第二十九話「セラフィナの脅威、絶望の戦い」
空を覆う、黒い魔物たち。
使い魔は、三十体以上。
鋭い爪と牙を持ち、騎士たちを次々と襲う。
「くそ、数が多すぎる!」
ロイドが、剣を振るう。
だが、使い魔は素早い。
攻撃を避け、背後から襲いかかる。
「ぐあっ!」
騎士の一人が、倒れる。
「退くな! 陣形を保て!」
だが、次々と騎士が倒れていく。
「【アイスランス】!」
クラリスの魔法が、使い魔を貫く。
だが、倒しても倒しても、新たな使い魔が現れる。
「きりがない……!」
「これが、セラフィナの力……」
ダミアンが、歯ぎしりする。
「アルカードより、強い……」
「フフフ……」
セラフィナが、高笑いする。
「どう? 私の力」
「兄より、遥かに強いでしょう?」
彼女が、手を振る。
すると、使い魔がさらに増える。
「五十体……百体……」
「こんなの、勝てるわけない……!」
ガレスが、必死に斧を振るう。
だが、疲労が見える。
「みんな、持ちこたえろ!」
俺も、魔法で応戦する。
「【イースト・ストーム】!」
発酵の嵐が、使い魔を包む。
だが、効果は限定的だ。
「くそ、第二段階じゃ、足りない……」
その時――
「きゃああ!」
リーゼの悲鳴。
「リーゼ!」
見ると、リーゼが使い魔に襲われていた。
「やめろ!」
俺は、全速力で駆ける。
使い魔の爪が、リーゼに迫る――
「【イースト・シールド】!」
ギリギリで、防ぐ。
だが、使い魔の力は強い。
盾が、ヒビ割れる。
「くっ……!」
「ケン!」
グスタフが、援護に来る。
彼の剣が、使い魔を切り裂く。
「大丈夫か、リーゼ!」
「う、うん……」
リーゼが、震えている。
「怖かった……」
「もう大丈夫だ」
俺は、リーゼを抱きしめる。
「絶対、守る」
「うん……」
だが――
「ケンさん、危ない!」
エミリアの声。
振り返ると、別の使い魔が襲ってきていた。
避けられない――
その瞬間。
「【聖浄の光】!」
エミリアの魔法が、使い魔を消滅させる。
「エミリア!」
「わたし、もう子供じゃありません!」
エミリアが、両手を広げる。
「みんなを、守ります!」
彼女の体が、金色の光に包まれる。
「【聖域展開】!」
光の結界が、村を覆う。
使い魔たちが、結界に触れると消滅する。
「すごい……」
「エミリアの力、こんなに強くなって……」
だが――
「ぐっ……」
エミリアが、膝をつく。
「エミリア!」
「だ、大丈夫……でも、長くは持たない……」
エミリアの顔が、青ざめている。
魔力を、使いすぎている。
「無理するな!」
「でも……みんなを……」
その時、セラフィナが笑った。
「なるほど。王族の血か」
「……!」
「面白いわね。だが――」
セラフィナが、黒い杖を掲げる。
「私の力の前では、無意味よ」
「【暗黒の波動】!」
黒い波が、エミリアの結界を襲う。
結界が、きしむ音を立てる。
「きゃあ!」
エミリアが、倒れる。
結界が、消える。
「エミリア!」
クラリスが、エミリアを抱き起こす。
「大丈夫!?」
「は、はい……でも、もう魔力が……」
「無理しないで」
状況は、絶望的だった。
騎士団は半数が倒れ、村人たちも疲弊している。
このままでは――
全滅する。
「どうする……どうすればいい……」
その時、頭に浮かんだのは――
第三段階。
創造魔法。
「あれを使えば……」
だが、約束した。
使わないと。
「でも、このままじゃ……」
ダミアンが、血を流しながら近づいてくる。
「ケン君……」
「ダミアンさん!」
「すまない……俺の作戦が、甘かった……」
「いえ、誰も悪くありません」
「だが、このままでは……」
ダミアンの目が、俺を見る。
「ケン君、頼む」
「……」
「使ってくれ。第三段階を」
「でも、約束を……」
「約束より、命が大事だ」
ダミアンが、俺の肩を掴む。
「村を、みんなを、救ってくれ」
「……」
リーゼを見る。
エミリアを見る。
グスタフ、村人たち、みんなを見る。
みんな、疲れ果てている。
傷だらけだ。
(俺が、守らなきゃ)
決意する。
「わかりました」
俺は、立ち上がる。
「使います。第三段階を」
「ケン……」
リーゼが、不安そうに見る。
「大丈夫。制御できる」
俺は、微笑む。
「信じて」
「……うん」
俺は、村の中央に立つ。
深呼吸。
魔力を、集中させる。
体の奥底に眠る、力。
創造魔法。
それを、呼び起こす。
「【クリエイション・ウェイク】」
体が、光り始める。
緑色の光。
そして――
膨大な力が、溢れてくる。
「これが……創造魔法……」
すべてが、見える。
生命の流れ。
エネルギーの循環。
創造と破壊。
「すごい……力だ……」
だが、同時に感じる。
この力の、危険性。
使いすぎれば、死ぬ。
そして、大地を枯らす。
(制御しなきゃ……)
俺は、力を絞る。
最小限に。
必要な分だけ。
「【クリエイション・ガーディアン】!」
光から、何かが生まれる。
それは――
光の巨人。
高さ五メートル。
人型で、剣と盾を持っている。
「これは……!」
ダミアンが、驚く。
「生命を、創造した……!」
「いえ、これは一時的なものです」
俺は、巨人に命令する。
「使い魔を、倒せ」
巨人が、動き出す。
剣を振るい、使い魔を次々と切り裂く。
「すごい……」
光の巨人は、圧倒的に強い。
使い魔が、次々と消滅していく。
「なんですって!?」
セラフィナが、驚愕する。
「創造魔法を……使ったの!?」
「ああ」
俺は、セラフィナを見る。
「お前の使い魔を、すべて倒す」
「ふざけないで!」
セラフィナが、さらに使い魔を召喚する。
だが、光の巨人は止まらない。
圧倒的な力で、使い魔を殲滅していく。
「くっ……!」
セラフィナの顔が、焦りに染まる。
「これは……私の負け……?」
その時――
俺の体に、異変が起きた。
「ぐっ……!」
激しい痛み。
魔力が、急速に枯渇していく。
「ケン!」
リーゼが、駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ……でも、これ以上は……」
視界が、ぼやける。
体が、限界だ。
「もう少し……あと少しだけ……」
光の巨人が、最後の使い魔を倒す。
すべての使い魔が、消滅した。
「やった……」
だが、次の瞬間――
俺の意識は、途切れた。
どれくらい時間が経ったのか。
ゆっくりと、意識が戻る。
「……ここは?」
見慣れた天井。
自分の家だ。
「目が覚めた?」
リーゼが、ベッドの横に座っていた。
「リーゼ……」
「よかった……本当によかった……」
リーゼが、泣いている。
「三日も、眠ってたのよ」
「三日……」
「うん。ケンが倒れて、みんな心配して……」
リーゼが、俺の手を握る。
「もう、二度とあんなことしないで」
「……ごめん」
「謝らなくていい。でも、約束して」
リーゼの目が、真剣だ。
「もう、第三段階は使わないって」
「……ああ、約束する」
本当に、危なかった。
あと少し使い続けていたら、死んでいたかもしれない。
「みんなは?」
「みんな無事。怪我人は多いけど、死者はゼロ」
「よかった……」
「それと――」
リーゼが、窓の外を指差す。
「セラフィナは、逃げた」
「逃げた……」
「ええ。あなたが倒れた後、撤退したの」
「そうか……」
完全な勝利ではなかった。
だが、村は守れた。
それだけで、十分だ。
その日の午後。
体調が回復したので、外に出た。
村人たちが、復興作業をしている。
「ケン君!」
ハインリヒが、駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
「はい、もう大丈夫です」
「よかった……本当に、よかった……」
ハインリヒが、涙ぐむ。
「君が倒れた時は、どうなるかと……」
「すみません、心配かけました」
「謝らなくていい。君のおかげで、村は救われた」
ハインリヒが、深く頭を下げる。
「ありがとう」
「いえ、当然のことを」
グスタフも、近づいてくる。
「よう、起きたか」
「グスタフさん」
「すごかったぞ、お前の魔法」
グスタフが、肩を叩く。
「あんな巨人を作り出すなんてな」
「でも、もう使いません」
「ああ。そうしろ」
グスタフの目が、真剣だ。
「命を削る力は、使うべきじゃない」
「……はい」
エミリアも、やってくる。
「ケンさん! よかった!」
「エミリア、君こそ大丈夫?」
「はい。もう元気です」
エミリアが、笑顔を見せる。
「それより、ケンさん。すごかったです」
「いや、エミリアの聖浄魔法もすごかった」
「えへへ」
夕方。
ダミアンたちが、王都へ戻る準備をしていた。
「ケン君、本当にありがとう」
「いえ」
「君がいなければ、全滅していた」
ダミアンが、握手を求める。
「また、何かあったら頼む」
「はい」
「それと――」
ダミアンが、真剣な顔になる。
「セラフィナのことだが」
「はい」
「彼女は、まだ諦めていない」
ダミアンの声が、低くなる。
「必ず、また来る」
「……わかっています」
「だから、警戒を怠るな」
「はい」
ダミアンたちを見送った後、俺は村の丘に来た。
夕日が、美しい。
「ケン」
リーゼが、隣に来る。
「一人?」
「ああ。ちょっと、考え事を」
「セラフィナのこと?」
「……ああ」
リーゼが、俺の手を握る。
「怖い?」
「怖い。でも――」
俺は、村を見下ろす。
「守りたいものがある」
「うん」
「リーゼ、エミリア、グスタフ、村のみんな」
俺は、リーゼを見る。
「だから、戦う」
「……わかった」
リーゼが、俺を抱きしめる。
「でも、一人で戦わないで」
「ああ」
「あたしも、一緒に戦う」
「リーゼ……」
「だって、家族でしょ?」
リーゼが、微笑む。
「家族は、助け合うもの」
「……ありがとう」
二人で、夕日を見る。
平和な時間。
だが、心のどこかで感じていた。
これは、嵐の前の静けさだと――
その夜。
村の酒場で、祝宴が開かれた。
勝利を祝って。
生き延びたことを祝って。
「乾杯!」
「乾杯!」
みんなで、笑い合う。
グスタフが、俺に酒を注ぐ。
「ケン、よくやった」
「ありがとうございます」
「だが、無理はするなよ」
「わかってます」
アレクも、王都から駆けつけてくれた。
「ケン、聞いたぞ。創造魔法を使ったって」
「はい……」
「無茶するな。死ぬぞ」
アレクが、真剣な顔で言う。
「商売相手が死んだら、困るんだ」
「……すみません」
「謝るな。冗談だ」
アレクが、微笑む。
「だが、本当に気をつけろ。お前は、大切な仲間だ」
「はい」
深夜。
みんなが寝静まった後、俺は一人で工房にいた。
パン生地を、こねている。
「やっぱり、これが落ち着くな……」
発酵魔法を使う。
第一段階の、優しい魔法。
生地が、ゆっくりと膨らむ。
「これでいい。これで十分だ」
第三段階は、もう使わない。
第二段階も、必要最小限に。
俺は、ただのパン職人だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ケン」
リーゼが、工房に入ってくる。
「眠れないの?」
「ああ。ちょっと、パンを焼きたくて」
「あたしも、手伝う」
「ありがとう」
二人で、パンを作る。
黙々と、作業する。
生地をこね、発酵させ、焼く。
単純な作業。
でも、幸せな時間。
「ねえ、ケン」
「うん?」
「結婚式、いつにする?」
「……落ち着いたら」
「いつ落ち着くの?」
「……わからない」
リーゼが、俺の手を止める。
「ケン、聞いて」
「うん」
「あたし、待つよ。何年でも」
リーゼの目が、優しい。
「でも、約束して。必ず、結婚するって」
「……ああ、約束する」
「本当?」
「ああ。絶対に」
俺は、リーゼを抱きしめた。
「お前と結婚する。それが、俺の夢だ」
「……ありがとう」
リーゼが、泣いている。
「嬉しい……」
二人で、しばらく抱き合う。
パンの焼ける、いい匂い。
温かい工房。
愛する人。
これが、俺の幸せだ――
翌朝。
村に、一人の旅人が訪れた。
フードを深く被り、顔が見えない。
「すみません、宿はありますか?」
「ああ、あっちだよ」
村人が、宿を教える。
旅人は、礼を言って去っていく。
だが――
その旅人の目は、紫色だった。
そして、銀色の髪が、フードから覗いていた。
セラフィナだ。
彼女は、村に潜入していた。
復讐のために――




