表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命  作者: yukataka


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/40

第十一話「王都の陰謀、交錯する思惑」

「王室御用達……本気なんですか?」

 アナスタシア王女が帰った後、俺はアレクに確認した。

「ああ、本気だろうな」

 アレクが、腕を組む。

「アナスタシア殿下は、見た目は子供っぽいが、芯は強い。決めたことは、必ずやり遂げる」

「でも、王室御用達なんて、俺には荷が重すぎます」

「そう言うな。これは大チャンスだ」

 アレクが、窓の外を見た。

「王室御用達になれば、信頼が一気に高まる。保守派の貴族たちも、文句を言いにくくなる」

「保守派……」

「ああ。連中は、平民の成り上がりを嫌う。だが、王女の推薦となれば、表立っては反対できない」

「でも、裏では……」

「裏では、何でもやってくるだろうな」

 アレクが、苦笑する。

「覚悟しとけ。これから、もっと厳しくなる」


 夕方。

 ダミアンの屋敷を訪ねた。

 王都の貴族街にある、立派な邸宅。

「ようこそ、ケン君」

 ダミアンが、書斎で迎えてくれた。

「旅は、無事だったか?」

「いえ、襲撃されました」

「やはりか」

 ダミアンの表情が、険しくなる。

「黄昏の会だな」

「やっぱり……」

「ああ。彼らの動きを、調査していた」

 ダミアンが、分厚いファイルを開く。

「黄昏の会――正式名称『黄昏の使徒団』。約百年前に結成された秘密結社だ」

「百年も……」

「ああ。目的は、『古き秩序の維持』」

「古き秩序?」

「貴族支配体制の維持、魔法技術の独占、そして――」

 ダミアンが、一枚の羊皮紙を取り出した。

「古代魔法文明の復活」

「古代魔法文明……?」

「千年前、この大陸には高度な魔法文明が栄えていた。だが、ある日突然、滅んだ」

「なぜ?」

「わからない。記録が、ほとんど残っていない」

 ダミアンが、古い地図を広げる。

「ただ、遺跡だけが残っている。そこには、現代では失われた技術が眠っているらしい」

「それを、黄昏の会が……」

「ああ。彼らは、古代の技術を独占し、権力を維持しようとしている」

「でも、それと俺のパンと、何の関係が?」

「君のパンは、革新だ」

 ダミアンが、真剣な目で言った。

「革新は、人々に希望を与える。希望は、変化を生む。変化は、既存の秩序を壊す」

「だから、潰される……」

「その通りだ。君は、気づかないうちに、この国の権力構造に挑戦している」

 その言葉が、重く胸に響く。

「どうすれば……」

「戦うしかない」

 ダミアンが、立ち上がった。

「だが、君は一人じゃない。私がいる。アレクがいる。そして――」

 ノックの音。

「入れ」

 扉が開き、一人の男が入ってきた。

 三十代半ば。厳つい顔に、傷跡。軍人のような雰囲気。

「紹介しよう。彼は、ロイド・ハートウェル。王国騎士団の副団長だ」

「初めまして。ケン・サトウです」

「……ふん」

 ロイドは、俺を値踏みするように見た。

「こんなひょろい若造が、黄昏の会を刺激してるのか」

「ロイド、失礼だぞ」

「事実を言ったまでだ」

 ロイドが、腕を組む。

「だが、度胸は認める。よくここまで生き延びた」

「ありがとう……ございます?」

「ダミアン殿下、本当にこいつを守るんですか?」

「ああ。国王陛下の命令だ」

「……了解しました」

 ロイドが、渋々という感じで頷く。

「では、護衛をつけます。常時三名」

「そんなに……」

「必要だ。お前、自分がどれだけ狙われてるか、わかってないだろ」

 ロイドが、一枚の紙を突きつけてきた。

「これを見ろ」

 そこには、俺の似顔絵と――

「懸賞金……金貨十枚!?」

「ああ。闇の市場で、お前の首に値がついてる」

「そんな……」

「もう、のんびりパンを焼いてる場合じゃねえんだよ」

 ロイドが、鋭い目で俺を見た。

「覚悟を決めろ。戦うか、逃げるか」

「……戦います」

「はっ、即答か」

「守りたいものがありますから」

「守りたいもの、ね」

 ロイドが、珍しく笑った。

「いい目してるじゃねえか。気に入った」


 翌日。

 王宮での試食会が開かれることになった。

「緊張するな……」

 俺は、新しく仕立ててもらった礼服を着て、王宮の門をくぐる。

 護衛のロイド配下の騎士三名が、ついてきている。

「こんな厳重な警備、必要なんですか?」

「当たり前だ」

 騎士の一人が答える。

「保守派の貴族たちが、何をしてくるかわからん」

「暗殺とか……」

「最悪の場合はな」

 背筋が凍る。

 でも、引き返せない。

「大丈夫。私たちがいるから」

 もう一人の騎士――若い女性騎士が、励ましてくれる。

「あなたは、パンを焼くことだけ考えて」

「……はい」

 王宮の中は、信じられないほど豪華だった。

 大理石の床、壁画、シャンデリア。

 前世の宮殿を思い出す。

「こちらです」

 案内されたのは、広間。

 そこには、すでに多くの貴族たちが集まっていた。

 華やかなドレスに、宝石。

 場違いな感じがする。

「ケン君!」

 ダミアンが、手を振ってくれた。

「こっちだ」

 彼の隣には、アレクもいる。

「緊張してるな」

「バレバレですか?」

「ああ。だが、自信を持て。お前のパンは、最高だ」

 アレクの言葉に、少し落ち着く。

 その時――

 ファンファーレが鳴り響いた。

「国王陛下、ご入場!」

 全員が、膝をつく。

 俺も慌てて膝をつく。

 重厚な足音。

 そして――

「面を上げよ」

 低く、威厳のある声。

 顔を上げると、そこには――

 四十代くらいの男性。立派な髭に、王冠。

 国王エドワルド三世。

「本日は、興味深い試食会と聞いている」

「はい、陛下」

 アナスタシア王女が、前に出た。

「辺境の村から、素晴らしいパンが献上されました」

「ほう。どれほどのものか、楽しみだ」

 国王が、玉座に座る。

「では、始めよ」


 俺は、用意したパンを並べた。

 プレミアムライン五種類。

 スタンダードライン三種類。

「まず、こちらのプレーンパンから」

 国王に、一つ差し出す。

 国王は、それを手に取り――

 一口。

 沈黙。

 周囲の貴族たちが、固唾を呑んで見守る。

「……美味い」

 国王が、目を見開いた。

「こんなに柔らかく、香り高いパンは初めてだ」

「ありがとうございます」

「次も、食べさせろ」

 次々と、パンを試食する国王。

 その表情は、明らかに満足している。

「素晴らしい。これは、確かに御用達にふさわしい」

 その瞬間――

「お待ちください、陛下!」

 一人の老貴族が、立ち上がった。

「私は、これに反対します」

「反対? 理由は?」

「この若者は、素性が怪しい。突然現れ、得体の知れない魔法を使う」

「発酵魔法だ」

 ダミアンが、割って入る。

「革新的だが、危険なものではない」

「それは、あなたの見解でしょう」

 老貴族が、睨みつける。

「私は、この者が王家を騙そうとしていると考えます」

「騙す? 馬鹿を言うな」

 アレクが、立ち上がった。

「このパンは、私の商会が品質を保証する」

「商会が保証? 笑止千万!」

 別の貴族も、立ち上がる。

「所詮は金儲けではないか!」

「そうだ、そうだ!」

 保守派の貴族たちが、口々に非難し始める。

「静まれ!」

 国王の一喝。

 広間が、静まり返る。

「余は、この者のパンを認める。それで十分ではないか」

「しかし、陛下!」

「もう一度言わせるな」

 国王の目が、鋭く光る。

「余の判断に、異を唱えるか?」

「……いえ、滅相もございません」

 老貴族たちは、渋々座った。

 だが、その目には明らかな敵意が宿っている。

「ケン・サトウ」

「はい!」

「そなたのパンを、王室御用達とする。これより、王宮への定期納入を命じる」

「ありがとうございます!」

 俺は、深く頭を下げた。

 やった――

 だが、喜びよりも、不安が大きかった。

 保守派の貴族たちの視線が、刺すように痛い。


 試食会が終わり、控室に戻ると――

「ケン! 無事でよかった!」

 アナスタシア王女が、駆け込んできた。

「殿下……」

「ごめんなさい。あんなに反対されるとは思わなかった」

「いえ、仕方ありません」

「でも、父上が認めてくれた! これで大丈夫よ!」

 アナスタシアは、本当に嬉しそうだ。

 だが――

「殿下」

 ダミアンが、真剣な顔で言った。

「これから、もっと厳しくなります」

「わかってるわ」

 アナスタシアの表情が、凛とする。

「でも、私は諦めない。ケンのパンは、本物よ」

「ありがとうございます……」

「それより、ケン」

 ダミアンが、俺を見た。

「今夜、私の屋敷に来てくれ。重要な話がある」

「重要な話?」

「ああ。黄昏の会について、新たな情報が入った」


 その夜。

 ダミアンの書斎に、主要メンバーが集まった。

 アレク、ロイド、そして――

「グスタフさん!?」

「よう、ケン」

 グスタフが、にやりと笑う。

「驚いたか?」

「どうして、ここに……」

「ダミアン殿下に呼ばれたんだ」

「グスタフは、元王国騎士団の精鋭だ」

 ダミアンが説明する。

「彼の経験と知識が、必要だ」

「でも、村は……」

「リーゼとエミリアがいる。大丈夫だ」

 グスタフが、肩を竦める。

「それより、話を聞け。重要だ」

「……はい」

 ダミアンが、一枚の古文書を取り出した。

「これは、百年前の記録だ」

 羊皮紙には、古い文字で何かが書かれている。

「黄昏の会の創設者――彼は、古代魔法文明の研究者だった」

「研究者……?」

「ああ。そして、ある発見をした」

 ダミアンの声が、低くなる。

「古代文明が滅んだ原因――それは、『禁忌の魔法』だった」

「禁忌の魔法?」

「生命を操る魔法だ」

 その言葉に、俺は息を呑んだ。

「生命を操る……?」

「ああ。作物の成長、家畜の繁殖、人間の能力向上。あらゆる生命を、意のままに操る技術」

「それって……」

「そうだ。お前の発酵魔法と、本質的に同じだ」

 ダミアンが、俺を見た。

「ケン、お前の発酵魔法は、古代魔法文明の遺産かもしれない」

「まさか……」

「だから、黄昏の会は興味を持っている」

 ロイドが、険しい顔で言った。

「お前を研究対象にしたがってる」

「研究……対象?」

「ああ。生け捕りにして、魔法を解析する。それが、連中の狙いだ」

「そんな……」

「だから、守る必要がある」

 グスタフが、俺の肩を叩いた。

「お前は、もう狙われてる。逃げ場はない」

「……わかりました」

 俺は、拳を握った。

「なら、戦います。徹底的に」

「その意気だ」

 ダミアンが、微笑む。

「では、作戦を立てよう」


 深夜まで、議論が続いた。

 黄昏の会の拠点、メンバー、動き。

 すべてを分析し、対策を練る。

「まず、ケンの身辺警護を強化する」

「次に、ベルガルド村の防衛体制を整える」

「そして、王都での情報収集」

 一つ一つ、確認していく。

「最後に――」

 ダミアンが、地図を広げた。

「ここだ」

 地図の北部に、×印。

「古代遺跡『暁の塔』。黄昏の会の本拠地と思われる」

「ここに、乗り込むんですか?」

「いや、まだ早い」

 ロイドが首を振る。

「戦力が足りない。もっと準備が必要だ」

「……わかりました」

 時計を見ると、もう午前二時。

「今日は、これで解散だ」

 ダミアンが、立ち上がった。

「ケン、宿に護衛をつける。絶対に一人で行動するな」

「はい」


 宿に戻る道。

 グスタフが、隣を歩いている。

「グスタフさん、ありがとうございます」

「何がだ?」

「こんなに、俺のために」

「当たり前だろ」

 グスタフが、ぶっきらぼうに言う。

「お前は、村の希望だ。それに――」

「それに?」

「……家族だからな」

 その言葉に、胸が熱くなった。

「グスタフさん……」

「照れくさいことを言わせるな」

 二人で笑う。

 月が、雲の間から顔を出した。

 明日も、戦いは続く。

 でも、一人じゃない。

 仲間がいる――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ