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社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命  作者: yukataka


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第十二話「村からの手紙、試練の予感」

 王都での滞在も、一週間が経った。

 王室への初納品も無事に終わり、アナスタシア王女からも高い評価をいただいた。

「そろそろ、村に戻らないとな」

 宿の部屋で、荷物をまとめていると――

 ドアが、激しくノックされた。

「ケン様! 急ぎの手紙です!」

「手紙?」

 扉を開けると、蒼銀商会の使いの者が息を切らしていた。

「ベルガルド村から、至急の便です!」

「村から!?」

 手紙を受け取る。

 リーゼの文字だ。

 急いで封を開く。

『ケンへ

大変なことが起きました。

三日前から、村の周りに怪しい人影が増えています。

黒装束の男たち、少なくとも三十人以上。

村人たちは怖がっています。

昨夜、村の外れの小屋が燃やされました。

幸い、怪我人はいませんでしたが、明らかに脅しです。

次は、工房を狙うかもしれません。

グスタフさんがいないので、村の戦力が足りません。

エミリアは頑張っていますが、不安そうです。

お父さんも、夜も眠れていません。

お願い、早く帰ってきて。

ケンがいないと、みんな心細いの。

待っています。

リーゼ』

「……!」

 手が震える。

 村が、襲われようとしている。

「すぐに戻らないと!」

 荷物を掴み、部屋を飛び出す。


 ダミアンの屋敷に駆け込むと、すでにグスタフとロイドがいた。

「ケン、聞いたか?」

「はい! すぐに村に戻ります!」

「待て」

 ロイドが、手を上げる。

「冷静になれ。慌てて戻っても、罠にはまるだけだ」

「でも、村が……!」

「わかってる。だから、作戦を立てる」

 ダミアンが、地図を広げた。

「黄昏の会の狙いは、お前だ。村を襲うのは、お前を誘き出すためだ」

「……罠なんですか」

「おそらくな。だが、放置もできない」

 グスタフが、剣を確認する。

「俺が先に戻る。村を守る」

「一人で大丈夫ですか?」

「心配すんな。村人たちと協力すれば、何とかなる」

「私も、騎士団を派遣する」

 ロイドが言った。

「十名ほど、すぐに向かわせる」

「ありがとうございます!」

「だが、ケン。お前は、もう少し待て」

「なぜですか!?」

「お前が今行けば、確実に狙われる」

 ロイドの目が、鋭い。

「まずはグスタフと騎士団が村を守る。状況を見てから、お前が行く」

「でも……」

「これは命令だ」

 ロイドの声が、厳しくなる。

「お前が死んだら、村も終わりだ。わかるな?」

「……わかりました」

 悔しい。

 でも、ロイドの言う通りだ。

 感情だけで動いても、みんなを危険にさらすだけ。

「グスタフさん、村を頼みます」

「ああ。リーゼとエミリアも、守る」

「お願いします……!」

 グスタフは、すぐに出発した。


 その日は、針のむしろだった。

 じっとしていられない。

 村のことが心配で、仕事も手につかない。

「ケン、落ち着け」

 アレクが、お茶を淹れてくれた。

「グスタフは強い。それに、ロイドの騎士団もいる」

「わかってます。でも……」

「お前の気持ちはわかる。だが、今は待つしかない」

 アレクが、窓の外を見た。

「信じろ。仲間を」

「……はい」

 夕方。

 伝令が到着した。

「報告します! グスタフ殿と騎士団、無事にベルガルド村に到着!」

「村の様子は!?」

「黒装束の集団は、まだ動いていません。村の周囲で待機しているようです」

「何を待ってるんだ……」

「おそらく、お前だ」

 ダミアンが、眉をひそめる。

「お前が村に戻るのを、待っている」

「なら、戻らせてもらいます」

「ケン……」

「大丈夫です。今度は、ちゃんと準備します」

 俺は、腰の剣を確認した。

 セラから教わった戦闘技術。

 発酵魔法の応用。

 そして――守りたいものがある。

「行かせてください。みんなが待ってます」

 ダミアンは、しばらく考えてから――

「わかった。だが、護衛をつける」

「ありがとうございます」

「それと――」

 ダミアンが、小さな瓶を差し出した。

「これを持っていけ」

「これは?」

「回復薬だ。怪我をした時に使え」

「ありがとうございます」

 俺は、瓶を懐に入れた。


 翌朝。

 俺は、護衛の騎士五名と共に、ベルガルド村へ向かった。

 街道を急ぐ馬車。

 心臓が、早鐘を打つ。

(待っててくれ、みんな)

 丸一日の移動。

 日が傾き始めた頃――

 森の中から、矢が飛んできた。

「伏せろ!」

 騎士の一人が叫ぶ。

 矢が、馬車の側面に突き刺さる。

「敵襲だ! 構えろ!」

 馬車を止める。

 周囲の木々から、黒装束の男たちが現れた。

 二十人以上。

「ケン・サトウだな」

 リーダー格の男が、剣を抜いた。

「大人しく来い。そうすれば、村は見逃してやる」

「断る!」

「なら、力ずくだ」

 一斉に襲いかかってくる。

 だが――

「舐めるな!」

 騎士たちが、前に出る。

 王国騎士団の精鋭。盗賊とは、格が違う。

 次々と敵を倒していく。

 俺も、魔法で援護する。

「【イースト・バインド】!」

 敵の足元に、粘着性の発酵液。

「動けない!」

「くそ、この野郎!」

 だが、敵は数が多い。

 次から次へと、新手が現れる。

「きりがない!」

「ケン様、先に行ってください!」

 騎士の一人が叫ぶ。

「我々が食い止めます!」

「でも……!」

「村が優先です! 早く!」

「……わかりました!」

 俺は、馬に飛び乗った。

「村へ、急げ!」

 馬が、全速力で走る。

 背後から、戦闘の音が聞こえる。

(無事でいてくれ……!)


 夕暮れ時。

 ようやく、ベルガルド村が見えてきた。

「あれは……!」

 村の上空に、黒い煙が上がっている。

「まさか、もう襲撃が……!?」

 馬を走らせる。

 村の入口――

 そこには、バリケードが築かれていた。

 村人たちが、武器を持って守っている。

「ケンさん!」

 エミリアが、真っ先に駆けてきた。

「お帰りなさい!」

「エミリア、無事だったか!」

「はい! でも、大変なんです!」

 エミリアの顔が、涙でぐしゃぐしゃだ。

「工房が……工房が燃やされました……!」

「何……!?」

 村の中心部を見ると――

 第一工房から、煙が上がっている。

「いつ!?」

「一時間前です! 黒装束の人たちが、火をつけて……」

「消火は!?」

「グスタフさんたちが、頑張ってます!」

 俺は、工房へ走った。

 そこには――

 グスタフと村人たちが、必死に水をかけている。

「グスタフさん!」

「ケン! 来たか!」

 グスタフの顔は、煤で真っ黒だ。

「火は、ほぼ消せた。だが――」

 彼は、悔しそうに拳を握る。

「石窯が三基、全滅だ」

「……!」

 工房の中を見る。

 石窯は崩れ、作業台は焼け焦げている。

 これでは、パンが焼けない。

「くそ……!」

「連中、計画的にやりやがった」

 グスタフが、舌打ちする。

「村人の注意を引きつけておいて、その隙に工房を襲った」

「村人は、無事ですか?」

「ああ。怪我人はいない。だが――」

 グスタフが、村の外を指差した。

「連中は、まだ撤退してない。村を包囲してる」

「包囲……?」

「ああ。逃げ場を塞いで、お前を待ってたんだ」

 その時――

 村の外から、声が響いた。

「ケン・サトウ! 出てこい!」

 低く、冷たい声。

「お前一人と交換だ。村人の命と」

「……!」

「出てこなければ、村を焼き尽くす!」

 村人たちが、ざわめく。

「どうする、ケン」

 グスタフが、俺を見た。

「お前の判断に任せる」

「……行きます」

「馬鹿か!?」

「でも、村を守るには――」

「待て」

 別の声。

 振り返ると、リーゼが立っていた。

「リーゼ……」

「ダメだよ、ケン」

 リーゼの目には、涙が浮かんでいる。

「あなたが行ったら、殺される」

「でも、村が……」

「村より、あなたが大事!」

 リーゼが、俺の服を掴んだ。

「お願い、行かないで……」

「リーゼ……」

 その時――

 空から、何かが降ってきた。

 火の玉だ。

「伏せろ!」

 爆発。

 轟音と共に、家が一軒吹き飛んだ。

「魔法攻撃だと!?」

「くそ、魔法使いまでいやがるのか!」

 次々と降り注ぐ火球。

 村が、燃え始める。

「消火だ! 急げ!」

 村人たちが、慌てて動く。

 だが――

「間に合わない……!」

 このままでは、村が全滅する。

 俺は、決意した。

「グスタフさん、リーゼ、エミリア」

「ケン……?」

「俺が、時間を稼ぎます」

「待て!」

「大丈夫。死にません」

 俺は、剣を抜いた。

「みんなを、守ってみせる」

「ケン!」

 リーゼの声を背に、俺は村の外へ走った。

 門を開ける。

 そこには――

 黒装束の集団が、待ち構えていた。

「来たか、ケン・サトウ」

 リーダーが、不敵に笑う。

「よく来た。さあ、大人しく――」

「断る」

 俺は、剣を構えた。

「お前たちの好きにはさせない」

「ほう……戦う気か」

「当たり前だ。俺には、守りたいものがある」

「面白い」

 リーダーが、指を鳴らす。

 すると――

 周囲から、数十人の黒装束が現れた。

「では、死ね」

 一斉に、襲いかかってくる。

 その瞬間――

 俺の体が、熱くなった。

 エミリアのお守りが、光を放つ。

「これは……!」

 力が、溢れてくる。

 発酵魔法が、今までにない規模で発動する。

「【イースト・ストーム】!」

 周囲一帯に、発酵の嵐が巻き起こった。

 地面が泡立ち、敵の足を奪う。

 空中に発酵液が舞い、視界を遮る。

「何だ、これは!?」

「見えない!」

 敵が、混乱する。

 その隙に――

「今だ!」

 背後から、グスタフと騎士団が突撃してきた。

「ケン、一人で格好つけるな!」

「グスタフさん……!」

「みんなで戦う! それが、俺たちのやり方だろ!」

 グスタフが、豪快に笑う。

「さあ、反撃開始だ!」

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