

「もう、村を襲わないこと」

「……約束します」

 セラフィナが、深く頭を下げる。

「二度と、襲いません」

「よし」

 グスタフが、肩を叩く。

「なら、歓迎する」


 その日から、新しい生活が始まった。

 セラフィナは、村に住むことになった。

 そして、俺たちと一緒に研究を始めた。

「この古文書によると……」

 ミレーユも、王都から協力に来てくれた。

「魔力減少は、五百年前から始まっていた」

「五百年前……」

「ええ。でも、当時は気づかれなかった」

「なぜ?」

「減少率が、あまりにも緩やかだったから」

 ミレーユが、グラフを見せる。

「でも、百年前から加速し始めた」

「加速……」

「ええ。このペースだと、本当に五百年後には魔力がゼロになる」

「……」

 沈黙。

 五百年。

 遠い未来のようで、実はすぐそこだ。

「原因は、わかりますか?」

「まだ、わからない」

 ミレーユが、首を振る。

「でも、一つ気になることがある」

「何ですか?」

「魔力減少の加速が始まったのは――」

 ミレーユの目が、真剣だ。

「黄昏の会が、活動を始めた時期と一致する」

「まさか……」

「黄昏の会の実験が、魔力減少を加速させている可能性がある」

「そんな……」

 セラフィナの顔が、青ざめる。

「私たちが、世界を救おうとして……逆に、悪化させていた……?」

「まだ、仮説に過ぎない」

 ミレーユが、慰めるように言う。

「でも、調査の価値はある」

「……わかりました」


 数日後。

 ダミアンから、緊急の連絡が来た。

『ケン君へ

重大な発見があった。

すぐに王都に来てほしい。

世界の秘密が、明らかになった。

ダミアン』

「世界の秘密……?」

 俺、セラフィナ、エミリアの三人で、王都へ向かった。

 そして――

 ダミアンが見せてくれたのは、信じられない光景だった。

 王宮の地下。

 そこには――

 巨大な魔法陣があった。

「これは……」

「世界魔法陣だ」

 ダミアンが、説明する。

「千年前、古代魔法使いたちが作った」

「何のために?」

「世界の魔力を、管理するために」

 ダミアンが、魔法陣を指差す。

「この魔法陣が、世界中の魔力を集め、分配している」

「まるで、心臓みたいに……」

「そうだ。まさに、世界の心臓」

 ダミアンの表情が、暗くなる。

「だが、この魔法陣が――壊れかけている」

「!」

「これが、魔力減少の原因だ」

 ダミアンが、魔法陣のヒビを見せる。

「このままでは、百年以内に完全に崩壊する」

「百年……」

「ああ。そうなれば、世界は終わる」

 沈黙。

 重い、沈黙。

「修復できますか?」

 エミリアが、聞く。

「……わからない」

 ダミアンが、首を振る。

「この魔法陣を作ったのは、古代最強の魔法使いたち」

「今の技術では、修復できないかもしれない」

「じゃあ……」

「だが、一つだけ方法がある」

 ダミアンが、俺たちを見た。

「アルテミスの血を引く者たちが、力を合わせれば――」

「修復できる……」

 やはり、そこに戻ってくる。

 俺たちの、運命に。

「でも、代償は?」

「おそらく、死ぬ」

 ダミアンが、正直に答える。

「魔法陣の修復には、膨大な生命力が必要だ」

「……」

「だが、これしか方法がない」

 ダミアンの目が、悲しげだ。

「すまない。君たちに、こんな重荷を背負わせて」

 俺は、拳を握った。

 運命は、残酷だ。

 世界を救うには、俺たちが死ななければならない。

 だが――

 本当に、それしか方法はないのか?

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