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第八章〜ルーン騎士団〜

 翌日の早朝ー                                                            空気は湖のように澄み渡り、雲から差し込む朝日が白の城壁を彩る……                                   近辺を流れる小川のせせらぎが、空へ語り掛けるように響いては消えー吹き抜ける風が挨拶を交わすように空気を震わせ、朝露に濡れた草花の相槌が耳を優しく撫でる。                                      そんな気持ちの良い爽やかな朝に、私は爽やかさの欠片も感じられない汗だくの男達に交ざり、環境音をも掻き消すような荒い吐息の中を走っていたー                                                    王様と交わした『謁見の間』での約束は、『ルーン騎士団』が行っているというー「剣術の訓練」に参加するという内容であったにも関わらず、『ルーン王国』を囲む城壁の外周を走ることになっている。                                                    『ルーン王国』を囲む城壁の周辺には、川から引いた水によって満たされた大きな水掘があり。モンスターとの遭遇を防ぐ為、その堀と城壁の間にある道の上をただひたすらに走り続けていた。                                                                                     それというのも、王様が提唱した『剣の道は持久力から』などという持論のせいに他ならないー                        私の格好は、日本から持ち込んだ愛用のランニングウェア及び、ランニングシューズという万全の装いで臨んでいたが、驚くことに騎士団員は鎧姿で走っている。                                                         王様曰くー騎士は戦闘の際に必ず、鎧を着用するのだから訓練でこそ鎧を着るべきとの事…。                        (鎧着て走ってる人なんて、ここに来るまで見たことないけど!?)                                     私にとっても走る事は想定外の出来事だったが、ランニング姿は自分の中で一番やる気の出る服装だった為。運動をする際は、必ず身につけるようにしていた。                                                             ーその様子は(はた)から見ると、鎧を着たまま走っている男達の中に、目を凝らせば一人だけ、ランニング姿の女子高生が紛れているという……何とも形容しがたい、シュールな光景が広がっていた。                                          (剣術の訓練のはずなのに…これじゃ、陸上部の練習と大差ないじゃん!?)                                  それも、毎日訓練に明け暮れていたであろう『ルーン騎士団』から、脱落者が続出するほど厳しいものだった。                            それもその筈ー                                                            既に城壁の外周を二周以上も走っていたのだから…。                                                人によっては、たった二周程度の距離だと思うかもしれない……二周とは言っても、『ルーン王国』の城壁はその一周が約十キロほどの距離に相当する。                                                    つまり四周もする頃には、フルマラソンとほぼ同程度の距離を走ることになる。                                     脱落者が出続けている状態下でも、走り込み(マラソンモドキ)が中止にならない理由は、一重に先頭を走っている人物が王様という立場の人間だったからだー                                                               (あえて言おう…バカであると……)                                                     モンスター相手でも、マラソンランナー並の持久力をつける必要などある筈がない…。                            (付き合わされる私の身にもなって欲しいー!!)                                             そう思う内、私はスタート地点の城門前まで帰還を果たし、その時には参加者の騎士団員もとい、王様の招いた被害者の半数は、脱落者へと変貌を遂げた。                                                    時は正午に差し掛かり、持久力に自信のあった私にも体力の限界が迫る中ー王様は程なくして、その歩みを止めると、参加者全員を集合させー今回の走り込み(マラソンモドキ)を行った経緯について説明を始めた。                                王様曰くーこの走り込み(マラソンモドキ)は平和が長く続いた『ルーン王国』で実質的な主戦力である。現在の『ルーン騎士団』の持久力を測るために行ったとの事。                                                            「ー「持久力」こそ、これからの『ルーン騎士団』にとって最も重要な資質となる……」                                                                                    「何故なら、持久力は全ての力の源であり。どれほど優れた戦闘技術を持っていようとも、持久力がなければ次第に動きは鈍くなり剣を振る気力すらも保てなくなる…」                                                王様は騎士団員に視線を送り、再び口を開いた。                                                                 「特に現在の『ルーン王国』において、『ルーン騎士団』以外に戦力として数えられる軍団は残念なことに存在しないー」                                                                    そう申し訳なさそうに告げると、王様は何かを振り払うように続けた。                                               「有事の際、『ルーン王国』を救えるのは…今この場に集う我々だけなのだ!…だからこそ、我々は辛抱強くあらねばならない!!その為に、これより一週間…走り込みを訓練項目に追加する!」                                 (こんな走り込み(マラソンモドキ)を一週間も…!?)                                             ー『ルーン騎士団』の間で動揺と混乱が巻き起こった。                                               「今回のような走り込みを毎日なんて…死んでしまいます!」                                           周囲は騒然として、反対の声も上がった……                                               「この走り込みで亡くなる者が居るのならば、実戦においても戦死する!そこには、早いか遅いか差異が生じるのみだ!!」                                                               「ーこの走り込みは、生き残るために行うのだと心得よ!日々の反復によってのみ、持久力は身につく…限界まで走り抜くことが、死者を出さない為に出来る最低限の行動なのだ!」                                      王様の言葉を耳にして、騎士団員の数人が暗い表情のまま下を向いた。                                             それを見た私は、嫌な予感がして問い掛けた…。                                              「国王陛下…!失礼ですが、その走り込みには私もー」                                           「無論の事。勇者カレンにも騎士団と共に参加してもらう!」                                       (やっぱりか〜)                                                           ー今回行われた走り込み(マラソンモドキ)で最後まで残ったのは、私と王様を含め騎士団の半数ほどだった。                   それを見た王様が小さく何かを呟いた……                                                    「昔の騎士団ならば、四周くらいまでは誰でもついて来たのだが…」                                    (え〜っ…昔の騎士団は、マラソン選手か何かなの!?)                                          そう思い周辺を見渡すと、その場に集った騎士団員の年齢層が高いことに気付いた。                       「ー特に勇者カレン…貴公が残ったのは想定外だった。期待はしていたがな……」                                王様はそっと私の肩に手を置くと、優しく微笑みかけてきた。                                           (王様からの評価が妙に高い…まさか、惚れられてないよね!?)                                      私は悪寒を感じ反射的に俯くと、それから暫く沈黙が続き、王様は徐ろに口を開いた。                                           「何をしている…走り終わった者から剣術の訓練に使う剣を取りに行け!」                                「「「まだあるんですかー!!?」」」                                                    その瞬間、その場にいた全員がユニゾンした。                                                                 

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