第十五話「古代遺跡への道、秘密の扉」
一週間後。
新しい工房は、ほぼ完成していた。
「よし、これで窯も使える!」
村人たちが、歓声を上げる。
以前より大きく、頑丈な工房。
石壁に囲まれ、見張り台も設置された。
「もう簡単には壊されないな」
グスタフが、満足げに頷く。
「これなら、多少の攻撃にも耐えられる」
「ええ。みんなのおかげです」
村人たちは、昼夜を問わず働いてくれた。
この村の団結力は、本物だ。
「ケン、そろそろ時間だぞ」
「あ、はい」
今日は、王都へ向かう日だ。
ダミアンとの約束。古代遺跡の調査。
「荷物は準備できたか?」
「はい。水と食料、それと――」
俺は、腰の剣を確認する。
今では、それなりに使いこなせるようになった。
「今回は、危険だ」
グスタフが、真剣な顔で言う。
「遺跡には、古代の罠が残ってるかもしれない。それに――」
「黄昏の会も、来るかもしれない」
「ああ。気をつけろよ」
「わかってます」
その時、リーゼとエミリアが駆けてきた。
「ケン!」
「お二人とも、どうした?」
「あのね」
リーゼが、小さな包みを差し出す。
「お弁当。道中で食べて」
「ありがとう」
「それと――」
エミリアが、新しいお守りを渡してきた。
「前のお守り、壊れちゃったから。新しいの作りました」
「エミリア……」
お守りは、丁寧に刺繍されている。
小さな太陽のマーク。
「太陽は、希望の象徴です。ケンさんを守ってくれるはず」
「大切にするよ」
俺は、それを首にかけた。
温かい。
二人の想いが、詰まっている。
「絶対、無事に帰ってきてね」
リーゼが、俺の手を握る。
「今度こそ、ちゃんと帰ってくるんだから」
「ああ、約束する」
俺は、リーゼの手を握り返した。
「必ず、帰ってくる」
王都アルヴェリオン。
到着すると、すぐにダミアンの屋敷へ向かった。
「よく来たな、ケン君」
ダミアンが、書斎で待っていた。
だが、彼だけではなかった。
「紹介しよう」
ダミアンの隣には、三人の人物がいた。
「彼女は、ミレーユ。王立魔法学院の研究者だ」
二十代後半の女性。眼鏡をかけ、知的な雰囲気。
「初めまして。古代魔法の専門家です」
「よろしくお願いします」
「彼は、ガレス。遺跡探索のエキスパートだ」
三十代の筋骨隆々とした男。冒険者風の装備。
「危険な場所は任せろ」
低く、力強い声。
「そして、彼女は――」
「私は、クラリス」
最後の一人が、前に出た。
二十歳くらいか。銀色の髪に、紫の瞳。
魔法使いの衣装を着ている。
「治癒魔法の専門家よ。怪我したら、私が治すから」
「ありがとうございます」
「礼はいいわ。それより――」
クラリスが、俺をじっと見た。
「あなたが、発酵魔法の使い手ね」
「はい」
「面白い魔法使うのね。見せてもらえる?」
「え? 今?」
「そう。どんな魔法か、確認しておきたいの」
「わかりました」
俺は、近くのパンに手をかざす。
「【イースト・ブルーム】」
パンが、ゆっくりと膨らみ始める。
「……!」
クラリスの目が、驚きに見開かれた。
「これは……生命エネルギーの操作……?」
「生命エネルギー?」
「そう。通常の魔法とは、根本的に違う」
クラリスが、真剣な顔になる。
「あなたの魔法、想像以上ね」
「それは……褒め言葉ですか?」
「ええ。でも、同時に警告でもあるわ」
クラリスが、俺の目を見た。
「その力、使い方を間違えたら、取り返しのつかないことになる」
「……わかってます」
「ならいいわ」
クラリスが、微笑む。
「あなた、面白そうね。気に入ったわ」
「ありがとう……ございます?」
「では、全員揃った」
ダミアンが、地図を広げた。
「遺跡『暁の塔』は、ここだ」
地図の北部。山岳地帯の奥深く。
「王都から、馬車で三日。そこから徒歩で一日」
「遠いですね……」
「ああ。だが、行く価値はある」
ダミアンの目が、輝く。
「そこには、古代文明の秘密が眠っている」
翌朝、出発した。
馬車に乗り込むのは、六人。
ダミアン、ミレーユ、ガレス、クラリス、そして護衛のロイド副団長と俺。
「長旅になるぞ」
ロイドが、剣を確認する。
「黄昏の会も、遺跡を狙ってる。警戒を怠るな」
「了解」
馬車が、王都を出発する。
街道を北へ、北へ。
一日目は、順調だった。
街道は整備され、宿場町も多い。
「ケン君、パン作りについて聞きたいんだが」
ミレーユが、ノートを開く。
「発酵のメカニズム、もっと詳しく教えてくれないか?」
「ええと、まず酵母菌が――」
俺は、知っている限りの知識を話す。
前世の科学知識と、この世界の魔法理論を組み合わせて。
「なるほど……微生物の活性化を、魔力で制御するのか……」
ミレーユが、熱心にメモを取る。
「これは、革命的だ。農業にも応用できるかもしれない」
「農業?」
「ああ。作物の成長を促進できれば、収穫量が増える」
「でも、それは第二段階の【成長魔法】になりませんか?」
「……確かに」
ミレーユが、眉をひそめる。
「難しいな。どこまでが安全で、どこからが危険か」
「境界線が、曖昧なんです」
俺も、悩んでいる部分だ。
「だから、慎重にならざるを得ない」
「賢明だ」
ロイドが、口を挟む。
「力は、使い方次第で毒にも薬にもなる」
「はい」
二日目。
街道が、険しくなってきた。
山道に入り、馬車が揺れる。
「この先、盗賊が出るらしい」
ガレスが、警戒する。
「俺が先行して確認してくる」
「気をつけろ」
ガレスが、馬車から降りて森の中に消える。
しばらくして、戻ってきた。
「大丈夫だ。盗賊の気配はない」
「よし、進もう」
だが――
その時、矢が飛んできた。
「伏せろ!」
ロイドが叫ぶ。
矢が、馬車の側面に突き刺さる。
「やはり来たか!」
森の中から、黒装束の集団が現れた。
黄昏の会だ。
「ケン・サトウ、観念しろ」
リーダーらしき男が、声を上げる。
「大人しく来れば、他の者は見逃してやる」
「断る!」
ロイドが、剣を抜いた。
「貴様ら、王国騎士団副団長の前で何をしようとしている」
「フン、副団長だろうと関係ない」
リーダーが、手を上げる。
「我らの使命の前には、誰も邪魔できん」
一斉に、襲いかかってくる。
「迎え撃て!」
ロイドと、ガレスが前に出る。
俺も、魔法を発動する。
「【イースト・バインド】!」
敵の足元を、粘着液で固定する。
「くそ、動けない!」
「今だ!」
ロイドが、動けない敵を次々と倒していく。
だが、敵は多い。
二十人以上。
「数が多すぎる!」
「クラリス、援護を!」
「わかったわ!」
クラリスが、魔法を唱える。
「【氷の嵐】!」
冷気が、敵を包む。
動きが、鈍くなる。
「いいぞ!」
「まだよ! 【雷撃】!」
雷が、敵を直撃する。
「ぐああああ!」
次々と倒れていく敵。
クラリスの魔法、強力だ。
「やるわね、この娘」
ガレスが、感心する。
「王立魔法学院の卒業生は、伊達じゃねえな」
「当然よ」
クラリスが、得意げに笑う。
だが――
「まだ終わりじゃない」
リーダーが、笑った。
「我々の本命は、これからだ」
彼が、指を鳴らす。
すると――
地面が、揺れ始めた。
「何だ!?」
「地震か!?」
違う。
地面から、何かが出てくる。
石の――巨人だ。
「ゴーレム!?」
ミレーユが、叫ぶ。
「古代魔法のゴーレムだ! どこで手に入れた!?」
「フフフ……我々は、古代の技術を手に入れた」
リーダーが、不敵に笑う。
「さあ、ゴーレムよ。あの男を捕らえろ」
ゴーレムが、俺に向かって歩いてくる。
ドシン、ドシン。
地面が、揺れる。
「ケン、下がれ!」
ロイドが、前に出る。
剣で、ゴーレムに斬りかかる――
だが。
「!?」
剣が、弾かれた。
「石が硬すぎる……!」
「物理攻撃は効かないわ!」
クラリスが、魔法を放つ。
だが、ゴーレムはびくともしない。
「魔法も効かない!?」
「どうすれば……」
ゴーレムが、拳を振り上げる。
それが、俺に向かって――
「させるか!」
ガレスが、体当たりでゴーレムを押す。
だが、ゴーレムは揺るがない。
「くそ、重すぎる!」
「みんな、下がって!」
俺は、決意した。
新しい魔法を、試す時だ。
「【イースト・コロージョン】!」
腐食の発酵魔法。
ゴーレムの表面に、急速に菌を繁殖させる。
石が、ボロボロと崩れ始めた。
「効いてる……!」
「そのまま続けろ!」
俺は、魔力を込める。
全身全霊で。
ゴーレムが、徐々に崩れていく。
腕が、脚が、胴体が――
ついに、完全に崩壊した。
「やった……!」
だが、魔力を使いすぎた。
膝が、崩れる。
「ケン君!」
ダミアンが、支えてくれた。
「大丈夫か!?」
「はい……少し、疲れただけです……」
「無理するな」
「でも、敵は……」
見ると、黒装束の集団は撤退していた。
「ゴーレムがやられたから、諦めたのか」
ロイドが、舌打ちする。
「だが、次はもっと本気で来るぞ」
「……わかってます」
俺たちは、急いで馬車を修理し、先を急いだ。
三日目。
ついに、遺跡のある山岳地帯に到着した。
「あれが、暁の塔だ」
ダミアンが、指差す。
山の中腹に、古い塔が建っている。
石造りで、苔むしている。
何百年、いや何千年前のものだろうか。
「すごい……」
「古代文明の遺産だ」
ミレーユが、興奮した様子で言う。
「この塔の中に、失われた知識が眠っている」
「では、行こう」
俺たちは、徒歩で山を登った。
一時間ほどで、塔の入口に到着。
巨大な石の扉。
古代文字が、刻まれている。
「何て書いてあるんですか?」
「えっと……」
ミレーユが、文字を読む。
「『真理を求める者よ、汝の覚悟を問う。この先に進むならば、汝の魂は試される』」
「物騒ですね……」
「古代の遺跡は、大抵こんなものだ」
ガレスが、扉を押す。
重い音を立てて、扉が開いた。
「中は暗いな。松明を」
松明に火を灯し、中に入る。
石造りの廊下。
壁には、古代文字と絵が描かれている。
「これは……」
ミレーユが、壁画を見る。
「古代文明の歴史だ」
壁画には、繁栄する都市、高度な魔法、そして――
崩壊する世界が描かれていた。
「やはり、生命操作魔法が原因か……」
ダミアンが、呟く。
「この文明は、自らの力で滅んだのか」
俺たちは、慎重に奥へ進む。
途中、いくつかの罠があったが、ガレスの経験で回避できた。
「この先が、最深部だ」
ガレスが、大きな扉の前で止まる。
「この扉、かなり強固だ。簡単には開かない」
「古代文字が書いてある」
ミレーユが、読み上げる。
「『禁忌の間。生命の秘密がここに眠る。進む者は、覚悟せよ』」
「禁忌の間……」
ダミアンが、俺を見た。
「ケン君、ここから先は危険かもしれない。無理に進む必要はない」
「いえ、行きます」
俺は、決意した。
「自分の魔法の真実を、知りたいんです」
「……わかった」
ダミアンが、頷く。
「では、扉を開けよう」
全員で、扉を押す。
ギギギ……
重い音を立てて、扉が開いた。
中は――
広い部屋。
中央に、巨大な魔法陣。
そして、その上に――
透明な結晶が、浮いていた。
「これは……!」
ミレーユが、息を呑む。
「生命の結晶……古代文明の最高傑作……!」
「生命の結晶?」
「ああ。生命エネルギーを凝縮したものだ」
ダミアンが、説明する。
「これを使えば、あらゆる生命を操れる」
その瞬間――
結晶が、光り始めた。
そして、俺の方に飛んできた。
「ケン君、避けろ!」
だが、避けられなかった。
結晶が、俺の胸に――
吸い込まれた。
「!?」
体が、熱くなる。
力が、溢れてくる。
これは――
【生命操作魔法・第二段階】
成長の力が、目覚めた――




