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社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命  作者: yukataka


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第十話「王都への道、試練の旅」

 王都への旅立ちの日。

 馬車には、試作したスタンダードラインのパンが百個積まれている。

「ケン、本当に行くのか?」

 グスタフが、心配そうに聞く。

「はい。アレクさんと約束しましたから」

「だが、最近スパイの動きが活発だ。危険すぎる」

「わかってます。でも、王都での販売拡大は、村の未来に繋がります」

 俺は、腰のナイフを確認する。

 セラから貰った護身用の武器。それと、修行で身につけた戦闘技術。

「前よりは、戦えます」

「……お前、本当に変わったな」

 グスタフが、苦笑する。

「最初に会った時は、ひょろひょろの若造だったのに」

「まだまだですよ。でも、守るべきものができたから」

「守るべきもの……か」

 グスタフが、何か言いかけて――やめた。

「まあ、いい。無茶すんなよ」

「はい」

 その時、リーゼとエミリアが駆けてきた。

「ケン!」

「お二人とも、どうしました?」

「これ、お弁当!」

 リーゼが、包みを差し出す。

「道中で食べてね」

「ありがとう」

「それと――」

 エミリアが、小さな布袋を渡してきた。

「お守りです。わたしが作りました」

「お守り?」

 開けると、中には乾燥させたハーブと、小さな石が入っていた。

「魔除けのハーブと、聖石です。ケンさんを守ってくれるはず」

「エミリア……ありがとう」

 俺は、それを首にかけた。

「大切にするよ」

「気をつけてくださいね」

「ああ。すぐに戻るから」

 リーゼが、俺の手を握った。

「……絶対、無事に帰ってきてね」

「約束する」

 その手の温もりが、胸に残る。


 エルデンブルクで、アレクと合流した。

「待たせたな」

「いえ。今、着いたところです」

 アレクの馬車は、護衛付きだ。

 セラを含め、五人の屈強な戦士たちが同行する。

「これだけいれば、安心だな」

「油断は禁物だ」

 アレクが、険しい表情で言った。

「黄昏の会が、動いている」

「黄昏の会……やはり」

「ああ。お前たちのパン事業を、快く思っていない」

「なぜですか?」

「わからん。だが、連中は革新を嫌う。お前のやっていることは、彼らにとって脅威なんだろう」

 アレクが、地図を広げる。

「王都までの街道は、三つある。どれも危険だが、この中央街道が一番安全だ」

「それで行きましょう」

「ああ。だが、念のため夜間は移動しない。町で宿を取る」

「わかりました」

 こうして、俺たちは王都への旅を始めた。


 最初の一日は、順調だった。

 街道は整備され、他の旅人たちも多い。

「この辺りは、治安がいいからな」

 セラが、馬上から周囲を見回す。

「問題は、明日からだ」

「明日?」

「ああ。街道が、森の中を通る。そこが危ない」

「盗賊が出るんですか?」

「盗賊ならまだいい。問題は、魔物だ」

「魔物……!」

「この時期、森の魔物が活発になる。気をつけろよ」

 夕方、小さな町に着いた。

 宿に荷物を下ろし、食事を取る。

「ケン、お前のパン、食わせてくれ」

 アレクが、試作品を手に取った。

「スタンダードラインだな」

「はい。どうでしょう?」

 アレクが、一口齧る。

 沈黙。

「……悪くない」

「本当ですか?」

「ああ。プレミアムには劣るが、十分美味い。これなら平民でも手が届く」

「良かった……」

「だが、改善の余地はある」

「どこが?」

「食感だ。もう少し、柔らかくできないか?」

「うーん……発酵時間を調整すれば、できるかもしれません」

「試してみてくれ」

「はい」

 アレクは、厳しいが公正だ。

 だからこそ、信頼できる。


 その夜。

 俺は、宿の窓から外を眺めていた。

 月が、雲に隠れている。

 暗い。

 不気味なほどに。

「……嫌な予感がする」

 その時、ドアがノックされた。

「ケン、起きてるか?」

 セラの声だ。

「はい」

 ドアを開けると、セラが険しい顔で立っていた。

「町の外に、怪しい影がいる」

「怪しい影?」

「ああ。黒装束の連中が、十人以上」

「……黄昏の会ですか」

「おそらく。アレクの指示で、今夜は徹夜で警備する」

「俺も手伝います」

「いいのか?」

「はい。戦えますから」

「……そうか。なら、頼む」

 セラが、剣を渡してきた。

「お前、剣は使えるか?」

「少しだけ」

「なら、これを持ってろ。いざという時の護身用だ」

「ありがとうございます」

 剣を腰に下げる。

 重い。

 でも、これが現実だ。


 深夜。

 町は静まり返っている。

 俺とセラは、馬車の近くで見張りをしていた。

「……来るぞ」

 セラが、剣を抜いた。

「どこからですか?」

「全方向だ。囲まれてる」

 その言葉通り、四方から黒い影が現れた。

 十五人以上。

 全員、武器を持っている。

「蒼銀商会の馬車だな」

 リーダー格らしき男が、低い声で言った。

「大人しく、パンを渡せ」

「断る」

 セラが、剣を構える。

「この荷は、命より大事だ」

「なら、死ね」

 一斉に、襲いかかってくる。

「ケン、下がってろ!」

「いえ、俺も戦います!」

 俺は、剣を抜いた。

 手が震える。

 怖い。

 でも――

「みんなのために、負けられない!」

 最初の敵が、斬りかかってくる。

 セラの訓練を思い出す。

 相手の動きを見る。軌道を読む。そして――

「避けろ!」

 剣を横に払う。

 ガキン!

 刃と刃が、ぶつかる。

「やるな、小僧!」

「まだまだ!」

 俺は、発酵魔法を使った。

「【イースト・スリップ】!」

 敵の足元に、ヌルヌルとした発酵液を発生させる。

「うわっ!」

 敵が、バランスを崩す。

 その隙に、セラが斬りかかる。

「ナイス、ケン!」

「まだ来ます!」

 次々と襲いかかる敵。

 だが、セラは強い。

 一人、また一人と、敵を倒していく。

 俺も、必死で戦う。

 剣は得意じゃない。

 でも、魔法がある。

「【イースト・バインド】!」

 発酵で生成した粘着性の液体が、敵の武器に絡みつく。

「何だ、これ!?」

「動けない!」

「今だ、セラさん!」

「了解!」

 こうして、次々と敵を無力化していく。

 だが――

「まだまだいるぞ!」

 新たな敵が、次々と現れる。

 三十人以上。

 これは、まずい。

「セラさん、数が多すぎます!」

「わかってる! だが――」

 その時、遠くから松明の明かりが見えた。

「町の衛兵だ!」

 誰かが、町に通報してくれたらしい。

「撤退だ!」

 黒装束の男たちは、一斉に逃げ去った。


「……助かった」

 セラが、息を吐く。

「ケン、お前、やるじゃん」

「いえ、セラさんのおかげです」

「謙遜すんな。お前の魔法、かなり使えるよ」

「ありがとうございます」

 その時、アレクが駆けつけてきた。

「大丈夫か!?」

「はい。何とか」

「荷物は?」

「無事です」

「よかった……」

 アレクが、安堵の表情を見せる。

「だが、これで確信した。黄昏の会は、本気でお前を潰しにかかってる」

「どうすれば……」

「王都に着いたら、ダミアンに相談しよう」

「ダミアンさんに?」

「ああ。彼なら、何か策があるはずだ」


 翌日。

 俺たちは、警戒しながら街道を進んだ。

 襲撃はなかった。

 おそらく、昨夜で懲りたのだろう。

 そして――

 午後、ついに王都アルヴェリオンが見えてきた。

「あれが……」

 巨大な城壁。

 その中に広がる、無数の建物。

 人口十万を超える、この国最大の都市。

「すごい……」

「初めて見るか?」

「はい」

「なら、案内してやる」

 アレクが、笑った。

「王都は、色々と面白いぞ」


 王都の門をくぐる。

 人、人、人。

 圧倒的な人の多さだ。

 商店が立ち並び、路上では大道芸人が芸を披露している。

 前世の東京を思い出す。

「アレクさん、まずどこに?」

「うちの王都支店だ。そこで荷を下ろす」

「わかりました」

 馬車は、町の中心部へ。

 蒼銀商会の王都支店は、エルデンブルクの本店以上に立派だった。

「若旦那、お帰りなさいませ!」

 大勢の従業員が、出迎える。

「ああ。荷を運んでくれ。丁寧にな」

「はっ!」

 パンが、次々と運ばれていく。

「ケン、少し休め。夕方に、ダミアンのところに行く」

「わかりました」

 応接室で休んでいると、一人の少女が入ってきた。

 年は十六、七くらいか。

 金色の髪に、緑の瞳。気品のある顔立ち。

 そして、何より――

 その服装。豪華なドレス。

 明らかに、貴族だ。

「あの、どちら様ですか?」

「あら、知らないの?」

 少女が、クスクスと笑う。

「私は、アナスタシア・ヴァン・アルテリア」

「アナスタシア……?」

「そう。第一王女よ」

「おう、おうじょ……!?」

 俺は、慌てて膝をつく。

「し、失礼しました!」

「いいわよ、堅苦しいのは嫌いだから」

 アナスタシアが、俺の前に座った。

「あなたが、ケン・サトウね」

「は、はい……」

「噂は聞いてるわ。美味しいパンを作る、不思議な若者だって」

「恐れ入ります……」

「ねえ、私にも食べさせて。そのパン」

「え?」

「だって、気になるもの。どんな味なのか」

 アナスタシアの目が、キラキラしている。

 王女様なのに、まるで子供みたいだ。

「……どうぞ」

 俺は、スタンダードラインのパンを差し出した。

 アナスタシアが、一口齧る。

 その瞬間――

 彼女の表情が、変わった。

「……美味しい」

 小さな声。

「こんなパン、食べたことない……」

「ありがとうございます」

「ねえ、もっと食べてもいい?」

「どうぞ、いくらでも」

 アナスタシアは、嬉しそうにパンを頬張った。

 その姿は、本当に無邪気で――

 王女様というより、普通の女の子だった。

「ねえ、ケン」

「はい?」

「私、あなたのパン屋、応援するわ」

「え?」

「だって、美味しいもの。これは、もっと広めるべきよ」

 アナスタシアが、真剣な目で言った。

「私、父上に話す。王室御用達にしてもらうわ」

「おう、おうしつごようたつ……!?」

「そう。決めた」

 こうして、俺は思わぬ形で、王女様の後ろ盾を得ることになった。

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